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カラー戦士の君へ

作者: 知吹 海里


(そうだ。僕は僕の世界を書いてみよう。

誰にも邪魔できない僕だけが持っている世界を書き出してみるんだ。

どの社会でも息ができない僕の、酸素にするんだ。

頭の中で広がるこの世界を、僕が見ているこの世界を、形にしてみたい。

そして読んでもらおう、答え合わせをしてみたい、君たちと。

真っ先に、読んでもらいたいんだ。みんなが、教えてくれたから。)



ーーーーーーー僕はその日初めて、世界を見た気がした。



僕はある人物に出会った。彼は彼の世界を知っていた。

ひどく泣きたくなったのもそのせいだ。何かを考えだすとキリがない。このモヤモヤも、複雑な感情をまとめて処理するなら何も感じない方がマシだ。そうやって生きてきた。人と人はずっと他人で、窓の外からしか覗けない 。だから空っぽでも、大丈夫、何もなくてもいいじゃないか、何かを選択し続ける強さなんてないんだ。


ーーーーカッシャン。

聞いたこともない音とともに破壊され散らばった、僕の小さな一つの窓。

現れたのは、強く輝くカラー戦士・・・・。



”    ”

ーーその世界では自分の体に色を塗ることが義務付けられている。

主人公のAは今日も必死になって色を塗りたくっていた。

幼い頃から、どこか抜けているAは、完璧とは程遠い人物だった。色塗りも、元々の色が隠しきれなかったりミスが多く、その度に大多数から指摘をされ続け、そのせいか、ひどく周りの目を気にしながら生きていた。Aは何より恐れていた。みんなの輪に入れないことを。自分だけが違う色では到底居られなかった。


ある日、Aは混乱した。自分の体にたくさん塗り重ねられた色を見て、自分本来の生まれた時のままの色を忘れてしまったのだ。

自分にしか持っていなかった色を、たくさんの色で塗りつぶすことによって、Aの体は周りと同化し、一色化していた。


”何も気に病むことはない、あなたの色は努力の賜物、限りなく周りと同じでいることは素晴らしい”言霊のように聞かされた。


しかしAはなぜか腑に落ちることはなかった。

Aは、人の本来の色が好きだった。そして自分本来の色も少なからず愛していた。

ほんの少し残そうとした自分自身の色は、周りの圧力によって止められてしまった。それに従い続け、自分の意思を閉ざした結果だというなら無理もない、と言い聞かせる。


だけどA。ぽつんと残された、濁ってしまった自分の体を眺めながら、涙を流していた。どうにもならないことで嘆くのは好きじゃない、のに。いつの間にかきてしまったここで、ただただ迷子のような気持ちになっていた。


A。昼下がりの公道をポツリ歩いていく。すると、思いがけない人物に出会った。


B。彼はどの色にも全く染まっていない、ましてや自分でオリジナルのカラーを彩り豊かに、そうして好きな色をペイントしているのである。


Aは彼に近づき、驚いたようにこう言った。

「その色・・・。君、その調子だと生きづらくなるよ。みんなと同じ色を塗った方がいい。君のためを思って言っているんだ。」

Bは言った。

「僕は僕の色でいたい。何色にもなりたくないんだ。」

Aは立ち止まった。自分になかった強さを目の当たりにし、素直にすごいと思うと同時に、この人は違う世界で生きているのだとも思った。それから、心配にもなった。世間という名の壁がどれ程高いか知っていたから。


しばらくの間Bと過ごし観察してみることにした。

彼の生き方はAにとって真新しく、興味深いものだった。

しかし、いつまで経っても彼は一向に変わることはなかった。

むしろ、世間による圧力や否定によって他の色で塗りつぶされそうになると激しく抵抗し、反発した。その繰り返しであった。


Aは恐る恐る「そろそろ、合わせてみてもいいんじゃない?」

しかし彼は不思議そうにこちらを見ていった。

「君はどうして色を気にするの?そんなに人に嫌われるのは、怖い?」

Aは黙る。

「分かってくれる人だけで十分だと思うけど。」とB。

Aは俯いたまま、何も言わない。

「君の色は暖かい。僕は知っているよ。」

そうして去っていった。

一人ぽつんと残されたA。

しばらく声を押し殺し小さく嗚咽する。静かに泣いていた。


その夜Aは、今まで体に塗りたくっていた色を落とそうと躍起になっていた。なかなか落ちない色に必死になる。「これは、僕の弱さ、だ。」

そう呟き力づくになる。ガリッ、奇妙な音と共に体が擦れて血が滲んだ。

ふぅ、とため息をつくと、「今更無理か。」とその場でゴロンと仰向けになった。それから目を閉じて、しばらく経った。

ぼんやりと、あのBを思い出した。笑いかけてくれた、強く変わらない、けれどいつも戦ってばかりいるボロボロの、僕のヒーロー・・・。



ーーーああそうか。僕は僕のままでしかいられない。それでいいんだ。今までの間違いも、遠回りも、恥も、いつかの罪も、全て受け入れてそのままでいよう。これから先僕の行く先に、好きだと思った色と出会えるなら、それでいい。そうしてふと、今、入れたい色が思い浮かんだ。徐に体に塗ってみた。見た目は少しおかしくて、何も完璧じゃなくて、だけどまたそれが良いように感じて、立ち上がった。心が軽かった。それから踊った。嬉しかったから。数分後、自分を急に客観視し、恥ずかしさを感じたAは、赤面してふふっと笑った。A。彼はどこか前とは違う強さを持っていたのである。


ーーーーと。



(ふう、と息を吐き出す。体に溜まっていた全てが放出されスッキリするこの瞬間。

夢中になって書き連ねた文字たちを眺めていると、なんだか僕に自信をくれるような気がした。

そう。僕はこの時、大きく飛躍する。そんな確信を、もう既に持っていた。

「もうこんな時間か。」

ふと、時計を見ると、四時間以上経っていた。

”僕を救うのは、僕の世界だけだ。”

ノートの端に小さく書き足すと、いつの間にか僕は眠っていた。)



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― 新着の感想 ―
[良い点] ボロボロの僕のヒーローいいですね! なんかその言葉好きです! [一言] とてもよかったのでまた、よんでみたいです、 僕も書いてるんでもしよかったら読んでやってください。
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