9.それに「文武両道」はカッコいい
「聞くところによると、こちらの剣道部はあまり強いほうではないそうですね。でも、大丈夫。かーらとボクがみなさんを強くして差し上げます。どうぞ、よろしくお願いいたします」
そう言うくーまを部員たちは曖昧な表情で見ている。
「なんじゃ、その顔は!」と再びかーらが怒り出す。
「我ら白峯一族は、かの牛若丸を育てた名門ぞ!」
鼻息荒く、胸をそらして言ったが「牛若丸? 誰?」といった反応しか戻ってこない。
「まあ、それはそれとして、顧問の先生にはちゃんと許可をいただいています」
そう言ったあと、くーまはかーらに言った。
「じゃ、やるか」
「おう」
そして二人は模擬試合を始めた。
それは剣道というよりも殺陣であり、殺陣である以上に舞いだった。
部員たちは二人の動きに見とれ、ため息をつく。そして、
「こんな風に動けるなら、がんばってみるのもいい」
と思ったのだった。
それから一ヶ月。
部員たちも心の奥底では強くなりたいと思っていたのだろう、真面目に練習に取り組むようになっており、それにともなってメキメキと上達していた。
やはり、まわりから「弱小」と蔑まれることには内心忸怩たる思いがあったようだ。
「入部しているだけで内申が良くなるなら、強くなったら、もっと良くなるんじゃないでしょうか?」
というくーまの一言も効いた。
まさに、そうだ。それに「文武両道」はカッコいい。
さらに、くーまとかーらの教え方もうまかった。
くーまは型の基本を忠実に身体に覚えこませるように教えた。
型の一連の動作をゆっくりと何度も繰り返し、次第にその動作を速くしていく。
武道で大切なのは正しい動きを身につけること、それに尽きる。
「焦らなければ大丈夫ですよ」
とくーまはニコニコとしながら言う。
「自分がゆっくりだと思う半分の速さで繰り返して下さい。そのほうが早く身につきます」
一方のかーらが担当したのは、身体が軽やかに動かせるようになることだ。
そのためにかーらが提供した手段がダンスだった。
部活にスマートフォン用のスピーカーを持ち込み、軽快な音楽を流して部員たちを躍らせた。
「照れずに踊るがよい。まずは自由に動くのじゃ!」
中学生とはいえ、まだ子どもであり、子どもは身体を動かすことが大好きだ。
はじめは照れていた部員たちだったが、ついついダンスに夢中になり、それに応じて軽やかな身のこなしができるようになっていった。
かーらはそこに一定のステップを一つずつ組み込んでいく。
身体が思うように動かせるようになれば、ますます面白くなる。
そのため、今日もサケノハラキタ中学の体育館ではノリのいい音楽が流されており、その選曲には部員たちの好みが反映されるようにもなっている。