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8.その雰囲気が変わったのが、一ヶ月ほど前のことだ

 サケノハラキタ中学校。

 ここでも夏休みの部活動が行われていた。

 体育館で練習をしているのが剣道部。

 なぜか軽快な音楽が流れていて、部員たちが踊っていた。

 部員は30名ほどいる。

 弱小であるにも関わらず、それなりの部員を集めているのは

「剣道部に入っていると内申書が良くなる」

 という噂が根強く残っているからだ。

 これは、かつて剣道部員の一人が県内トップクラスの進学校に合格し、そのあと超難関と言われる国立大学に進んだことに由来する。

 内申書のための入部なので、部員たちには「強くなろう」という意欲はなく、それは顧問にしても同じことだった。


 その雰囲気が変わったのが、一ヶ月ほど前のことだ。

 二人の転校生が入部し、彼らがその日から部を変えた。

 転校生の名は白峯くーまと白峯かーら。

 くーまが男子でかーらが女子。双子だった。

 一卵性ではないのか、顔は似ていなかったが、どちらもハッとするほどに整った顔立ちをしていた。

 彼らの登場にはインパクトがあった。

「なんじゃ、そのたるんだ態度は!」

 という怒鳴り声に部員たちが振り向くと、そこに道着姿の二人がいたのだった。


 怒鳴り声の主は女子で、肩をいからせ、固く握った両の手をぷるぷると震わせていた。

 竹刀を背中に挿している。

 一方の男子は飄々とした笑顔で、手に竹刀を携えている。

「私が稽古をつけてやる!」

 女子の方がいきなりそう言って、竹刀を抜き、部員たちのなかに足音荒く入っていった。

「誰?」「何?」「は?」「えと?」

 という顔の部員たち一人ひとりを睨みつけ、竹刀を構える。

「かかってこい!」

 もちろん、誰もかかっていこうとはしない。

 戸惑いと半笑いの表情で怒りの女子を見つめるだけだ。


「そっちがかかってこないから、こっちからいくぞ!」

 と叫ぶと、男子の方が言った。

「よしなよ、かーら。みんなビックリしているじゃないか」

「とめだてするな、くーま」

 そのやりとりで部員たちは二人の名前を知る。

 なぜか怒っている女子が、かーら。

 飄々とした笑顔の男子が、くーま。


「まずはちゃんと挨拶しないと」

 とくーまが言った。

「だが、こいつらのこの腑抜けた態度は」

 とかーらが返す。

「いいからいいか」

 とくーまはかーらに近づき、その両肩を持って、ひょいと後方へ移動させた。まるでチェスの駒を動かすように。

 その後、部員たちをにこやかに眺め、のんびりとした口調で言った。

「こんにちは」

「……こんにちは」

 と部員たちが応える。

「ボクの名前は白峯くーま。こいつは、妹のかーら。ボクたちは双子です。で、どちらも剣道が大好きです」

 ニコニコと笑いながらそう自己紹介をするくーまに部員たちは好感を抱いた。

「みなさんも剣道が好きだから剣道部に入部したのだと思います。だから一緒にがんばりましょう」

 無邪気と言っていいその笑顔に、剣道部員たちは後ろめたさを感じる。

 自分たちの入部の理由がいかにも不純だという自覚はあったからだ。


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