26.戦って勝てる相手ではないと分かっているのに戦いを挑む理由はない
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三人組は先日の更地にくーまとかーらを連れ込んだ。
そこに待っていたのは、一人の巨漢だった。
「うほ」
と巨漢はうれしそうな声を出した。
顔はまん丸で目が細い。
サイケな色合いのTシャツを着ているが、それが太った身体にピチピチに張り付いていた。
「うほほ。ちっちゃい。子どもだね。まだそれほど大きくなってないんだね。うほほ」
「お前がでか過ぎるんんじゃ、デブ」
とかーらが言い返す。
「うほほー。いきなりのご挨拶だね。ぞくぞく。初対面でぶしつけ。そういうの、嫌いじゃないよ。うほほほ。好き好き」
「うほうほとうるさいわ! さっさと始めるぞ」
「え、もう? せっかちちゃんだなー。ちっちゃいせっかちちゃん。うほ」
「うざい」
と言うなり、かーらは巨漢に駆け寄って竹刀を浴びせた。
頭部、胴、膝にそれぞれ一閃ずつ。
激しい音がなったが、巨漢は微動だにしなかった。
「かーら、下がれ!」
とくーまが叫び、かーらが応える。
「下がるか!」
そしてさらに攻撃を繰り出したのだが……その竹刀をつかまれ、ぐいと引っ張られた。
「ずどーん!」
と巨漢は言いながら、かーらを胸に抱き入れる。
そしてパンパンに張った両腕でかーらの身体を締め上げた。
「ばき。ばきばきばきり。うほ」
「げふっ」
とかーらの口から血が吹き出て、巨漢の顔にかかった。
「うほ。汚ね!」
巨漢は笑いながら言って、かーらの身体を無造作に放り投げた。
かーらはずざざざ、と地面を削るように滑っていき、そのままぐったりと動かなくなった。
「ぺっぺぺっぺ。天狗の血はまずいね。美味しくないかな、天狗っ血。うほほ」
そう言ってくーまを見る。
すでにくーまは走り出していた。
巨漢に向かって……ではなく、倒れている妹の方に。
その行手を三人組が遮ったが、くーまは羽を広げて頭上を飛び越える。
そしてかーらのそばに着地し、素早く抱き抱え、再び宙に舞う。
巨漢が自分たちのかなう相手ではない……ということは、最初のかーらの攻撃で見抜いていたようだ。
「ここは逃げるしかない」
と判断したと思える。
その判断は適切だ、とカヤは動画を見ながら思う。
戦って勝てる相手ではないと分かっているのに戦いを挑む理由はない。
だが、そのくーまの目論見はかなえられなかった。
ぐったりとしたかーらの重みが飛翔の俊敏さを奪ったのだろう、飛び去ろうとしたくーまの足首を巨漢の手ががっしりとつかんでいた。
巨漢はその腕をいったん後ろにそらし、そして地面に向けて振り下ろす。
くーまとかーらが叩きつけられる。不気味な音が響いた。
そこで巨漢は「ん?」と空を見上げる。
巨漢がカメラ目線になった。
タブレットの画面越しにカヤたちを見る格好だ。
「うほほ。覗き見しちゃダメだよー。いけないよ、こっそり見るのは。照れちゃう照れちゃう。うほほほほー」
そう言って片手をサッと振る。
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とたん、画面がブラックアウトした。
どうやら巨漢にはミロクの干渉はできないが観察はできる能力が発動されているのを見抜き、そして無効化する力があるようだった。
(なんか、いきなりラスボス級の悪魔が出てきてるんだけど……)
カヤはRPGで遊んだ経験はないが、父が息抜きでプレイすることが多いこともあって「ラスボス」という言葉そのものは知っていた。
あの圧倒的な凶暴性に加え、そんな力も?
「こんなのとは、」
確かに戦えない……。
それこそプロパーの天使たちに任せなければ。




