23.いやいやいや、カヤカヤカヤ
「サケノハラキタ中学校の白峯兄妹が入院したとの連絡があった」
大会翌日。
授業を終えて部活に行くと顧問の先生が部員たちを前にそう告げた。
昨日の今日のことだが、サケノハラキタ中学校剣道部は他校の剣道部から引っ張りだこの存在になっていた。
「ぜひ合同練習がしたい」
「練習試合をお願いしたい」
「練習風景を見学させてほしい」
といったオファーが殺到していた。
かつて「サケノハラキタと練習をするくらいなら部活を休んで休養を取ったほうがマシ」と言われていた時とはまさに隔世の感があった。
だが、そのオファーにサケノハラキタは応えられなかった。
肝心の白峯くーまと白峯かーらが入院をしたからだ。
入院の理由は分からなかったが「どうやら体調を崩したようだ」ということだった。
(アイスの食べ過ぎなのでは?)
とカヤは一瞬思ったが、しかしあの二人がそれくらいのことで体調不良になるというのも考えにくい。
もしかすると、人間の姿になることは天狗として負担が大きいのかも知れない。
(あとでミロクさんに調べてもらおう)
とカヤは考える。
あまり関わりは持たない方がいいのかも知れないが、なんとなく気にはなった。
「みんなも体調管理には気をつけるようにな」
と、顧問の先生はそこで話を締めくくった。
くーまとかーらが入院をした理由はその後すぐに分かった。
体調を崩したどころではない。
暴行を受けて大ケガをしていたのだった。
「暴行? あの二人が?」
「ビックリだよね」
と応えたのはピリポだ。
いつものピリポお気に入りのファミリーレストラン。
今日はデラックスダブルパフェなるものを食べている。
通常の2倍サイズの容器に入ったパフェだ。
まさか業務用アイスに対抗しているわけではないのだろうが……。
「誰にやられたんですか?」
「ふふふ。知りたいのかな?」
カヤはテーブルの上にあった塩のビンを手にして低い声で言った。
「そのパフェ、こちらに」
「あう」
とピリポはガードするように両手で容器を抱え込む。
「なんか最近、カヤカヤってボクに対する態度が雑くなってない?」
「気のせいですよ」
「……そうかな]
「はい」
「だよね! ボクはカヤカヤの恩人なんだし」
そうだっけ?
「ま、それはそれとして」
「はい」
「犯人はね、この前の髪染めピアス三兄弟」
「………」
勝手に兄弟にしているが……しかし、それは意外な答だった。
「でも、あの三人はちゃんとリモコンで」
更生してもらったはず。
「だよね。だから、こうしてボクが出張ってきたわけ」
(出張ってくるのはいいけど)
とカヤは思う。
マドカのいない時にしてくれませんか?
話は少しだけさかのぼる。
体調管理を意識したのか、顧問の先生は早めに部活を終わらせた。
その部活を終えてのマドカと一緒の帰り道。
かつてと同じようにピリポが人間の姿となってカヤのことを待ち伏せしていた。
歩道のへりに片足をのせ、その膝の上で頬杖をついている。
滑稽だ。
「あ。いつかの彼氏さんですよ」
とマドカが笑いをにじませながら言う。
「だからあり得ないって」
とカヤが応え、そのまま前を通り過ぎる。
「いやいやいや、カヤカヤカヤ」
と背後から声が追いかけてきて。
「ごめん、マドカ。また明日」
「はーい」
と素直な後輩は手を振って、そのまま去って行った。
カヤは振り向きざま、ピリポに言った。
「一体、どうしたんですか?」
「子天狗たち、入院したよ」
「ふむ」
カヤは考える。
ピリポたちがそれを知っていること自体、別におかしくはない。
おそらく、昨夜も見回りを続けたというトキオあたりからの情報だろう。
しかし、そのことに天使業界が関わっていこうとする理由が見えなかった。
くーまとかーらは「こちらサイド」のメンバーではなく、先日のようにカヤの行動と方向性はかぶるものの、基本的には部外者だ。
入院をしようが体調を崩そうが、天使業界がそれを気に掛けることはないはずだ。
(何か事情がある)
とカヤは思う。
そのタイミングでピリポがファミリーレストランへと誘ったのだった。




