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22.あなたの真の姿はボクだけのものです

 試合後の礼を終えた途端、サケノハラキタの選手たちはその場にしゃがみこんで泣き始めた。

 声を出して泣いている者もいれば、袖を拭っている者もいる。

 かーらの肩に顔を埋めて「ごめんね、ごめんね」と言っている選手もいた。

 カヤは改めて黙礼し、背を向ける。

 その後ろをマドカがついてくるが、居心地が悪そうだ。

「なんだか、悪いことをした気がします」

「勝つというのは、そういうことなんだよ」

 今の試合後の礼でかーらはカヤよりも長く頭を下げていた。

 逆の立場ならカヤもそうすると思った。


 荷物を置いている観覧席に戻る途中の階段で「待て」と声をかけられた。

 振り向くとかーらがいる。

 カヤのことを睨みつけている。

 そばにいたマドカが思わず、といった感じでガードするようにカヤの前に立つ。

 その肩をカヤはぽんぽんと叩いて「大丈夫」と言った。

「先に行ってて」

 とうなずきかける。

 マドカは素直に「はい」と言って階段を駆け上がっていく。

 


 二人きりになってからかーらが言った。

「天使。お主、強いな」

「かーらちゃんも」

「誰がかーらちゃんじゃ。馴れ馴れしいわ!」

「ごめん」

「ふん」

「次の試合も楽しみにしている」

「もう! 私のセリフを先に言うな」

「ごめん」

「ふん」

 そっぽを向いて、かーらは去っていった。

「ふう」

 と息を吐いた時、背後から声がかかる。

「お見事でした。マイラグジュアリー空野嬢」


 カヤは別の意味でまた息を吐く。

 階段を降りてきたくーまがカヤの横を通り(その瞬間大きく息を吸っていた)、踊り場で立ち止まる。

 胸に手を当てて頭を下げた。

「ご安心下さい。かーらもボクも、あなたの正体については口外いたしません」

「それは助かります」

「あなたの真の姿はボクだけのものです」

「それはやめて下さい」

「では、また。お目にかかれる日を楽しみにしています」

 くーまはそう言って、かーらの去った方向へと歩いて行った。

 次にこういう形で会うとしたら秋季大会だろう。

 夜のサケノハラで遭遇する可能性は否定できないにせよ、まだまだ先のことだ。

 カヤはひとまず安堵したが、その予測は外れることになる。


 さすがに疲れたので、今夜は天使のアルバイトを休むことにした。

 その旨をデビーとミロクとトキオに知らせる。

「それは助かる。今日オープンのラーメン屋があるんだ」

 とデビー。こまめに情報をチェックしているようだ。

「あらそう? じゃ久しぶりにクッシーの顔でも見に行こっかな」

 とミロク。クッシー? 誰?

「ボクは暇なので見回りだけはしておきます。もう習慣です」

 とトキオ。あくまでも真面目だ。

 夕食は父が寿司をとってくれていた。

 優勝祝いだ。

 今日のことを報告しながらお寿司を食べ、早めにベッドに潜り込む。

 朝までぐっすりと、夢一つ見ることなく眠った。


 くーまとかーらが入院をしたと聞いたのは翌日の放課後のことだ。


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