2.その顔を見て、カヤは「お面?」と思った
ミロクからの連絡を聞いたカヤは空中で身体をひるがえし、現場であるショッピングセンターへと向かった。
飛翔しながらミロクと話す。
「どういう状況ですか?」
「ヤクザ同士のケンカみたいね」
「はあ。ヤクザですか……」
やだな、と思う。
できれば関わりたくなかった。
ここはデビーの応援を頼んだ方がいいのかも知れない。
「五対二ね。多い方が少ない方を連れてきたみたい。と言っても、少ない方も負けてなくて、けっこう頑張ってるけど」
カヤは頭のなかでシミュレートする。
彼らの前に降り立つ。
唖然として乱闘がやむ。
さて、それから?
自立か、共感か、それとも反省か。
必要なのはそれぞれ違うだろう。
それともここは全員ひとまとめに処理すべきだろうか。
もしくは、デビーから恐怖を植え付けてもらう……。
思い悩んでいるカヤの耳にミロクの声が届く。
「あら」
「どうしました?」
「飛び入り一名。なにあいつ?」
ミロクの声に戸惑いが混じる。
「ミロクさん?」
「ね、カヤカヤ。木刀って使える?」
「……部活で使うことがあります。型の練習ですが」
「わかった。用意しとく。デビーも呼んだ方がいいかも」
「そうなんですか」
(おい、勘弁してくれよ。おれはいま、替え玉を注文したところだ)
と、デビーの念波が届く。
「あきらめなさい」
とミロクは一蹴する。
「いえ、大丈夫だと思います」
とカヤ。
剣道の心得のない人間が木刀を振り回したとしても、それは脅威ではない。
振った瞬間にスキができる。そこを打てばいい。
たぶん、どちらかの仲間が加勢したのだろう、とカヤは思った。
脅しとして木刀は有効だ。
ただし、武道を学んでいない者に対しては。
そう考えると、デビーが出るほどのことではないと思えた。
それに、ノーエルからも一応は釘をさされている。
「替え玉、楽しんでください」
とカヤはデビーに伝える。
(そりゃ助かるぜ)
とデビーがうれしそうな念波を届けてきた。
現場に着いたカヤは、そこで目を丸くする。
呻き声をあげながら倒れている男たちが七人。
そして木刀を持った男がひとり。
居丈高に何事かを話している。
和風の服を身にまとっているが、あれは着物というよりも……なんだろう?
カヤは名称を知らなかったが、それは山伏が着用する法衣で「鈴懸」といった。
足には高下駄を履いている。
男はカヤの気配に気づいて振り向く。
その顔を見て、カヤは「お面?」と思った。
むかしの時代劇にそういうものがあったと父から聞いたことがある。
何かのお面をつけて悪者たちの前に登場するという設定の時代劇だ。
(この人もそうなのかな? 天狗侍?)
男は天狗のお面をつけているように見えたが、それはお面ではなかった。
長い鼻がぴくぴく動き、ギョロリとした目がカヤをにらみつける。
顔の色も赤い。
「ナガス組の者か、天使!」
叫ぶや否や、木刀を身に引きつけ、高下駄を鳴らしながら迫ってきた。