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18.干渉はできないけど、観察はできるの

◇◆◇◆◇◆◇◆◇ミロクアニメここから◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 月明かりの夜空を羽を広げたシルエットが飛翔している。

 その両腕には一人の男が抱えられていた。

 男は低い声で言う。

「てめー、五郎坊と言ったな。こんなことをしてタダで済むとは思うなよ」

 月の光に浮かんだその表情には殺気がみなぎっている。

 五郎坊、と呼ばれた羽を広げたシルエットにも月の光が射す。

 天狗だった。


「じきに着くから黙っておれ」

 と、天狗の五郎坊はそう言って飛翔を続ける。

 前方に黒々とした山が見えている。

 五郎坊はどうやらそこに向かっているようだった。

 山の頂近くには山寺がひっそりと建っている。

 その境内に五郎坊は降り立った。


 抱えていた男から腕を離した瞬間、男は五郎坊に向かって殴りかかった。

 五郎坊はふわりと浮いて、その攻撃をかわし、上空から言う。

「鬼嶋健二。お主の父親がそこで死にかけておる。会ってやれ」

 そして鬼嶋の背後の本堂を指さした。

「……おれには父親なんていねーんだよ」

 ギラリと五郎坊を睨みつける。


「あっそ」

 と五郎坊は言って、そのままふわふわと本堂へと向かう。

「じゃ、そこで待っておれ。後でちゃんと帰してやる」

「おい、待て!」

「待たぬ。お前、こういう場面でありがちな面倒なやりとりを期待してるとしたら、それはムダじゃぞ」

「………」 

「おれには親なんていねー、そう言うでない、お前の父は一度たりと息子のことを忘れたことはないんじゃ、そんなの知ったこっちゃねーぜうんぬんかんぬんのやりとりの果ての、でも結局は死に目に立ち会っちゃう、とか、そういうの、ワシ興味ないから」


 五郎坊が遠ざかるにつれてその声は小さくなっていく。

 やがて五郎坊は本堂に降り立ち、扉を開けて中に消えた。

「父上。鬼嶋健二はどうした?」

 と甲高い声が漏れ聞こえたが、すぐに静かになった。

 本堂をしばらく睨みつけていた鬼嶋だったが、やがて「くそっ」と舌打ちをし、そちらに向かって駆け出す。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇ミロクアニメここまで◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「とまあ、そういうこと」

 ミロクが言って動画を止める。

 動画にはご丁寧にもBGMが添えらえていた。

「これ、何をもとに作ったんだ?」

 とデビーが言う。

「まるで見てきたようじゃないか」

「見てきたのよ」

 とミロクが言う。

「干渉はできないけど、観察はできるの」

 それもミロクの持つ能力の一つなのだろう。

「なんでもありか」

 やれやりとばかりにデビーは首を振る。


「なんでも鬼嶋パパは鬼嶋が小さい頃に家を捨てたらしいのよ。どういう事情なのか、そこまでは調べなかったけど」

 それを受けてノーエルが冷静な口調で言う。

「そこまでは必要ないだろう。今は天狗の話だ」

「そうね。それで、鬼嶋はパパの死に目に合わせてくれた、その天狗一家に恩義を感じたわけ」

「いい話だね」

 ピリポが目を潤ませている。

 カヤはそれにはとりあわず、ミロクに言う。

「それで天狗一家は山を降りてくることにしたわけですか?」

「そう。もともとは山の住人なんだけど、街に住めないこともない。鬼嶋パパから息子を頼むとも言われていたみたい」

 鬼嶋パパと天狗一家との間にどんなつながりがあったのだろう? 

 しかし、それはノーエルの言う通り、今は知る必要のないことだ。


「それに鬼嶋の方でも、というよりサメタニ組の方でも天狗一家を迎え入れることにはメリットがあったわけね」

「どんなメリットですか?」

「シシドエリアはサメタニ組の昔からの縄張りで、彼らが暴力的なトラブルを収める役割を果たしてるの」

「それが治安を守るという……?」

「そう。みかじめ料と言ってね、主に飲食店からお金を徴収して、何かあったら彼らが出てきてトラブルを収めるのよ。例えば、酔っ払いがごねたり。あと、この前のラーメン屋さんみたいなこととか」

「そういうシステムなんですね。でも……」

 とトキオが感心したように言った後、首を傾げる。

「そういう時って警察を呼べばいいのでは?」

「ま、そうなんだけどね。でも警察は民事不介入だし」

 とミロクは肩をすくめる。

 細かいトラブルをカバーしきれない面もあるのだろう。

 天使業界と同じように警察も人手不足なのかも知れない。


 そこでカヤは思いつく。

「あ、そうか。メリットというのは、そのトラブルに対応する人手を確保できるということですか?」

「ご明察。あの父親天狗というか五郎坊さんが尋常な者ではないことは鬼嶋も身を以て知ったわけだから」

 抱えられ、空を飛んだ。ふむ、なるほど。

「天狗一家はたぶん鬼嶋パパにかつてお世話になっていて、その恩を返したかった。息子を頼むとも言われていた。鬼嶋も鬼嶋で彼らに恩を感じ、さらに人材としてのポテンシャルに目をつけた」

「まさにウィンウィンだね。いや、この場合は三方良しか」

 ふむふむとうなずきながらピリポが言う。

「ちなみに三方良しというのは近江商人の言葉で、」

「いえ、それは今はいいです」

 とカヤがさえぎり、ピリポは「あう」と傷ついた顔をする。


「このご時世、ヤクザになろうってやつも少ねーだろうからな。それはそれで話がうまくまとまったってわけだ」

 デビーの言葉にミロクが「そゆこと」とうなずく。

「この前のああいう半グレ連中がのさばってくると、シシドの人たちも困るしね。あと、他の組からもちょっかいを出されているみたいだし」

「他の組?」

「ナガス組。五郎坊さんが言っていたでしょ、あの駐車場で」

 そう言えば、カヤを見た時「ナガス組の者か、天使!」と叫んでいた。

「なんかテリトリーを広げようとしているらしいの」

「でもどうしてあの子天狗たちは学校に?」

「そこまでは知らない。でも、人間の世界に興味があるからじゃないの?」

 ミロクはニコリと笑って付け加える。私たちと同じで。


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