16.我らの敵にプロポーズしてどうする!
かーらも同じ疑問を持ったようだ。
「なぜ、そう言えるのじゃ、くーま」
と問いかける。
するとくーまはやや胸をそらして言った。
「きれいだから」
「は?」
「え?」
と思わずカヤも声を出す。
「あと、可愛いから」
「む!」
「………」
「そんなにきれいで可愛い天使様に襲われたということは、父に非があったからに違いない。どう考えてもそうだ」
(私が襲ったことは動かない事実なんだ……)
ふうと溜息をつきたくなる。
くーまはふわりと宙を飛び、かーらの頭上を超えて、カヤの前に立った。
「もし、あなたが昨夜の天使様ならどうか父上をお許し下さい」
胸に手を当て、頭を下げる。
結果的に父親の非を息子が謝罪するという方になっていた。
非の捉え方はどうあれ。
頭をあげたくーまはカヤの目を見ながら、付け加えた。
「あと、ボクと結婚して下さい」
パシッと小気味良い音を立てて、その頭を竹刀が打つ。
もちろん、かーらの仕業だ。
「アホか、兄者。我らの敵にプロポーズしてどうする!」
敵認定されているのか……。
「バカなことを言うな、かーら。ボクの敵はすでにお前であり父上だ」
くーまはカヤを守るように両手を広げてかーらに対峙する。
(とりあえず、この二人は放っておこう)
そう判断したカヤは当初の当事者たちに近づく。
空き地の真ん中で若い男たちは横たわり、それぞれに足首や膝を押さえている。
片隅には腰を抜かしたのか、後ろ手をついて座り込んでいる男性がいた。
この人が三人組に連れてこられたのだろう。
カヤが言う。
「何があったんですか?」
「私が連中に……そしたら、その二人が」
なるほど。やっぱりあの子天狗たちが助けたのか。
だったら、こちらとしては彼らと敵対する必要はない。
「なぜトラブルが起きたんですか?」
その問いに、三人組がラーメン店で行列に割り込んできたことを男性は話す。
天狗に次いで天使が現れたことを混乱の中で受け入れているようだった。
「わかりました」
カヤはリモコンを取り出して三人組に「自立」のビームを浴びせた。
三人組はびくりとのけぞったあと、謝罪の言葉を口にしながら這って男性に近づいていく(まだ立てないようだ)。
そしてしっかりとした口調で自身たちの非を詫び、今後のふるまいについて誓った。
男性もそうだが、二人の子天狗も呆気にとられてその様子を見ている。
やがて、かーらが言った。
「……お主、何者じゃ」
「私はあなた方の敵ではありません」
「はい」とくーまがうなずく。「ボクの妻ですよね」
カヤは思わず数歩下がり、
「いえ、それはもっとありません」
「訂正します。将来の妻ですよね」
「ないです。それより」
「なんじゃ」
「あの方を助けていただいて感謝します。ありがとうございました」
とカヤが頭を下げると、かーらが鼻を鳴らして言う。
「ふん。当たり前のことをしたまでじゃ」
「当たり前のこと」
「ここは、サメタニ組のなわばりじゃからの。シマの安全を守るのは当然のことじゃ!」