15.これでこの二人が転校生でなかったら、それこそビックリだ。
と、一人の男がヨロヨロと立ち上がり、
「このガキが」
と言ったが、次の瞬間、その頭部に竹刀の一閃が加えられる。
「ぎゃっ!」
と叫んでそのまま倒れこんだ。
「無礼な物言いをするでないわ!」
と高い声が浴びせかけられる。
その声のトーンから、どうやら女子らしい。
若い男たち以外にカヤの目に映ったのは、二人の天狗だった。
昨夜の天狗と同じように時代がかった服(むしろ装束と言ったほうがしっくりくる)を身にまとっているが、身体つきはずっと小柄だった。
昨日の天狗が大人なら、こちらの天狗たちは子ども。
でも、そんなに小さな子どもではなく、人間に例えるなら中学生くらいの……。
「そっか」
とカヤは小さくつぶやく。
この二人がサケノハラキタ中学の剣道部を強くしたという例の転校生だ。
双子という話だったし、竹刀を手にしているし、その扱いにも慣れているようだし。
これでこの二人が転校生でなかったら、それこそビックリだ。
「む」
と、そこで今ほど竹刀を一閃させた天狗がカヤに気づく。
「おのれ、天使! 貴様さては昨夜、父上を襲った奴だな。返り討ちにしてくれる」
言うが早いか、カッカッカと高下駄を鳴らして向かってきた。
(ああ、昨日のあの天狗のホントの子どもなんだ)
とカヤは肩をすくめる思いで、こちらに向かってくる子天狗を見る。
なるほど、行動パターンも一緒だ。
(でも、襲ってきたのはあなたたちのお父さんの方なんだけど)
なぜかカヤが加害者のようになっているが、きっとそういう風に父天狗が話したのだろう。
やれやれだ。
カッカッカと近づいてくる女子天狗をカヤは冷静に分析する。
父の天狗ほどに腕が立つようには見えない。
竹刀を片手に持ち、それを後ろに流しながら駆けてくる。
近くまで来てから構え直すつもりか、それとも威嚇的なポーズか。
いずれにしても実戦向きではない。
そう思いながらカヤは子天狗を見ている。
いざとなれば空に逃げる。
と、その時、もう一人の子天狗が言った。
「待て、かーら」
声の様子からこちらは男子のようだった。
「止めるな、くーま!」
と女子天狗が足を止めて振り向く。
かーらちゃんとくーまくんか。
あっさり名前を明かすんだな……。
「その天使様はお前に何もしていないだろう」
「じゃがしかし、こやつは父上を」
「そうとも限らない。別の天使の仕業かもしれないじゃないか」
いや、そんなにたくさん天使が出没することはないとは思うけど。
カヤが思わず苦笑いを浮かべると、男子天狗は驚くべきことを言った。
「それにもし、その天使様が父上のお相手をした天使様なら、昨日のことは父上が悪い」
凄い、とカヤは素直に驚く。
なぜ、それが分かったのだろう。
カヤの姿を見ただけで、なぜそうキッパリと言える?
判断力と推理力に優れた天狗なのだろうか。