11.ちょっと祝杯をあげたい気分だったんだ
「さあ、がっつり食べようか」
と、席に通されたあと、沖田は食べ放題の一番グレードの高いコースをオーダーする。
そしてマドカとカヤにはドリンクバーを、自身はアルコール飲み放題を追加した。
「お仕事はもう終わったの、パパ?」
「ちょうど原稿が一つ終わってね。ちょっと祝杯をあげたい気分だったんだ」
「へえ。じゃ、ちょうど良かったんだね」
「ナイスタイミングかな」
そんな二人の会話をカヤは微笑ましく聞いている。
うちも仲がいいほうだと思うけど、マドカのところもそうなんだな……。
やがて肉が運ばれてくる。
沖田がトングをつかんで、慣れた手つきでせっせと焼き始めた。
「先輩って、ダイエットとかしないんですか?」
とマドカが不意に聞く。
「しない。そんなのしたら強くなれない」
「さすがだね、空野さん」
と沖田が言って、トングを置き、ビールのジョッキに手を伸ばす。
「ママも言っていました。私たちくらいの歳の女の子はダイエットなんてしちゃダメって」
「うん、いまは身体をつくる時期だから」
「そうだね。でも、いまの若い女性には栄養失調の子が多いと聞いたことがある」
「栄養失調?」
「そう、栄養失調。過度なダイエットと栄養に関する情報不足。あと、経済的な理由」
「ふーん」
「あの」
とカヤが沖田に言う。
「ん?」
「沖田さんは、たくさん本を書いていて……それでもこういうお店に来たりするんですね」
売れっ子の作家だから高級なお店にしか行かないのでは……という思いがカヤにはあった。
「先輩。パパってけっこう食べ放題が好きなんですよ」
くすくすと笑いながらマドカが言う。
「そうなの?」
「ママはまったく興味がないんですけど」
「ママはグルメだからね」
と沖田が肩をすくめる。
今度はマドカがトングを手にし、焼けた肉をそれぞれの取り皿に分けていく。そのあと、肉を網に追加する。
「焼肉だけじゃないんですよ。しゃぶしゃぶとか串カツとかピザとかお寿司とかけっこう一緒に行ってます。ママはいい顔しないけど」
「私も今度、お父さんと行ってみようかな」
とカヤは父の顔を思い浮かべながら言う。
牛肉好きの父のことだ、大喜びで食べまくることだろう。
以前のカヤなら外食なんてとんでもないと思うところだが、我が家には家賃収入がある。
カヤのアルバイト代は生活費にあてる必要がなくなり、それで父を食べ放題に連れていくことができる。
(よし、来週あたりに行こ)
とカヤは決めた。
さっき、沖田に誘われてマドカとランチを取ると告げたとき、父親はなんとも妙な顔をした。
ビックリしたような、喜んでいるような、それでいて寂しそうななんとも言いようのない表情。
カヤはてっきり「いいなー、カヤだけ。お父さんも行きたいなー」と駄々をこねられると思っていたので、その反応は意外だった。
「行っていい? お父さん」
「うん、いいよ。おいしいもの、食べておいで」
と言い、ニコリと笑って送り出してくれたのだった……。