1.強くなければ、大切な人を守れない
カン、カン、ガッ!
深夜のショッピングモール。
その広大な駐車場の一画で木刀と木刀がぶつかり合う音が響く。
駐車場に設置された照明の光がかろうじて届く場所だ。
その淡い光が二つの影を映し出す。
互いに打ち込み、ときにひらりとかわしながら闘いを続けている。
(夜の悪は)
と繰り出されてきた木刀をふわりとかわしながらカヤは思う。
(ずいぶん手ごわい……)
素早く体勢を立て直し、相手の頭上に木刀を振り下ろす。
ガシッ。
相手は両手で持った木刀で、その一撃を受け止める。
反撃を警戒し、カヤはすぐに後方へと飛んだ。
(手ごわいどころか)
着地し、仁王立ちになっている相手を見つめる。
(人間じゃないし!)
天狗だった。
「ふははははは、なかなかやるな、天使殿!」
と天狗は高らかに笑ったあと、背中の翼をバサッと広げた。
「じつに、楽しかったぞ」
カヤにうなずきかけ、そして近くに倒れている二人の男の襟首をつかんで夜の闇へと飛び去った。
カヤはあえて追おうとはしなかった。
それよりも、なすべきことがある。
「ふう」
と息をついて振り返った先にはまだ他にも男たちが倒れている。
「お疲れさま」
と言ってスッと現れたのはミロクだ。
手には冷えたおしぼりとミネラルウォーターのペットボトルを持っている。
カヤは受け取ったおしぼりで顔の汗を拭い、ミネラルウォーターで喉の渇きを潤した。
「カヤカヤ、けっこう強いのね」とミロクが感心したように言う。
「カッコよかったわよ」
「いえ、そんな……それにしてもどうして天狗なんですか?」
「私にもわかんない」とミロクは肩をすくめる。
「いきなりだもんね。ビックリしたよね」
「はい」
天狗はいきなり木刀を振りかざして襲いかかってきた。
そのためカヤも相手にならざるを得なかったのだ。
ことの起こりはこうだ。
明日は日曜日ということもあり、カヤは夜遅くまでアルバイトをしていた。
もちろん、天使のアルバイトである。
いつものように不可視状態なってサケノハラ市の上空を飛んでいるカヤのもとには、トキオやデビー、ミロクから「自立・反省・共感」をうながすべき人間たちの報告があがってくる。
酔っ払い同士のケンカ、壁の落書き、ひったくり、空き巣狙い、無灯火の自転車……。
そうした報告を受けてカヤは該当する人間のところへ舞い降り、リモコンを押す。
それが基本的な流れだ。
夜に問題を起こす人たちは、やはり昼よりも悪意度が高い。
まだ中学2年生であるカヤに現実の醜さを突きつけてくることも少なくない。
しかしカヤはそうしたことごとを逆に利用して「自分はタフになる」と決めている。
強くなければ、大切な人を守れない。
今日もいくつか、そのようにアルバイトをこなし、そろそろ帰ろうかと思っているところにミロクから連絡が入ったのだった。
「ショッピングセンターの駐車場で乱闘が始まったよ」