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  第二話 ~異世界にて、勇者との邂逅~  5

  5

「参ったな……」

思わず口を付いた言葉には、焦燥の色が滲んでしまった。

私は視線の先にドラゴンを見据える。

空中にホバリングするドラゴンには、明らかに大量の魔力が凝縮されている。私から感知できるというのは、それだけの量であることの証左だ。

戦闘開始からどれくらい経った?

もう良い時間だと思うが、未だに制限が切れない。

少々舐めていたのもあった。通常は、保有魔力を一度に全消費というのは不可能だ。魔法として自らの命を生け贄にでもしない限りは、最低限生命活動に必要なだけの魔力が残る。

……と、これは今は私の仕事ではないか。

現状は、あの攻撃を受けきらないとどうしようもない。

ドラゴンは一向に降りてこない。当然の如く、滞空状態から一撃を放つ筈だ。そもそも陸上であろうとも、ドラゴンの攻撃を中断させる術を今は持たない。

「フール!早くこの場から離れるわよ!」

「君は離れた方が良いかも知れないな……あの攻撃の殺傷範囲から逃れられるのならね」

絶句するマリアン。

今の攻撃は、放たれればこの森ごと蒸発させ得る魔力量だ。とてもじゃ無いが、並みの脚力で森の外まで走破出来るとは思えない。

転移魔法も安易に使えない。初手の転移魔法に座標のずれが表れた原因が究明出来ていないのに加え、今の私の魔力量だと二人を飛ばすのにはちょっとばかし足りない。

最悪の場合は、マリアンだけでも転移させる腹積もりだ。

幸い時間はある。

私は目を閉じ、全神経を魔法構築へと注ぐ。

マリアンは何かを察してくれたのか、動かない。元から動けないのか定かではないが、好都合だ。

杖をさながらタクトのように、流れるように幾度も振るう。その一振り毎に、私の足元には魔術記号が踊り、幾何学図形が展開される。

幾つもの魔方陣を、立体的に交差させていく。

魔法と言うのは、パソコンを組み立てるのに似ている。この場合、パーツが魔方陣だ。パーツを組み立てるだけなら、殆ど魔力の消費はない。理論上は無限の魔方陣を交差させ、効果を底上げする事が可能だ。同じ効果を最大限に引き出すなら、魔方陣の数は多いに越したことはない、という事だ。

だが、勿論デメリットは存在する。消費魔力が指数関数的に跳ね上がるのだ。だから、可能な限り魔方陣は一つに圧縮する。

恐らく、今の俺の使用可能魔力量であれば、三つも重ねたら起動できない。

だが、それでも重ねる。

五――――十――――十五――――……。

都合十八の魔方陣を組み上がった。

エネルギー変換魔方陣。

何て事はない。ただ触れたあらゆるエネルギーを指定したエネルギーの形へと変換する魔方陣。今回は、炎を魔力に還元する。

プロセスとしては、通常の魔方陣の逆。

今回用意したのは、魔力というエネルギーを魔法という手段を用いて事象へと変換、ではなく。

魔法を、強制的に魔力というエネルギーへと変遷させる魔方陣。欠点もあるにはある……が、どうにかなるはずだ。

魔方陣は完成した。後は、ドラゴンの一撃を待つのみだ。

ゆっくりとした動作で、ドラゴンは首を上にしならせる。そして――――、

極大の、一撃が、放たれる。

――――後にマリアンは、『夜空の星が落ちてきたみたいだった』と言うが、案外的を射ている。

限り無く圧縮し、放たれた一撃は、恒星の輝きを帯びていた。

それほどまでの、圧倒的な火力。

物理的な防御は意味をなさない。魔術的であっても、生半可なものであれば紙屑同様だ。しかし、それは直接受けるのであれば、だ。

真っ向からの力比べは、今は望んでいない。

空に浮かぶ太陽すら塗りつぶす炎弾は、ごくごくゆっくりと、こちらに飛来する。

数秒後、魔方陣に炎弾が触れ――――た。


音は、無かった。

ただ空間そのものが軋むように。

歪んだ。

その後、視界を白が支配した。


「ご主人様!」

耳元でコドラが叫ぶ。どうやら聴覚は無事らしい。ついでに、肩にコドラが留まっているのも認知できるので、触覚なども機能しているようだ。

それにしても、やたらと逼迫しているのか、声を荒げている。あれだけの魔力を放出したドラゴンはしばらく動けないと思ったが、そうでもなかったか。

と、考えていると、

「もう一体!魔力反応が接近中!魔力量は……ドラゴンを凌ぐ可能性があります!」

全く……どこまでも楽しませてくれるね。異世界よ!

ドラゴンほどの存在が複数存在するなど、夢のようだ。次に出くわすのはどのような幻獣だろうか。

ユニコーン、ペガサス、鵺、バジリスク……このあたりだと、あまり魔力量が多いイメージはないな。となると、一番可能性が高いのは、同じくドラゴンか。

「どんな神秘が顔を出すかな」

 既に現状についての興味が半ば失われていた。恐らく『解析』は済んでいるはずなので大丈夫だろう。

 視界が徐々に回復する。

「えっ……?」

 コドラが耳元で言葉を失った。闖入者の姿を確認したのだろう。さて……どんな生物だろうか。

「……へぇー」

 驚嘆の声が漏れた。

 回復した視界。上空に飛んでいた、ドラゴンで『あった』ものが中心にあった。

 首を両断されていた。

 糸が切れたように、ドラゴンの残骸が墜落する。

 そして、残骸の傍から『何か』が現れた。

 転瞬。

 『それ』は颶風と化して、私へと襲い掛かった。

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