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  第二話 ~異世界にて、勇者との邂逅~  1

  第二話 ~異世界にて、勇者との邂逅~

     1

 ――――波乱もなく、無事に異世界に到着した。ここは……神殿だろうか。何らかの建物であることは明白だ。大理石と思われる石材で全面が覆われており、どこか荘厳な雰囲気を醸し出している。ふと頭上を仰ぐと宗教画だろうか、女神らしき存在と……あれは人間だろうか。一部が破壊されており、全体像を把握することは現状出来ないが、構図としては女神が人間に何らかの祝福でも授けているのかもしれない。足元に広がる幾何学図形にも何らかの魔術的なパターンがある。魔術的施設であることは間違いない。

「何事もなく着いてしまったなー……」

「あれのどこがっ!『何事もない』んですか!?」

 独り言ちの言葉を、何者かが拾う。

 ……そういえば、失念していた。一緒に転移してきたのか。

「コドラ、いたのか」

 私の視線の僅かに上。少しだけ見上げた空中に浮遊していた生物に言葉を返す。

 背部と顔を赤銅色の鱗に覆われ、胸部から腹部にかけては鱗のないベージュの地肌に覆われた生物。色合いは置いて、見た目だけなら爬虫類に分類されるだろう。だが、残念ながらこんな生物は現代地球においては存在しない。

 明らかに怒り心頭、といった面持ちの『それ』は口の端から微かに火の粉を散らし、翼を羽ばたかせて、そこにいるのだから。

 名前はコドラ。深い意味はない。見た目と名前から分かる通り、ドラゴンだ。神代の伝承を基に、私が一から作り上げた自己成長型ゴーレム。私が与えたのは『傍にいろ』という命令と、高い知性だけだ。一応、雌だ。

 そんな、かれこれ十数年の付き合いになるコドラは、憤慨しているようだった。

「どうしたんだ?いきなり」

「ご主人様は今!『何事もなかった』とかほざきやがりましたよね!?」

「実際、大したことはなかっただろう?」

「へー……そうですか。でしたら、唐突に異世界に飛ばされたと思ったら、最初に見た光景は何でしたか?」

 問い掛けの意味が分からないが、ほんの数分前の出来事を思い返す。

 …………、

「……風が気持ちよかったなー」

「そりゃそうですよね!!だって高高度ですもん!!そこから自由落下すればそれはもう嫌って程の風をその身に受けますよね!!」

 ちなみに高高度というのは簡単に言えば航空機の巡航高度と同程度だ。もう少し言うと、地球上でスカイダイビングを行う際の高度は一般的に四千メートル程度らしい。

「しかも!ご主人様!減速しましたか!!??」

 爬虫類らしい短い手を振って、私の背後へと向ける。

 そこはすり鉢状に窪地になっている。私の着地点だ。ちなみに天井が壊れたのもついさっきだ。

「どうだったかなー……」

 さすがにバツが悪い。気分が浮かれてしまって、速度を殺しきれなかった、とは言えまい。だって、コドラが半泣きだし。

「悪かったよ」

 余程怖かったらしいコドラの頭を撫でながら謝罪する。だが、一つだけ言わせてほしい。コドラの体は例え恐竜を絶滅させたクラスの隕石が衝突した際の衝撃波には確実に耐えられる構造だ。直撃しても大丈夫、とは保証できないが、少なくとも、自由落下ごときであれば、大気圏外から加速して地面に激突しても無傷だ。

 まあ恐怖心は体が頑丈かどうかは関係なく生ずるものなのだろう。 

 しばらく撫でてやると頭を冷やしたコドラは、静かに私の手から離れる。

 まだ若干怒っているようにも見えるが、そろそろ仕事してくれるのだろう。

「……では、改めまして」

 仕切り直しとばかりに言葉を区切る。

「こちらは一体何処なのでしょうか?」

「そんなん、決まってる。異世界ってやつだ」

「左様ですか。それに致しましては、大気組成も地質も重力加速度、その他諸々の情報を加味しても地球に酷似しておりますが?」

 コドラの本分はこう見えても、私の秘書の役割だ。断じて漫才の相方ではない。

 秘書としてはかなり優秀で、このように率先して情報収集を行っては提供してくれる。 手間が省けて大助かりだ。

 今回も、私が思ってもないことを平然と調査し、疑問を投げ掛けてくれた。私一人なら答えの正誤なんて関係ない。正しくないのなら、それが正しくなる条件を揃えてしまう。揃えてしまえる私に非を突き付ける人間は存在しなかった。そんな中、コドラだけはこうやって常識を語ってくれる。こいつが居なければ、かなり早い段階で地球ごと幕を下ろしてやろうかと考えてしまったはずだ。それくらいには地球の暮らしに鬱屈していた。

 コドラの疑問も最もだ。地球の物理法則やがこちらでも同様に働く、というのは些か疑問は沸く。

「地球に酷似……ねぇ……」

 そんなコドラの言葉を吟味する。理論的には生物が誕生・生存できる惑星は類似点が多くなるはずだ。無限に近い可能性の中で、その道を辿った星だけが生物を生み出すに足る資格を有するのだから。

 だが、それはあくまで『こちら』の話だ。異世界であるはずのこの世界で同じ物理法則が成り立つのだろうか。ただでさえ、同じ世界に存在する特異点と呼ばれるブラックホールの付近では、全ての物理法則が役に立たない、とされているのに、異なる世界で地球に酷似するのは些細ながら疑問の余地が残る。

「そもそもの話……――――」

「――――ご主人様!!!!」

 私が他の疑問点を提示する間際に、コドラが口を挟む。口調からかなりの大事だろう。多分、私が今感じた違和感の正体についてだ。

「膨大な量の魔力の増大を感知いたしました!!」

 へぇ……、と思わず感嘆の声が漏れる。その情報だけで、この世界に対する議論など後回しに出来る。

 通常、魔力というのは人間の五感では感知することは出来ない。それはどれだけ身体能力を向上させたところで不可能だ。なので一般的に魔力の感知には簡単な術式を用いる。それによって魔力量を初めて感知することが出来るのだ。だが、それにも例外はある。

 例えば、対象の魔力量が膨大である時。古くにはパワースポットと称されていた様な場所では、その土地に満ちる桁違いの魔力量を人の身でも感じ取ることが出来る。理屈の検証は行っていないが、魔力同士での感応現象が存在するのでは?、と私は睨んでいる。詳しいことは省くと、莫大な魔力を有する存在に近付くと、自らの持つ魔力に何らかの作用を及ぼし、それを人間は感知する、ということだ。

 ちなみに私がこれを検証しなかったのには訳がある。この現象は互いの魔力量の差が大きければ大きいほどに起きやすいようなのだ。自慢になるが、私の魔力量は半端じゃない。一度、可視化しようとしたとき、術式自体がエラーを起こしてしまったのだ。そのせいで、私は魔力の感応現象に関しては検証を見送っていたのだ。

 だが、異世界に来て、ようやく私を凌駕しうる存在が現れた。それが何であれ、この目で見てみないわけにはいかない。

「コドラ!」

「はい。現状より一時の方角、距離は三千、高度は現状を維持。安全な座標に転移出来ます」

 呼びかけの前には私の左肩に留まり、的確な指示を出す。

 私は右腕を横薙ぎに一閃する。右手に杖を掴む。

 直後、視界は暗転する。


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