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第3話 ~魔装国家イグニアス~ 5

私は人混みの中を、魔力の流れを意識的に見ながら出口を目指していた。勿論、意識しなくても肌で感じることになるのだけれど、それで進むのは難しい。一般人ならば皆出来るのだが、私達はそれを拒んでしまう。当然といえば当然で、意図的に均された魔力の流れに違和感を覚えて行動できなければ、騎士としてやっていけない。最早、職業病とでも言えるかもしれないもので、仕方なく見ながら歩くしかない。

 この無駄に広い……と言えば失礼に当たるのだろうが、正直そう言い表した方が分かりやすいほどの広さのイグニアス・セントラル駅、通称セントラルはホームの端から端まで歩くのに十分は掛かるという。乗り入れられる列車の数も凄まじく、イグニス方面からもそうだが。友好関係を結んでいる東のエタンセル公国からも多数の路線が組まれており、二十本程度の線路がこのセントラルに入っている。

 ホーム付近はまだ路線別で分かれているから良い。だが、各路線の乗客が入り乱れる合流地点だと苛烈さが増す。どれくらいかと言うと、魔法で整理が行われ、スムーズに流れているこの流れを何度も止めて移動をさせている程だ。

 ちょうど、その辺りに差し掛かったらしく、魔力の流れが一時停滞した。そこで、ふと思いだしたことを口にする。

「今のうちに、少し口裏を合わせておきましょうか」

 私は自分を信じて、フールを信じている。だが、それを他人に受け入れてもらう程、傲慢ではない。こじつけでも良いので、納得させる理由を作っておきたいので。その話をしようかと思っていたのだが……。

 ……少し待っても返事がない。聞こえなかっただろうか。今度は首も回して後ろを――――

「――――どうした?」

 意外と近くに顔があった。心臓が少しだけ跳ね上がる。一瞬、悲鳴にも似た叫びを上げそうにもなったが、寸前で留まる。

 一度深呼吸をして、動悸を収めつつ、よくよく見るとフールも若干肩が上下していた。彼も驚いた……訳では無いだろう。

「息上がってるけど大丈夫?」

「はぁ……ん、大丈夫だ。久しぶりに運動をしたせいだよ」

「久しぶり……ってあなた……」

 そういえば年齢を聞いていないが、見るからに二十代前半だ。髪が少々伸び放題になっているので運動が良くできる印象は持てないが、袖口から延びる両腕や体格を見る限り、極度に運動不足な様には見えない。そもそも旅をしてきて運動不足というのも変な話だ。やはりどこかに嘘を付いているのだろう。或いは全部が嘘か。

 ……とは思うが、不思議とその嘘に悪意が感じられない。だから、今は追及しない。

「まあいいわ。ちょっとこれからの話をしたいの」

 顔を正面に戻して、話を続ける。

「結局、あなたが何者なのかは良く分からない。だけど、私はあなたが悪人では無いことを信じるわ」

「そいつはどうも。どこでそこまでの信頼を勝ち得たのか全く知らないが」

「何?信じて欲しくないの?だったらここで大声で叫んだって良いのよ」

「『この人痴漢でーす』とかか?」

「その瞬間に、国の騎士団から追われるほどの大罪人に成り下がるわ。あなたがどれだけ強くても、十万の兵を相手に逃げられない」

「……この国では痴漢がそこまでの悪事なのな。気を付けますよ」

 下らない話をしていると、流れが遅々としてではあるが進み始めた。合わせて進みながら、話を続ける。

「とりあえず、私は信用した。そのまま放免しても良いのだけど、それは私の立場的に厳しい。だから一応私の上司にあなたを紹介して、悪人では無いことを示したいの」

「だから、とりあえず牢屋に入ってくれ、って?」

「ううん。そこまでしないでも良いわ。私と一緒に来て、話してもらうだけよ」

「なるほどね。私が言った内容の整合性が悪過ぎるから、もっとマシな嘘をでっちあげましょう、ってことか」

「あなた……さらりと『自分の話は嘘です』って自白したわね……」

何でこんな男が信用できるのだろうか。自分が不思議でならない。

「でも、まあそういうこと。そこで一つ、私から提案があるのだけれど?」


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