第3話 ~魔装国家イグニアス~ 4
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かれこれ二時間くらいでしょうか。ご主人様を乗せた列車は森の中を走っておりました。僕は偵察も兼ねてその上空を追随しておりました。
――――当初、ご主人様が謎の騎士に襲われているのは確認しておりました。ですが、ドラゴンが斬られたことにより、魔力の制限の無くなったご主人様ならどうにか出来る、と考えておりました。ですので、ご主人様が斬られ、運ばれているのを見て、パニックになってしまいました。
慌ててご主人様を助け出す手段を八十七通り程思案していると、突如通信が入りました。勿論、僕と通信が出来るのはご主人様だけですので、無事であることはそれだけで確認出来ました。
『――――コドラの小言が煩いからな』
通信を受け、話を聞こうとした矢先、いつも通りの軽口が飛んできました。正直、嬉しさが込み上げていました。ですが、この感情をご主人様に知られるとまた茶化されますので、努めて冷静に返答しました。それが、普段以上に冷淡になってしまった感は否めません。
『おぉ、怖いね』
二言目も軽口だと言うことは、事態は逼迫していない、ということなのでしょう。少々頭に来たのでシャットアウトしてしまいました。
その後は、時折列車の屋根にて休憩を取りながら、周辺の偵察を行っていました。
そして、列車が停止したのはこの駅でした。周辺の建物もそうですが、全体的にゴシック様式に通ずるものを感じます。この駅舎もゴシック調を主として取り入れられたようです。豪奢で壮大な建築ですし、人の量も凄いので中心部に位置するのでしょうか。残念ながら駅の名前は読むことが叶いませんでした。地球上のあらゆる言語は網羅していると自負しているので、やはり地球ではない『どこか』なのでしょう。
駅舎の中に列車が入り、停車しました。僕は目立たないように屋根から飛び立つと、ご主人様が出てくるのを待ちました。
人混みがごった返す中、少し待っていると出てきました。ご主人様です。なにやら見慣れないフードの方が先導していますが、あれはおそらくマリンさんでしょう。
まだマリアンさんと一緒にいるならば、合流するのは避けましょう。距離を保って追跡です。
一定の間隔を空けて上空から見下ろしていると、面白いです。凄い数の人で埋め尽くされているのに、渋滞は全く起こりません。人と人がぶつかりことも殆どありません。この駅舎全体の魔力の流れに規則性が生まれているので、その為でしょうか。魔力の流れで動きを抑制して、この流れを構成しているのであれば、少々ご主人様にあの人の数は大変でしょう。この世界の人々は魔力の感受性が高いのか、全員が流れに身を任せていますが、ご主人様に魔力の流れを感じることは出来ません。それに、どういう訳か魔力の流れはご主人様を迂回するように流れています。これでは人とぶつかることはないですが、魔法で魔力の流れを感知しても流れに乗ることは出来ません。徐々にですが、マリアンさんとの距離が離れてしまっています。なおも、普通に追いかけようとしますが、距離は開く一方です。
五十メートルは空いたでしょうか。さすがに不味い、と思ったのか、ご主人様の雰囲気が微妙に変化しました。『普通』に追いかけることは諦めたようです。
初めにぶつかりそうになった男性をゆっくりと躱しました。動きが明らかに変わりました。
無駄の削ぎ落された、徹底的なまでの合理的な所作。見る人が見れば、戦慄を覚えてしまうほどです。ご主人様は様々な武術も修めてきたので、それらの集大成でしょう。スーパーコンピューターを使ってパチンコの当たりを計算するくらいには下らない使用方法ですが。
一人目で動きを確認したのか、即座に走り出しました。補助無しで生身での疾走です。その動きは、いっそ気味が悪いほど滑らかでした。
ただ走っているだけにしか見えません。無理も無駄もないご主人様の動きは、人混みにいるにも関わらず、それを感じさせない走りでした。目の前にそういう道が敷設されているのか、と思うほどです。
さすがに真っ直ぐ一直線に進むことは出来ずに、蛇行しながら進んでいますが、これならすぐに合流できるでしょう。僕は一応離されないように、その後姿を追随します。




