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第3話 ~魔装国家イグニアス~ 3

3

「イグニアスへと到着しました」

 先ほどの兵士が扉を開けて、そう報告した。報告中に耳を澄ましてみれば、人々の喧騒が微かに届いた。

何事もなくイグニアスへと到着した。……本当に何もなかった。私が障害認定しなかったとかそういう問題ではなく、ただただ居辛い雰囲気の中で、質問を投げ掛けることで時間を潰すくらいには、何もなかった。

例えば、あの部屋には内外の魔力の行き来を遮断する効力があることや、この部屋自体が現在移動中の列車の一両であることなどなど。

一応、こちらの質問に関して的確に答えてはくれたのだが、如何せん反応がめんどくさかった。


『なぁ、この部屋って――――

『わぁっーー!!って、な、ななななンデスカ?』


『どうやって移動して―――――

『え……ーっと、でででですね。それはね』


一つの質問に対しての返答に必要以上に時間を要した。というか、こいつ……免疫無さすぎるだろうに。と考えながら、マリアンを見る。

改めて見ると、やはり美人だ。目鼻立ちはくっきりしているし、後ろで纏めた長い髪も何らかの理由で染められてはいるが、なお流麗。

そしてその瞳。天色の瞳は、揺ぎ無く真っすぐで、邪気を見つけられない。人を疑うことを知らない、というのは彼女のことを言うのかもしれない。

 彼女は有能とは言えない。むしろ無邪気に性善説を唱え、要らぬやっかみを受けることの方が遥かに多いだろう。だが、そんな彼女だからこそ手助けしたい、と考える人間も一定数以上は発生する。私もその中の一人なのだろう。

「――――では、私達も降りましょうか」

 深く息を吐くと、気持ちを切り替えたのか平坦に告げる。いや……努めてそうしているだけで、顔は未だに紅潮している。

 マリアンはさっさと立ち上がると、扉に向かう。すると、扉がひとりでに開く。外側から騎士が開けたようだ。マリアンが礼を言いながら外に出ていく。私も遅れながら、席を立つ。

 マリアンを追いかけるように扉を出ると、左右に立つ騎士二人に凄い形相で睨まれた。

 が、そこは大人な対応ということで、華麗にスルー。

 客席と思われる車両の先に彼女の後姿を見つける。窓が全て鋼鉄製と思しき板で塞がれているので、どんな客が乗るのかは見当しないことにする。

 怪しげな客席を抜けると、今度は普通の客席に出る。前方には何やらフードを被ったマリアンが伏目がちでこちらを見ている。

「そういう風習でもあるのか?」

 宗教的に髪や顔を隠して露出を減らす、というのは地球ではあり得た。だから、そういうのがあるのか、と質問したのだが。

「気にしないでください!!あなたには関係の無いことです!!」

 食い気味に回答を拒否された。

 顔を背けられ、無言で歩き出したのは私のせいでないことを願いたい。

 仕方なくその後ろに続いて、車両から出る。

 不意に明るくなった視界に目が眩む。同時に、遠くに聞こえた喧騒がぐっと近くなる。

 徐々に慣れて、視界が戻ると、圧倒された。

 人の量が尋常では無かった。大量の人々が右へ左へと流れている。煩雑としているようで、その実は規則性が見いだせる。そのおかげで、人々はぶつかったり渋滞したりせずに流れているのだろう。だが、その恩恵は私には無関係の様だ。

「人払いの応用か……」

「流石ね。その通りよ」

 呟いた言葉に、振り返って律義に反応してくれたマリアン。だがそうやって歩いても人とぶつかることはない。

 人払い、というのは魔法の基礎技術の一つだ。人払いは直接的に他社の精神に干渉せずに、行動に制限を掛けるものだ。これを基礎理技術とするのは、魔力の流れを制御することで可能だからだ。

 詳しいことは省くが、簡単に言えば流れに方向を生み出すのだ。無秩序に溢れる魔力に流れを作ってやることで、それに沿って人々は自然と流れていく。

 だが、これはあくまで基本的な技術であって実戦――――魔法使い同士の戦闘では大抵役に立たない。強引に精神に干渉するわけではないので、強制力が極めて弱いのだ。加えて

、私の場合だと術式無しでの魔力感知は基本的に出来ないので、私に感じられるほどの魔力が流れていないと人払いには掛からない。よって、ぶつからない恩恵は得られない。

 すいすいと進んでいくマリアンに対して、私は食らいつく様に追いかける。

だが、離される。彼女にそんな気はないだろうが、向こうはただの歩行で、こちらは障害物競争だ。着実に距離が開く。

「このままだと不味いな……」

 そろそろ、マリアンの姿が人波に消えそうだ。別にはぐれたところで問題があるわけではないが、手間が嵩むのは避けたい。

 久しくやっていなかったが……やってみるか。人混みを歩きながらだと私には少々厳しいが、やれるだけはやる。

 目を閉じ、呼吸を整える。ただそれだけの行動。言うなれば、ルーティーンのようなものだ。出来るだけ時間を掛ける方が集中できるのだが、そうも言っていられない。

 ルーティーンとしての型を終えると、即座に目を開く。眼前を本に目を落として歩く男性が、私にぶつかる所だった。

 それを背後に歩く人に迷惑にならぬように、緩やかに躱す。うん、この調子なら行けそうだ。

 迫りくる壁、濁流の様な人混みの奥。既に五十メートル程は離れてしまったようだ。時折、垣間見えるマリアンのフードだけが頼りだ。

 私には魔力の流れなんて感じない。だが、それに沿う人の流れは見て取れる。あとは、無数の人々の間を縫うように進めばいい。

――――ただし、通行人の歩行を邪魔せず、その体に触れることなく。

 昔はこういうことやったなー、と武芸を嗜んでいた頃を思い出しながら、口ずさむ。

「……よーい、ドン!」


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