第3話 ~魔装国家イグニアス~ 2
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魔装国家。
この国はそう呼ばれているよ。正式にはイグニアス王国だけど。
何故かって?そりゃ、魔装の力で成り上がってるからよ。えっ?魔装?
あなたの住んでた所には無いの?そうそう。魔力を流すだけで魔法が使える代物、って考えは大まかに当たっているわ。
他の国にだって魔装は流通している。ちょっと高級品だけど、買えないことはない程度にはね。
種類も様々だけど、一般的には日常使用を考えられた代物でしょ?竈用の火を起こしたり、夜に明かりを灯したり。魔力を流すだけで良いんだから、便利よね。
けど、私たちのは違う。その魔装を武器に出来ないかと、考えた。元々、勇者様の装備を有していたこともあって、研究は困難もあったみたいだけど、進んだの。
……で、完成させた。まだ試用段階だけれど、国はそれを周辺国に誇示した。さすがに戦争を吹っ掛けることは無かったけど、様々な国に赴いては、その性能を披露した。あくまで抑止力である、と国は標榜した。
そんな脅迫めいた事をやって、魔装国家なんて呼ばれているの。
魔装は簡単に作れるのか?簡単では無いけど、ある程度学べば、それなりには作れるみたいね。まあ、元々喪われた技術だから、あくまで模倣品しか作れないけどね。
えっ?魔装の原点も知らないの?あなたは本当に魔法使い?まあ、先ほどの戦闘からしたら、疑いようはないけど。
魔装に、作り方を綴った文書なんかはない。古くに途絶えた技術みたいなの。途絶えた理由は推測されてるけど、私は専門家じゃないから省くわね。
今出回っている魔装の多くは模倣品。研究に研究を重ねて、オリジナルを模倣して、同じように動作するものを作り上げただけ。大抵はそれでオリジナル同様動作するけど、そうでないものがある。
勇者様の装備もだけれど、それらは『聖遺物』と呼ばれていて、滅多にお目にかかれないわよ。
こんなところで良いかな?
「――――こんなところで良いかな?」
なるほどね……。マリアンの説明にちょくちょく質問を挟みながら、思案は巡らせてみるが、まだまだ情報が少ない。やはり、常識にはかなりの乖離があるようだ、くらいしか分からない。
しかし、これ以上の概念的情報は得られないかもな。一介の騎士がそれを知っているとは思えない。当面の目標は、この世界の魔法理論を知る所からかな。
「ああ、ありがとう。……それにしても、警戒体制が物々しくないか?主に私の扱いが」
「そりゃあそうよ。近頃、魔族の活動が活発になっているからね。それで勇者様も召喚されたんだし」
勇者はやはり、召喚されたらしい。ということは、私が降り立った場所からだろうか。それに関係するとされる魔族については全く当たりがつかない。さっきのドラゴンといったものだろうか。
「……フール。君は今何か考えてるみたいだけど、君には重大な容疑が掛かっているよ?」
この話の流れでの、私への容疑。おそらく、それが彼女の話したかった事だろう。よもや詰問か、などと顔を露骨にしかめる。
「そんなに嫌そうな顔をするな。私はただ事情が知りたいだけ」
そう告げるマリアンの瞳は、こちらを憂いているようだった。何か重大な誤解を受けている気がする。
だが、それが何なのかはっきりしないまま、言葉は続けられた。
「フール……君は魔人だな?」
――――魔人。
それは端的に言うと、魔力を持つ人型の魔物。人間の姿をし、人間の言葉を操り、人間の様に振る舞う魔物だ。
私たち人間は、魔力を有していない。だから、私たちはその空間に存在する魔力を使って、魔法や魔装を行使する。それが無ければ、人間は無力だ。
何らかの理由で大気中の魔力が枯渇してしまえば、その神秘の力を振るうことは出来ない。それは、他の生物にも該当され、魔力を持つ生物は存在しない。
だが、魔族は違う。ゴブリンやオーク、上位で言うならドラゴンなどだが、それらは魔力を有している。というより、身体を構成するのが魔力なのだ。
だから、通常の法則には当てはまらない。どれだけの巨体であっても自由自在に空を飛び回り、体内から炎だって吐く。
私たちは魔法という『神秘の探求者』だが、魔力を有する存在は『神秘』そのものなのだ。
……だが、『神秘』そのものであったとしても、それが崇拝に至るとは限らない。
大抵の魔族に知性はないとされている。『知性というのは世代を重ねる毎に高まっていく。親から子へと引き継いでいくように。だが、無から生まれる魔族は、その引き継ぐ親が存在しないため、知性を獲得できない』、というのが通説である。
知性はない魔族だが、本能的に破壊衝動を持っているらしく、頻繁に村の家畜や人間を襲うのだ。
しかも、恐ろしく強い。最低とされるゴブリンは小児程度の身長で、膂力は成人男性の三倍はある。
見境無く人を襲い、それも一般人には敵わないとなれば、恐怖の対象としか成り得ないだろう。
それは、魔人―――魔力を有した人間とでも形容すべき彼らが警戒・畏怖される理由だ。
魔族であるにも関わらず、知性を有し、周囲の魔力に依存することなく魔法や魔装を振るうことが出来る彼らを人間は恐怖し、迫害し、処刑した――――
というのが、マリアンの語った魔族迫害の歴史だ。魔族、というカテゴリーが存在するというのだけでも収穫があった。
魔力を有した生物――――魔族。
確かに、この世界の人間には魔力が存在しないことは、マリアン含む彼女の部下や見張りの騎士で判明していた。
恐らく、魔力を持つ人間はごく少数なのだろう。人間はマイノリティにはとことん強気で、それは時に過激になる。それが、自分よりも強大になる存在であれば、恐怖心がそれを加速させる。
人間の当然の本能とも言えるものだ。漠然と『差別は止めよう』などと言って、懇切丁寧に説明しても、拭い去るのは困難だ。
……とか考えているが、実質の問題はそこまで壮大に考えるものではない。
「私が魔族……だって?」
単純明快だ。
私は魔力を有している。この世界の物差しで私を表現するならば、『魔族』とされてしまう。私を他人がどう表現するかなど、些細な事なのだが、不本意に悪名を得たいとは思っていない。
「待ってくれ。私が魔力を持っている、という根拠は何だ?」
「君は、ドラゴンとの戦闘時に、あの場で魔法を行使できた。それだけで十分、確定してるんだ」
「どういうことだ?」
「あの付近はドラゴンの出現によって、大気中の魔力が枯渇していた。そんな場所では私たちには魔法を行使できない。だが、君はできた。……その意味が分かるか?」
使えない筈の場所で魔法を使った。なるほど、かなり強い証拠だ。
何かしら弁明した方が良いか……、
「君は魔力を持っている魔族。本来なら存在だけで極刑に値する。現状だと特に、な。私は自国の民の為なら、無抵抗だろうと容赦なく裁く。だけど、それは法だから、じゃない。あくまで、私の中の正義です」
「つまり、あんたは私を即座に殺すことはない、と?」
頷くマリアン。
……思ったより日和っている。が、そういうのは嫌いじゃあない。
「ええ……。君たちは恐れられる存在。無差別に破壊を撒き散らす害悪。そう言われているのに、君は私を助けた。その真意が知りたい」
私が魔族なのは確定事項のようだ。定義上は間違っていないのだから糺すに糺せない。
私の真意……か。
「理由なんてないな。あの場に居たのがあんただから助けただけだ」
彼女の、あの瞳が無ければその気にはならなかった。彼女の信念が私を助けさせた。――――その姿は、壮大に我が儘を突き通すアイツに重なった。
「……はぁ」
盛大に息を吐き、去来した感情を振りほどくように二度三度と首を振る。
柄にもないな、と髪を掻き上げる。
と、そこで気付く。マリアンの異常に。
正面に座るマリアンは顔を背け、床を見詰めている。そして、両手で顔を覆って、その体は小刻みに振動している?
顔を背け覆っているため表情は読めない。だが背けているおかげで真っ赤に染まる耳が目に入る。
…………ああ、そういうことか。盛大に勘違いしているようだ。いや、あながち間違ってもいないのだから、弁解しようもない。
――――何十年と生きてきたが、中々に居辛い数十分を堪能した。




