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客人陰キャの朝ごはん with 王女様

 運ばれてきた朝食も、桃太郎にとってはかなりのご馳走だった。大きく分ければ、サンドイッチとスープとサラダの三つなのだが、サンドイッチの種類が半端無かった。卵やハムレタス、ポテトサラダは勿論、トンカツや唐揚げ等の肉系から、みかんやブルーベリー等のフルーツを生クリームと一緒に挟んだデザート系まで、幅広く用意されている。スープは黄色なので、恐らくコーン系だろう。サラダに関しては、シャキシャキレタスとトマトが和風ドレッシングを浴びて、キラキラと輝いている。

 一方メタリー達の朝食は、昨日と同じでフルーツの盛り合わせ。見た感じ、盛られているフルーツに若干の違いはあるが、大きく変わっている訳では無い。それでも彼ら(特にゴキブリとフンコロガシ)にとってはご馳走に変わりないので、文句を言わずにガツガツと一心不乱に食べている。

 ここで朝食がテーブルに一通り揃ったのを確認したチュラは、

 「じゃあ、朝食も並んだ事だし、さっそく話をしようじゃないか。」

 と、両手を広げて、向かい側に座っている桃太郎に言った。そんな彼女に対し、

 「食べながら話すのは、王族的にもマナーが悪いのでは?」

 と、指摘する桃太郎。確かに食べ物を食べながら話すのは、あまり行儀が良いとは思えない。それに口から飛んだ食べカスとか、喋っている最中にチラッと見える口の中の咀嚼中の食べ物は、見ていて気持ちの良いものでもない。下手したら、美味しい料理なのに、途中で吐き気を(もよお)してしまう可能性だってある。それでは、この料理を作ってくれたシェフ達に申し訳が無い。

 桃太郎の小姑(こじゅうと)の様な一言に、チュラは『ハハハ』と笑いながら返した。

 「硬いなぁ。今はマナーとか、そんな礼儀正しいのを求める場じゃあないんだから、そこはもっと柔らかくいこうよ。でないと精神が一向に休まらず、(しま)いにはストレスで胃に穴が空くよ?」

 地味に怖い事を言う王女様。しかも、妙に現実味がある。彼女はその立場上、こうやって『何も気にせずに気が休める時間』というのが人一倍必要なのだろう。それはそれで、『だったら自分の部屋で朝食を摂れよ』って事になるが、そこはツッコんではいけない。桃太郎は、チュラの言葉にこう返した。

 「別に俺は、マナーがどうこう五月蠅く言うつもりは無い。ただ小さい頃から、口から食べカスが出る瞬間を目にするのが嫌なだけだ。」

 「ああ・・・成程。」

 桃太郎の言葉に、頭を頷かせて同意するチュラ。続けてこう言った。

 「それなら安心してよ。僕は口の中に物を入れたまま、喋らないからさ。」

 そう言うとチュラは、適当にサンドイッチを手に取り、ひょいっと口の中に放り込んだ。そしてもぐもぐしながら、『ほらね?』と言いたげに自身の顔に指を指した。『食べている最中は、喋らないから大丈夫』とでも言いたいのだろうか。あまりのドヤ顔に、桃太郎は『もういい』と右手を前に出した。

 「分かった、分かりました。何を話すのかは分かりませんが、話しましょう。」

 観念した様子で言った桃太郎に、チュラはニヤッと笑って、口の中のサンドイッチを飲み込んだ。

 「・・・じゃあ、さっそく・・・君が元いた世界について聞きたいんだけど・・・」

 チャチャッと、メモ帳とペンを取り出すチュラ。どうやら彼女は、桃太郎が生まれた世界に興味を持っているようだ。勿論桃太郎は、自分のいた世界がどういう所か知っているので、

 「元いた世界?・・・そんなの聞いて、どうするんだ?あんな世界、この世界に比べたら面白みも糞も無いぞ。」

 と、言って、『聞かない方が良い』と遠回しに言った。しかし、それでもチュラは聞くのを止めなかった。

 「別に面白く無くても良いよ。僕は『異世界』というものに興味があるんだ。今まではファンタジー小説とか、都市伝説の話だったけど、君のおかげで『異世界』というものが本当にあるんだって分かったしね。この機会を逃したら、もう二度と異世界の話が聞けないかもしれない。」

 セリフを聞く限り、彼女の異世界に対する好奇心は相当なものだった。確かに都市伝説とかは、見ていてワクワクするものばかりである。桃太郎もテレビでそういう特集をやっていたら、つい見てしまうタイプだったので、彼女の気持ちが分からないわけではない。

 「・・・あんたがどういう本を読んだのかは知らないが、俺の元いた世界にファンタジーな物を期待しない方が良い。夢も糞もねえからな。いや、糞はあるな。色んな意味で。・・・とりあえず、『真面目な者が馬鹿を見る世界』だと言っておこう。王女様なら、これだけで何となく察せる筈だ。」

 その言葉に、チュラはうっと黙り込む。どうやら、桃太郎のいた世界がどんな所か、察せられたらしい。しかし、さすがに全部が全部そうとは限らないので、彼女は恐る恐る彼に尋ねた。

 「・・・でも、さすがに少しは報われるようにはなってるでしょ・・・?」

 彼女の問いかけに、桃太郎は首を傾げた。

 「さあ?どうだか・・・少なくとも俺の親父が勤めている会社は、そういう所みたいだぜ。『仕事を真面目にこなしていないにも関わらず、口先だけのおべっかが上手いだけで自分より上になった奴がいる』って、前に親父が愚痴ってるのを聞いた事があるしな。普段愚痴らない親父がそう愚痴ったんだから、よっぽど納得がいかなかったんだろうなあ。」

 桃太郎はまだ学生なので、『社会の闇』というものがハッキリと分かっている訳では無い。しかし、自分の周りの社会人を見ていると、『そういうもの』だと何となく分かってしまうのだろう。

 こうして朝の爽やかな空気が一転して、どんよりとした重たい空気になってしまった。さっきまでキラキラ輝いていた朝食までもが、空気に応じて変色しているように見える。これではどんなに美味しい食べ物でも、不味(まず)く感じてしまう。『食事中に愚痴ってはいけない』と言われた事があるが、こういう事にならない為かと桃太郎は身を()って知った。

 「・・・あ、そうだ。」

 ここで彼は、唐突にある事を聞いた。

 「昨日王様が言っていた『書庫』って、城のどこにあるんだ?」

 本来なら王女様であるチュラに聞く事ではないが、彼なりにこの重くなった空気を払拭しようと気を遣っているのだ。だったらもっと他に言う事があるだろと思うかもしれないが、陰キャの桃太郎にはこれが精一杯だった。

 「『書庫』なら、ここを出て右に行って・・・って、何で『書庫』に?」

 唐突に尋ねられながらも、冷静に『書庫』への行き方を腕を使って桃太郎に教えるチュラ。その途中で、何で『書庫』に行きたいのか聞くと、彼は頭に手をやりながら答えた。

 「いや、ちょっと調べたい事があって・・・」

 何を調べる気なのだろう。チュラはそう言いたげに首を傾げ、手元にあったレモンティーが注がれたティーカップを口に運んだ。



 朝食が済んだ桃太郎達は、チュラの案内によって『書庫』の目の前まで来ていた。その場所は、正殿からも客室からも離れた所にあり、この部屋の周辺だけ人の気配が全く感じられない。チュラによると、ここら辺の部屋は用がある時以外はそこまで頻繁に使用しないとのこと。一応、定期的に従者たちが掃除をしてくれているので、寂しい雰囲気はあれど、清潔に保たれている。

 「ここが父上の言っていた『書庫』だよ。何を調べるのかは知らないけど、沢山本や資料があるから、きっと満足いくまで調べられると思う。・・・あ、念の為に言っておくと、ラノベとかそういうのは無いからね。」

 最後にどうでもいい情報を付け加えるチュラ。陰キャだから、そういう本を探していると思ったのだろうか。確かに元の世界にいた頃の桃太郎は、よく暇潰しにラノベを読んだりしていたが、今の彼にそれらの本は眼中に無かった。

 「あったとしても、どのみちそんな物に用は無い。今の俺は、『ラピス』について詳しく書かれた本を求めているからな。」

 この発言によって、チュラは彼が書庫で何を調べようとしているのか、ようやく理解した。

 「あ~・・・でも、さすがに場所までは詳しく載ってないと思うよ?それに例え載っていたとしても、ナンバショット領内じゃあ父上の許可は確実にいるし・・・今の世の中、ああいう貴重な石を自由に採らせてくれる所なんて無いと思うけど・・・」

 「いやいや、ラピスがどこにあるかを調べるんじゃあなくて、ラピスがどういう物なのかを調べるんだよ。」

 チュラのセリフに対し、右手を『違う違う』と振りながら、調べる内容を言う桃太郎。すると、

 「な・・・何だってぇ!?」

 何故か右肩に乗っていたメタリーが驚きの声を上げた。何分(なにぶん)、肩と耳の距離は近いので、桃太郎は右耳の鼓膜がキーンとなった。

 「何だよ、五月蠅いな。」

 右耳を右手で押さえながら、ギロリとメタリーを睨み付ける桃太郎。彼と目が合ったメタリーは、どんと胸を張って言った。

 「ラピスに関する事なら、このボクに聞けば良いじゃあないですか。かーかーかー!!」

 「お前、パワーアップに関しては全く分からなかったじゃあねえかよ。」

 「うっ・・・」

 痛いところを突かれて、ピシッと石のように固まるメタリー。その固まりようといったら、ゴキブリとフンコロガシが近寄って、体を揺さぶったりしても反応が無い程。誰が見ても分かる。彼は言葉に詰まったのだ。

 「(パワーアップ・・・?)」

 二人のやり取りを聞いていたチュラは、少し首を傾げながら、書庫の扉を開けた。

 「さあ、中へどうぞ。ラピスに関する資料なら、部屋の奥にある本棚にあるよ。」

 部屋の奥を指さして、大体どの辺かを教えるチュラに桃太郎は、

 「ああ、どうも有り難う。」

 と、一言お礼を言って、書庫に足を踏み入れた。




 「・・・以上が、ナンバショットの『神秘の蒼窟』にて起こった出来事です。申し訳ございませんでした。」

 そう言うと、テラワロスは土下座をして目の前の男に謝罪した。ここは昼夜問わず薄暗い謎の王の城。彼の目の前にいる男は、勿論謎の王その人である。ついでに言っておくと、テラワロスの右斜め後ろには、彼の上司である駒田が立っている。

 彼のしくじり報告を聞いた謎の王は、大きな溜息を吐いて言った。

 「ただの一般人にやられるとは・・・『精鋭部隊』が聞いて呆れるな、テラワロス。」

 その言葉が口から出ると同時に、ただでさえ重苦しかった空気が更に重くなってテラワロスにのしかかる。何という圧倒的威圧感!!最早これだけで、その辺を自由に飛んでいる小鳥をもれなく地面に叩き付けられそうだ。それ位、この威圧には重みがあるッ!!土下座中のテラワロスは、上からプレス機で押し潰されそうな感覚を味わいながらも、必死に口を開いた。

 「は・・・はい。それに関しては返す言葉もなく、草も生えません。・・・・・・と、ところで王様・・・つかぬ事をお伺いしますが・・・」

 「・・・何だ?」

 その時、一瞬だけ空気が軽くなったような感じがし、テラワロスは顔を上げて気になった事を尋ねた。

 「その後、異世界人を始末しに行った者から、何か報告はありましたか?」

 なんとテラワロスは、自分の仕事もろくにこなせなかった癖に、異世界人の始末がどうなったのか聞いて来たのだ。そんな彼に対し、謎の王は面倒臭そうな・・・呆れたような表情で答えた。

 「何を藪から棒に・・・お前の仕事は異世界人の始末じゃあなくて、蒼水晶の回収だ。報告があろうが無かろうが、お前には何の関係も無い筈だが?」

 『フン』と、鼻で笑いながら右手で頬杖をつく謎の王。しかし次の瞬間、テラワロスの口から思わぬ言葉が飛び出してきた。

 「いやそれがですね、その一般人の中に・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がいたんですよ。メタリックな亀とセットで。」

 彼のセリフを聞いた途端、今まで呆れたような表情をしていた謎の王の目の色が変わった。それは誰の目から見ても明らかな変化で、テラワロスの近くに立っている駒田も動揺しているように見える。

 「始めはこの機械が異世界人だと反応しなかったんで、『他人の空似』だと思ったんですが・・・・・・そいつ、何を思ったのか突然洞窟の壁を舐め始め、体が蒼白く光ったんですよ。今にして思えば、機械が反応しなかったからとはいえ、本当に『他人の空似の一般人』だったのかどうか・・・」

 彼の話を聞けば聞くほど、謎の王の表情がどんどん険しいものになっていく。彼の脳内に『嫌な予感』がよぎったからだ。それだけではない。テラワロスの話の中には、ある事に対する『疑惑』が『確信』へと変わる()()()()()が存在していた。それを聞いたからには、これ以上この一件に時間を取ってはいられないと判断したのか、

 「もういい充分だ。お前の処分は、全て駒田司令に委ねる。下がれ。」

 と、駒田にテラワロスの処分を任せて、二人を退室させた。悪いように言えば、駒田に全部投げたのである。

 そのあまりにもあっさりとした終わり方は、どういう処分が下されるのか心臓を無駄に動かして待っていたテラワロスを拍子抜けさせた。最初のあの圧倒的威圧感は一体何だったのか。緊張の糸が切れたテラワロスは、少しの間足腰に力が入らず、草も生えなかった。

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