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受け身は大事

 「う・・・うぅん・・・」

 桃太郎とメタリーがテラワロスと交戦している最中(さなか)、『後で首を斬る』と、その辺に投げられていた細い奴が意識を取り戻した。そして、ゆっくりと体を起こし、辺りを見渡した。今の顔を見る限り、何で自分がここで寝ていたのか、全く覚えていないようだ。恐らく、テラワロスの攻撃を受けた衝撃で、意識を失う前の記憶が飛んでしまったのだろう。

 「何でこんな所で・・・いっ!!」

 急に体の至る所が痛くなり、顔をしかめる細い奴。何でこんなにあちこちが痛むのだろうと思っていた矢先、

 「うげぇッ!!」

 と、いう悲鳴が後ろから聞こえて来た。

 「(な・・・何!?)」

 細い奴はゆっくりと、声のした方向に体ごと向けた。視線の先には、へらへら笑っている男と陰キャの男がいた。陰キャの男は、へらへらしている男にやられたのか、ぶっ倒れている。

 「テララララ・・・やはり、所詮は陰キャ。草生やすまでも無かったな。」

 陰キャを嘲笑うへらへら男。彼の顔を見た瞬間、細い奴は飛んでいた記憶が次々と蘇ってきた。

 「あっ!!そうだ僕・・・あの男に職質をして、ボコられたんだった!!」



 それは(さかのぼ)る事、数十分前。洞窟の奥で音がしたので、目の前の桃太郎以外に誰かいると感じた細い奴は、彼の職質を一旦中断して洞窟の奥に行った。すると案の定、奥にはテラワロスがいた。桃太郎よりも怪しい人物と、見た目で判断した細い奴は、すぐに桃太郎の時と同様に職質をかけた。

 しかし、テラワロスは細い奴の職質に全く応じなかった。それどころか、

 「クックックッ・・・・・・ククク・・・」

 と、急に笑い出した。面白い事は何一つ言ってないし、起こってもいないにも関わらずだ。彼は笑いながら、細い奴の質問を無視して、こう独り言を呟いた。

 「クヒヒ・・・あ~駄目だ。今日の自分があまりにもツイてなさ過ぎて・・・もう笑うしかねえ・・・ヒヒヒ・・・」

 自身の運の無さを笑いながら嘆くテラワロス。そして視線を細い奴に向けた瞬間、彼の顔から笑みが消え、『無』の表情になった。勿論、それは一般的なただの無表情ではない。ヒットマンが標的に全神経を集中させている時のような、無慈悲で残忍な面を『無』で隠しているような顔だ。

 「でもよく言うよなあ~?『笑う(かど)には福来(ふくきた)る』って・・・ここまでツイてないのなら、逆に笑って幸運を引き寄せるしかねえよな~・・・」

 セリフを言い終えると同時に、にやりと口角を大きく上げるテラワロス。その笑みは何を企んでいるのか分からない、底知れぬ不気味さがあった。細い奴は彼のその表情を見て、ここは一旦退いた方が良いと思ったが、もう遅かった。

 「!? 何これ・・・」

 足に違和感を感じた細い奴は、自分の足元を見て驚愕した。なんと、さっきまで雑草すら生えていなかった洞窟の地面が、テラワロスを中心に芝やら雑草やらで埋め尽くされていたのだ。それだけではない。いつの間にか細い奴の靴が雑草で結ばれて、その場に縛られた状態になっている。無理矢理引き千切ろうともがくも、雑草の強度が高くて無理だった。こうなると、素手で結び目を(ほど)くしかない。

 「くっ・・・いつの間に草で僕の靴を・・・・・・ハッ!!」

 ここで、テラワロスの強烈な一撃が細い奴のお腹に命中する。自分の靴を縛っている雑草に気を取られていたせいで、テラワロスの接近に直前まで気が付かなかったのだ。こうして、細い奴はあっけなく意識を失う事になった。



 そして、現在。前後の記憶と意識を取り戻した細い奴は、どうすべきか悩んでいた。脳内にある選択肢は、『戦う』か、『逃げるか』の二つ。出入り口はテラワロスが能力で塞いでいるので、ここは『戦う』の一択しかないのだが、さっきまで気を失っていた細い奴はその事を全く知らない。出入り口が塞がれていない事を前提として考えると、大体の人間は『逃げる』を選択するだろう。今ならまだ、意識が戻ったと誰にも気付かれていないので、どさくさに紛れて抜け出す事が可能だ。しかしこいつは、『逃げたくなる気持ち』を心の中で抑え込み、『戦う』という選択肢を自らの意志で選んだ。

 「(『逃げる』なんて事はしない・・・ここで逃げてしまったら、父上に顔向けが出来なくなる。それにこれから先、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この程度で逃げ出すようでは、絶対に務まらない!!)」

 覚悟を決めた顔で決心する細い奴。しかし、覚悟を決めたのは良いが、どうやって戦うか考えていなかった。そのまま突っ込んで行っても、返り討ちに遭うのは目に見えている。それに体を動かす度にズキズキと痛みが生じているので、そこも考慮して作戦を練らないといけない。選択肢は決まっても、作戦が決まらない・・・いや、思いつかない状況に、細い奴は何もする事が出来なかった。

 そうこうしてる間にも、テラワロスは桃太郎にトドメを刺そうと近づいている。一方桃太郎は、投げ飛ばされた衝撃で体が痺れ、すぐに動く事は出来ない。正に絶体絶命の大ピンチである。今の体では、デコピンですら避ける事は難しそうだ。

 「(くそぅ・・・あとほんの数分時間があれば、この痺れも引いていくんだろうが・・・さすがにそこまで待ってくれる程、甘くはねえよな。)」

 桃太郎は柔道とかをやっていないので、投げられ慣れていない。元の世界にいた時に体育の授業でやった事はあるが、そういえばあの時も投げられた時には、頭がクラクラしていた。彼の受け身に問題があるのだろうか。テラワロスは、必死に体を動かそうとしている桃太郎を見下げながら言った。

 「ハハ、悪く思うなよ陰キャ。お前は『始末対象の陰キャ』じゃあねえが、死んでもらうぜ。その場にいた人間を生かした結果、大事(おおごと)になってしまうっつー展開は御免だからよ。」

 そのセリフを聞いた桃太郎は、まだテラワロスに自分が異世界人だと気付かれていないという事が分かった。・・・まあ、それが分かったからといって、この状況が変わるなんて事にはならないのだが。

 「(やっぱ、俺の正体に気付いていないクチか。ッつー事は、本来戦わなくていいものを、ここに来てしまったが為に戦わざるを得なくなった・・・ってパターンだな、こりゃあ。あ~あ、間の悪い時に来ちまったもんだなあ~。)」

 桃太郎はこの時、『明日案内して貰えば良かった』と、後悔した。しかし、明日だろうが明後日(あさって)だろうが、恐らく戦いはあっただろう。何故なら、テラワロスはラピスの回収作業を毎日行う予定だったからだ。目に見える物だけでも、かなりの量のラピスが埋まっているし、垂れ下がっている。確かにこれを一日で回収するのは不可能なので、毎日作業を行う必要がある。そう考えると、遅かれ早かれ、桃太郎とテラワロスはどのみち戦う運命だったのだ。

 「死ねぃッ!!」

 もう既に勝った気でいるテラワロスの手刀が、桃太郎の首にギロチンのように落ちてくる。いつもの桃太郎なら、横に転がって緊急回避をするのだが、今は体が痺れているせいでうまく転がれない。これにより、『死』という生物の終着点を悟った桃太郎の脳内は、自動的に『走馬燈』をダウンロードし始めた。10%、20%、30%・・・どんどんダウンロードが進む中、90%から中々100%にならない。(しま)いには、『通信エラー』が出る始末。やはり洞窟内だから、回線が悪いのだろうか。いや、通信エラーになった理由は、それだけではないようだ。

 「やめろ!!」

 ここで細い奴が叫び声を上げる。その声にテラワロスは動きを止め、くるっと奴の方を見た。成程、思わぬ助け舟によって、彼の攻撃が止まり、トドメを刺されなくなったからか。

 テラワロスは細い奴の顔を見るや否や、

 「チッ、もう目が覚めたのか・・・そのまま眠っておけばいいものを。」

 と、面倒臭そうな顔でそう呟いた。そして、転がっている桃太郎をそのままにして、細い奴に向かって歩き出した。標的を動けなくなった陰キャから、動けるようになった現地住民に切り変えたのだ。こうして桃太郎は、細い奴のおかげでなんとか痺れが引くまでの時間を稼ぐ事が出来た。後は痺れが引くのを待ちながら、もう一度作戦を練るだけだ。




 一方その頃、『神秘の蒼窟』に続く道をフンコロガシとゴキブリが物凄い速さで、泥団子のような球体を一匹一つずつ運動会の大玉転がしをするように転がしていた。球体のサイズは、大人の男の拳二つ分位。重さにもよるが、桃太郎くらいの歳の人間なら、楽々運べるサイズである。しかし、運んでいるのは虫なので、凄く大変そうだ。

 「急げ!!早くこれを持っていかないと、中にいる陰キャ達に勝ち目は無いぞ!!」

 自分の後ろにいるゴキブリを急かすフンコロガシ。どうやら、今転がしているこの球体は、桃太郎達にとって強い味方となるアイテムのようだ。何とか間に合えばいいのだが・・・

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