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ナンバショット 入国

 ナンバショット王国ッ!!どこか南国っぽい雰囲気が漂うこの国は、自然遺産が多い事で知られている。特に鍾乳洞(しょうにゅうどう)は王国領の至る所にあり、『鍾乳洞フルコンプツアー』が存在する程。また、ナンバショット固有の植物や生物も多数生息している事でも有名で、ここでしか見られない生物を見に訪れる人も多い。その為、この王国は一年中観光客で賑わいを見せている。

 次にこの王国の国民性について解説しよう。この王国の人達のほとんどが陽気な性格で、話しかけやすい雰囲気を纏っている。また、男女共に下ネタに寛容的である。ナンバショット王国民にとって、『下ネタ』は他人とコミュニケーションをする上での『数ある手札の一つ』という認識なのだ。なので、下ネタが嫌いな人は行くことをお勧めしないし、陽気なノリが苦手な陰キャも行かない方が良いだろう。



 「着いたぜ、兄ちゃん。ナンバショット王国の関所の前だ。」

 「う・・・うぅん・・・」

 桃太郎が気が付くと、タクシーは門の近くで停車していた。どうやら、改造タクシーのあまりのスピードに気分が悪くなって、少しの間だけ気を失っていたようだ。一方、メタリーは彼とは違い、甲羅の中に入って爆睡していた。今朝はいつもより早く起きたので、眠たくなったのだろう。(かす)かにいびきが聞こえる。桃太郎は、目を覚ましてもまだ調子が優れないようで、ガンガンする頭を押さえながら言った。

 「あ・・・有り難うございました。では、カードで支払いを・・・」

 「おう。そこの『IC』て書いてあるとこにカードをタッチしてくれ。それで支払いは完了だ。」

 「あ、はい・・・」

 よろけながらも、財布からICカードを取り出す桃太郎。そして、タッチする部分にカードを当てると、ピコーンという音が鳴った。『支払い完了』の合図だ。

 「はい、毎度有り。・・・んじゃあ、コレ。」

 運転手のおっさんは、桃太郎に紙切れを差し出した。このタイミングで出す紙切れは、『レシート』だと相場が決まっているので、桃太郎は何も考えずに受け取った。しかし、渡されたそれは、レシートなんかじゃあなかった。

 「これは・・・」

 「俺の携帯の番号だ。帰る時にウマシカ行きの乗り物が無かったら、気軽に電話してくれ。超特急で迎えに行ってやっからよ。」

 その紙切れには、運転手のおっさんの連絡先が書かれてあった。

 「あ・・・有り難うございます。では、その時になったらまた連絡します。」

 桃太郎はそう言って、貰った紙切れをカードと一緒に財布の中に入れた。とはいえ、また気を失うのは御免なので、

 「(帰りはこの人に頼らないように、きちんとウマシカ行きの乗り物を調べよう。)」

 と、桃太郎は心の中で決意した。それを最後まで覚えていればいいのだが・・・。

 それはさておき、桃太郎が荷物とメタリーを持ってタクシーから降りると、運転手のおっさんは一言、

 「んじゃ、俺はウマシカに戻るからよ。またのご利用待っているぜ。」

 と、別れの言葉を言って、さっきと同じスピードでウマシカに帰っていった。桃太郎は、そんな走り去っていくタクシーを見送りながら、

 「(おっさんは良い人なんだけどなあ・・・)」

 とか思っていた。

 その後彼は、ナンバショットの関所の方に向かって歩き出した。



 「おお、ここがナンバショットか・・・」

 王国内に何のトラブルも無く入る事が出来た桃太郎は、ほっとしながら目の前に広がる建物や人だかりを見て言った。関所に向かっている途中、『またトラブルが起こるかもしれない』と警戒していたが、『通行許可証』を見せただけであっさり通してくれたので、それは杞憂(きゆう)で終わった。よくよく思い返してみると、桃太郎が正式な手続きで王国に入るのは、これが初めてである。

 「(さて、まずは宿屋から探しに行かねえとな。知らん国で野宿は色々と危険だ。チェックインはどこも昼からだろうが、こういうのは早めに見つけておくに限る。)」

 桃太郎は、さっそく手頃な宿屋を探しに歩き出した。ついでに、メタリーも目を覚ました。

 「う・・・う~ん・・・あれ?もしかして、もうナンバショットに入ってます?すーすーすー。」

 「ああ、これから泊まるとこを探しにいくところだ。」

 「じゃあ、ボクに任せて下さい。良い所紹介しますよ。ヨーヨーヨー!!」

 メタリーは自信満々にそう言うと、いつものように浮遊して桃太郎を先導した。しかしその結果・・・着いた宿屋は、これみよがしに高級感を漂わせた御大層なホテルだった。この前行ったウマシカの高級ホテルよりも、こっちの方が若干金色率が高い。ハッキリ言って、未成年一人と亀一匹がそう易々と泊まっていい宿ではない。

 「お前な・・・こんな如何(いか)にも『セレブ御用達(ごようたし)』なとこに、この俺が泊まれると思うか?そんな事したら、一瞬でカードと財布の金が無くなってしまうわ。オンボロでも良いから、とりあえず安価で何泊も出来る宿を探してくれ。」

 「え~!!ここのご飯、すごく豪華で美味しいと話題なのに・・・」

 「そりゃ豪華だろうよ。逆にこんな高級感丸出しのホテルで、一般家庭の食卓と全く同じ料理が出て来たら、びっくりだわ。」

 どうやらメタリーは、ご飯の事しか頭に無いらしい。まあ、部屋を出る前にちょろっと朝食を食べただけなので、もしかしたらお腹を()かしているのかもしれない。桃太郎は、宿よりも先に何か食べ物を買う事にした。

 「はぁ・・・とりあえず、ここに来る途中に商店街があったから、そこでこの国の名物でも買うか。・・・お前、お腹空いてんだろ?」

 「あ、分かっちゃいました?たーたーたー。」

 「やれやれ・・・」

 パァッと顔が明るくなるメタリーに、呆れたように溜息を吐く桃太郎。とりあえず何を食べるかは、商店街に行ってから考える事にした。




 一方、ここは桃太郎たちがいる高級ホテルから、少し離れたとこにあるマンションの一室。一人の男が今まさに朝食を食べようとしていた。

 「オッホ!!やっぱ朝は米よりパンだよな。」

 男はそう言うと、皿の上にあるきつね色に焼けた食パンを一枚取り、バターを塗りたくった。そして、それを食べようと大きく口を開けた時、男の携帯端末がピコーンと鳴った。

 「何だぁ?」

 男は一旦、手に持ったバターたっぷり食パンを皿の上に置いて、携帯端末を確認した。どうやら、誰かからメールが届いたようだ。

 「ああ、あの人からか。何々・・・」

 メールの送り主の名前を見て、内容を確認する男。その後、すぐに立ち上がって、外に出る準備をし始めた。

 「ったく、少しくらい休ませてくれよ・・・いくらあのお方の為とはいえ、人使い荒過ぎて草も生えない。」

 この男の名前は、テラワロス・ワールドワイドウェスト。駒田司令が束ねる情報部隊の精鋭の一人で、彼もまた神星(しんせい)である。たった今届いたメールは駒田からのもので、内容はラピスの回収を直ちに行うようにというものだった。

 「現地の人間にバレずに回収か・・・・・・ま、あそこは鍾乳洞と違って、観光客どころか現地住民すらも入らないみたいだから、回収作業自体はスムーズに終わるかな。」

 そう言いながら支度を済ませたテラワロスは、さっき皿の上に置いたバターたっぷり食パンを手に取り、口に(くわ)えたまま外に出て行った。




 そんな情報部隊の精鋭が動き出したとは夢にも思わない桃太郎達(そもそも、敵側にそういう組織がいる事すら知らない)は、目的地である商店街に着いた。今の世の中『商店街』と聞くと、どこもかしこもシャッターが閉まっているという寂しいイメージがあるが、ここは寂しいどころか逆に騒がしいぐらい活気付いている。それだけ、観光客が訪れているのだろう。まだ朝だってのに、既に混雑している店もある。

 「・・・さて、何を食べようか。せっかくだから、この国の名産品を食べておきたいところだが・・・」

 「あ、あれが良いですよ。」

 メタリーが指さしたのは、何てことはないただのアイスクリーム屋さんだった。名前は『テディアイス』。マスコットキャラクターの白クマのフィギュアのような物が、店の前にどこぞの爺さんよろしく置かれてあるのが印象的なアイス屋さんだ。

 「おいおい、ここまで来て普通のアイスかよ。あの店は、ウマシカにもあったぞ。ロゴに見覚えがある。」

 桃太郎はこのアイス屋を利用した事はないが、街でこのロゴを見かけた事があるのだろう。この店は、色んな王国に出店しているので、おかしい話ではない。桃太郎はその店を素通りしようとした。すると、

 「いやいやいや・・・」

 メタリーが甲羅から、あの『ナンバショット大全』という本を出した。そして、ページをパラパラと勢いよくめくり、バッと桃太郎に広げて見せた。

 「ナンバショット限定の味があるんですよ。『ナンバマンゴー味』と『シークェイサー味』。ウマシカでは食べれない味ですよ。こういう時に食べないと損、損、ソーン!!」

 確かに本には、ナンバショット限定フレーバーと書かれてある。因みに『シークェイサー』は、ナンバショット名産のすだちみたいな柑橘系の果実だ。元の世界にも似たような名前のものが存在するが、それとは全くの別物と思った方が良いだろう。

 「・・・成程。そういう事なら、食べてみる価値はあるな。」

 桃太郎はそう言うと、キャリーバッグから一旦手を放して、財布の中身を確認した。するとその時、何故かキャリーバッグが独りでに動き出した。今この瞬間に風が吹いているわけでも、ましてやこの道が斜面になっているわけでもない。にも関わらず、キャリーバッグはガラガラと動いている。しかも、未だに止まる気配が無い。持ち主である桃太郎がその事に気が付いたのは、財布の中身を確認し終えて小銭を入れるポケットのチャックを閉めた時だった。

 「な・・・何ィ!?」

 あまりの不自然な現象に、思わず二度見した桃太郎。そりゃそうだ。坂でもないのに、キャリーバッグが独りでに動いていたら、誰だってびっくりする。とりあえず桃太郎は、人にぶつかるといけないし、借り物のキャリーバッグ本体と中の着替えがこのまま無くなるのは困るので、通行人を避けながら追いかけた。

 「ま・・・待て!!」

 しかし、待ってはくれない。とはいえ、スピードはそんなに速くないので、桃太郎はすぐに追いつく事が出来た。

 「よし、追いついたぞ。」

 両手でキャリーバッグを押さえ、動かないようにする桃太郎。これで一安心だ。するとここで、何故か地面の方から話し声が聞こえてきた。

 「あれ?動かなくなってしまった・・・」

 「見た目からして古そうだから、車輪(コロ)()びついてんのかもしれないぜぇ~?」

 「ああ、そうか。・・・じゃあ、蹴れば解決だね。」

 「・・・んん?」

 その声が気になったのか、地面を見下ろす桃太郎。するとそこには・・・・・・ゴキブリとスカラベ(所謂、フンコロガシ)がいた。しかも見下ろして早々、二匹と目が合った。ただのゴキブリとスカラベなら、目が合ったところで、何も気にせずにそのままどこかへ行くのだろうが、目の前の二匹は違った。

 「あ・・・あはははは・・・・・・ご機嫌いかが?」

 なんと、咄嗟に目が合った桃太郎の機嫌を窺って、誤魔化そうとしたのだ。引きつった感じに笑いかける二匹に、桃太郎は何の反応も示さずに真顔で捕獲した。そして、他の人の迷惑になるので、そのまま誰もいない路地に二匹を連行した。

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