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『良い情報』かどうかはその人次第

 マリーに塗り薬を塗ってもらった桃太郎は、そのままアパートに戻った。皮膚に馴染みやすいクリームだったのか、既に左手に包帯を巻いている。桃太郎はそんな自分の左手を見て、

 「(今日は、左手を濡らさないようにシャワー浴びないとな。)」

 とか思いながらアパートの階段を上がっていた。二階に着くと、自分の部屋のドアの前に誰かが立っているのが見えた。・・・・・・楓である。楓は桃太郎に気が付くと、彼に近づいて言った。

 「おかえり、桃ちゃん。」

 「お・・・おう・・・んん?」

 何で楓が自分の部屋の前に立って、自分を待っているのかが理解出来ない桃太郎は、戸惑いながらも一応楓の言葉に応えた。そして、楓はそれから何も言ってくる様子は無かったので、桃太郎はそのまま楓を素通りして鍵を開けて部屋に入ろうとした。

 「(たったそれだけを言う為だけに待っていたのか?変な人だなあ・・・)・・・じゃあ、俺はこれで・・・」

 その瞬間、ドアノブを持った右手の手首をまるでカマキリが獲物の蝶を捕らえるように素早く掴まれた。

 「!!?」

 咄嗟の出来事に目を大きく開ける桃太郎。この時、彼は思った。『楓は自分に何か抗議をするために待っていたのだ』と。人間は時々、無意識の内に他人が嫌がる事をしてしまうものなので、桃太郎は日頃の生活を思い出しながら考えた。

 「(元の世界なら『テレビの音量がでかい』とか『ラジカセの音がでかい』とか『笑い声が五月蠅い』とか考え付くが・・・テレビもラジカセも無いし、こっちに来てからそんな大声上げて笑った事なんか無いしなあ・・・)」

 桃太郎が必死になって自分が何をしたのか考えていると、ここでようやく楓の口が開いた。

 「やっぱりあのプリン・・・桃ちゃんが買って来てくれたんだね。どうして、嘘吐いたの?」

 「・・・え?」

 予想外だった。どうやら楓は、この前のプリンの事を言う為に待っていたのだ。セリフからして、あのプリンは桃太郎が買って来た物だとバレているらしい。桃太郎はバラした犯人に心当たりがあった。

 「(沙耶香だな?俺がプリン買ってるのを知っているのはアイツしかいないからな・・・クソッ!!)」

 桃太郎の脳内にニヤニヤしながらこっちを見て笑っている沙耶香の顔が映し出され、『悔しい』というか、『余計な事を言いやがって』という意味で舌打ちをした。

 「・・・いや・・・まあ・・・・・・確かに俺はあのプリンを買ったが・・・お前のドアノブに引っ掛けた覚えは無いぞ。」

 桃太郎は頭を掻きながら苦し紛れに言った。この男、往生際が悪すぎる。

 「本当に?」

 「ホント、ホント。」

 詰め寄る楓に首を縦に振ってその場凌ぎの対応をする桃太郎。そして、隙を見て部屋の中に素早く入った。

 「ああっ!!桃ちゃん!!」

 バタンと閉められたドアの前に楓はただ呆然(ぼうぜん)と立ち尽くした。



 楓を振り切って何とか部屋に入る事が出来た桃太郎は、『ふう・・・』と、汗を拭って息を吐いた。

 「ったく、誰が買っていようがいいじゃあないか。何でそこを気にするんだか・・・しかもわざわざ外で待ってまでさ・・・)」

 楓の行動に疑問を抱きながら、桃太郎は靴を脱いでリビングに移動した。

 「ただいま~・・・・・・って言ってもしょうがないか・・・」

 『へへっ』と笑う桃太郎。そのまま和室まで行こうとした時、ふと何かに(つまづ)き、床にドタンと倒れた。

 「いってぇ~・・・・・・何か置きっぱなしにしてたっけかあ?」

 倒れた状態で足元を見る桃太郎。手に取ってみて見ると、それはメタリックで真ん中にサファイアのような宝石が付いた見覚えのある物だった。

 「・・・・・・」

 桃太郎はその物体が何なのか理解したので、窓を開けて外に投げようとした。すると、

 「え・・・ちょ・・・ちょいちょいちょーい!!」

 と、物体の中から声が聞こえた。物体は桃太郎の手から離れると、そのまま畳の上に転がり、手足と頭を出した。そいつは桃太郎にとって、元凶ともいうべき存在のメタリックな亀・メタリーだった。メタリーは外に投げ捨てようとした桃太郎に抗議した。

 「いきなり捨てるのはないですよ。ヨーヨーヨー!!せっかく良い情報が手に入ったというのに!!」

 「良い情報が手に入ったからって、不法侵入する奴がいるか。つーか、どうやって俺の住所を突き止めた?そして、どうやって部屋の中に入った?鍵はきちんとかけていた筈だが・・・」

 「そんないっぺんに聞かれても・・・貴方たちがタカビーから車で帰っているところを上から追いかけていただけですし、侵入に至ってはその辺に落ちてた針金でちょちょちょいっとつついたら開きました。・・・そんな事より、ボクが手に入れた良い情報を聞いて下さいよ!!ヨーヨーヨー!!」

 「分かったよ、聞くから話せよ。」

 カネホシス戦でのダメージやら疲労によって、それ以上追及するのが面倒になった桃太郎は、とりあえずメタリーの言う『良い情報』とやらを聞いてみる事にした。メタリーはやや興奮混じりに話し始めた。

 「それがですね・・・『ラピス』が大量にある場所の情報を入手しました!!」

 「何ィ!?」

 これには桃太郎も目の色を変えた。心の中で『どうせ、しょうもない情報なんだろうなあ』と思っていたので、その衝撃は凄まじかった。

 「そ・・・それはどこだ!?もしかして、また『採掘禁止』になっているところじゃあないだろうなあ?」

 メタリーを掴んで、激しく揺さぶる桃太郎。あまりの食いつきっぷりにメタリーは、戸惑った。

 「ちょ・・・落ち着いて下さい!!話・・・話は最後まで・・・!!」

 「おお、そうだな・・・すまん・・・」

 メタリーが目を回している事に気が付いた桃太郎は、手を放した。解放されたメタリーは、そのまま落下した。仰向けの体勢になったものの、普通の亀ではないので自分から勢いをつけて起き上がった。

 「え~・・・と、そのラピスが大量にあるとされる場所はですね・・・調べた限りでは『採掘禁止』とされていません。」

 「ほうほう・・・それで?」

 「そして、ここから近いです!!」

 「ほうほう!!」

 まるでバラエティ番組の様にじらすメタリー。聞かされている側は、『とっとと言えや』と言いたくなるが、彼なりに盛り上げようとしているのだろう。しかし、引きのばせば良いというものでもない。そろそろ場所を言ってほしいものだ。メタリーは一呼吸おいて、キリッとした顔で言った。

 「・・・・・・次回に続く。」

 その瞬間、桃太郎はメタリーを掴んで窓から投げ捨てる構えを取った。

 「わー!!わーわーわー!!すいません、一度こういうセリフ言ってみたかったんです!!すいませんでした!!言います・・・きちんと言いますから・・・ッ!!」

 「どこだ?」

 桃太郎はギロリと睨んだ。そりゃあ、そうだ。こんなネタに付き合っていられるほど、体力は残っていない。睨まれたメタリーは、冷や汗を流しながらその場所を言った。

 「ウマシカより暖かい国『ナンバショット』です!!」

 『ここから近い』というのが『桃太郎の住んでいるアパートから近い』という意味では無く、『この王国から近い』という意味だったようだ。ラピスが大量にある場所がウマシカ王国内ではない事を知った桃太郎は、目に見えてテンションが下がった。

 「何だ国が違うのか・・・じゃあ、無理だな。」

 「どうしてですか?」

 きょとんとした顔で聞くメタリー。亀なので、人間の事情が分からないのだろう。

 それにタカビーでの一件以降、『面倒な事になりそうだからウマシカ王国から出るのはやめよう』と桃太郎自身思っていた。

 「あのなあ・・・俺は異世界から来てるんだぞ?身分証明もパスポートも無い。絶対、入国審査に引っかかるだろうが。」

 「大丈夫ですよ。ほら、こうして何だかんだあっても、こうしてウマシカ王国で暮らしているじゃあないですか。」

 ニコニコしながら言うメタリー。他人事だと思って適当に抜かしているメタリーを桃太郎は再び掴んだ。

 「『何だかんだ』あったら駄目なんだよ!!あの時は運が良かったけど、本当なら処刑されていたんだからな!!あんな都合の良い事・・・二度と起こらないぞ。」

 「まあ、『二度ある事は三度ある』という言葉がありますし、何とかなりますよ!!ヨーヨーヨー!!」

 それは二度目が起こってから言うものである。

 「・・・それにしても、その左手・・・どうしたんですか?」

 ここでメタリーは、桃太郎の左手の包帯を見て言った。

 「ん?ああ・・・コゲチャドクガの毒にやられてな・・・一応、クリーム塗って貰ったんだ。」

 「その辺に売ってあるクリームじゃあ、一週間以上かかりますよ。ここは溶かしたラピスを直接かけて自然治癒を促進・・・」

 甲羅の中に入って、ラピスと道具一式を取り出そうとするメタリー。しかし、桃太郎はそんなメタリーを止めた。

 「いや、その必要は無い。」

 「え?」

 ひょこっと甲羅から顔だけ出すメタリー。

 「ラピスは貴重なんだろ?一週間以上かかっても、クリームと自然治癒で治るのなら使わなくていい。それにタカビーの時みたいな事になっても困るしな。」

 確かにラピスは貴重な物。桃太郎が元の世界に帰るには、その貴重な物が一万もいるのだ。塗るもの塗って、時間で治るものなら使わない方が良いと思うのは当然である。それにラピスの事を全て把握しているわけではない。この前みたいにパワーアップするならまだしも、必ずしも自分に都合の良い効果を得られるとは限らないので、使わない方が身の為である。

 「そうですか?・・・まあ、貴方が言うならラピスは出しませんけど・・・」

 メタリーは少し落ち込んだように言った。自分の見せ場が無くなったので、がっかりしているのだろう。そんなメタリーを見た桃太郎は、

 「あ~・・・さっきのナンバショットの件なんだが・・・まあ、その・・・アレだ。お前なりに色々調べてきてくれたんだよな・・・まずは礼を言うのが筋だったな。すまん、有難う。」

 と、さっきの情報のお礼を言って励まそうとした。しかし、がっかりしているように見えたのは気のせいだったようで、メタリーはそのまま立ち上がると、ケロッとした顔で言った。

 「でしょ~?まったく・・・そんなボクを投げ捨てようだなんてとんだ恩知らずですよ。ヨーヨーヨー!!」

 その言葉を聞いた桃太郎は、『礼なんか言わなきゃ良かった・・・』と、後悔した。




 桃太郎の左手が完全に回復するには、一週間以上の時間が必要。しかし、謎の王率いる敵陣営は回復を待ってくれない。くれるはずがない。

 「『異世界人ワカール』とかいう機械のGPS機能を辿って来てみれば・・・随分と派手にやられたもんだなあ、オイ。」

 カネホシスの死体を見つけたアブラギッシュは、その場にしゃがんで死体の様子を確認した。そして、崖の上を見ながら言った。

 「・・・成程。この上で異世界人の陰キャと戦って、マヌケにも落ちてしまい、トドメを刺された・・・と。雑魚らしい死に方だ。情けない。」

 呆れた感じに溜息を吐いたアブラギッシュは、カネホシスの死体の傷を見て、疑問を抱いた。

 「ん?・・・この傷は刀とかで斬られた傷じゃあないか?何?異世界人の陰キャは刀とかの武器を持っているのか?・・・まあいい、とりあえず今はこいつの死体を片付けるとするか。警察(サツ)とかにバレないようになぁ~。」

 アブラギッシュはそう言うと、カネホシスの死体をまるで米俵(こめだわら)を運ぶかのように(かつ)いだ。そして、その死体に話すように

 「気にする事は無い。雑魚の尻拭(しりぬぐ)いは強者である俺様の仕事だからな。お前はせいぜいあの世で空き巣なり何なりやってろ。」

 と、言うとそのまま闇に消えていった。

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