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『Darkest Lady』が生まれた日

 更新が遅くなってしまい、申し訳御座いません。

 そして、この調子だと今年中に投稿出来るのは、あと一話ぐらいになりそうです。

 『木曜日』は、『オワリ』という民主主義国の一般家庭に生まれた。


 父と母、そして十一歳年の離れた姉から誕生を喜ばれた彼は、重い病気を患う事無く、元気にスクスクと育っていった。


 そんな中、5歳を迎えた『木曜日』に異変が生じる。


 突然、『謎の歌』を口遊(くちずさ)むようになったのだ。


 童謡や流行りの歌でも無ければ、テレビCMとかで頻繁に流れている歌でもない。


 勿論、両親と姉がよく聴く歌のどれかでもない。


 マジのガチに謎の歌。


 しかし、ほんのちょっとのフレーズ且つ歌手本人の歌唱ではないが、どこか心惹かれる歌だ。


 気になった母は、ある時息子に聞いた。


 「ねえ、前から気になってたんだけど、それ何の歌?お母さんに教えてほしいな。」


 すると、彼は笑顔でこう答える。


 「うん。これはね、『めぐりあい』って言うんだって。あたまの中の女の子が、いつもぼくにうたってくれるんだよ。」


 「え?」


 きょとんとした顔で固まる母。


 三秒後、頭上に沢山の『?マーク』を浮かばせたまま、口を開く。


 「・・・頭の中?」


 「うん!!ぼくのあたまの中にね、女の子がいるの。名まえはおしえてくれないけど、いつもいっしょにいてくれるんだ。ゆめの中では、おいかけっことかして、あそんでくれるんだよ。」


 「え?・・・えぇ?」


 母はこの時、息子が何を言っているのか、全く理解出来なかった。


 そして、考えに考えた末、ある一つの答えを導き出す。


 『頭の中にいる女の子』というのは、息子が寂しさから無意識の内に作り出した『空想の産物(イマジナリーフレンド)』ではないか、と。


 この事を彼女から聞いた父も、同じ事を思った。


 その上で彼は、目の前で不安な表情をしている妻にこう言う。


 「私もあの子ぐらいの時には、毎日空想にふけていたもんさ。なぁに、学校に行くようになれば、それどころじゃあなくなる。その内、言わなくなるよ。」


 「だと良いんだけど・・・」


 ベッドで気持ち良く眠っている息子を一瞥し、そう呟く母。


 ああ言われても、一抹の不安が残り、胸騒ぎがしてならないようだ。


 そして、彼女のそれは見事的中する事となる。


 小学校に上がり、本格的に学校生活が始まっても、息子は『頭の中にいる女の子』の話を一向にやめる気配が無かったからだ。


 それどころか学校で、事ある毎にそれを話してしまう始末。


 結果、皆『木曜日』の事を気持ち悪がり、仲間外れにした。


 だが当のハブられている本人は、それをされて『悲しい』とか『寂しい』といった気持ちには、これっぽっちもならなかった。


 自分には『頭の中の女の子』がいるし、彼女だけで充分だと、思っていたからだ。


 一応言っておくと、クラスメイトの友達がいらないという訳ではない。


 ただ、自分の言っている事が理解出来なかったり、『頭の中にいる女の子』の事を笑ったり、否定したりするような奴とは仲良くする気にもならないというだけである。


 ところが、そんな『孤立上等!!』な彼を良く思わない人間がいた。


 両親である。


 二人は、担任の先生から息子がクラスで孤立している事を聞かされると、危機感を覚え、すぐ修正に入った。


 「お前の言う『女の子』は実在しない・・・!!それはお前が作り出した架空の存在・・・つまり、アニメのキャラクターみたいなもの・・・!!いい加減そんなものから離れて、これからは実在するクラスの子達と遊びなさい・・・分かったな?」


 『木曜日』と向き合い、しっかりと目を見て言う父親。


 母親も横で、うんうんと頷いている。


 しかし、『木曜日』はこれに強く反発した。


 「いやだ!!ぼくは、あの子とこれからもずっといっしょにいる!!ゆめの中でたくさんあそぶ!!」


 「駄目だッ!!」


 「!!」


 突然放たれた父の一喝に、『木曜日』の体がビクンと一回跳ね上がる。


 父は、それからすぐ彼の両肩に手を置き、優しくこう続けた。


 「今ここで離れておかないと、これから先ずっと独りぼっちだぞ・・・・・・それでも良いのか?」


 「べつにいい!!それにぼくはひとりじゃあない。いつもいっしょにいてくれる『頭の中の女の子』がいるから!!」


 「馬鹿を言うんじゃあない!!そんなのは、友達の内に入らん!!」


 「入る!!」


 「入らん!!」


 「入る!!」


 「入らん!!」


 口論は、平行線に突入。


 双方、このまま声が枯れるまで主張し続けるかに思われたが・・・


 「はぁいぃるぅぅッ!!」


 『木曜日』がヤケを起こして奇声に似た声を上げ、父がカチンと来た事であっさり終息した。


 「ああ、そうかい。そんなに独りが良いんなら・・・」


 「!!」


 グイッと、父が『木曜日』の首根っこを掴み、庭へ連行する。


 そして、そこにある物置小屋の中へ彼をブチ込んだ。


 「しばらく物置ん中入ってなさいッ!!」


 乱暴にドアを閉め、その辺にあった箒を心張(しんば)り棒代わりに設置。


 これでもう、中からドアを開ける事は出来ない。


 『木曜日』は、暗く狭い場所で反省する事を余儀なくされた。


 だが、壁に凭れ掛かり、体育座りになって思う事は反省ではなく、周囲への苛立ち。


 『どうして皆分かってくれないんだ』という不満・・・!!


 彼は、その状態のまま頭を抱えて悩み、苦しむ。


 学校の人達だけでなく、自分の両親までも『敵』として認識してしまう程に・・・


 『頭の中にいる女の子』の声が届かない程に・・・


 とはいえ、渡る世間に鬼は無い。


 必ず一人や二人、理解者がいるものである。


 「!!」


 突然ガラッと開く、物置小屋の扉。


 それと同時に夕日が射し込み、暗かった小屋が明るく照らされていく。


 眩しさのあまり目を細めながら前を見ると、そこには・・・


 「おねえちゃん・・・」


 彼の姉が立っていた。


 制服姿なので、たった今学校から帰って来た所なのだろう。


 そう、彼女こそが現時点で唯一の『理解者』なのである。


 彼女は、しゃがんで彼と目線を合わせると、微笑みかけて言った。


 「お父さんに逆らって、閉じ込められたんだって?」


 慈愛に満ちた声。


 さっきまで否定されてばかりだった彼は、春の日向のような心地よい温かさに触れ、思わず涙を流した。


 そして、


 「おねえちゃん・・・!!」


 姉に抱き着き、吐露する。


 今日あった出来事・・・


 皆がいつも『頭の中にいる女の子』を否定する事・・・


 両親が彼女と自分を引き離したがっている事・・・等々、全て。


 一方彼女は、制服が弟の涙や鼻水で濡れても嫌な顔一つせず、優しく頭を撫で続けた。


 うんうんと、適度に相槌を打ちながら。


 やがて彼が落ち着くと、彼女は今回の事が起こらないよう、こう言った。


 「今度からは、私の前以外でその子の話題は絶対にしない事。分かった?」


 「うん・・・!!」


 「さっ、中に入ろ。大丈夫、お姉ちゃんも一緒に謝ってあげるから。」


 姉はそう言うと立ち上がり、『木曜日』に手を差し伸べる。


 「うん!!」


 その手を取り、二人仲良く家の中に入っていく。


 言い争う声が聞こえなかったり、あれこれ理由を付けられて再び追い出される気配が無い所を見るに、二人の仲を姉が上手く取り持ってくれたようだ。


 そして、この日を境に『木曜日』は、『頭の中にいる女の子』の話題を姉以外の前ではしなくなった。


 と同時に、姉への依存度も高くなっていくのであった。






 それから九年後。


 幼い頃の出来事が『遠い日の思い出』となってからも、『木曜日』と姉の仲は昔と変わらず良かった。


 そんなある日、二人で山を登頂した際、突如姉がこんな事を言い出す。


 「私、選挙に出る。」


 「え?」


 きょとんとする『木曜日』。


 何回か瞬きをした後、こう続ける。


 「姉さん、政治家になりたいの?」


 「うん。」


 コクリと頷く姉。


 どうやら彼女は、政治家達が国民を蔑ろにしている状況に日頃から『おかしい』と感じていたらしく、自分が政治家になって変えるしかないと思ったようだ。


 その事を目の前の景色を見ながら『木曜日』に喋った後、彼の方を向いてこう続ける。


 「応援してくれる?」


 「勿論!!」


 即答だった。


 パァッと目を輝かせ、彼が大きく頷くのを見た彼女はフフッと笑い、


 「有り難う。」


 と、答えると、


 「よし!!それじゃあ早速帰って、選挙の準備をしましょ。」


 踵を返して、スタスタと来た道を戻り始めた。


 「あっ、待ってよ姉さん。」


 帰っていく彼女の背中を急いで追いかける『木曜日』。


 こうして彼は、当選を目指して選挙活動をする姉を応援する日々を送った。


 街頭演説の練習に付き合ったり、もっとこうした方が良いんじゃあないか、こういう事を言った方が聴いてる側の心を掴み易いのではないか等と、意見を出したりもした。


 そして、選挙当日の晩。


 結果は、見事『当選』・・・!!


 普通、有名な政治家達がいる中で初出馬且つ無名が当選するのは難しい事なのだが、多くの人達が姉の主張に賛同したのだろう。


 圧倒的な差を付けての勝利であった。


 「やったね、姉さん!!」


 「ええ!!これも貴方が手伝ってくれたお陰よ、有り難う。」


 思わぬ大勝に歓喜する二人。


 これから姉の輝かしい『政治家人生』が始まり、ゆくゆくはこの国のトップになって、自分と国民を良き方向へと導いてくれる・・・・・・この時の『木曜日』はそう思っていた。


 しかし、そうは問屋が卸さないのが現実というもの。


 姉が当選した裏で、不満や危機感を覚えている者が複数いた。


 落選した有名政治家、及び『国民の為の政治』を掲げる彼女を(うと)ましく思う『暴利(ぼうり)(むさぼ)政治家(ケダモノ)達』である。


 特に後者の連中は、彼女が政治家としての力をどんどん身に付け、自分達と同等、もしくはそれより上の地位になる事を恐れた!!


 このままだと、いずれ暴利を貪れなくなる・・・!!


 それどころか、政治家でいられなくなってしまう・・・!!


 自分の子や孫に贅沢な暮らしをさせてやれなくなる・・・!!


 処理しなければ・・・『災い』となる種が芽吹く前にッ!!


 そんな気持ちが各々に駆け巡った。


 だが、自分達の手は汚したくない。


 考えに考えた末、連中は・・・


 ネットの裏サイトに姉の殺害依頼を書き込んだ!!


 報酬金は、120万!!


 結果、金に目がくらんだ奴等が人知れず姉の命を狙い、とうとうその内の一人に彼女は殺されてしまった。


 寒い月の木曜日に起こった出来事である。


 幸い、現場から走り去る犯人の姿を何人かが目撃していた為、実行犯はすぐ警察に捕まった。


 ところが、それより先・・・誰が殺害依頼を裏サイトに書き込んだのかまでは、何故か調べようとはしなかった。


 普通なら、そいつも『殺人教唆』の罪で捕まえようとするのに、だ。


 ネットだから調べようがないなんて事は絶対に無い。


 当時既にサイバー犯罪対策課は存在していたのだから。


 やりようはいくらでもあった筈だ。


 なのに、警察は実行犯を捕まえただけで満足し、この事件の捜査を終わらせた。


 これに対し、『木曜日』は捜査本部まで出向き、担当刑事の一人に抗議した。


 「どうして、終わりにするんですか!!まだ姉の殺害を依頼した人間が残っているじゃあないですか!!そいつも捕まえて下さいよ!!」


 しかし、彼の必死な訴えは、目の前の刑事には届かなかった。


 寧ろ、ヘラヘラとした顔で、こう返された。


 「いや~、申し訳ありませんが、我々も人手不足でして・・・・・・一つの事件にばかり、構ってられないんですよ。例え、被害者が政治家さんでもね。それにほら、実行犯は捕まえていますし?迷宮入りにならないだけ、良かったじゃあないですか。それじゃあ、私はこれで。」


 「あっ!!ちょっ」


 喰らい付こうとする『木曜日』を遮断するかのように、刑事が部屋の扉を勢いよく閉める。


 「クソッ!!」


 納得がいかず、悔し紛れに廊下を蹴って踵を返す。


 このまま署を出ようとしたが、丁度お腹が痛くなって来たので、とりあえず近くのトイレに入る事にした。


 その何気ない行動が、彼の生きる道を大きく変えた・・・!!


 「ったく、ふざけやがってあのジジイ・・・!!」


 「落ち着きましょうよ、先輩ィ~・・・」


 「!!」


 洋式便器に出すもん出し、個室を出ようとした彼の耳に入って来たのは、二人の刑事の声。


 片方は納得がいかないって感じに怒っており、もう片方はそれを(なだ)めているようだった。


 気になった『木曜日』は、出るのを一旦止め、そのまま彼等の会話を聞く事にした。


 「落ち着けるか、馬鹿!!ようやく殺害依頼が書き込まれたパソコンと容疑者が特定出来たって時に呼び出され、謹慎処分!!捜査本部は解散!!一体何を考えてやがんだ、上の連中はッ!!」


 「しょうがないじゃあないですか・・・謹慎に関しては命令に背いて勝手な行動を取った先輩が悪いですし、解散に関してはもっと上から圧力が掛かったみたいですし・・・」


 どうやらこの二人も、姉の事件を捜査していたようだ。


 そして、先輩刑事は誰が圧力を掛けて来たのか分かったらしく、そいつの名を悔しそうに呟く。


 「チッ、我滅院(がめついん)議員か・・・!!」


 これに対し、個室にいる『木曜日』は目を見開き、隣の後輩刑事は目を丸くする。


 「!!」


 「え?」


 後輩の反応に、彼は続けてこう言った。


 「殺害依頼が書き込まれたとされるパソコンは、街中にあるネットカフェの物だったんだが・・・そこの防犯カメラに映ってたんだよ。書き込まれた日時に、そのパソコンの前に座る我滅院議員の秘書の姿がな!!容疑者っつーのは、そいつの事だ。」


 用を足し終えたのか、ズボンのファスナーを上げ、手洗い場へと向かう。


 後輩刑事も少し遅れて同じ行動を取る。


 手を洗っている最中、先輩刑事はこんな事も言った。


 「だがまあ・・・圧力を掛けて来たっつー事は、俺の捜査は『間違ってない』という証拠!!そっちがその気なら、こっちにだって考えがある。」


 「えぇっ!?やめましょうよ、もうこの件に首を突っ込むのは・・・・・・それに先輩は、謹し」


 「構うもんか。俺は、悪党を一人でも多く捕まえる為に刑事になったんだ。権力なんかに屈してたまるかよ。あぁ、お前はついて来なくて良いぞ。こっから先は、危険な臭いがするからな。」


 「ちょっ、先輩ィ~。」


 こうして二人は、トイレを後にした。


 一方、思いもよらぬ形で容疑者を知れた『木曜日』は、個室で静かに闘志を燃やす。


 「(我滅院・・・・・・あのジジイか。僕も調べてみよう。このままこの事件を終わらせる訳にはいかないッ!!待ってて、姉さん・・・・・・姉さんの無念は、僕が必ず晴らしてみせるからッ!!)」


 この時、彼は気付かなかった。


 自身の心の奥底に、ドス黒いものが住み着いているという事に・・・




 それから数日後・・・近くの河原で先輩刑事が溺死体で発見された。


 体中、異常なまでに危害を加えられた跡があり、誰がどう見ても『他殺体』のそれである。


 しかし警察は、体内から大量のアルコールが検出されたというだけで、『酔っぱらって川に落ちただけ』と推測し、彼の死を『自殺』としてあっさり処理した。


 恐らくこの前と同じ奴から圧力が掛かったのだろう。


 マスコミ各所が『自殺』として報道する中、『木曜日』はそれを目にする度に心の中で否定する。


 「(違うッ!!あの刑事は、真実に辿り着いてしまったが為に殺されたんだ!!我滅院とその仲間にッ!!)」


 警察は権力の前では無力。


 例えそれに屈しない刑事がいても、すぐに消されてしまう。


 そして、『無力』という事は、警察が機能していないという事なので、法で裁くことは不可能!!


 『もう殺すしかない・・・!!』


 いつしか『木曜日』は、そう考えるようになった。


 だが、こればっかりはしょうがない。


 犯人や黒幕に対する『憎しみ』、正攻法ではどうにも出来ない『悔しさ』が大きくなれば、誰だってそう考える。


 遺族なら特に・・・!!


 『頭の中にいる女の子』は、彼がそんな事を考える度に説き伏せ、凶行に走らないよう阻止した。


 「(そんな事しても、お姉さんは生き返らない!!君が汚れるだけ!!自分の為に汚れる君を、お姉さんは望んでいない・・・!!)」


 それでも復讐心が落ち着かない場合は、新作の歌・『ソルフェジオ』を歌って癒しと安らぎを与え、無理矢理鎮める。


 しかし、それが通用したのは最初の内だけ。


 黒幕等への憎悪が(しぼ)む事無く日に日に膨らんでいき、とうとう彼女の力よりも強大になってしまったからだ。


 それと同時に、彼女の声が次第に届かなくなり、代わりに『木曜日』の元には・・・



 別の女の声が届くようになった。



 そいつは、ドス黒く染まってしまった心の奥底から急に湧いて出た存在で、姉を殺された彼に同情し、『復讐』を肯定した。


 「(彼奴等(あやつら)の存在が主をそこまで苦しめておるのなら、生かしておく必要はなかろう。今すぐ消しにいくべきじゃ。大丈夫。我が力を貸してやる。)」


 「本当に?」


 「(ああ・・・我もああいう連中が、大嫌いじゃからな。耳を貸せ。我の名を教えてやる。そして、我の名を知った瞬間・・・主はとてつもない力を得るッ!!)」


 「(その女の言う事を聞いちゃ駄目ッ!!そいつは貴方を悪い方向へ導こうとしている!!)」


 「!!」


 名乗る前に、『頭の中にいる女の子』が慌てた様子で乱入し、それを阻止する。


 「(復讐も駄目ッ!!君が無駄に汚れて、無駄に罪を背負うだけ!!だから駄目ッ!!駄目ッ!!駄目ぇぇぇーーーーーッ!!)」


 畳みかけるように訴え続ける彼女。


 だが、どれだけ叫ぼうが、『木曜日』は無反応。


 声も思いも届いていない。


 それでも彼女は、諦めず説得を試みる。


 一旦呼吸を整え、今度は優しく諭すような感じで・・・。


 「(ねえ・・・お願いだから変な事は考えず、私と遊びながらあいつ等に『天罰』が下るのを待とう?あっ、そうだ・・・私、また新しい歌作ったんだ。それを聴いて元気出し)」


 すると次の瞬間ッ!!


 「てっ!?」


 突如足元から生えた複数の腕に捕まり、身動きと言葉を封じられてしまった!!


 やったのは、勿論こいつ・・・新しく出て来た女!!


 彼女は、苛立った声でこう言う。


 「(ええい、さっきからピーチクパーチク(やかま)しい・・・!!)」


 どうやら邪魔をされて、かなり頭に来ている様子。


 そして、続けてこうも言った。


 「(『天罰が下るのを待つ』じゃと?そんな起こるかどうかも分からん事象を当てにする程、我等は愚かではない。其方(そち)のような砂利たれは、隅っこで『おもちゃが付いたランチメニュー』を独り寂しく食していろ・・・!!)」


 言い終えるや否や、『頭の中にいる女の子』をそのままドス黒い地面の中に引きずり込む。


 やがて、ズブズブ沈んでいく彼女を見届けると、ホッと一息吐いてこう言った。


 「(さて・・・仕切り直しといくかの。)」



 「(我の名は、『Darkest(ダーケスト) Lady(レィディ)』・・・主の『憎悪』から生まれた存在じゃ!!)」



 こうして『木曜日』は、『普通の人間』から『神星(しんせい)』となった。


 その後、彼がどういう行動を取ったのかは、言うまでもないだろう。


 「なっ・・・何じゃ、貴様はッ!?」


 早速、我滅院議員邸を襲撃したのだ。


 気が付いたら自身の部屋に知らない若者がいたという状況に、我滅院は妖怪でも見たかのようにひどく驚いたが、そいつが自分の謀略によって死んだ女の弟だという事を知るや否や、急に態度がデカくなった。


 そして、


 「お~~~~~い!!」


 「!?」


 屋敷中に声を響かせ、見るからにガラの悪そうな三人の男を呼び出すと、自慢げにこう言う。


 「私は、裏社会の人達とも仲良しでねぇ~~~・・・用心棒として、何人か雇っているのだよ。」


 余裕の笑み。


 彼等に囲まれた『木曜日』を見て、既に勝った気でいるみたいだ。


 次に彼は、その用心棒達に対し、こう言った。


 「おい君達、聞いてくれ。この坊やは、敵討ちをしにわざわざ此処へ乗り込んで来たそうだ。思う存分、もてなしてやってくれ。」


 「へへっ、了解。」


 首をゴキゴキと鳴らし、『木曜日』の右にいる男が答える。


 続いてそいつは、『木曜日』に対してこう言った。


 「おい、坊主。一人で敵地に乗り込んで来た度胸だきゃあ褒めてやんよ。だがな、世の中にゃあ『踏み込んじゃあいけねえ領域』ってもんがあんだ。もし、踏み込んじまったらどうなるか・・・・・・これから、その体に嫌と言う程おせぇーてやんぜ。この前の刑事みてぇーによぉ!!」


 言い終えるや否や、メリケンサックを装着した右の拳で殴り掛かる。


 プロボクサーもびっくりの速さだ。


 相手が普通の人間なら、確実に喰らい、大ダメージを負っていただろう。


 しかし、『木曜日』はもう普通の人間じゃあないので、


 「え・・・?」


 メリケンパンチを喰らう前に、既に両手の四本の爪で一太刀入れていた。


 これにより、メリケン野郎とその他二人は、輪切りになって死亡。


 想定外の事態に、我滅院は目と口を大きく開け、硬直した。


 「・・・・・・!!」


 そして、『木曜日』がゆらりと歩き出した時、ようやく悲鳴を上げ、恐怖で腰を抜かした。


 「まっ・・・待てッ!!待ってくれッ!!」


 だが、彼は待たない。


 ゆっくりと迫り続ける。


 それでも我滅院は、諦めずこう続けた。


 「わ・・・私には『家族』がいるんだ!!」


 「姉さんには『()』がいた。」


 「きょ、去年孫も産まれた・・・!!」


 「姉さんも数十年後にはそうなってるかもしれなかったし、なってないかもしれなかった。」


 「その子から、掛け替えのない『祖父』を奪う気か!?」


 「お前は俺から、掛け替えのない『姉』を奪った。」


 何を言っても無駄。


 死の運命からは、決して逃れられない。


 しかし、我滅院はすこぶる往生際が悪かった。


 『情に訴える作戦』が駄目ならばと、


 「か・・・金ッ!!そうだ・・・た、たい、大金をやろう・・・・・・い、いくら欲しい?」


 今度は『金で許して貰う作戦』に出た。


 当然、『木曜日』がそれに釣られる訳も無く・・・


 「・・・一つだけ教えてやる。」


 「へ?」


 「金で命は・・・買えないッ!!!」


 寧ろ耳障りな声を早く黙らせようと、両手の爪で襲い掛かって来た。


 「ヒッ・・・ひぃぃやああああああああああああああああ」


 屋敷に響き渡る程の悲鳴。


 我滅院の顔は恐怖で歪み、ズボンは尿で濡れる。


 用心棒もいなくなった今、もう誰も彼を助ける者などいない。


 このまま輪切りにされて、その生涯を終えるのだ。


 だがこれは、『当然の末路』と言える。


 今まで散々悪い事をして来たツケが、こういう形で回って来ただけなのだから。


 『木曜日』の計八本の爪が我滅院に迫る・・・!!


 「あああああああああああああああああ!!」


 その時だった・・・


 「ほう・・・」


 部屋の入り口から男の声が聞こえて来たのは。


 「!!?」


 新たな人間の登場に、『木曜日』は咄嗟に我滅院から離れ、両方から距離を取る。


 そして、警戒しながら入り口の方へ視線を移すと、そこには・・・


 「部下と共にクズの『透明な金』を盗みに来てみれば・・・・・・まさかこのような『掘り出し物』に巡り遭えるとはな・・・」


 一人の若い男がドアの縁に背を付け、腕を組んで立っていた。

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