『XDAY』の謎
「はい、お待たせ!!今日限定の『スーパーデラックススペシャルパンケーキ』よ!!」
そう言って、マリーがテーブルのド真ん中にドンと、三枚のパンケーキとその他諸々が乗った皿を置く。
5センチは優にある、どっしり且つふんわりとしたパンケーキのてっぺんには、ブルーベリーやオレンジといった果物が生クリームに優しく抱かれて優雅にくつろいでおり、アクセントとして中央にちょこんと乗っかってる双葉のミントは、生命の息吹を感じさせ、実に神秘的。
その風貌たるや、世界の中心に建てられた、何が起きても揺らぐ事は無い巨塔!!
全てを圧倒する存在感は、正しく『スーパーデラックス』!!
周囲は周囲で、生クリームの小さい山で囲まれており、各々が違うソースを被って、センターを引き立てている。
ただ名前は、『スペシャルパンケーキ・スーパーデラックス』にした方が言い易くて良いと思う・・・個人的に。
これを見た楓と沙耶香は、目を大きく且つキラキラさせて、感嘆の声を漏らす。
「お~っ!!」
「ウフ、取り皿持って来るわね。」
それはさておき、ここは喫茶店『青い春』。
あの後、四番倉庫から学校へ戻った楓達は、駆け付けていた警察官に全てを話したりした後、マリーの提案でここへ集まる事になったのだ。
道中、事件を嗅ぎ付けて来たマスコミ連中に囲まれ、質問攻めにあったが、そいつ等は全員たまたま吹いた風に攫われていった。
という訳で、現在店は『貸し切り』。
他にいるのは、颯と桃太郎、そして愉快な四匹の仲間達だけ。
ほんで今やっているのは、楓が無事に戻って来た事と、誘拐犯を撃退した事への『お祝いパーティ』である。
圧倒的存在感のパンケーキの登場で、女子二人が盛り上がっている中、颯が申し訳無さそうな様子で沙耶香に話し掛けた。
「沙耶香ちゃん・・・」
「はい。」
返事をしながら、彼女が彼の方を向く。
目と目が合うや否や、
「ごめん!!」
と、彼は声を出し、深々と頭を下げた。
「俺が昔犯した過ちのせいで、君に『怖い思い』と『怪我』をさせてしまった・・・本当に申し訳御座いませんでした!!」
言い訳の無い、気持ちの良い謝罪。
これに対し、沙耶香が顔の向きをパンケーキに戻す。
「本当に・・・そう思ってますか?」
「ああ、勿論だ。償いもする。」
「じゃあ・・・」
最後の一言を聞き、彼女はもう一度颯の方を向く。
それと同時に指を差し、こう言った。
「今度の休日、楓と二人でどっか行く事。」
「えっ!?」
まさかの要求に、彼だけでなく、傍で見守っていた楓も目を丸くする。
「ちょっと待って!!いくら学校が休みでも、部活が・・・」
「あんたは、今まで人の何倍も頑張って来たんだし、一日くらい休んでも誰も文句なんか言やぁしないわよ。大丈夫。もし、グチグチ言って来る奴がいても、あたしがガツーンと一発殴・・・言ってあげるから。」
「でもそれじゃあ、君への償いにはならない・・・・・・せめて、君も一緒に」
「いえ、お構いなく。部活があるので。」
即答で返され、たじろぐ颯。
何か言われる前に、彼女は続けてこうも言った。
「とにかく!!あたしが言いたいのは・・・『これを機に、逃げずに家族と向き合いなさい』って事!!『まずは妹から』!!以上ッ!!」
「沙耶香ちゃん・・・」
そして、彼女は最後にこう付け加える。
「あっ、でも・・・お土産は、沢山よろしくお願いします。」
「ああ、分かった。食べ物からキーホルダーまで、色々な物を買って来るよ。」
すると一呼吸置いた後で、取り皿を数枚持ったマリーが、間にニュッと入って来た。
皿の上には、銀色に光るナイフとフォークが数本乗ってある。
恐らく話が終わるのを、後ろでずっと待っていたのだろう。
彼は、一旦取り皿たちをパンケーキの傍に置くと、皿を一枚、そしてナイフとフォークを一本ずつ取って、颯に差し出した。
「話は終わった?それじゃっ、みんなで仲良くアタシのパンケーキを食べなさい。はいコレ、取り皿にナイフとフォークね。」
「あ・・・有り難う御座います。」
「はい、楓ちゃん。」
「有り難う、店長。」
「沙耶香ちゃん。」
「有り難う。」
次から次へと、皿とカトラリーを配っていくマリー。
それが終わると、マリーは踵を返し、足早にカウンターまで戻っていく。
この時沙耶香が、
「マリーさんも、こっち来て食べましょうよ~。」
と、彼を誘ったが、
「あら、有り難う。でも、ごめんなさい。アタシは、これからまたそれと同じ物を焼かないといけないから。」
断られてしまった。
まあ、厚さ5センチ以上のパンケーキが三枚もあるとはいえ、みんなで分ければ当然早く無くなってしまうので、今の内に第二陣を焼いておきたいのだろう。
一方、本来バイトの身である桃太郎はというと・・・
「はあ~~~・・・・・・」
店の隅っこにある、二人用の席でぐったりとしていた。
ダメージはラピスで全回復したが、警察の聴取やマスコミ連中の襲撃とかで、精神的に疲れたからだ。
まあ、『友達と話をする』のとは訳が違うので、無理も無い。
おまけにどちらに対しても、つい最近色々あったばかりだ。
そんな彼を気遣ってか、颯がパンケーキを切って、持って来た。
「すまない、桃太郎君。ラピス・・・無駄遣いさせてしまったね。」
カタッと、テーブルにそれを置き、向かい側の椅子に腰を下ろす。
桃太郎は、置かれたそれを一瞥すると、こう答える。
「気にしないで下さい。またどっかで入手すれば済む話ですし・・・」
すると一呼吸置いて、颯がこう言う。
「君のお陰で助かった。もしあの時、君が助けに来てくれなかったら、今頃どうなっていたか・・・・・・本当に有り難う。」
「いや、そんな・・・颯さんにも、妹さんにも世話になったんです。これくらいは当然・・・・・・寧ろ、到着が遅れて、すいませんでした。」
「とんでもない。あれは、過去の俺が犯した罪に対する『天罰』のようなもの・・・・・・君が責任を感じる必要はないよ。」
そして、彼は一呼吸置いた後、こう切り出す。
「それより、君に話しておかなければならない事があるんだ・・・・・・」
「何ですか?」
「いずれやって来る、『XDAY』について・・・さ。」
「!?」
聞き慣れない且つ、漠然とではあるが何かやばそうな感じのする単語に、桃太郎が目を丸くする。
「エックス・・・デイ・・・!?」
「君の始末を企んでいる組織が、堂々と表に出て来る日・・・・・・つまり、奴等による『各国への侵攻』と、『人間の選別』が始まる日だ。」
「侵攻・・・!? ハッ!!」
瞬間、脳裏を過るのは、アブラギッシュのこの台詞・・・!!
「仕方ねえな・・・あのお方はな、この世界を統一して王になろうとしてんだよ。他にも何かあるみたいだが、詳しい動機は俺様やお前が返り討ちにして来た二人も知らないし、恐らく残り三人も知らないだろうよ。ああいうのは、城が出来る前から仲間になっていた、ごく一部の上層部しか知らねえ筈だ。」
「それがいつなのかは、分からない・・・・・・ただ、少なくとも俺が抜ける時は、計画がすぐに実行される気配は全く無かった。恐らく今も、その時と似たような状況だろうとは思う。ましてやボスは、石橋を叩いて渡るような性格ッ!!侵攻の準備には、じっくりと、かなりの時間を掛ける筈だ。」
「因みにそのボスって、どんな奴なんですか?俺、未だに連中のボスがどんな奴なのか、全く分かってないんですよね。」
「俺も一度か二度顔を合わせた程度だから、詳しい事は分からないけど・・・・・・ええと、名前は知ってる?」
「いいえ。俺を始末しに来た連中は、揃いも揃って『あのお方』呼びばっかだったんで・・・」
「じゃあ、そこから教えようか・・・・・・と、言っても、俺も名字しか知らないんだけどね。」
颯は、申し訳なさそうにそう前置きすると、険しい顔でこう言った。
「ボスの名字は、『小源』ッ!!性格はさっきも言ったように、石橋を叩いて渡るくらい慎重。座っているだけでも圧が凄く、『王』としての威厳は充分にある。それから・・・」
台詞の途中で、視線をやや上にし、玉座の間で見た謎の王・小源の外見を思い返す。
城の中が常に暗い事もあり、ほとんど影で見えなかったが、何かの拍子にほんの一瞬だけ見えたその顔は、意外にも青臭さのあるものだった。
「・・・見た目は、かなり若い。俺より歳が下なんじゃあないかと、思うくらいに。まあ、ソルシエルの話を聞く限り、『マジに年下』というのはあり得ないんだけどさ。」
そして、彼はこう続ける。
「でも妙なんだ・・・前に一度、ボスとソルシエルの会話を盗み聞きした事があるんだけど、その時彼女はボスをこう呼んでたんだ。『レイシス様』、と・・・」
「真名があったって事ですか?」
「分からない・・・ただ、『レイシス』・・・この名前は、少なくともウマシカ王国出身の人間なら、誰もが知っている名前だ。歴史の授業で、くどいくらい聞かされるからね・・・・・・『初代ウマシカ国王が倒した、悪しき王の名』として。」
「・・・・・・」
「まあ、それはさておき・・・」
するとここで、颯がズボンのポケットから折り畳まれた紙を取り出し、話を変える。
「君にこれを渡しておく。ウマシカ王国領内で、ラピスが採掘出来る場所を示した地図だ。情報部隊の人間が持っていた物だから、信用して良いと思う。」
「えっ!?」
差し出されたそれを受け取り、試しに広げてみると、確かにウマシカ王国領の地図だった。
その上に赤ペンで、数ヵ所に×印が書かれている。
颯は、目を動かして隅々まで見ている桃太郎に、こう言った。
「それを頼りにラピスを回収し、一日でも早く元の世界に帰るんだ。さっき言った、『XDAY』が来る前に!!君は、異世界人だ・・・この世界の惨事に巻き込む訳にはいかない。」
「颯さん・・・」
「俺達の事は、気にしなくて良い。みんなと協力して、何とか乗り切ってみせるさ。」
「・・・有り難う御座います。」
二ッと、口角を上げる彼に、桃太郎が頭を下げる。
それと同時に、第二陣のホットケーキが焼き上がった。
「はい、第二陣焼けたわよ~!!」
マリーが、女子二人とメタリーら愉快な仲間達がいるテーブルに、持って来たそれを置く。
さっきと同じ枚数、同じ味、同じデコレーション。(人がやる事なので、多少の違いはある。一応。)
・・・にも関わらず、彼女達はさっきと同じく、感嘆の声を漏らした。
「お~っ!!」
そして、すかさずメタリーがナイフとフォークを手にする。
「わいわいわーい!!」
まずいッ!!
こいつ、全部喰う気だ・・・!!
そんなこんなで、休日がやって来た。
天気は、快晴。
小鳥たちは電線でチュンチュン鳴き、風は人々を包み込むように優しく吹いている。
今日は、楓と颯が兄妹仲良くどこかへお出かけする日。
待ち合わせ時間的に、そこまで早く起きる必要も無いのに、自然と早く起きてしまった楓は、顔を洗って朝食を摂った後、鏡と睨めっこをしていた。
今日どれ着ていくかを、真剣に悩んでいるのだ。
ワクワクそわそわ、そして、どこか妙にこそばゆい。
そんな気持ちに振り回されながら・・・。
結局、着替えには二十分以上掛かった。
「・・・よし!!」
彼女は、鏡に映る自分にそう言うと、肩にショルダーバッグを掛け、部屋を後にする。
待ち合わせ場所は、『青い春』だ。
一方その頃、『青い春』では、いつものようにマリーと桃太郎が働いていた。
「ねえねえ、桃ちゃん見た?今日の朝刊。」
「いえ、見てませんけど。(どうせ、適当な事しか書いてないし。)」
楽しそうに新聞の一面を見せて来るマリーに対し、カウンターを拭いていた桃太郎が冷めた反応をする。
一体何が書かれているのか見てみると、そこには・・・
『誘拐犯撃破!!例の陰キャ まさかの大活躍!!』
・・・という見出しが、デカデカと出ていた。
しかも、桃太郎が大きく映った写真のオマケ付きである。
まるで何かやらかした政治家みたいだ。
彼は、ズラッと並べられた文章は読まず、それ等をパッと見ると、心の中で呟く。
「(俺よりも、ニシキとゴキブリの方が活躍したと思うんだが・・・)」
まあ、新聞なんてそんなもん。
彼はすぐに気持ちを切り替え、拭き掃除に戻った。
するとここで、店のドアが開き、カランカラーンという来客を知らせる音が鳴る。
楓が来店したのだ。
「おはようございます!!」
「おはよう楓ちゃん・・・あらっ!」
挨拶を返し、彼女の服を見た瞬間、マリーが可愛いものでも見たような反応をする。
そして・・・
「初めて見るお洋服ね。似合ってるわよ。ねえ?桃ちゃん。」
親指をグッと立てて褒めた後、桃太郎に話を振った。
「え?」
きょとんとする桃太郎。
突然の無茶振りに、脳みそが上手く反応出来ず、数秒間硬直。
その後、
「俺もそう思います。」
と、マリーの感想に便乗したところ、彼に丸められた新聞紙で頭を叩かれてしまった。
スパコーン!!という、良い音がした。
「え?え?・・・えぇ・・・」
目に見えて混乱する桃太郎。
マリーは、そんな彼に構わず、楓に尋ねる。
「で、どこ行くか決めたの?」
「色々迷ったけど・・・『アホーナ・ホップ』が無難かな・・・って。」
『アホーナ・ホップ』とは、ウマシカ王国にあるショッピングモールの名称である。
何故、彼女が迷った末にここを選択したのかというと、他のそれ等と違って、敷地内に遊園地のようなゾーンや小さな水族館があるからだ。
当然、マリーはその事を知っているので、彼女の選択を肯定した。
「うん、良いと思うわ。あそこには、遊ぶ所が沢山あるし、オシャレなカフェもある。お出かけには、ぴったりよ。」
「・・・」
彼の言葉に、楓が無言ではにかむ。
それから彼女は、待っている間にと出されたコーヒーを飲みながら、兄の到着を待った。
一方、颯はこの時、コンビニの前で立ち止まっていた。
もう十数分歩くと、『青い春』が見えて来るぐらいの所である。
彼は、コンビニを見ながら、こう思う。
「(何か買っていった方が良いか?・・・いや、歩き回るとなると、邪魔になるか・・・)」
どうやら、飲み物とかを買っていくべきかどうか、悩んでいるようだ。
そして、そうやって数分間考え込んだ末、結局コンビニをスルーする事にした彼は、歩き始めてすぐに反対方向からやって来た通行人とぶつかってしまった。
「あっ、すいません。」
ぶつかった相手に謝罪をし、再び歩き出そうと足を一歩、前に出す。
すると、次の瞬間ッ!!
「ッ!?」
突然、何の脈絡も無く横腹に激痛が走り、苦しみながらもそこを見てみると・・・
・・・包丁が突き立てられていた。
「・・・・・・!!!」
恐らくこれは、たった今ぶつかった通行人の仕業だろう。
そう思い、彼が痛みに耐えながら後ろを振り返ると、そこには・・・
・・・数年前、彼が助けられなかったあの少年の母親がいた。




