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陰キャも歩けば変なのに出くわす

 「あっ、あった・・・良かった~・・・・・・」


 そう言って、桃太郎が地面に落ちてある袋を拾い上げる。


 現在彼がいる場所は、昨日紫摘と戦闘を繰り広げた『第三駐車場』。


 彼は、『コワレ荘』の自分の部屋に戻り、誰も愛が買って来た物を持って帰っていないという『事実』を知ると、その足ですぐに向かったのだ。


 と言っても、『部屋に無かったので、昨日デブにボコられた所まで行って来ます』的な事を言いに、一度店に寄ってはいるが。


 『些細な事でも報告と連絡はきちんとする』というのは、働いている人間にとって『大切な事』だからだ。


 それはさておき、袋を拾い上げた後、彼は持ち手の部分をそれぞれ左右に引っ張り、中身がよく見えるようにした。


 言わずもがな、本当に愛が買って来た物か、無くなっている物は無いか等を覗き込んで確認する為である。


 「よし、中身はクリスマスのヤツだし、全部ある・・・・・・多分!!」


 割りとあっさりした確認。


 そりゃあ、そうだろう。


 彼は、『クリスマスの飾りつけに使う物』という事しか、聞いていないのだから。


 具体的な中身の内容や、それぞれの個数は、一切不明ッ!!


 後はもう、何も不足していない事を天に祈るしかない。


 もしも何か一つでも不足していた場合は、『弁償確定』及び買い直しに行く羽目になってしまう為、桃太郎的には全て揃っていてほしいところだ。


 とはいえ、とりあえずは見つかって『一安心』といったところか。


 彼は、ホッとした表情を浮かべた。


 「良かったッスね、兄貴。」


 隣にいるニシキがそう言う。


 「ゴキブリもホッとしたぜぇ~。」


 ゴキブリもそれに続く。


 「ああ。」


 するとここで、フンコロガシが駐車場の隅っこから、茶色い物体を転がして来た。


 言わずもがな、うんこである。


 「僕も良かったよ・・・・・・昨日は無かったうんこが、今日は落ちていた。きっと野良犬だ。うんこの匂いからして、良い物食べてる感じしないから。」


 「それじゃあ帰るぞ。」


 フンコロガシの台詞は、スルーされた。


 それはさておき、すぐ店に戻ろうと回れ右をした桃太郎に、メタリーが言う。


 「え~、せっかくここまで来たんですから、近くの喫茶店でお茶しましょうよ~。ヨーヨーヨー。」


 「馬鹿野郎、仕事の合間を縫って来てるんだぞ。茶なんかしばいとる暇ねえよ。まあ、行きたいんなら、お前等だけで行け。勿論、自腹でな。」


 「え!?」


 彼の言葉に、虫二匹とニシキが驚きの声を上げ、反応する。


 というのも・・・・・・


 「いや、あっしは別に・・・・・・(昨日の二の舞になりそうだし・・・)」


 「ゴキブリ、店員にひっぱたかれる未来しか見えないぜぇ~。」


 「僕はうんこ拾ったから、別に良いや。」


 三匹とも別に喫茶店で茶をしばきたいなど、これっぽっちも思っていなかったからだ。


 彼等の言葉を聞いた桃太郎は、


 「そうか。じゃあ、お前だけで行って来い。」


 と、改めてメタリーに言った。


 「え~、ブーブーブー!!」


 「亀の癖に豚の鳴き真似なんかすな。」


 「コレ、『ブーイング』ですよ。ヨーヨーヨー。」


 「分かっとるわ!!分かっとる上で、そう言ったんだよ!!ったく・・・・・・」


 そんなやり取りをしながら、第三駐車場を後にする一行。


 ゴキブリは桃太郎の右肩に、それ以外は各々地を這ったり、浮遊したり、うんこを転がして移動している。


 そんな店へと続く歩道をひたすら歩いていく桃太郎に、メタリーはまたもやこう言った。


 「あれ?本当に寄らないんですか?かーかーかー。」


 「ああ。」


 「寄った方が良いと思いますよ?それに今出歩いていると、()()()に出くわしそうですし。しーしーしー。」


 「『変なのに出くわしそう』って何だよ。そこ、『神星』じゃあねえのかよ・・・・・・それとも何か?『顔真っ赤にして警棒を振り回すおっさん』でも、走って来るっつーんか?」


 彼が何気なくそう言った瞬間、


 「待ちやがれ、クソ犬ゥッ!!」


 「!?」


 知らないおっさんの怒号が聞こえて来た。


 そして、


 「絶対に許さねえからなあッ!!」


 ホントに走って来た。


 『顔真っ赤にして警棒を振り回すおっさん』が!!


 子犬を追いかけて!!


 『噓から出た(まこと)』というのは、こういう事を言うのだろう。


 いや、正確に言うと彼は『嘘』ではなく、適当に『冗談』を言ってこうなったので、ここは『冗談から出た実』・・・っていう風に変換して言うのが適切か。


 これに対し桃太郎は、驚いたというより、困惑した。


 「おいおい、マジかよ・・・」


 そんな彼に、フンコロガシがこう言う。


 「滅多な事は言うもんじゃあないね。」


 ごもっともである。


 「ゴキブリもびっくりだぜぇ~。」




 一方、あれからずっとおっさんに追われている子犬は、中々逃げ切れない事に焦りを感じていた。


 「(そ・・・そんな・・・誇り高い一族の末裔であるおいらが、必死に走っても撒けないなんて・・・・・・ま、まずい!!このままだと、いずれ追いつかれ・・・)!!」


 瞬間、彼の体がぐらっと傾く。


 小石に躓いてしまったのだ。


 「(しまった!!)」


 気付いた時には、地面に転倒!!


 結構なスピードで走っていた為か、そのまま勢いよく桃太郎の足元までゴロゴロと転がっていった。


 「おいおい、大丈夫かよ・・・」


 そっと、地面に横たわった彼の様子を上から確認する桃太郎。


 普通に転んだのならまだしも、あんなド派手にすっ転んだので、心配になったのだろう。


 するとその時、彼の視線と子犬の視線が正面衝突する。


 「・・・・・・!!」


 刹那、何かを感じた子犬。


 彼の全身に、ちょっとした電気がビビッと走る。


 それから数秒、茫然自失(ぼうぜんじしつ)


 目は開いているが、脚の一本も動いていない状態。


 これに対し、すぐそこまで来たおっさんはニヤリと口角を上げた。


 「グフッ、どうやら何が起こったのか分かっていない様子だねぇ~・・・・・・さっ、ここじゃあちと人目があるから、誰もいない路地裏でゆっくり・・・お話ししましょうねぇ~。」


 そう言って、指を蛆虫(うじむし)のようにウネウネと動かしながら、子犬に右手を伸ばす。


 『いやらしい手つき』とはちょっと違う、『邪悪な手つき』。


 『お話ししましょう』とか優しい事を言っていたが、それは絶対嘘。


 このまま連れて行かれれば、確実に心ゆくまで警棒でシバかれてしまうだろう。


 何をされたのかは知らないが、それはちとやり過ぎだと思った桃太郎は、 


 「おい、おっさん。」


 おっさんに声を掛けた。


 「!? な・・・何だ!?」


 「こいつに何されたんかは知らねえが、これぐらいで勘弁してやったらどうだ?さすがに警棒でブッ叩くのはアウトだろ。」


 だが、この程度で納得して帰る程、おっさんは優しくなかった。


 「やかましい!!私はな、こいつに噛まれたんだよ!!ガブリとッ!!いじめていた訳じゃあなく、ただ捨てられているのが可哀そうだったから、頭を撫でようとしただけだってのにッ!!私の手は、フライドチキンじゃあねぇーんだよ!!」


 「何だよそれ・・・・・・そんなん捨て犬を中途半端に構おうとしたアンタが悪いんじゃあねえか。」


 「何だとぅ!?」


 桃太郎の言葉に、彼の『怒りの炎』の火力が増す。


 『火に油を注ぐ』とは、正にこの事。


 ギチチチチ・・・と、強く警棒を握りしめた彼は、


 「この私の・・・・・・どこが『中途半端』じゃっちゅうんやああああああああ!!私は『愛犬家』だぞぉぉぉーーーーーーーーーーーッ!!」


 子犬ではなく、桃太郎に向かって、それを力一杯振り下ろした。


 その刹那ッ!!


 「バウッ!!」


 子犬が牙をむいて、おっさんに飛び掛かり・・・


 「!?」


 噛みついた!!


 警棒を持っている方の手首に!!


 「おぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!」


 おっさん、二度目の絶叫!!


 そのあまりの激痛に、ジッタンバッタンのた打ち回っている。


 まるで水揚げされた魚だ。


 そんな彼を尻目に、子犬は桃太郎の方を見て、こう思った。


 「(やっと見つけた・・・!!やっと会えた・・・!!この人だ・・・!!この人がお(とん)やおっ(かあ)の言っていた・・・・・・)」



 「(『王子様』・・・・・・!!!)」

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