血管の健康を気にする男
異世界から来た桃太郎を監視及び始末の任を言い渡されたブラッディ・シンクタックは、ウマシカ王国に入国する事に成功した。泊まるホテルもきちんと取ってあるし、着替えも十分な位用意した。一年間は、美味しいものを三食余裕で食べれる位のお金も持っている。ブラッディはひとまず、予約してある宿にチェックインして荷物を置くことにした。ホテルは見た感じ、金持ちが泊まりそうな外観をしていた。
「ふむ・・・503号室か。」
扉の番号を確認しながら廊下を歩くブラッディの横を太ったおっさんが照り焼きバーガーを食いながら通って行った。ブラッディは、振り向いてそのおっさんを見ながら言った。
「あのおっさん・・・このままいくと血管が詰まって死ぬな。ああいう食べ物は、血管に悪いんだ。」
普通なら『歩きながら食べるなんてマナーがなってない!!』と思うのだろうが、この男は違った。やはり、血管に気を遣っているだけに感じるものが違うらしい。
「しかし、何で皆バーガーだの何だの食べるのかな?体に悪いって事は知ってる筈なのにさ。お前もそう思うだろ?」
手首の血管に指を当て、自身の血管に問いかけた。
「・・・・・・そうか。そう思うか。だが、俺はあんなもん一切口にしない。このスムーズな血液循環を保ちたいからな。・・・よし、今も尚俺の血液は平常運転で循環している。これからの生活も何の問題も無く過ごせそうだな。・・・おっ、ここだな。」
そう言うと、ブラッディは自身の泊まる部屋を見つけて入っていった。部屋の中は、誰が見ても高級ホテルのそれだった。ベッドは純白でふかふかしているし、椅子やテーブルは木材の良い香りがした。手触りも抜群に良い。テレビはサイズこそ小さいが綺麗に映像が映し出されるものだった。ブラッディは部屋を見回して言った。
「あの方も太っ腹だな。(太ってないけど)こんなに高級なホテルを俺みてえな下っ端に取らせてくれるなんて。あのお方こそッ!!この世界の王になるに相応しいッ!!下っ端になって良かった。」
謎の王に感謝していると、急にブラッディのお腹が鳴り出した。
「おっと・・・昼飯の時間だ。ちょっと街へ出て何か食べよう。」
ブラッディは昼ご飯を買いに外へ出た。『腹が減っては戦は出来ぬ』という言葉があるように今は仕事より腹を満たすことの方が彼にとって重要なのだ。
「何を食べようかな?・・・なるべく、血管に負担にならないもの・・・とりあえずバーガーとかは避けたいな。」
しかし、周りを見てもあるのはコンビニとバーガーショップばかり。一応、焼肉店とか居酒屋はあるにはあるのだが、彼の求めている食べ物がそこにあるとは限らない。キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていると、公園まで来てしまった。
「(・・・クソ・・・あんな血管に悪いもんがウケる時代なのか?俺の実家近くには古くても健康的な定食屋がいっぱいあったというのに・・・城が近いと食べ物も血管に悪いもんだらけで困るぜ。)」
はあっと溜息を吐くブラッディに公園でハンバーガーの屋台をやっているおっさんに呼び止められた。
「よう、兄ちゃん!!うちのハンバーガー買ってかない?うんまいよ~!!」
「いいです。」
即答で答えたがおっさんは食い下がった。
「そんな事言わずにほら買ってってよ~!!今日、お客が少ないんだよ~!!」
「知った事か。そもそも、そんな血管に悪い食べ物を自ら進んで金払って食べると思うのか?」
「何ィッ!?」
ブラッディの言葉に少しカチンときたのか、おっさんは屋台から飛び出して来た。
「おい、兄ちゃん。人が黙って聞いてたら調子に乗りやがって・・・俺の作ったこのすんげぇ~うまいハンバーガーが血管に悪いだとぉ~!?おめえ俺のバーガー食った事あんのかよ?え?」
おっさんはブラッディの胸ぐらを掴んで、無理矢理手に持っていたハンバーガーを口に突っ込んだ。
「おらあ!!どうだ、この俺が作ったチーズバーガーはッ!?美味いだろう?よし、金払え!!てめえは俺のハンバーガーを食っちまったんだからよぉ~・・・。」
何という事だ。自分が無理矢理食わせた癖に金を要求するなんて、まともな人間のする事ではない。それも嫌がっている人間に!!・・・だが、ここで素直に金を払うようなブラッディではなかった。ブラッディは口に入ったチーズバーガーをペッと吐き出し、飲み込んだものを喉に指を突っ込んで吐き出すと屋台のおっさんにガンを飛ばした。そして、今度は逆におっさんの胸ぐらを掴んで言った。
「おい・・・俺は言ったよな?『血管に悪い食べ物』と・・・そんな食べ物をよりにもよってこの俺にッ!!無理矢理ッ!!食わしたなあ~・・・勿論、死ぬ準備は出来てんだろうな?」
喋っているブラッディは怒りで今にも暴走しそうな感じだった。屋台のおっさんはブラッディを見て、恐怖した。
「え・・・ええ・・・いやいやいや!!たかがチーズバーガー一口食っただけじゃん。なあ、兄ちゃん。そん位の事で血管は悪くはならないって・・・あっそうだ、金は要らないから許して、ね?ね?」
「うるせえ!!『そん位の事』が後々命取りになるんだよぉ!!血管ってえのはデリケートなんだ・・・少しでも狂えば内臓にも影響が出るんだよ!!」
「ひ・・・ひぃ~ッ!!」
『問答無用!!』と言わんばかりにブラッディは『血流ルーティーン』の構えを取った。そして、血流を感じ取った。
「・・・そうか、よしよし・・・俺の血液は何とかいつも通り循環しているッ!!そして、俺の動脈が『お前を殺せ』と囁いているッ!!本来なら『あのお方』が出した『抹殺命令』以外ではあまり人を殺したくはないが・・・動脈が言うんだ・・・『目の前の醜い奴を殺したところで任務に支障は出ない。むしろ、ツキが回って来る』・・・となッ!!」
「う・・・うわああああああッ!!た・・・助けてくれぇぇぇッ!!」
屋台のおっさんは殺気を感じ取り、一目散に逃げだした。運の悪い事に助けを呼んでも公園内には人がいないので、逃げるしか自分の命を護る方法は無い。そんなおっさんをみすみす逃がす程、ブラッディという男は甘くなかった。
「命乞いをしてももう遅いッ!!チーズバーガーを無理矢理この俺に食わせた数分前の自分を恨むこった!!てめえは、ドネルケバブの肉のように串刺しにして吊るしてやるッ!!」
ブラッディは屋台から包丁を取って、おっさんに向かって投げつけた。ナイフはおっさんの膝裏にブッ刺さった。その瞬間、おっさんは地面に勢いよく倒れた。
「よし、狙い通り。」
ブラッディはにやりと笑うと、やや早足でおっさんの元へ歩き出した。
その頃、昼食を取ろうとウマシカ城を出たカナリアは自分が今何が食べたいかも分からず、とりあえず街中をブラブラしていた。とはいえ、昼休憩の時間は限られているのでそろそろ決めないとまずい。カナリアは、『とりあえずサンドイッチのような物でいいか』とぼそっと呟くと喫茶店かカフェを探し始めた。すると、目の前におしゃれなカフェが見えてきた。本来なら『丁度良い』と言って入るのだろうがそこのカフェは何と言うか、妙に意識高い人が利用するのでカナリア的には雰囲気とかがあまり好きではなかった。しかも値段が他の店より少し高い。なので、あえて見なかった事にして他の店を探し始めた。すると、カナリアの目にある看板が映った。その看板には『喫茶店 青い春』と書かれていた。
「(ここにしよう。私に丁度良い感じのお店だし・・・。)」
カナリアは、入り口の扉を開けて中に入っていった。
「いらっしゃいま・・・きゃあっ!」
「いらっしゃいませ。」
マリーはカナリアの顔を見て、イケメンアイドルに出会ったような顔になった。桃太郎は、すっかりカナリアの事を忘れており、何でマリーがあんな反応したのか疑問に思ったがこの前の新聞の事を思い出し、『ああ・・・』ってなった。しかし、桃太郎自身は全く持って興味が無い為、いつも通りお冷とおしぼりを持っていった。
「ご注文お決まりになりましたら、お呼び下さい。」
「いや、もう決まってます。」
「はい、分かりました。それでは、ご注文をお伺いします。」
「このサンドイッチAセット一つ下さい。」
「はい、サンドイッチAセットですね。・・・お飲み物はオレンジジュース、コーヒー、ソーダがありますが・・・」
「コーヒーで。」
「ホットとアイス、どちらになさいますか?」
「・・・アイスで。」
「かしこまりました。」
淡々と仕事をこなす桃太郎に淡々と注文するカナリア。注文を取った桃太郎は、注文の紙をマリーに渡すと、マリーからひそひそ話をする位の音量で聞かれた。
「何でアンタは、平常運転なの?目の前にあの騎士が来ているというのに・・・!!」
「だから、興味無いんですって・・・それに客は客だから関係無いですよ。」
「それはそうだけど・・・」
「・・・きちんと仕事してくださいよ?」
桃太郎は、マリーがカナリアの事が気になって仕事が手に着かない様子を予測して、釘を刺しておくことにした。マリーは図星を突かれた顔をした。
「わ・・・分かってるわよ。アンタもテレビばっか気にしないできちんと仕事してよね。」
「さっきまで天気予報だったから見てただけです。今はニュースやってるみたいなんで、よっぽどの事件が報道されない限り見ませんよ。」
桃太郎は言い返し、サンドイッチセット用の皿を取り出した。すると、テレビから『よっぽどの事件』が報道された。
「たった今入って来た情報によりますと、ウマシカ第一公園で四十代後半の男性の遺体が見つかったそうです。男性はバーガーの屋台をやっていたところを強盗に襲われ、殺害されたようです。遺体はパイプのような物で頭から貫かれており、フランクフルトのような状態で発見されました。」
この報道を聞いて、三人は『近場じゃん・・・』と一斉に思った。そして、このニュースはブラッディの耳にも入っていた。ブラッディは古い定食屋さんでバランスの取れた定食を口にしながら、そのニュースを聞いていた。
「(やはり、すぐ見つかったか・・・)」
そう思いながらほうれん草のおひたしを口に運ぶブラッディはどこか余裕そうだ。警察が来るかもしれないと思わないのだろうか。いいや、来たとしても始末するから何の問題もないのだろう。ブラッディは定食を食べきると、残っているお冷を飲み干して定食屋を後にした。
「ふう・・・中々良い定食だった。ほうれん草に焼き鮭、玉ねぎが入った味噌汁・・・どれも最高だった。俺がこの国の人間ならリピーターになるね。」
どうやら、さっきの定食が余程気に入ったらしい。機嫌が良くなったブラッディは、再び『血流ルーティーン』の構えを取った。
「・・・よし、このまま対象を探せば良いんだな。『その方が良い』と言っている・・・。」
ホテルに戻らず、このまま対象(桃太郎)を探すことにしたようだ。しかし、謎の王からはどんな人間かは伝えられてない・・・そもそもその王自体、異世界から何者かが来たという事しか分かっていない。では、どうやって異世界の人間だと見分けるのか。それは仲間の研究員が作り出した『異世界人ワカール』という機械で判別出来る。ちなみにその機械は、二十年以上前の携帯ゲーム機のような形をしていた。
「・・・これで本当に対象が分かるのか?うちの研究員は当てにならん事が多いからな・・・。」
とか言いつつ、電源をオンにした。すると、
「んん!?さっそく反応があったぞ!!」
『異世界人ワカール』は、ピコーンピコーンと鳴り始めた。画面には自分の居場所を示す赤い三角形と対象を示す黄色の円が映し出されていた。画面を見る限り、ここから近いとこにいると分かったブラッディは、機械を疑いつつ向かってみることにした。
「ラッキー・・・と言うのは少し早いな。実際に見て、自分で判断するか。」
ブラッディが桃太郎に接近している時、カナリアを探しに出たタカビー王国第一王女・ジュリエルもウマシカ王国に到着した。どうやら、アホンダラ平原を彷徨っていたら王国の方から新聞が飛んで来たらしい。きっと、誰かが新聞をそのまま外に捨てた時に風で飛んでいったのだろう。勿論、一面の記事はカナリアの事について書かれたものだった。
「お姉様がウマシカ王国の兵士になんかなるはずがない・・・!!あんな男が治める国なんかに・・・確かめないと・・・」
何だか記事の内容を信じていないご様子。ずかずかと関所を通るジュリエルは一旦門番に止められたが自分がタカビーの王女である事を証明する物を提示すると、『失礼しました』と言って門番は敬礼して引き下がったので、そのまま王国内へと入っていった。




