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命の危機は突然やって来る

 花咲(はなさか)桃太郎(ももたろう)は、今でこそ人と関わるのが面倒臭いという性格になっているが、昔はそうじゃあなかった。話は約9年前まで(さかのぼ)る。当時8歳だった桃太郎は、クラスメイトの友達と共に休憩時間を使って鬼ごっこをやったりして遊ぶのが好きだった。朝、登校したら真っ先に友達の所へ行き、昨日あった事やゲームの話をするのもとても好きだった。しかし、クラスの野球大好き小僧にある日こんな事を言われた。

 「花咲くんってさあ、昔話に出てきそうだよね。ほら、花咲か爺さんと桃太郎!!爺さんなのか桃太郎なのかハッキリしろよ~はっはっはっはっはっ」

 この一言が原因でクラスメイトから昔話ネタでいじられる事になる。始めは、突っ込みを入れていた桃太郎も日に日にいじる人間のウザさが増していったのか、イライラが積もり、突っ込みにグーパンチを使用するようになった。この頃から、『クラスメイトって面倒臭い』という考えが根付き始め、よっぽどの事が無い限り人と話すのを拒むようになった。よく担任の教師から『周りと仲良くするように。』と言われていたが、心の中で『うるせえよ、バーカ。』と言って軽くあしらってきた。そして両親には、『何で桃太郎なんて名前つけたんだよ!?』と怒りをぶつけるように言った事もあったが、両親の答えはいつも『昔話の桃太郎のように強い人間になって欲しかったんだよ!!』だった。確かに今流行(はやり)の名前の上に読み仮名ふってくれないと読めない名前よりかは幾分(いくぶん)かマシかもしれないと本人自身思ったこともあったが、昔話とはいえ架空のキャラクターから取るのもいかがなものかと両親の感性を疑った事も多々あった。どうせ取るなら歴史の教科書に出てくる信長とかそういった武将の方が良かったと思ったりもした。


 話は戻り、現代。朝は、鶏ではなく母の悲鳴で父は目覚めた。

 「どうした!?朝っぱらから大声を出したりして・・・」

 『ゴキブリでも出たのか?』と続ける前に父・政則(まさのり)は桃太郎の部屋を見て愕然とした。

 「何だこれは・・・泥棒っていうレベルじゃないぞ・・・」

 怯えながら腰を抜かしている妻に寄り添いながら、部屋を見渡す。

 「け・・・今朝あの子の部屋の前を通ったら・・・こんな事に・・・」

 「桃太郎は無事なのか?」

 「それが・・・いないの。」

 「これはいけない。すぐに警察に連絡しよう。」


 両親が部屋の惨状(さんじょう)を見て警察に連絡している頃、桃太郎はどこかの野原で目覚めた。辺り一面緑でいっぱいで自然豊かだった。二度寝しようとしたら、石みたいな物体に突撃された。

 「いって~!!何なんだよこの・・・んん?」

 「もう!!もうもうもう、もぉぉぉぉぉ!!せっかく異世界に来たのに寝ているばかりじゃダメですよ~!!この近くに王国があるみたいなんで行ってみましょう!!」

 石みたいな物体は、昨日の亀だった。

 「え?・・・何?お前喋るの?」

 「え?今更それ言うんですか?」

 昨日の晩、寝ぼけていたのか中々思い出せない桃太郎に亀が昨日の事を話した。それでようやく、今のこの状況を把握した。

 「おい、なんてことしてくれてんだ。帰らせろ。」

 「ええ・・・今来たばっかりじゃないですか。」

 「何で俺がこんな世界で生活しなくちゃならねえんだよ。帰らせろ。今すぐだ。俺はな、クラスじゃあ確かに『陰キャ』だし、アニメや漫画も好きだけど自分自身が異世界で生活してそこに住む美少女たちとハーレム築きたいなんて思った事ないんだよ。作品として見るのは好きだがな。」

 桃太郎がそんな事を話していると、亀は急に真顔になりこう言った。

 「え?『陰キャ』って異世界でハーレム築きたいんじゃないんですか?」

 「甲羅叩き割るぞてめぇ・・・」

 亀の発言にちょいとイラッときたが気持ちを鎮めて、とりあえず元の世界に戻る方法を聞き出そうと亀を持ち上げた。

 「あのな、陰キャという陰キャがみ~んな異世界でハーレムだの何だのしたいってわけじゃないんだよ。陰キャの中にも異世界モノが好きじゃないっていう人もいるからな。そもそもあれは二次元の話であって、実際は元の世界と同じでどうせモテやしないよ。陰キャだもの・・・というわけで俺は、作品は見るけど自分が異世界で生活するのは嫌なんで、帰らせてくれるよな?」

 桃太郎はずいっと亀を威圧したが、その瞬間亀はとんでもないことを言い放った。

 「まあ、帰れないんですけどね。」

 しばしの沈黙。桃太郎は聞き間違えたのかと思い、聞き直した。

 「え?なんて?」

 「だから、帰れないんですって。」

 またしても沈黙。口を開いたのはこの男。

 「はあああああああああああああああああああああああああああああ!?お前、おいおいおいお前ッ!!おいッ!!今、帰れないって言ったのか!?ええ?ふざけんじゃねえよ、何でだよッ!!」

 「こっちへ来た時、僕のパワーが切れました。僕は、こっちの世界とあっちの世界へ行き来出来る特殊な亀なんですが、それにはパワーがいるんですよ。電車に乗るとき、切符や定期券がいるのと同じようにね。ちなみにそのパワー源は、ガソリンとかではなくもっと貴重なものなのでおいそれと手に入るわけではないです。だから、大人しく異世界生活エンジョイしましょうよ~。ヨーヨーヨー!!」

 なんということでしょう。この亀、(なか)ば強引に連れてきたくせに無責任にも程がある。桃太郎は怒りを覚え、近くにあった岩に亀を叩き付けようと大きく腕を挙げた。危険を感じ取ったのか、亀は慌ててこう言った。

 「ちょちょちょっ!!ちょっと待って下さいよ!!あの・・・あれです・・・そう!!パワー源は確かにガソリンよりも貴重な物ですが絶対に手に入らないという事ではないです!!王国の城下町みたいに人がいっぱいいるとこのお店にいつも置いてあります!!」

 その事を聞いて、桃太郎は叩き付けるのを一旦()め、持っていた亀を見つめた。

 「本当か?」

 「ええ。」

 「ちなみにそのパワー源はなんて言うんだ?」

 「『ラピス』です。」

 聞き慣れない単語に首を(かし)げる桃太郎に亀は説明を続けた。

 「まあ、水晶のようなものなんですけどね。」

 「ラピスラズリの事か?」

 「それは宝石だし、別物です。『ラピス』は、この世界の地底に埋まってある岩から極稀(ごくまれ)に取れる物で、(あお)い石なんですけど熱すれば簡単に水になる上、人間に必要な成分が物凄く、桁違いに多く含まれているんです。昔の人はやれ『不老不死の薬』だの『不治(ふじ)(やまい)を治せる万能薬』だの言って重宝(ちょうほう)したみたいなんですが・・・」

 言葉が詰まった亀を見て、桃太郎は察した。

 「それが戦争の原因になったと。」

 「はい・・・でも、今は平和条約とかで仲良くやってるみたいなんですけどね。」

 しかし、桃太郎が一番気になるのは元の世界に戻るのにどれくらい必要なのかである。そんなに貴重な物なら、売ってあるにしても高校生の身分がおいそれと買える代物ではないし、成金連中が買い占めているかもしれない。桃太郎は、亀に聞いてみた。

 「そんな貴重な物がどれくらい必要なんだ?」

 「一万ラピスです。」

 「お前、マジふざけんなよ。」

 一万という数字に桃太郎は、もう二度と帰れないという事を悟った。そして、諦めたのかそのまま王国に向かって歩き出した。

 「ま・・まあ、ここで生活していたら一万位すぐに溜まりますよ。」

 フォローしている様だが今の桃太郎にとってそれは、火に油を注ぐようなものだった。桃太郎は、歩みを止め、亀の方を向いて大声で怒鳴った。

 「溜まるわけないだろうがあああああああああああああああああああ!!!」


 桃太郎が目覚めるほんの少し前、近くの王国・『ウマシカ王国』では王子であるロバート・ドウジ・ウマシカ(22歳)が国民に向けて演説をしていた。

 「(ちん)は国家なりッ!!朕こそ世界の中心であり、この星は朕を中心に回っているッ!!愛すべきウマシカ王国民よ!!朕の王国にいられる喜びを噛み締めて日々を送るようにと日ごろから言っているにも関わらず、誕生日プレゼントが未だに届いておらん!!城の者からは貰ったが、王国民からは誰一人としてもらってないッ!!皆は母の日とか父の日にはきちんと感謝の気持ちを込めて何かプレゼントをするだろう?くれよッ!!朕は、今ッ!!プレゼントを欲しているッ!!このまましらばっくれるのであれば、消費税を10%から100%に上げてやるぞ。朕に感謝しない王国民なぞただの(みん)だ!!ミンミンゼミだ!!」

 見た目は金髪碧眼(きんぱつへきがん)の美少年で、いかにも王子様という感じなのに演説の内容が残念すぎる。きっと普段から甘やかされて育ってきたのだろう。かなりの我が(まま)王子である。王国民は、口には出さないが心底嫌そうな顔をしていた。こんな嫌そうな顔、王子が見たら怒りそうだが、演説している場は王国が見渡せる位高い位置にあるので、王子からは王国民の顔は見えても表情までは見えない。故に演説している王子からは、王国民が自分の意見を聞き入れているようにしか見えていないのである。こうして王子の残念すぎる演説は終わり、城の中へ王子が戻っていくと王国民はまるで校長先生のクソどうでもいい話が終わった時の生徒のような表情をしていた。勿論、城に戻った王子は王国民がそういう気持ちであるということを知らず、自分に酔っていた。

 「んん~、今日も朕の王国の者達は、朕を神のように敬っているぞ!・・・しかし、何で誰一人誕生日プレゼントを朕にくれないんだ?敬っているなら、誕生日プレゼントは今頃この部屋が物置になる位あるはずなんだが・・・なあ?阿呆鳥(あほうどり)。」

 王子は、近くにいたスーツ姿の鳥に言った。この鳥の名前は阿呆鳥といい、王子をサポートする役職に就いている。ちなみに鳥の種類も信天翁(あほうどり)。阿呆鳥は、ペラペラと喋った。

 「それは王子を敬いすぎて、皆プレゼント選びに苦戦しているからですよ~。王子はこの国の象徴な上に次世代のウマシカ王国を築き上げていく方。プレゼントを贈るにしても何が良いのか分からないんですよ。それに王子、貴方は具体的に何が欲しいのか言ってないじゃないですか。」

 「うむむ・・・具体的に・・・か」

 頭を抱えて悩む王子に阿呆鳥は、心の中で

 「(ケッお前のような馬鹿にあげる人間なんか一人もいるかよ。ばぁ~か。)」

 とか思っていた。


 一方、近くの王国(ウマシカ王国)目指して歩いていた桃太郎と亀のメタリーは、ついに王国の入り口の関所に辿り着いた。

 「ふぅ。結構距離あったな。」

 「ありましたねぇ・・・」

 そんな事を言っているうちに図体のでかい、ゴリラのような関所の番人に止められた。

 「何者だ?」

 (やり)を向けて(にら)む番人に桃太郎は、

 「何者なんだろうね・・・」

 と答えた。外国人と言えばいいのか、旅人と言えばいいのか、はたまた異世界人と言えばいいのか。よくわからないからそういうことを言ったのであろうが、それは番人の神経を逆撫(さかな)でするだけだった。

 「おめぇーなめてんのかぁ?こっから先はウマシカ王国の領地だ。通行許可証が無いんなら帰れ!!」

 「やだよ。」

 番人に何故か対抗する桃太郎。亀が真顔で追い打ちをかける。

 「近くで見ると貴方、かなり不細工ですね。一生結婚出来なさそう。」

 ブチンと何かがキレる音がした。ロープや紙が切れる音ではない・・・番人がキレる音だった。

 「このクソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!ガキの癖に大人を侮辱(ぶじょく)するとは許さんッ!!」

 「違う。今のはこいつ・・・」

 亀の発言なのに、自分が発言した事になっていたので、訂正しようと亀に指を指した。しかし、そこにはもう、亀の姿はなかった。

 「(あの亀ぇ・・・ッ!!)」

 桃太郎は亀に濡れ衣を着せられた。番人は丸腰の高校生相手に槍を振り回してきた。

 「どうだ!?この槍さばき!!素晴らしいだろう?思い知ったか、クソガキ!!」

 高校生・・・しかも丸腰の相手になんと大人気(おとなげ)ない。しかも勝ち誇っている表情が番人の戦闘力の低さを証明していた。だが、桃太郎は勇者ではないのでそう簡単に倒せる相手ではない。桃太郎は、逃げ出した!!

 「くっそ、あの亀ぇ~俺に濡れ衣を着せやがって!!覚えていろよ~!!」

 「ぬはは!!一体誰に向かって言っている!?相手は俺だ!!こっちを見ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 追ってきた番人は飛び上がり、地面に槍を突き刺した。完全に殺す気である。

 「情けねぇぞ!!丸腰の高校生相手によ~」

 「ぬぁーはっはっはっ!!そういうのを負け犬の遠吠えと言うのだク~ソ~ガ~キ~」

 「うわぁ~腹立つわ、あの顔。」

 番人は大声で笑いながら槍を回しながら、ゆっくりと桃太郎に近づく。桃太郎は、何か相手に対抗出来る物がないかと辺りを見回す。しかし、自然豊かな土地故に石っころ位しかなかった。都会とかだったらその辺に廃棄物とかが落ちているので、対抗出来る代物(しろもの)が見つかるかもしれないが、人生そんなに甘くはなかった。桃太郎はその時、白昼夢(はくちゅうむ)を見た。多分、それは死ぬ間際に見える走馬燈だろう。『今思えば、あんな亀と関わったのが運の尽きだった・・・』等と桃太郎は、自身のした行いを後悔しながら見ていた。そんな様子の桃太郎に番人は自身の勝利を確信し、にやりと口角を上に上げた。

 「ふん、後悔してももう遅いぞ。」

 とてもまずい状況になってしまった。桃太郎は、亀に無理矢理連れてこられた身なので、ゲームや漫画の主人公のような能力は一切持っていないッ!!絶望的な状況の中、番人に向かって何かが放たれた。それは、勢いよく番人の腕にブスリと刺さった。刺された腕からは、血が水鉄砲のように噴き出た。

 「ぬぐぁっ!?・・・何だぁ?これは・・・」

 刺さっていたのは一本の金のカーネーションだった。すぐに番人は、飛んできた方向を向いた。しかし、そこにはもう誰もいなかった。

 「くそ・・・このガキの仲間か?」

 ふと、桃太郎がいた方を見る。そこに彼はいなかった。

 「!? どこに行ったんだ?」

 辺りを見回す番人。桃太郎は今、関所の扉を一人で開けようとしていた。こうなったら不法入国するしかないと思ったのか、必死に押したり、引いたりしている。しかし、扉はびくともしなかった。

 「見つけたぞ、クソガキ!!」

 「畜生!!全然びくともしねぇ!!なんなんだ、この扉は~!!」

 命の危機にかなり焦っている桃太郎。不意に横に引っ張ってみると、扉が開いた。どうやら横にスライドさせるタイプの扉だったようだ。桃太郎は急いで中に入り、扉を閉めた。ほっと一安心した瞬間、番人の槍が扉を貫いた。そして、番人は自身の槍であけた穴から扉の向こうを覗き込んだ。

 「ぐへへへへ・・・絶対逃がさんからなぁ~お前。もし、俺を()いたとしても、必ず王国軍がお前を見つけ出して処罰するだろう・・・ぬへへ」

 扉は閉まってはいるが鍵はかかってないので、スライドさせて入ってくればいいのに、何かを言っている番人。そんな番人の言う事は無視して、桃太郎は城下町の方へ走っていった。




 花咲桃太郎・・・高校生  属性・陰キャ  ウマシカ王国への不法入国に成功(只今、城下町の方に向かって逃走中) 能力など無い

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