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陰キャと王子

 「おい、どういうことだ・・・門が閉まっているじゃないか・・・。」

 城の門が閉まっている事に困惑する門田の姿がそこにはあった。実は爆弾を作ったのはいいものの、設置しないといけないという初歩的な事を忘れてしまい、王子にこの前のリストラ処分に対する抗議をしに来たふりをしてこっそり爆弾を仕掛けようと考え、ここまで来たらしい。しかし、来たのはいいが門が閉まっていて入れないので、詰んでしまったようだ。門田は次の作戦を考える為、とりあえずその場を後にした。

 「畜生ぉ~またあの馬鹿王子の気まぐれか?こんな時に・・・」

 ぶつぶつ文句を言いながら城の門に沿って走る門田彰人48歳。健康診断では胃に異常があったらしく、再検査をするように言われている。

 「・・・いや、待てよ・・・」

 ここで門田は立ち止まり、ある事を思いついた。頭の上には今や懐かしい白熱電球のような物のヴィジョンが出ていた。そして、今思いついた作戦がうまくいきそうなのか、『ぐふふ・・・』と笑った。

 「完璧だ。よし、これで行こう!!」

 そう言うと門田はどこかへ走っていき、10分後大きなビニール袋を()げて戻ってきた。そして袋の中からロープを取り出し、力強く左右に引っ張って強度を確認した。強度に納得がいった門田は、また手をビニール袋に突っ込み、小さい子が砂場で遊ぶ時に使う熊手のようなおもちゃを取り出した。

 「後はこいつで・・・」

 取り出すや否や熊手のおもちゃの手でつかむ部分を外し、熊手の先端とロープを(くく)り付けた。所謂(いわゆる)、『カギ爪ロープ』の出来上がりである。

 「よし、これを上に投げて引っ掛けよう。」

 ブンブンとカウボーイのようにロープを回す門田。こんなに目立った事を城の周りでやっていたら、職質されそうなものだが、丁度桃太郎を捕まえるのに兵士を全員投入した影響で城の周りには見張りがいない。しかし、野次馬は続々と集まってきた。

 「ママー、あのおじさん何してるのー?」

 「きっと、自分の事をカウボーイだと思い込んでいる痛いおっさんよ。見ちゃいけません。」

 「おいおいおい!!ありゃ、税金使って浮気して王子に見放された門田っていう重役だぜ。よく表を歩けるな。逆に尊敬するぜ。」

 「・・・で?何してんだあいつは。」

 「王子に抗議する為に城に入ろうとしてんじゃあないの?」

 「ああ、そういや門が閉まってたもんな。でもあれ、不法侵入じゃね?」

 ボソボソ喋るのではなく、堂々といつもの声の大きさで話す王国民に門田は少し苛立ちながらロープを(のぼ)り続けた。やがて、塀のてっぺんまで上り終えると恐る恐る塀の内側の様子を見た。そこで門田は、神々しく光る王子を目撃した!!

 「な・・・何だあ!?あの光はッ!?」



 「『ウマスターシカリバー』・・・朕の一族に代々受け継がれてきた聖剣。その神々しさは暗闇を一瞬で打ち消すと言われている・・・」

 聖剣を天にかざし、王子はうっとりとしていた。一方、桃太郎は『丸腰の陰キャ相手にやべーもん持ってきやがった。』という顔をした。

 「(いやいやいや!!そういうのはもっと魔王とか怪獣みたいな奴に使おうぜ?)・・・おい、よせ・・・やめろ・・・」

 桃太郎は後ずさりしている。さすがに聖剣相手だと()が悪いどころではない。さっきまでの桃太郎を支えていた『生』の執着によるとてつもないパワーは、聖剣を前にして無くなっている。

 「ふん・・・ようやく朕の凄さを理解したか・・・だがもう遅い。」

 チャキッと聖剣の先を桃太郎に向けてゆっくりと詰め寄る王子。桃太郎は、腰が抜けたのかその場に尻もちをついた。その瞬間、最早恒例となっている走馬燈が桃太郎の脳内に出現した!!

 「(・・・これはこの前見た・・・うん、これも・・・これも・・・新映像は入荷していないのか!?)」

 一体、走馬燈に何を求めているんだ。最近、走馬燈を見がちな桃太郎はいつも出て来る映像に飽きていた。

 「(もっと違うの見せてくれよ・・・)」

 桃太郎の要望に応えるように走馬燈は新たな映像を出した。

 「(これは・・・!!)」

 それは、先程桃太郎の牢屋まで来た兵士二人が持っていた銃の映像だった。

 「(いや、もういいよその銃は!!そもそも俺の趣味じゃねえよ!!)」

 走馬燈にツッコミを入れても空しいだけなのに、心の中でツッコミを入れる桃太郎。ふと気が付くと、王子が聖剣を振り下ろそうとしていた。

 「(うおっ!?・・・・・・・・・ん?)」

 ここで桃太郎は塀の上にいる門田を発見した。遠目からなのでハッキリと見えないが銃を構えてこっちを狙っているように見えた。桃太郎は一応、王子に教えてあげる事にした。

 「あのさ、振り下ろそうとしてるところ悪いんだけど・・・あれ、あんたを狙ってね?」

 門田を指さして言う桃太郎。王子は、『んん?』と言って指された方向を見た。

 「・・・・・・何かいるな。おい、捕まえろ。」

 さっきまでの感情のこもった言い方ではなく、あっさりした言い方で兵士に命令した。こうして、桃太郎は聖剣の錆になるのを(まぬが)れた。・・・多分。



 「くっそ~放せ!!私の人生を返せ~!!」

 縄で縛られた門田は叫び続けている。その姿はあまりにも情けなかった。こんな大人にはなりたくないものだ。

 「王子様、こいつ爆弾なんか持ってやがりましたよ~どうしますか?」

 「違う!!これはただのおもちゃで・・・」

 おもちゃだと言い張る門田。そこにカミーテルが割って入って来て、兵士から爆弾を取って匂いを嗅ぎ始めた。

 「くんくん・・・これは火薬!!」

 「そ・・・それはリアリティを追及したおもちゃなんだよ!!火薬ってこんな匂いがするんだよって子供に伝える為の・・・」

 「王子様、これは本物です。俺の神ってる鼻が本物だと言っています。間違いないです。」

 「よし、あの女と同じ地下牢にぶち込んでおけ。」

 王子は冷たく言い放った。門田を囲っていた四人の兵士は、敬礼をした後門田を抱えて地下牢のある建物に入っていった。

 「ふざけるな・・・ふざけるな!!この・・・チクショウめぇぇぇぇぇぇぇぇぇーッ!!」

 地下牢のある建物に入っても尚、王子に対する怒りの声が聞こえてきた。

 「(やれやれ・・・まさか暗殺者に感謝する日が来るとは・・・)」

 桃太郎は心の中で門田に感謝した。あそこで門田が王子を射殺しようとしなかったら、きっと今頃聖剣の錆になっていただろう。・・・とはいえ、まだ終わっていない。もしかしたら、一段落終えたら聖剣で再び襲い掛かってくるかもしれない。そう考えている内に王子が桃太郎に向かって歩き出した。

 「(クッソ・・・やっぱ聖剣の錆にする気だな・・・畜生・・・)」

 しかし、王子は聖剣を持っていなかった。それどころか、機嫌が良いように見える。王子は桃太郎の肩に手を置き、言った。

 「陰キャよ・・・朕は今、感動しているッ!!本当なら朕を助ける義務など無いお前が朕に暗殺者の存在を知らせ、未然に防ぐ手助けをしたッ!!もう、不法入国だとか侮辱罪とかどうでもいい!!朕は国家なので、朕を助けたお前は国を助けたのも同じ!!礼としてお前の愚行を水に流してやるぞ。」

 どうやら、王子は桃太郎に感謝しているようだ。さっきまでの殺気は一体どこへ行ったのか、王子は気持ち悪いくらいに桃太郎を褒めている。

 「しかし、水に流すだけでは朕を助けた礼としてはちょいと物足りないか?・・・よし、朕も欲どはげではない。何か欲しい物を言ってみろ。」

 「ええ・・・」

 桃太郎は戸惑った。桃太郎自身、大層な事をしたつもりはないので、正直遠慮している。本当はここで『じゃあラピス一万下さい。』と言うべきなのだろうが、あまり高価な物をお願いすると王子の性格上、『陰キャが調子に乗るなよ!!』とか言って再び聖剣を持ち出し兼ねないので、なるべくそこまで金がかからない物を頼む事にしようと考えた。しかし、おいそれと考え付くものではない。桃太郎は悩みに悩んである事を王子に頼んだ。

 「じゃあ、俺の部屋掃除してくれない?掃除機も何も無いから掃除するのにかなり時間が掛かりそうなんだよ。」

 「何?掃除だと?そんなもんで良いのか?」

 「そんなもんと思うかもしれないけど、俺の部屋ここ数年使われてないせいか汚れが酷いんですよ。一流の掃除屋さん雇ってその代金を払ってくれない・・・ですか?」

 せっかくの王子のご機嫌を損ねないように口に気をつけながら、お願いする桃太郎。

 「そうか。・・・うむ、良いだろう。一流の掃除屋を派遣して代金を払ってやる。」

 「有り難うございます。(よし、ラッキー!!)」

 桃太郎は心の中でガッツポーズをした。命の危機を回避しただけではなく、大変な掃除もしなくて済んだのでそりゃあもう、ラッキーとしか言いようがない。

 「王子様!!ご無事ですか・・・・・・ええ・・・」

 慌てた様子で出て来た阿呆鳥は王子と桃太郎が仲良さそうに話している様子を見て、困惑した。



 それから翌日・・・

 「駐車場はアパートの隣にあるので、そっちに止めて下さい。」

 掃除屋さんのバンの運転手に駐車場を教える桃太郎。運転手は『分かりました。』と笑顔で言って、隣の駐車場に入っていった。運転手以外の人間はアパートの前で降りて、掃除を既に開始している。

 「ひゃあ、こいつはかなり酷いな。ここの大家さんは今まで部屋を手入れしなかったのか?」

 掃除屋のイケメンな(あん)ちゃんが汚れの酷さに驚いている。

 「ふん、久し振りに腕がなるってもんだぜ・・・。」

 一緒にいるガタイの良い(あん)ちゃんが嬉しそうに呟いた。こんな酷い汚れを前に楽しそうな顔をするこの人は正に『掃除屋の(かがみ)』といえるだろう。

 「しかし、どうすんだ?この汚れは高圧洗浄機が無いと綺麗に落ちないと思うぞ?」

 高圧洗浄機を望むイケメン兄ちゃんにガタイの良い兄ちゃんが冷静に答えた。

 「いや、高圧洗浄機はやめた方が良い・・・。この古さだ、もしかしたら高圧の水に耐え切れず床に穴が開くかもしれん。まずはこの洗剤を万遍(まんべん)なく撒いて、一定時間そのままにしておこう。汚れが浮き上がって落ちやすくなるかもしれない。」

 そう言うと、灯油を入れるポリタンクを床に置いた。きっと、中身は今言った洗剤が入っているのだろう。

 「それもそうだな。・・・んじゃ、俺は畳を外に出してダニ駆除の薬を吹いとくわ。」

 イケメン兄ちゃんは和室になっている部屋に入り、畳を取り始めた。

 「王子様からかなりの金額貰ったんだ。使える洗剤はケチケチせずに使ってやるさ。」

 それからちょっとして、バンを駐車した運転手の人間も加わって桃太郎の部屋の大掃除が始まった。

 


 「はっはっはっ、中々上手くやったもんじゃのう・・・。」

 年寄りながらも豪快に笑うと大家さんは濃いお茶をずぞぞと(すす)った。

 「・・・しかし、世界移動に使うラピスを要求しなくて良かったのか?せっかくのチャンスだったじゃろうに・・・」

 「いやあ・・・ラピスって見たことは無いけど高価な物って聞いたから・・・ほら、高価すぎたらそれはそれで『なんと厚かましい奴!!やはり聖剣の錆にしてやる!!』って言われかねんから・・・」

 「ああ・・・あやつなら言いかねんの・・・」

 再び濃いお茶を啜る大家さん。一息入れたところで、桃太郎は立ち上がった。

 「もう行くのか?もう少しゆっくりしていけば良いじゃろう。」

 「いや、そろそろ行かないと・・・バイトがあるんで。あっお茶ごちそうさま。」

 桃太郎はお茶の礼を言うと大家さんの家を後にした。アルバイト先であるマリーの店に行く途中、偶然楓に会った。

 「あ、桃ちゃん!!大丈夫そうで良かった!!」

 楓は桃太郎の元へ走り寄ってきた。桃太郎は『お、おう・・・』と押され気味に答えた。

 「いや~、店長から連れ去られたって聞いた時はどうなる事かと思ったよ。」

 「心配してくれてどうも・・・ん?ユニフォーム、変わった?」

 「ああ、これね。今日はサッカーなの。うちのサッカーチームは強いよ~?良かったら、見に来ない?」

 「いや、これからバイト。」

 桃太郎は女子から誘われたのは初めてだった。とはいえバイトがあるし、サッカーはアニメや漫画の物は好きだが現実のサッカーはそんなに好きではないので、断った。そもそも、女子に慣れてないのでどうすればいいのか分からないというのも断った理由の一つだ。

 「そっか~、じゃあバイト頑張ってね。」

 楓は笑顔で返すとそのまま向こうの方まで歩いて行った。桃太郎もそのままマリーの店に行き、店員専用のエプロンを付けた。その姿をマリーは評した。

 「あら~、中々様になっているじゃな~い!!」

 「・・・そうですか・・・」

 桃太郎は、容姿を褒められた事が無いので少し照れた様子だった。

 「やっぱアタシの目に狂いはなかった!!陰キャとはいえ、これならお客さんの人気も出るわよ~!!」

 「・・・え?」

 桃太郎は固まった。バイトの内容は裏方の仕事をするはずなのに、今のセリフはどう聞いても客の前に出て仕事をするようだった。

 「皿洗いとかそういう裏方の仕事じゃあないのか?」

 「何言ってるの。もう、馬鹿と決着が着いたのならこそこそする必要が無いでしょ!!貴方は注文を取って愛想良く笑えばいいの!!」

 「ええ・・・」

 桃太郎はこの時、『王子と和解しなきゃ良かった・・・』と少し後悔した。桃太郎は人の前に出て発表するような人間ではないので、愛想よく注文を取ってくるのはかなりハードルが高いのだ。マリーは桃太郎の気持ちなんか露知らず、にこにこしていた。



 「クソッ!!この気配・・・また別世界から人間が来やがった!!」

 どこだか分からない場所の暗闇で、一人の大きな男が椅子に座って言った。どうやら、ここは屋内のようだ。近くには小さなテーブルが置かれており、ワインの瓶とワイングラスが乗っていた。そこへ背の高い女性が男の元へ現れた。女性は心配そうに声をかけた。

 「どうしました?王様・・・」

 「ああ・・・すまない、何でもない。少し、ピリピリしてしまったようだ・・・。」

 男は女性にそう言うと、立ち上がって飾られている絵画(かいが)を見た。絵画は暗くてよく見えなかったが、誰かの肖像画のようだった。

 「我が理想郷を実現する為にも・・・別世界から来た異分子は絶対に排除しなければならない。」

 「ですが・・・今までに来た人間はどれも魔法はおろか剣も銃もろくに使えない奴らばかり・・・王様が気にする事ではないのでは?」

 「ああ、確かに・・・どいつもこいつもカスばかりだった。しかしッ!!もしかしたら・・・って考えると心配で安心して熟睡出来んのだよ・・・これがな。」

 「では・・・私が直々にその人間のもとへ・・・」

 セリフが言い終わる前に男は女性の頬に手を当て、優しく続けた。

 「お前が心配する事でもないし、ましてやお前が出向く事はない。・・・とりあえず、下の階級の者に行かせよう。」

 男はそう言うと、その部屋から出て行った。女性は先ほど男に触られた頬を手で撫でるようにさすると

 「王様・・・」

 と、うっとりした表情を浮かべて言った。

 馬鹿との邂逅篇   完

 次回 馬鹿との日常篇 開幕

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