第2話「なまはげのはなし 2」
バイト先として指定された場所は古い木造の一軒家だった。
玄関を開けるとすぐに長い階段に繋がっていて、なまはげは田中邦衛と、同時に到着した人たちと一緒に階段を登っていった。
登っても登っても階段は続いている。
小さな電球の灯りでうっすらと照らされている階段を一つ一つ踏んでいくたびに
ギィィコォオ ギィィコォオ と音が鳴った。
なまはげはそれが「ち~んこぉお、ち~んこぉお」と鳴っているように感じて、何回もちんこちんこと頭のなかで唱えた。
すると、なまはげの後ろについて登っていた男が話しかけてきた。
「おにいさん、この階段の軋む音って、お~んなのこぉ~お~んなのこぉ~って聴こえない?」
「いえ、全然。」
きっぱりと言った。
「なんだこいつ」と最初は思った。
だが初対面のはずの、しかもこれから数時間ではあるが、一緒に働く人間に話しかける話題としては踏み込みすぎではないか。
そもそもなんだ「お~んなのこぉ~お~んなのこぉ~」って。「な」が入っているせいで語感が合っていないじゃないか。
これを認めてしまったら「黒柳徹子ぉ~黒柳徹子ぉ~」でもよくなってしまう。
「人それぞれだよね 」
小学5年の担任だった長谷川先生を思い出す。
そうやって人それぞれと言っておけばいいみたいなスタンスは気に入らなかった。
「あの」
「なんだい、おにいさん?」
「お~んなのこぉ~お~んなのこぉ~だと、『な』のせいでギィィコォオ ギィィコォオと鳴っている音と語感が合わないと思うんですけど。」
しばらくギィィコォオ ギィィコォオ と階段を登っていく彼らの足音と階段の軋む音だけが鳴っていた。
電球の灯りによってなまはげの後ろについて階段を登っていた男の顔が照らされる。
ニタァと笑った男には歯が数本しかなかった。
「合格だ、おにいちゃん」
気付けば、階段を登り終えていた。
つづく