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【閑話】タルトちゃんのおやつ視察

 四天王ミラージュが居城である幻影城の城下町を歩く一人の少女。

 小さな身長にはおよそ似つかわしくない巨大な鎌を片手に、鋭い目つきで周囲を見渡しながらその足を動かしていた。

 軍服をきっちりと着込み背筋を伸ばして歩くその姿は、彼女の真面目な性格をそのまま表している。

 周囲を歩いている多くの住民と同じ様に頭から生えている二本の銀色の角、そして太陽の光を反射するシルクの様に滑らかな銀髪。

 副官のアスタルトは視察に訪れていたのだ。


「あら、タルトちゃん、久しぶりだねぇ」


 まるで親戚のおばちゃんの様な気軽さでアスタルトへ声を掛ける白いエプロン姿の女性。

 その手には箒を持っており、彼女の背後には【銀のコオロギ亭】と書かれた看板を掲げる店が見える。

 どうやら軒先を掃除していたらしく、その手には年季の入った竹箒が掴まれていた。

 女性の恰幅が良い事もあり、如何にも酒場の女主人といった風貌を体現していると言えるだろう。


「どうも、ご無沙汰しております、マダム・フローラ」


 足を止め、女性に向かってペコリと頭を下げながら挨拶をするアスタルト。

 所作に慣れている様子が窺え、どこかのお嬢様のにも思えるほどに堂に入っている。


「何をそんなにかしこまっているんだい。昔みたいにフローラおばちゃんで良いわよ」


 両手を挙げて少し呆れる様な仕草を見せるフローラは、とても人の良さそうな笑顔をしていた。

 アスタルトとは旧知の間柄らしく、気さくな態度なのも頷ける。

 四天王の副官であるアスタルトは、実質的に東の地ではミラージュに次いで地位が高い。

 普通であれば萎縮してしまうのが当然なのだ。


「いえ、流石にもう子供ではありませんから……。ところで、最近は何か変わった事や困り事はありませんか?」


 視察の目的でもある住民の生活環境の確認、特に目の届く城下町についてはこうして自らの目で確かめているのだ。

 治安の乱れ、市場の混乱、病気の蔓延、諸問題を早期発見するにはこうした地道な活動も重要になる。


「私から見たら、まだまだ子供みたいなもんだけどね。そうさね……最近は塩の値段が高くなってきたよ。唯でさえ高いのに、困ったもんだよ」


 塩は魔族にとっても必需品であり、海に面していない東の地では基本的に高値で取引される。


「なるほど、輸入に何らかの問題が生じた可能性がありますね。ありがとうございます、すぐに調査を行います」


 塩の輸入先は海に面している北の地からになる。

 値段に影響が出るほど産出量が減ったと言う報告も上がって居ない為、原因は他にあるだろう。

 アスタルトは踵を返してその場から移動をしようとする。


「ちょっと、待ちなさい」


 フローラの呼び止める声にアスタルトは制止して振り返った。


「何ですか?」

「そんなに慌てたって仕方がないでしょうが。折角顔を出したんだから、ウチで少し休んでいきな」

「いえ、私にはまだ仕事がありますので」


 にべもなく断りその場を後にしようとするアスタルトの後ろ姿を見て、フローラはニヤリ、と笑みを浮かべていた。


「実は新作のケーキがあるんだけどねぇ」

「……ッ!」


 フローラの言葉にアスタルトの足が止まる。


「果実をふんだんに使ったミックスベリータルト、それはもう蕩けるような美味しさだよ」

「別に珍しくはないですね。果実を使った品など山ほどあります。それに私は仕事中なので、どちらにしても無理ですね」


 そう言いながらも、アスタルトの足は止まったままである。


「最近ミラージュ様が調理法を教えてくれた、かすたぁどくりぃむも使っているんだけどねぇ。それに塩以

外にも困り事は沢山あるんだけど、誰か聞いてくれるお偉いさんはいないもんかね」

「……城下に住む民の声を聴くのも副官の務めです。少しだけですよ」


 後程、アスタルトが口元にかすたぁどくりぃむを付けて城へと帰ってきたのだが、いつもの無表情とは違ってとても幸せそうな表情を浮かべていた為、誰もが幻覚を見せられていると思い込み指摘が入る事はなかった。

 

ご心配おかけして申し訳ありません、二年ぶりに復帰しました。

ページ下部にある、新作「リトライ・リトライ・リトライ」も合わせてよろしくお願いします。

これからまた、色々と書いていけるように頑張ります。


お気に入り・評価・感想、いっぱい頂いてたみたいで本当にありがとうございます!

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