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陰謀の予兆5

「ありがとうございます、国王陛下。捕えた魔族からは多くの情報を入手する事を約束致します。何せ私が体を張ってまで命を救った貴重な魔族の捕虜ですから、王国に平和をもたらす為に、そして親愛なる国王陛下のご期待に応える為にもしっかりと有効活用させて頂きます」


 ファルサは心にもない台詞を一切の淀みなく発しながら、国王の座る方向へ完璧な所作で礼をする。

 そもそもルウが知っている程度の情報はファルサも知り得る事ばかりであり、侵入経路についても転移魔法と確信している以上、情報の提供など何とでもなるのだ。

 ルウは現在ファルサが持っている王都内の隠れ家の一つに匿まわれているが、未だ目を覚ましていない。

 仮にファルサ以外の人間、特に敵対する派閥の者たちにルウの身柄を預けてしまった場合、会議までの僅かな間ですら無理にでも目を覚まさせて執拗な尋問、いやもしかすると拷問すら厭わずに行われる可能性があっただろう。

 それを転移魔法による暗殺と内通者の存在を仄めかす事で、貴重な情報源となる魔族をファルサが独断で匿った理由にしているのだ。

 魔王軍が四天王を中心として四つに分かれており、長年戦っているのは南の地を治めるクリューエルの残虐軍だけなのはヴァロワ王国の上層部では周知の事実である。

 その上、三つの四天王たちの情報は極端に少なく、仮に全軍が一斉に攻め込んできた場合には太刀打ちできる可能性は低いと考えられているのだ。

 だからこそ人間たちは勇者という個人でも一軍と戦える存在を作り出している訳であり、それとは別に魔族が手中に収めた状況ならば情報を吸い取れるだけ吸い取ると考えるのは当然の事であった。

 だが、国王の発言に乗っかるような形でさりげなくルウを庇った事を正当化しようとしているのがファルサの嫌らしさであり、抜け目のない部分でもある。

 ファルサの本心としては単純にルウを守る為の演技以外の何ものでもないのだが、まるで国王やヴァロワ王国の為に体を張ったように聞こえてしまう。

 これには敵対派閥の人間も異を唱える事が出来ず、ファルサが捕えた魔族から情報の入手を失敗しない限り、どうしようもないだろう。

 勿論、事実はどうであれファルサが失敗する可能性など、存在しないのだが。


「ファルサよ、そなたの働きに期待しているぞ。ところで、お主と勇者ユリアにわざわざ魔族の出現を知らせた件、これについてはどのように考える? 魔族を囮にしてそなたらを亡き者に、という目論みなのだろうが、それにしては随分と杜撰な計画にも思えるが……」



「……それについては私も疑問を感じておりますが、おそらく一番の目的は勇者ユリアの実力を測る為ではないでしょうか。魔族にとっても勇者という存在は脅威に感じる、というよりも我々からしたら脅威に感じて貰わないと困りますからね。勇者の実力を確かめる事が最優先であり、囮となった魔族の口封じや私を殺害する事はそのついでと言ったところでしょうか。まあ、この辺りの目的は捕えた魔族もいることですし追々明らかになると思います」


 勿論、このファルサの発言は真っ赤な嘘である。

 そんな事よりも重要なのがミラージュとアスタルトの変装をしていた事と、遠く離れた狼魔族の村から人間の国へルウを連れてきた事だ、とファルサは考えていた。

 これは明らかに幻影のミラージュへの揺さぶりであり、その為に勇者ユリアやルウが利用されているに過ぎないのだろう。

 魔族に対抗するべく育てられたユリアであればルウを殺すだろうと敵が予測しており、事実、ファルサが止めなければ現実のものとなっていたはずだ。

 王都に魔族が現れた情報などすぐに王国中に広まり、いずれは魔族領にもその話が伝わってくる。

 そうなった時に起きる事が、ミラージュへの容疑や狼魔族との関係悪化である。

 しかし、ルウの身柄さえ確保していれば王都の南門に現れた仮面の魔族がミラージュの偽物である事を証明出来るのだ。

 今回の企みを実行した犯人の誤算は、ミラージュとファルサが同一人物であると知らなかった事である。

 勿論、王都からすぐに連れ出してしまっては、ミラージュとファルサの間に何らかの関わりがある事がばれてしまう可能性もあるので、どうにか策を練る必要は生じるだろう。

 ファルサの人間側としての最優先事項はルウをしっかり確保しておく事であり、それから先の事は情勢を見極めながらになる。


「どちらにしても件の魔族からどれだけ情報を得られるかにかかっておるな。転移魔法への対策も含めて適任はファルサ以外にはおらぬと思うが、異論がある者はおるか?」


 転移魔法などと言う未知の存在への対策など、当然誰にも出来る事ではない。

 他の宮廷魔導士たちもファルサに対抗して名乗りを上げたいのは山々だろうが、想像の範疇でしかない魔法の対策など見当もつかないはずである。

 魔力印の確認も彼らからすればファルサの予想に過ぎず、もしかしたら自在に使うことが出来るのかもしれない、それとも別の魔法の可能性もあるのでは、と考えてしまっているのだろう。

 だからこそ、明らかに転移魔法の対策など失敗する可能性が高い役目に志願する事など出来ないのだ。

 ファルサ以外の人間にとっては、未知の魔法を扱う魔族への対策など雲をつかむ様な話なのだから。


「うふふ、私のファルサ様にかかればこの程度は児戯にも等しいですわ。お父様もそろそろ安心して隠居されても構わなくてよ」


「全くアウラは相変わらずじゃな。ワシもまだまだ現役を貫くつもりだからそう簡単に王位はやれんわい」


 アウレリアの発言により威厳のある国王から一転、気の良さそうな父親の面を見せているのだが、ファルサにはそれが本性でないとわかっていた。

 国のトップたる国王陛下は良くも悪くも冷酷な面を持っており、第一王子や第二王子の継承権を下げてまでアウレリア王女もしくはその伴侶となであろう人物を次期国王として考えているのだ。

 これは決して娘可愛さではなく、ファルサが宮廷魔導士として働き始めるまでのアウレリアの王位継承権は王族の中でもかなり下の方に位置していた。

 いくら本人が優秀であろうとアウレリアは我儘王女として悪名を轟かせており、人の上に立てる存在だと認められていなかったのだろう。

 しかしファルサやゼノビアを自らの派閥に加え、宮廷内の膿を追い出すついでに他の王族の後ろ盾となる人物まで失脚させたアウレリアの手腕は大きく評価され、今では継承権一位を得るまでになっている。

 宮廷内の政争に勝てなくては国家間の政治や未だに底の見えない魔族を相手にヴァロワ王国を存続させることは難しい、と思うのは国王として当然の事であった。

 また、アウレリアの暗殺を目論んでいた第三夫人やその子供である第四王子と第二王女は、事実が暴かれてから国王の指示によって密かに粛清されている。

 表向きは病気療養で王族の保養地にて安静に過ごしているとされているが、表舞台に立つことは二度とない。

 しかし国王もただアウレリアを自由にさせている訳ではなく、その能力を上手く利用して自身の力を強めているという面もあるのだ。

 実際に、アウレリア主導で行われている地方貴族の不正撤廃は貴族たちの力を弱めて、王家、つまり国王の影響力を上げる事に一役買っている。

 あくまでもアウレリアは王位継承権が一位であるだけで、権力は当然ながら国王の方が大きいのだ。

 大がかりな政策を行う時などは国王への根回しは必須であり、アウレリアの案の全てを受け入れてもらえるわけではない。


「あんまり年寄りが無理をし過ぎると尻拭いをする下の者が苦労致しますわ」


「はて、年寄りの姿などどこにも見えんが……そういえば、どこかの小悪魔が邪魔な老人たちを追い出しているお蔭で、この会議室に居る者も随分と若返って居るのを忘れていたな」


「あらあら、私はそんな野蛮な真似はしておりませんわ。お父様ったらもうボケてしまわれたのかしら、おほほほほ」


「ワシがボケてしまったら王位継承権の順番も忘れてしまいそうじゃな、ふぉっふぉっふぉっ」


 アウレリアが年寄り扱いしている国王は四十代半ばで一番脂が乗っている年齢である。

 笑顔で冗談を言い合っている様にも見える二人なのだが、その会話の内容は随分と黒いものであり、会議室内の半数以上の人間は引きつった笑みを浮かべていた。

 彼らにとって追い出された年寄りとは以前の上司や派閥の長であり、その前任が抜けた穴に収まる形でヴァロワ王国の要職を務めているのだ。

 このような話題を軽はずみな気持ちで他の者が出そうものなら叱責を免れない程、各派閥ではタブー視されているのだが、ここにいる父娘には通用しないのだろう。

 内心を表に出さず上品に笑う王女と国王は、誰がどう見ても似たもの同士である事に疑いを挟む余地はない。

 しかし、決して二人の仲が悪いという事は無く、政務の合間を縫って庭園でお茶をする姿を度々目撃されているのだ。

 政治的に両者に得があれば互いに協力し合う間柄であり、仲の良い親子に違いはないのだが、王位の継承時期については両者の意見は食い違っていた。

 地盤も固まり十分に王位を継いで国内を掌握できる自信のあるアウレリアと、まだまだ時期尚早と判断している国王。

 万が一のことを考えて継承権こそアウレリアを一位に据えているものの、今後も変動する可能性は大いにある。

 特にアウレリアの右腕であるファルサの存在は、頼もしくもあり不安な要素もある事に間違いはないのだから。

 ヴァロワ王国のトップに君臨する国王、ルイ・ド・ヴァロワの判断は実に正しく、ファルサが魔族の血を引いていると言う大きな爆弾が表に出てしまえばアウレリアの王位継承どころの騒ぎではなくなってしまう。


「国王陛下にアウレリア王女殿下、お二人の仲が宜しいのは大変結構なのですが、そろそろ次の議題に移りましょう」


 そんな爆弾男ファルサは、内心ではさっさと会議を進めて欲しいと文句をつけながらも、それを一切出さずに笑顔で会議を進める様に提案をする。

 他の者はあまり触れたがらない二人のやり取りに割って入れるファルサは、ある意味貴重な存在であった。

 そして魔族の対応への細かい部分や、今後の王国内における警備強化の方針、不審人物の摘発などなど、現在取ることが出来る対策について話し合いを続け、日が暮れるまで会議は続いていく。




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