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イゾルデ王国の自治区についた翌日。私とレオンは建物を扱う不動産屋に来ていた。
「そうですねぇ。ある程度広い建物で部屋が多く、また庭なども大きいとなると....これぐらいですかね」
店員がパラパラとめくっていたなかの一枚を取り出した。
「やはり、そういう条件となるとここではこれぐらいですね。建物は元々教会として使う予定のものだったので、比較的新しく綺麗なのですが......」
「何か問題があるのか?」
「問題と言いますか....。少々値が張りまして、なかなか買い手がつかないのですよ。それに、曰く付きだという噂まで流れてしまいまして。正直うちでも扱いに困っている物権なのです」
私はレオンと目を合わせ、頷いたのを確認すると懐から金貨の入った麻袋を取り出した。それを見た店員は驚愕の表情で固まっている。
「これで、なんとかなるかな?」
思わせ振りに麻袋を振り金貨の音をさせると、机の上にそれをぶちまけた。
ジャラジャラジャラと鳴る音に、店員は更に目を見開いた。
「こ、これは......」
「足りないなら、もっと出すけど」
「い、いえ!十分です!むしろこの金貨三枚もあれば大丈夫です!」
慌てたように立ち上がると、更に麻袋を出そうとするアリスを止めにかかった。
「なら、これでもう契約完了でいいんだな?」
「はい!もちろんでございます!お買い上げありがとうございました!」
店員の大きな声を背に、金貨をふところにしまった二人は外へ出ていった。
「いやー、危なかったなぁ。私のへそくりだけじゃ足りなかったかも」
不動産屋から出てしばらく言った場所で、私はホッと息をついた。
「そうだな。事前に増やしておいてよかった」
「でもまさか、竜の鱗があんなに高値で売れるとは思わなかった。二枚売っただけで金貨五十枚とか....。どうせまた再生するのに」
「人間の間では竜どころか竜の鱗でさえ滅多に目にすることのない珍品だからな。無理もない。それよりも、さっさとこの場所に行くぞ、。五番街と書いてあるからここから少し外れたところだな....」
ここは自治区と呼ばれる住民から選ばれた自治区長がおさめる民主的な土地なので、身分差は全くといっていいほどないが、時おり訪れる国の役人を迎える迎賓館や、自治区長の住まいは一番街にある。その一番街が町の中心でそこから外側に二番街、三番街となっていくので五番街はかなり郊外の方になる。
「こういう時、飛んでいけないのは不便だね」
「俺はどっちにしろ跳べないけどな。ほら、行くぞ。設備とか色々確認して揃えるものを買わないといけないからな」
しっかりしてるなぁ。レオンには感謝感謝です。
こんなこと本人に言ったら、何を当たり前のことを見たいなめでみられそうだけど。
「へぇ、想像以上に広いねこれは」
私がそう声をあげると、レオンも同感だというように頷いた。
「庭も広いし、隅で野菜を育てたりできそうだな。建物もきれいだからリフォームする必要もない。協会にするつもりだけあってちゃんとしてるな」
中は広く、食堂やトイレ、風呂など生活に不可欠な設備はちゃんと備わっていた。部屋数も多く礼拝堂にする予定だったのであろう大部屋が一つ。2、3人が、過ごせるだろう小部屋が十数室となかなかだ。
「ベットなんかは買う必要があるけど、はじめは1、2個買っておけばいいな。食堂の椅子なんかは備え付けのものがあるし....。て、どうした?」
さっきからキョロキョロと辺りを見回している私を不思議に思ったのか、レオンが怪訝な顔を向けてきた。
「いや、私にもよくわからないんだけど....。何か気配がしたような気がする」
「本当か?」
「んー......。わかんない。すぐ消えたから」
何か自分のなかで引っ掛かりを感じるものの、それが何かわからないもどかしさが広がっていく。
「どこから感じたんだ?気になるなら探したほうがいいだろ」
「何となくだから......あっ!こんどははっきりしたのが四人入ってきた」
はっきりと感じる気配に、レオンを見ると彼も感じたようだ。
「とりあえず行ってみるか。人の所有地に勝手に入ってくる輩だ。何かされたら困るからな」
「そうだね」
私ははじめの気配がしたような気にかかりながらも、レオンを追いかけた。