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「突然だけど、君に孤児院をつくってもらいたい」
始まりは久しぶりに訪れた友人アウローラの一言だった。
「.....と、まあそういうわけで私孤児院始めるから」
「....アリス。突然なに言い出すんですか。そもそも始めるにしたってどこでするんですか?この竜王国には必要ないと思うんですが」
私の決意を込めた言葉に呆れたような目でこちらを見てくるのは、冷たさを感じさせる美しさを持つ我が幼なじみレオンである。その冷たい眼差しで見下されたいという者が続出中だが、残念ながら私にそっちの趣味はない。
「そりゃまあ竜族は皆家族みたいなものだから必要ないけどさ、アウローラには人の国に作って欲しいって頼まれたんだよ」
「わざわざ竜王の娘であるアリスがする必要はないと思いますけど....。もしかして、イフリート様達から逃げる口実ですか」
ギクッ
「図星ですか、まあ、気持ちがわからなくもないですけど」
はぁ、とため息をつくレオンをよそに、私は視線を窓の外へとさ迷わせた。
アリスの兄、つまり竜王の息子であるイフリートやダルトルは、はっきり言ってしまえば「シスコン」である。年の離れた妹で末っ子のアリスを愛でるだけならまだしも、最近ではエスカレートしているのだ。
朝起きると何故か同じベットに一緒に寝ていたり、食事の度に甲斐甲斐しく世話をしようとしたり、終いにはアリスと仲のいいレオンに絡んだり......などなど上げれば数えきれないほどある。
「....それで、詳しい計画はどのようなものですか」
「えっとぉ....「まさか、何も考えていないとは言いませんよね」
まさにその通りです、と言いたかったが言ったら言ったでレオンが静かに怒るのは目に見えている。今でさえ額に青筋が浮かびかけているのだ。言った瞬間私は無事ではすまないだろう。もちろん精神的な意味で。
「と、とりあえず比較的治安がよくて遠くもなく近くもない場所にしようかと.....」
「資金は...」
「私がこつこつ貯めたへそくりでなんとか......」
「..........」
「..............」
居心地の悪い無言が続くなか、私は完全に蛇に睨まれたカエル状態だった。どっちかというと竜だから蛇の方なのに......。
「まあ、いいでしょう。どうせ俺も付き合わされるだろうし...やれるところまでやってみますか」
その言葉に顔がにやけてしまったのが自分でもわかった。