表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現世でも勇者は勇者  作者: 花音小坂
あの世
3/13

生まれ変わり

ここは、いったい、どこだ。

 気がついけば寝転がっていた。起き上がって周りを見渡した。

 闇、闇、闇。至る所、闇ばかり。

 先の記憶を、必死に手繰り寄せてみる。

 確かに、アレスは死んだ。それは確かに実感として感じていた。魔王にはまったく歯が立たず、仲間に回復魔術を掛けて貰えず、真っ先に死亡したはずだ。しかし、今、身体には傷一つない。

 とにかく、何かやらねば。

 四方が暗闇で、どちらに向かったらいいのか、全くわからない。そもそも、目的地すら、ない。しかし、何もしなければ事態の打開は無いことをアレスは身を以て知っていた。だから、歩は止めずにとにかく進んだ。

 一向に景色が変わる気配は、無い。

 地獄なのか、ここは。

 そんなことが頭によぎり始めた時、突然、周りがパッと明るくなった。

 気がつけば、囲まれていた。「何に囲まれているか」と尋ねられると、非常に困るところだ。人の形をした姿もあれば、動物のそれもいた。しかし、どれも、今まで見たことも無いような姿形だ。まさか、新手の魔物かと、反射的に身構えた。

 人……だろうか、とにかく一人近づいてきた。

「お前が勇者アレスか?」

恐らく、口であろう箇所から声が聞こえた。もちろん、その言語が理解できるわけはないのだが、なぜか、意味は理解できた。耳で聞くと言うよりは、頭に直接入って来る感覚に近いのかもしれない。

「だったらどうだと言うのだ」

警戒しながら、相手を睨みつける。

「……よくやってくれた」

そう人らしき者が言った瞬間、周りから爆音が飛んだ。どうやら、その者たちは笑っているらしかった。

 そして、どうやら俺は笑われているらしい。

「何がおかしい!」

意味がわからないが、笑われるのは、とにかく不快だ。

「っははははははは……いや、すまんすまん。いや、笑わせてもらった。まさか、忘れ物して全滅するとは、まったく予想外だった」

そう言われた途端、思わず顔が真っ赤になった。

「まあ、そう警戒するな。ここにいる者に、お前の敵はいない。みんなお前の『敗北』に賭けた者ばかりなのだからな」

賭ける……どういうことかすぐに理解できなかった。そして、奴は言葉に発さなくとも、アレスの思考を読み取っている。なぜかはわからないが、そう確信した。 人らしき者は話を続けた。

「いや、勇者一向が勝つか、魔王が勝つか賭けてたんだ」

なんたる失礼な話だが、今はそれより、この状況の謎に対する好奇が勝った。

「お前たち、一体何者だ?」

「まあ、お前たちの尺度で言うと『神』という存在に近いかな」

事もなげに答える人らしき者。

「神って……お前たちが? バカな!」

思わず、アレスは鼻で笑い返していた。

「まあ、信じなくてもいいがな」

その物言いに、思わず反発心が湧いた。

 お前らのような、神がいてたまるか。

「神ならば! 神ならば、なぜ、魔王がのさばる!」

悪の味方をする神がいるか。

「ふむ、善悪の観念も面白いが、あくまで人間的な考え方だな。我々は、そんなに気にならんけどな」

「な、なんだと!」

絶対に神じゃない。こんなふざけた奴ら、絶対に、神じゃない。

「まあ、そんなことを議論していても無駄だ。ただ、儲けさせてもらった。そして我々は、お前に礼を言いたかったのだ。お前が生まれ変わる前にな」

「生まれ……変わる?」

「ああ、お前は死んだのだからな。ええっと……お前の次の運命は、また、人間か」

信じるか、こんな奴の言うこと。

 死んでるって? 傷一つないじゃないかこの身体は――って少し透けてるっ!。

 『神』と名乗った人らしき者は、残念そうにため息らしきものをついた。

「まあ、連続で人間なんざ、大して変わり映えしなくて面白くないが、これも運命だ。我慢しろ」

突然、身体がフワリと浮かび始めた。空中でジタバタもがくが、どんどん、上へ浮かんでいく。何とか抵抗しようと、さっきから何回も魔法を放とうとするが、一向に発動しない。

 あまりに現実離れした出来事、手も足が出ないことが続いていた。

 こうなってくると、不思議なモノだ。だんだん薄くなっていく身体も、『神』と名乗った者の言葉も、妙に納得し始めた。

 生まれ……変わるか。

 これでいいのかもしれない。正直、忘れ物して仲間を全滅させたなんて過去は、一刻も早く忘れ去りたい。最後にそれだけ、脳裏によぎった。

「あっ、そうだな。面白そうだから、記憶残そう」

『神』と名乗る者は呟いた。またしても俺の思考を読み取って。

 ふーざーけーんーなーこーのーやーろー

 叫び声が虚しく響きながら、アレスの身体と意識が消えて行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ