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異常以上

 いつの間に視界が真っ暗になっていた。

 左右に頭を振り視線を巡らせても完全に闇しかなかった。

 

 

 「ん? 停電か?」

 

 

 いや、それはおかしい。

 今は昼間の筈だ、全ての照明が消えても後ろのカーテンの隙間から多少なりとも遮光が入る。

 だからこんな、一寸先も闇なこの状況は日蝕でも起こらない限りあり得ない。…たぶん。

 

 ならばVRマシンでゲームにログインしてそこで問題が起こってるかといえば、それは最初からあり得ない。

 ()()()れたのだ、ならここは現実世界だ。

 

 

 (しのぶ)がプレイしてたVRゲームは正確には『視覚聴覚拡張投影型VRディスプレイゲーム』というジャンルだ。

 これはヘッドホン付きゴーグル型ディスプレイで仮想空間の音を聞きながら、映像を見ながらゲームをプレイする方式だ。

 完全に仮想空間とプレイヤーの五感をリンクする『完全感覚没入型VRマシン』ではないが、それよりも安価で手に入りやすく、安全性もこちらのほうが高い。

 なおかつ日本の七海ブロック社を除けば、世界中で出回る『完全感覚没入型VRマシン』は性能が低すぎるので、いまだ『視覚聴覚拡張投影型VRディスプレイゲーム』がゲーム業界の主流だ。

 

 

 その『視覚聴覚拡張投影型VRディスプレイゲーム』は、あくまでヘッドホン付きはゴーグル型ディスプレイで音と映像を人体に届けるだけだ。

 ならばゲームのアバターを動かすのはコントローラだ。無論、視線を動かすのも。

 

 ということは、コントローラの操作無しで体が動くなら現実ということだ。

 

 ならこの暗闇はなんなのか?

 

 忍は特に理由もなく、「照明点灯」と呟いてみた。これがVRの世界ならこれだけで明るくなるのだが______、

 

 パッと、

 

 明かりが灯り、

 

 忍は絶句した。

 

 

 明るくなった空間は、無機物で構成された世界だった。

 というか忍にとっては見慣れた光景。

 

 そこはVRゲーム『ロスト・インフィニティー』で忍が所有する移動基地の艦橋の指令室だ。

 

 忍は唖然とした表情のまま、ノロノロと両手を頭まで上げさせ、頭部に触れた。ゴーグル型ディスプレイは、無い。

 それどころかサラサラとした長い髪の感触がかえって来て二重で驚く。

 

 

 「……あっ、えっと、かっ鏡は」

 

 

 また確認すべきことが一気に増えて、そこで鏡が必要になったので、

 

 体内のナノマシンを操作して異次元収納空間(アイテムボックス)を起動させた。

 

 今まで現実(・・)では、やったことのないその行動を慣れて体に染み付いたように出来ることに内心悲鳴をあげつつ、空間に波紋が現れ異次元収納空間(アイテムボックス)が開いたという、ゲームでは見慣れた光景が現実に起きる。

 

 今はそれすらも努めて無視し、空中の波紋(アイテムボックス)から適当な手鏡を引ったくるように取り出し______、

 

 

 

 そこには『ロスト・インフィニティー』で忍が使っていた女の子のアバターの姿をしていた。

 

 ちなみに、亥条 忍の本来の性別は男だ。

 

 ついに忍の精神は限界を向かえ、ぶっ倒れた。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 「…………なぜだ」

 

 

 もうこの呟きは幾度めだろう。

 

 忍は指令室の床に仰向けで転がっていた。…ひんやりしてて気持ちいい。

 

 これも何度だろうか、惰性で手鏡を顔の前に持ってくる。

 

 そこに映るのは、可愛らしい外見の(見た目)美少女。

 

 黒髪ツインテールで全体的に幼い印象。

 だがその幼さは実際この体が幼い訳で無く、身体のラインが細く丸っこくて顔が童顔寄りだからだ。

 身長は165はあるし、腰とかキュッと括れてるくせに出るところはきちんと出てる。主に胸とかお尻とか。

 どっからどう見ても可愛い系アイドルにしか見えない外見。だが、一つあまりにも台無しな所がある。

 目が、死んでる。

 顔のパーツはどれも愛らしいの一言なのに、ただでさえ鋭めで勝ち気そうな瞳は険が出ていて実際以上に鋭く見えるし、瞳の中はハイライトが消えて淀んでいる。

 切り揃えられた前髪は目にかかるか、かからない位まで伸ばされており、それが目に影を作りよりいっそう険悪なオーラを出している。

 例えるなら、家庭内暴力と学校でイジメにあい続け、今にも自殺するんじゃね? と端から見たら思ってしまうような感じの女子中学生。

 こんな娘に睨まれたら、正直泣く。

 

 ……まあ、それは今ではもう自分の顔のなんだが。

 

 

 「…………………なぜこうなった」

 

 

 二重の意味で。

 

 

 いや、一応の見当はついている。

 先ほど異次元収納空間(アイテムボックス)反射的(・・・)に使えたように、この身体は忍が知らないことを知っている。正確にはゲーム内限定のはずの肉体、ゲームアバターの記憶だ。

 例えば、そのゲームアバターで拳銃を持たせて戦ってきたとしよう。現実のプレイヤー自身は拳銃の扱いなんて知らなくても、現実(・・)肉体(・・)がゲームアバターになった今、その身体に染み付いた動きで拳銃を扱うことができる。

 

 

 そう、これまでの行動と鏡に映る姿から導き出される事実。

 つまり、ゲームのアバターになってしまっているのだ、忍は。

 

 

 「うぅ、現実の身体どこいたんだよぉ~」

 

 

 このような極限の状況だ、泣き言を漏らすのも仕方ない。

 が、さらに忍を追い詰める事実があった。

 忍がいる移動基地自体は忍のことを所有主(マスター)と認識してくれてるようで、きちんと命令を聞いてくれるようだ。

 そこで(寝っ転がったまま)周辺の地理のスキャンをさせてみた。この命令自体はゲームだったころと扱いが変わらないのですんなりできたが。

 

 問題はスキャンの結果だ。

 一応、忍は余裕の無い思考力を必死に回して、ここはゲームの世界、もしくはゲームに似た現実の異世界だと予想をつけていた。

 たとえ、こんな異常な状態でもVRゲーム『ロスト・インフィニティー』に関係のある世界なら、どうにかできるかも、と。

 何せ、忍は極めていたのだ。

 『ロスト・インフィニティー』のことなら全プレイヤー最高の知識量をもつ、勿論戦闘においても最強だ。

 もしかしたら何とかなるだろうと、希望を見いだしていた。

 

 

 だが、現実は無情。

 

 

 スキャン結果は、

 [周辺1000kmの地理及び、動植物に該当件数、0件]。

 

 

 本日何度目かの絶句。

 もはや起き上がる気力は消えた。

 

 この時点で、

 ・ゲームの世界に入った。

 ・ゲームに似た異世界に来た。

 ・現実世界でゲームアバターの姿になった。

 etc.etc.

 

 これらの可能性が全て潰えて、

 

 ・未知の異世界にゲームアバターの姿で転移

 

 に、ほぼ決定した。

 

 ほぼ、というのは一応、ここがゲームの世界、またはゲーム関係の異世界で、予告無しのアップデートで新フィールドができて、今自身はそこにいる____という可能性もあるにはあるが、『ロスト・インフィニティー』の舞台の惑星のマップは全て存在しているので、新フィールドは別の未知の惑星だろう。

 

 つまり、どのみち自分の常識が通用しそうにない謎まみれ危険な環境に変わりはないのだ。

 

 あと、移動基地の計器の故障といのもあるが、その点については、体内のナノマシンのお陰で移動基地の状態を把握できるので可能性は低いだろう。

 

 …というナノマシンで基地の状態を把握、なんてことが自然とできることにまた絶句するのだが。

 

 

 

 そして忍が恐れることがもう一つある。

 

 

 このような事態になった原因に一つ、心当たりが

あるのだ。

 

 そもそも、忍はVRゲーム『ロスト・インフィニティー』にログインした____と思ったところで、気が付けばここにいた。

 

 そのログインする前、忍は何をしていた?

 

 ………誘拐の準備。

 

 今となっては未遂と化したが、この事態にならなければ今頃、忍は実行していただろう。

 

 罪の無い、幼い少女の人生をメチャクチャにするであろう、悪事。

 

 まだ欲に耐えていたころの自分なら、殴り殺してでも止めたであろう、許されざる愚行。

 

 万死に値する薄汚い、罪。

 

 

 そして、今の異常な状況から導き出されるのは、

 

 

 

 

 「……………………これって、天罰?」








 ゲーム名の『ロスト・インフィニティー』は後日変えるかもしれない。…適当に考えたしね。

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