夢の続きを
僕のこと好きでしょ?
もう何度囁かれたかわからない。
頭が混乱して、もしかして本当に好きなんじゃないかと思う。
まだ実際に会ったことない、会う可能性もない夢の世界で。
想いは膨らむといっても、ただ想像の中で。
芸能人に恋をしてるとか、そういうレベルかもしれない。
でもやっぱりそれより可能性がないのは、実在する人物がいるかどうかで。
よって私のこの複雑な気持ちは、到底落ち着ける場所もないのだというのに。
それでも彼は現れてしまった。
通勤電車の乗内、少し離れた場所。
横顔がそっくりで、私は何度見てしまったかわからない。それでも彼は一度も振り返ることなく、私より早い乗車口で降りてしまった。
追いかけようかという想いが一瞬頭を過る。
でも追いかけてどうするの?あなたを夢で見たことあります?それ!なんて電波なの。
もしかしたら追いかけられたかもしれない。
けど私はそこで踏みとどまって、彼が降りた駅名を必死に頭に叩き込んだ。
次の日、私の通勤時間の電車、つまり夢の彼と会えた電車に私は再びというか毎日乗ってるんだった!
しかし今まで彼を見たことなかった?
あの夢はもうかなり昔から続いてるというのに!
ならば今後会える可能性がある?
ああ、昨日追いかけてればよかった!
それからしばらく、彼を見ることはなかった。
それから数ヶ月。
まだ夢に見るものの、現実の彼のことはふと頭によぎるだけになっていた頃。
再び彼と再会できた。
私はあの時横顔しか見れなかったけど、今はほぼ正面から確認できる。
仕事帰りにカフェに寄ってよかった。彼は私の斜め右の席について、向かいの席の友人?と談笑している。
ちら、と盗み見て手元の書類を流し読みする。
コーヒーカップを片手に持って、この時間が長く続きますようにと切に願った。
出会えたからと言ってすぐに接触をもつことはしなかった。
だって私は社会人で、きっとあの彼は見た目的にも雰囲気的にもまだ学生だ。
同じ世界にいるけど、それでもその中でも違う場所。
夢より現実的ではあるけど、でもきっとやっぱり彼には彼の世界があって。
可愛い彼女がいるんだろうなと、私はすでに諦めていた。
まだあの夢は見るけれど、起きた直後覚えているのが若干うっとおしくなっていた。
いつまで覚えているの?
夢に見たって実際叶いますか?
やけになった頃、彼と接触、した。
仕事帰り、電車に乗ろうと駅のホームに向かっていた時。
すみません、と後ろから声をかけられて振り向いた。
私はもしかしたら一歩後に下がってしまったかもしれない。
私の正面にいたのは、信じられないことに、あの彼であった。
「すみません、急に誘ってしまいまして」
「いいえ。私もカフェに寄りたい気分でしたので」
平静を保ちながら話す。コーヒーカップを持つ手が若干危うい。
あの後、よく見かけていたので気になってしまいましてと言われた言葉はまだ頭でちゃんと理解はできてない。怪しい者ではないのですが、良ければお茶どうですかの言葉に、私は欲にしたがってこくんとと頭を縦に動かしていた。
「あの、よく見かけていたというのは......?」
おずおずと気になってしまったので聞いてみた。思い返しても私が彼を見ていた時、彼が振り向いたことは一度もなかったはずだ。綺麗な顔は眉根を寄せて、困惑した表情で話を続けた。
「もしかしたら引かれてしまうかもなので引いたら言ってくださいね。少なくとも、貴方を道端や駅のホーム、電車の中、デパートやコンビニ、カフェなどで見かけました」
え、そんなにと私は目を見開いてたことだろう。彼は慌てて手を前につきだして弁解する。
「いや! 決してストーカーってわけじゃなく、至るとこであなたを見かけました。僕が行く場所にあなたがいるのが当たり前になったくらいに、です。けど......」
彼は私の表情を伺って、話すか話さない悩んだのだろう。私はどぎまぎしながら続けてと合図をする。
彼は彼は覚悟を決めたかのように、コーヒー
を一口口に含んで、斜め下見たまま続けた。
「けど、最近あなたを見かけなくなりました。風景の一つでもあったあなたが、見当たらないのはおかしいと。そう思うくらい、気がついたら気になっていました。出掛ける度に探してもいない。引っ越したのかと、絶望しました」
彼は苦笑いをして、私の目を強く見詰める。
「だから、次に会ったら。会えたら、僕の想いを全部伝えようと。後悔、したくなかったんです」
女々しいですよね、と言った彼がぼやけていく。
こんな、こんなことが起きていいの?
私もしかして夢の中にいるんじゃないの?
「もしあなたに相手がいたとしても、僕は諦めません。ほぼ初対面の奴がなに言ってんだって感じですけど。でも、また出会えたんだ。逃したくないんです」
まずはお友だちからというのが普通ですが、付き合ってもらえますか?と言った彼の言葉に、私は再び頭を縦に動かした。
その後色々ありつつも、彼と幸せな家庭を築いている。
あなたが夢の中に出てきてたんだよと告白したら、彼は目を見開いて、口元をどんどんゆるませていった。
ヒーローが若干オカマっぽいです。
でも私はこのぐらいが好みです。