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聖樹の国の禁呪使い  作者: 篠崎芳
聖樹の国の禁呪使い 第一部
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第76話「彼の手番」

「ところで」


 すぐに退室せずディアレスさんが俺に話しかけてきた。


「君のことはクロヒコと呼んでも?」

「好きな呼び方でいいですよ」

「ではクロヒコ……君には随分と妹が世話になっているようですね」


 はは、と苦笑する。


「世話になっているのは俺の方かもしれませんけどね」

「謙虚だね」

「そう見えるよう、努力はしてるつもりです」


 きょとんとするディアレスさん。

 そして彼は微笑みを湛えた。


「なるほど、そういう男ですか」

「えーっと、はい……こういう男です」

「久しぶりに会ったセシリーがなんだかいつもと違っていたものでね……そう、何かふっ切れた感じがあった。そこで家の者に聞いてみたんです。何かあったのか、と。すると君の名が出てきた」


 ディアレスさんは椅子を戻しながら言った。


「あれは複雑な娘でね……あんな風に育ったのも私を手本としたからでしょう。ですがあれは元来、ああいう子ではないのです。元は活発ですぐ頭に血がのぼる性質の子なのですよ。しかし父の方針もあって奇妙な義務感に取りつかれてしまっていた。結果、いびつな娘に育ってしまい私も危惧していたのですが……」


 なるほど。

 セシリーさんの今の性格――というよりは外づらか――は、お兄さんを手本に形成されたものだったのか。

 とすると仕草や話し方がやけに似ているのも頷ける。

 ただ気になることがある。


「あの……それがわかっていたなら、あなたがセシリーさんにしてやれることはいくらでもあったんじゃないですか?」


 口幅ったい質問かとも思ったが、それがわかっていたならあれほどの苦悩を抱え込む前にどうにかできなかったのか。

 強い疑問が俺の躊躇いを上回った。


「君ならばどうでしょうか?」


 ディアレスさんが聞き返してきた。


「どうでしょうか、と言いますと?」

「自分が越えようとしている人物に何もかも手ほどきしてもらってその相手を越えたとして……嬉しいですか?」

「うーん、本末転倒な気はしますが」


 かといってあそこまで抱え込むまで放っておくのはなぁ。

 それに今のは微妙に論点をずらされた気もする。


「それに私は決して優しい人間ではありませんからね――君と違って」

「え?」


 ディアレスさんの笑みが華やいだものへと切り替わる。


「何はともあれセシリーは君に特別な感情を抱いているようです。不肖の妹ではありますが、どうかよろしくお願いします」

「は、はぁ」


 と、そこで、


「おい、帰るぞ腹黒ギツネ」


 ひょこっりとドアから顔を出したのは団長だった。


「禁呪使い、この男の言うことは軽く受け流していいぞ。性格が感染して、おまえまで性格が悪くなってしまう」

「立ち聞きとは趣味が悪いですよ……というか」


 ディアレスさんがジト目で団長を睨む。


「腹黒ギツネって、まさか私のことですか?」

「あぁ?」


 団長が厳めしい顔で室内を見渡した。


「他に、誰がいるんだ?」

「くっ――」


 ふるふる、と悔しげに拳を震わせるディアレスさん。


「あれがうちの団長です……さすが自分でひねくれ者だと称するだけはありますよね。クロヒコもひねくれてると思うでしょう?」

「お、俺に同意を求められても……」

「次期聖樹騎士団長サマも負けず劣らずひねくれ者だがな。なあ、ディアレス?」


 言って団長がドアから顔を引っ込めた。

 足音が遠ざかっていく。

 今度こそいなくなったようだ。


「ったく、あの人は」


 憮然とするディアレスさん。

 と、彼がすぅっと目を細めマキナさんを見た。


「ただ、先ほど団長はああ言っていましたが……今の彼ならば四凶災の相手、務まるかもしれませんよ?」

「……かもしれないわね」


 残った紅茶をチビチビ飲んでいたマキナさんが答えた。


「彼はいまだに強くなり続けています。そのうち彼、自分の力が四凶災に届くと実感を持てたなら団長どころか騎士団を退いて、四凶災を探す旅にでも出るつもりなのでしょう。だから今から私を次の団長に据えようと、下準備を整えている……」


 ――個人的な復讐心で誰よりも四凶災を殺してやりたいのは、他ならぬこのおれだからな。


 あの時の団長の顔が思い出された。


「その聖樹騎士団も彼が団長になってから随分と変わったようですね。クリス・ルノウスフィアがいた頃よりも聖遺跡攻略は積極的に行っているし、聖位評価も家柄や人種ではなく実力に比重を置くようになった。団員たちの士気も高い水準で維持できている……すべて、彼が団長になってからの変化だと聞いています」

「ああ見えて責任感の強い男よね、彼」


 自分が去った後の騎士団のこともちゃんと考えている、ということか。


「しかし……ソギュート・シグムソスなき聖樹騎士団に私が居残るかどうか、それは微妙なところですが」


 薄っすらと昏い笑みをみせるディアレスさん。


「目標がない人生ほど、つまらないものはありませんからね」


 目標がない人生ほどつまらないものはない、か。

 その言葉にはなんとなく共感できてしまう気がした。


「そんなわけで……サガラ・クロヒコとキュリエ・ヴェルステインが入団する日を心待ちにしておりますから。入団の話、考えておいてくださいね?」


 ディアレスさんは再び表情を豹変させ俺たちに笑いかけた。


「っと、そろそろ行かないとまたどやされますね……すみません、長々と。学園長、聖遺跡調査の件はそのうち団員から報告が行くと思いますので」

「ええ、よろしく」

「それでは失礼します。本日はお疲れさまでした」


 ディアレスさんは爽やかに会釈し部屋を出て行った。


 ちなみに、本来であれば現在学園の聖遺跡を調査している聖樹騎士団によって巨人および小型種と戦った者たちへの聴取も行われる予定だったのだという。

 しかしセシリーさんが巨人の件を報告書的な形でまとめ上げ、それを兄のディアレスさんを通し聖樹騎士団へ提出したことでその件の聴取は不要と判断されたんだとか。

 さすがはセシリーさん。

 そつがないというか、なんというか。


「聴取は終わったようだな」


 キュリエさんが椅子から腰を浮かせる。


「私も今日は、ここらで失礼しても?」


 マキナさんに尋ねるキュリエさん。

 そうなのだ。

 キュリエさん、団長が去ったあたりからずっとそわそわしていた。

 ディアレスさんの話もあんまり頭に入っていない感じだった。

 上の空、というか。


「あの、キュリエさん」


 と俺は呼びかけた。

 そう。

 避けられてるのでは問題はいまだ解決していない。


「その、今日これから一緒に……食堂でお茶でもどうですか?」

「ん……これから、か」


 やや逡巡めいた仕草を見せるキュリエさん。


「悪い、今日は約束があるんだ」

「約束? それってもしかして――」

「……セシリーと」


 や、やっぱりセシリーさん……。

 優先順位が俺より高い?

 いや。

 そうだよな……。

 セシリーさんと比べたら、俺なんか……。


「すまんな、クロヒコ」


 キュリエさんはいそいそと部屋から出て行った。


 俺は床に両手を突き、がっくり項垂れた。

 何気にショックだった。

 なんとなく。

 なんとなくだけど。

 誘えばオッケーしてくれると思っていたのだ。

 が、何やら気まずそうな顔で謝られてしまった……。

 うぅ。

 俺、何か悪いことしたのかな?

 いや、マジにキュリエさんはセシリーさんとラブラブなのか……?


「大丈夫?」


 椅子に座るマキナさんが気遣わしげに声をかけてくれた。

 俺は顔を上げた。


「ま、マキナさん……」

「あの、さっきのことだけれど」

「さっきのこと?」

「一応、感謝しておくわ……あ、ああいう風に言ってくれて」

「ああいう風?」


 ……ああ、四凶災のことか。


「何を水臭いこと言ってるんですか。俺とマキナさんの仲でしょう? 俺のことなんか気にしないでマキナさんは、ばばーんっ、って感じで、やっておしまい! とただ命じてくれればいいんですよ」


 眉を八の字にし表情を緩めるマキナさん。


「あなたって妙なところで割り切りがいいわよね。本当に……単純そうに見えて、わからない人」

「それよりお姉さんのこと、その、なんと言ったらいいか……」


 それこそマキナさんは割り切った表情を浮かべ、


「いえ、私の方こそ話していなくて悪かったわ。本来なら、あなたにこそ話しておくべき話だったのに」


 と言った。


「案外、復讐のために利用しているとあなたに思われるのが嫌だったのかもしれないわね……まあ、利用していることに変わりはないのだけれど」


 その小さな顔にあるのは何やら寂しげで儚げな笑みだった。


「つまるところ卑怯な女なのよ、私は」

「そんなことないですよ。むしろ俺……感情に振り回されずに国のことを考えてるマキナさんのこと、すごいって思います」


 多分俺は、自分の周りのことしか目に入っていないから。


「そうでもないわ。これでも姉の死を知った時は、三日三晩泣き続けたのよ?」

「そうなんですか?」

「あ、これは家の者しか知らない話だから、他の人には秘密にしてね?」

「はい……けど、マキナさんが……」

「意外?」

「……俺の知ってるマキナさん像からすると」

「つまり、まだあなたの知らない私がいるということね」


 うーむ。

 さらっと大人な感じの切り返しをされてしまった。

 ちなみに当時何歳だったんですかという質問は自重せざるをえなかった。

 見えている地雷をあえて踏み抜く度胸の持ち合わせはない。


「なんにせよ、まだあなたが四凶災のことを考えることはないわ。まずは禁呪を揃えて、あなたがそれらを使いこなし、その上で四凶災に勝てる見込みありと判断してからの話だから。もちろん可能な限り四凶災に対抗できそうな仲間は集めるつもりよ。まあそんなわけだから……当面は、学園生活を楽しんでちょうだい」

「わかりました」


 四凶災か。

 ヒビガミに勝つために越えるべき相手としてふさわしいかと思ったが……俺が思っていた以上に、洒落にならない強さを誇る相手だったようだ。

 うーむ。

 さすがにヒビガミが『自分より強いかも』と言うだけあって四凶災は一筋縄じゃいきそうにもないな。

 となると今は禁呪の呪文書が集まるのを待ちつつ、それ以外で強くなる方法を考えるって感じか?

 キュリエさんとの稽古は続けるとして……どうだろう? なんとかソギュート団長に稽古をつけてもらうことはできないだろうか。

 なんたって彼はヒビガミの口から名が出るほどの人物でもあるし、実際に四凶災と戦ったこともある人だ。

 あの人に稽古をつけてもらえれば格段に強くなれる気がする。

 問題はそれが可能かどうかだが――


 その前に。


 今の俺にはもっと重大な問題がのしかかっている。

 そう。

 キュリエさんのことだ。


「ところでマキナさん」

「ん?」

「折り入ってご相談があるのですが」

「珍しいわね、あなたが私に相談なんて。いいわよ、言ってごらんなさい?」

「ありがとうございます。実は――」


 最近キュリエさんに避けられてるっぽいという悩みをマキナさんに打ち明けてみた。

 話を聞き終えたマキナさんは思慮深げな表情になって黙考へ。

 それからほどなくして、彼女は閉じていた目を薄っすらと開いた。


「ついに来てしまったようね、この時が」

「は?」


 ついに来てしまった?

 何が来てしまったんだ?


「私にはわかっていたわ、クロヒコ」


 どうしたんだマキナさん。

 彼女は何を理解したというんだ。


「前々から思ってはいたのよ」


 マキナさんが椅子から降りる。

 靴音が、たんっ、と室内に響いた。

 俺と向かい合うマキナさん。


「あなたに足りないもの。それがなんだかわかるかしら?」

「お、俺に足りないもの?」


 僅かな溜めがあってマキナさんが言った。


「自信と積極性よ」

「じ、自信と積極性? あの、それは一体――」

「それよ!」


 しゅびぃっ、と下方から俺の鼻先に指先が突きつけられた。


「え? そ、それって……何がです?」

「『あの』『その』『えっと』などの歯切れの悪い返答が多すぎる!」

「な、なんですって?」

「その『な、』もよ!」

「そ、そんな――」

「ほらまた!」

「うっ!?」


 腕を緩く組み人生の教師モードへ突入するマキナさん。


「相手を思いやるあまり強く言い切ることのできないあなたの性格はある意味、長所だとは思うわ。だけど、それは時として女子に対しては、致命的な短所となりうるのよ!」

「な――んとぉ!」


 危なかった。

 もう少しで『な、なんですって?』と言ってしまうところだった。


「彼女たちはひょっとすると、あなたの煮え切れない態度に嫌気がさしてしまったのかもしれないわ」

「煮え切れない態度……」

「思い返してみて。あなたは彼女たちが積極性を発揮してきた時、その行動と決意に全身全霊をもって応えてきたと、胸を張っていえるかしら?」

「お、俺は……」


 いや。

 そうかもしれない。

 キュリエさんやセシリーさんたちは俺にアクションをかけても響かないから、次第に呆れてきたのかもしれない。

 今になって思えば確かに積極性が足りなかったかもしれない。

 受け答えもしどろもどろだったかもしれない。


 そうだったのか。

 俺はまったりした空間――例えばあの慰労会の時のような――に居心地のよさを覚えていたのだが、彼女たちはもっとイケイケな相楽黒彦を求めていたのか……。

 そしてもうこれは期待できないと呆れ果てた二人は、めくるめく乙女だけの秘密の花園へ――


「だとしたら俺は、なんて取り返しのつかないことを……」

「女である私から本音を言わせてもらえば、男にはどっしりと構えていてもらいたいし、何かと積極的に行動を仕掛けてきてほしいものなのよ。確かにあなたは優しいかもしれないわ、クロヒコ。だけど優しいことと消極性をはき違えた瞬間――」


 マキナさんの睫毛が悠然と伏せられた。


「その時点で、すでにあなたの負けは確定していたのよ」

「すでに俺は、負けていた……」


 いや、あまつさえ負けていたことにすら気づかずに、俺は……俺は――


「くそぉっ!」


 俺は握りしめた拳でテーブルを思いきり叩いた。

 そして項垂れた。

 成り下がっていたのだ。

 いつの間にか。

 かの禁呪王が口にした(そういや最近出てこねぇな)『どんかんくそやろう』に。


「ようやくわかったようね……だけど、まだ手遅れではないわ」

「え?」


 希望の光が眼前に広がった。

 光の女神だった。

 まだ……終わっていない、のか?


「さっきあなたが呼び止めた時、キュリエが迷いをみせたのを私は見逃さなかったわ」

「ほ――マジっすか!?」


 危ない。

 もう少しで『ほ、本当ですか?』と言ってしまうところだった。


「……ええ、マジっすよ」


 マキナさんもマジだった。

 しかし俺は――


「俺は一体どうしたらいいんですか、マキナさん!?」

「勝負は次の休聖日の前日……シーラス浴場」

「決戦の場……」


 さっき相談した時、シーラス浴場へ行くことは伝えてあった。


「あなたがそこで彼女たちに対しどう振る舞うかで今後のユグドラシエでのあなたの人生が決まるといっても過言ではないわ」

「ご――ごら――ごほっ、ごっへぇっ!」


 ごくり、と唾をのみ込みかけたところを『ごらぁ!』という気合いの入った掛け声でカバーしようとしたのだが、勢い余って気管がつまってしまった……けほこん。


「そ、そこまで無理しなくてもいいのよ?」

「は、はこほん」


 思わず『はい』と『けほこん』が混ざってしまった哀れな俺の手をマキナさんの二つの小さな手が包み込んだ。

 彼女は真摯な眼差しで俺を見つめた。


「無理に過去の自分に断絶線を引く必要はないわ。むしろ自己完結で脈絡なく人格が豹変したりしたら気持ち悪がられて幕よ。二度と幕は上がらないわ」

「なるほど……ためになります」


 そしてあなたは一体何者なんですかマキナさん。


「あなた……彼女たちが好き?」

「好きです」

「ならば今度はあなたが仕掛ける手番よ。状況は不利……だけど、勝ちの目がないわけではないわ」

「はい」

「自信をもって、そして積極的に彼女たちと関わりなさい。小細工は無用。及び腰にならず、気持ちでぶつかるのよ」

「わかりました……やってみます! いえ、やってやりますよ俺はっ!」


 マキナさんは、ふっ、と笑みを零し満足げに頷いた。


「いい返事よ」


 俺はやる。

 否。

 やらなくてはならない。

 これが最期のチャンス。

 俺から、仕掛ける。


「私から伝えられるのはこれくらいね」


 手を離して髪をかき上げるマキナさん。


「結果は休聖日の午後、例の買い物に行く時にでも聞くことにするわ。よい報告を期待しているわよ、クロヒコ」


 ふん、と俺は鼻を鳴らし口端を吊り上げた。


「ええ、楽しみにしていてください。必ずやあなたの期待に応えてみせましょう」

「…………」

「ん? どうかしました?」

「女の私から本音を一つ教えた代わりに……男のあなたに聞きたいことが一つ、あるのだけれど」


 すぅ、とマキナさんが両の掌を自分の胸に添えた。

 そして頬を微かに上気させつつ、視線を逸らす。


「ち、小さいのは……男性的に、やっぱり厳しいのかしら?」

「へ?」

「だ、だから……………………胸、とか」


 普段の俺であったなら。

 ここは『そ、そんなことないですよ。マキナさんは素敵な人です』とでも答えていただろう。

 だが今の俺は違う。

 違う俺は言った。


「三者三様、十人十色、百人百様、千差万別……世界とは多様な価値観に満ちています。どの世界であってもこれは共通なはず。そして、その多様性こそが人々の豊かな文化を育んできたのです」

「つまり……?」


 俺はマキナさんの両肩に手を置いた。


「つまり――」


 ここで照れを見せた瞬間。

 おそらく俺の負けが確定する。


「色々で、いいんです」


 マキナさんがはっとなって俺を見上げる。


「気にすることなんてないんです。俺はマキナさんの胸に惚れたんじゃありません。あなたのその精神性に、惚れたんです」


 精一杯の真摯さと優しさを込め、俺は言った。


「クロヒコ――」


 これでいいんですよねマキナさん?

 積極性って、こういうことですよね?

 俺は腰を上げた。


「ではマキナさん、今日はこれで。アドバイス、とても参考になりました」

「え、ええ……」


 桃みたいな色に染まった頬に手で触れながら、不意を打たれたかのような顔でぽやーっとしているマキナさんに別れを告げ、俺は颯爽と部屋から退出した。

 去り際、部屋の中から「やりすぎたかしら……」というマキナさんの声が聞こえてきたような気がしたが、誰が何をやりすぎたのか俺にはさっぱりわからなかった。


 廊下を歩きながら俺は決意を新たにしていた。

 もう彼女たちを失望させない。

 何より今の俺にはマキナさんお墨つきの足ツボマッサージに加え、ミアさん直伝の快楽マッサージまでもが備わっているのだ。

 負ける要素が見当たらない。


 見ていろ。

 ここからが――


 決戦は、シーラス浴場。


「俺の手番だ」

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