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聖樹の国の禁呪使い  作者: 篠崎芳
聖樹の国の禁呪使い 第一部
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第67話「異」

「あれ? それ持ってきたんですか?」


 キュリエさんの腰には二本の剣が下げてあった。

 うち一本はヒビガミと戦った際に使用した剣。

 確か聖魔剣リヴェルゲイトと呼ばれていたはず。


「ああ……何があるかわからないからな」


 聖遺跡第一階層。

 隣を歩くキュリエさんが剣の柄に掌を置く。


「前におまえが下の階層に落ちた時に思ったんだ。この聖遺跡では奥の手も用意しておくべきだって」


 優美さと威圧感を兼ね備えたあの戦乙女とも呼ぶべき姿を思い起こす。


「百人力ですね」

「おまえだって『魔喰らい』を持ってきてるじゃないか」

「使いどころがあるかどうか微妙ですけどね」


 俺も今日は二本剣を持ってきていた。

 背中には施晶剣。

 そして腰には『魔喰らい』。

 アイラさんから施晶剣を先日受け取った際、他に刀を持っていきたいと相談したらベルトから下げられるようにしてくれた。

 だがこの『魔喰らい』、周囲の聖素を吸収してしまう特性があるため他のメンバーの術式を阻害してしまう。

 なので基本的には施晶剣で戦う予定。

 使う局面があるかどうかはわからない。

 それでもキュリエさんと同じく何があるかわからないと思い一応持ってきた。

 鞘にさえ入れておけば聖素の扱いが阻害されるのは俺だけなので持ってくること自体は問題ないだろう。


「聖魔剣に、妖刀かぁ」


 レイさんと並んで前列を歩くアイラさんが苦笑して自分の帯びた剣に触れる。


「アタシもどうにか魔剣を用意したけどさすがに見劣りしちゃうなぁ」

「戦いは剣の質だけで決まるわけじゃない。もしそうなら『総合力』が高いらしい向こうが圧倒的に有利ってことになるからな」


 キュリエさんは『総合力』の部分を皮肉めかして強調した。


 その総合力をやたらと推していたバシュカータたちは今どのくらいの階層にいるのだろうか?

 彼らの攻略班は少なくとも九階層前まで到達している生徒で固めたはず。

 巨人までの到達度はこちらよりも早いだろう。


「ところでクロヒコ、例の新しい禁呪は普通に使えるんだったな?」


 キュリエさんをはじめアイラ班のみんなには俺が新しい禁呪を覚えたことは伝えてある。

 だが、肉体に若干の負荷があるため今後の攻略を考えると容易にお披露目ができない。

 どういうものかの説明はしてあるのだが。


「ええ、使用自体は問題ありません」


 問題があるとすれば『獣』の感覚の方だろう。

 マキナさん同伴で試用した際は以前とさほど違いを感じなかったが、使用頻度が上がればあの感覚が俺を支配しようとする強さも増す可能性はある。

 なのでそのへんがはっきりしないうちは安易な乱発は控えた方がよさそうだ。

 だからこそ禁呪に頼らずとも戦える地力をつけていかなくてはならない……のだが、まずは二つの禁呪を宿した俺があの感覚に抗えるかどうか試してみたいというのもあった。

 つまるところ、俺が十分支配する側に回れるなら禁呪の使用回数を増やしてもいいわけで――


「む」


 俺たちの前にゴブリンが五匹姿を現した。

 しかし最前列にいたアイラさんとレイさんが瞬殺。

 この攻略班のメンバーならもうこの辺りの階層の魔物は相手にならない。

 キュリエさんに至っては以前、本来第十二階層に出現するダークタイガーヘッドを相手取って瞬殺しているし。

 彼女一人いるだけでも相当な戦力だ。


 そんなわけで俺たちは難なく三階層まで到達。

 皆すでに踏破済みだったためさして時間もかからず降りることができたが、こちらは攻略を速度で競うつもりもないためややのんびりとした移動だった。


「どうしました、キュリエさん?」


 三階層に降りてからキュリエさんの表情に険しさが混じり込んでいた。

 俺たちの前には縦に一本、真っ直ぐ通路がのびている。

 彼女は何かを測るかのようにじっと通路の先を見据えていた。


「何か……来る」


 ここは三階層。

 出現する主な魔物は小サイクロプスやリザードマン。

 お世辞にも今の俺たちが苦戦する相手とはいえない。

 だが、あのキュリエさんが警戒心を覗かせている。

 ということはこの階層に普段出現する魔物ではないのかもしれない。

 俺は背中の施晶剣に手を伸ばしながら、前を行く二人に声をかけた。


「アイラさん、レイさん」


 呼び掛けに二人が振り向く。


「どうしたの、クロヒコ?」

「何か様子がおかしいみたいです。一応、戦う準備をしておいた方がいいかもしれません」

「……わかった」


 聖遺跡で起きた過去の異種遭遇の件を聞いているのもあるのだろう、アイラさんは下手に質問を差し挟むことなく腰の剣の柄を握り込む。

 同じようにレイさんも細剣に手をかける。

 後方のセシリーさんたちも戦闘準備に入った。

 そして一度歩を止めて通路の奥の曲がり角に注意を注ぐ。


「複数だ」


 キュリエさんが言った。

 ここまで近づけば俺にもわかる。

 複数の何かがこちらに向かってくる気配。

 異種だろうか?


 そして、


「え?」


 驚きの声を最初に口から出したのはアイラさんだった。


「アイラさん……あれって」


 曲がり角から姿を現したのは身体にオレンジの血管めいた線が走った人型の――魔物。

 例のマグマ巨人がいた部屋にセットでうろついていたという小型版だろうか。

 俺がそれを問うとアイラさんは困惑しつつも頷いた。


「う、うん、間違いない……けど」


 釈然としない語調。


「どうしてこんな低階層に……」


 そう。

 アイラさんの話によれば、マグマ巨人も含め小型版も九階層にいるはずなのだ。

 それがどうして三階層にいるのだろうか。

 しかも、


「なるほど、やはり今年の聖遺跡は今までと違うようですね」


 そう言うセシリーさんの視線の先――通路の奥にマグマ巨人の小型版が次々と姿を現す。

 俺はふと以前遭遇したブルーゴブリンの群れを思い出す。

 小型版には目も耳も鼻もなかった。

 鋭げな歯の並んだ口だけが辛うじて確認できる。


「なんにせよ、やるしかあるまい」


 キュリエさんの一言で皆は臨戦態勢へ。

 すると小型版たちも口を開いてこちらへ向くやいなや、オォォオオオオ、と不気味な声を上げて迫ってきた。

 数はどれくらいだろうか。

 十数匹?


「まずアタシたちが仕掛けて様子を見る! それまでキュリエとクロヒコは横合いの通路を警戒、セシリー、ジークベルト、ヒルギスは後方の警戒を! クロヒコ、セシリーはアタシたちが討ち損じた小型種がいたらフォローをお願い! 苦戦しそうだったら援護を求めるから!」


 剣を鞘走らせながらアイラさんが指示を出す。

 俺たちはすぐに言われた通りの行動へ移る。

 アイラさんはレイさんと二人、小型版――小型種を迎え撃つ体勢へ。


 小型版が接近。

 最初の一体がレイさんへ飛びかかった。

 レイさんは人間二人がようやく剣を振るえるほどの幅の通路ながらも、巧みにアイラさんとの位置関係を考慮しつつ攻撃を回避。

 避けながら小型種は喉元を剣で貫かれる。

 続けざまレイさんは小型種の心臓部へ引き抜いた刀身を差し込んだ。

 小型種が前のめりに倒れる。

 一方のアイラさんも、レイさんの動きに呼応するように剣を振るい小型種の首を刎ね飛ばす。

 致命傷を受けたらしい最初の二匹はそのまま他の魔物と同じように溶けてなくなった。


 どうやら強さ的に脅威とはいえなさそうだ。

 だが……本当にこの強さを鵜呑みにしていいのだろうか。

 やはり小聖位上位たちが歯が立たなかったという過去の情報が気になる。

 それとも守護種部屋にいるマグマ巨人が規格外の強さなのか……。


 すると、他の小型種の動きがピタリと止まった。

 どうしたのだろう?

 怯えている風には見えないが……。


 俺が訝しく思っていると、小型種たちが口を開けた。

 そして口元が青緑色に発光しはじめる。

 いや違う。

 聖素を……取り込んでいる?


「何をしているの、こいつら!?」


 アイラさんが一歩、後退する。

 小型種の黒い身体に走る線の色がオレンジから青緑へと変わっていく。

 なんだ?

 雰囲気が……変わった?


「――っ、アイラ、来るよ!」


 レイさんが身構える。

 ぽんっ、とキュリエさんが俺の背中を叩いた。 

 言葉にされずともわかった。

 行くぞ、という合図だ。

 ここは俺たちが相手をすべきだと感じたのだろう。


「私たちがやる。その様子だと初めて見る現象のようだからな。ここで班のリーダーを未知の脅威に晒すわけにはいかない」

「まずは俺たちで様子を見ます」


 言って、俺とキュリエさんは最前列の二人の間を横切り前へ出た。

 最前列にいる小型種が咆哮し、腕を振りかぶる。

 キュリエさんは上半身を屈めて小型種の放った横フックを避ける。

 どごっ、と音が続く。

 目標を失った拳が聖遺跡の壁に深くめり込み亀裂を走らせたのだ。


「……え?」


 声を上げたのはレイさんだった。

 驚きの理由はわかる。

 あの威力の拳をまともに喰らったらただでは済まない。

 内臓がやられてもおかしくはない。

 しかもキュリエさんは危なげなく避けたように見えたが、明らかに小型種の動きそのものが底上げされている。

 余裕で避けられた風に映ったのはキュリエさんだったからだろう。 


「フン、聖素を取り込んで力を高めるか。聖剣みたいなやつらだな」


 そう口にしながらキュリエさんは長剣で小型種を袈裟切りにする。

 腕を上げてガードを試みた小型種だったが、そのガードは最初にキュリエさんが入れたフェイントに対するものだった。

 首を刎ねると見せかけて一瞬で剣の軌道を変えたのだ。


「ふむ……急所は変わっていない。首を刎ねるか心臓部に深い傷を与えれば倒せるようだ。だが、少しだけ自然修復が働いているようだな」


 キュリエさんはとどめとなった袈裟切りの前に少しだけ腕に小さく傷をつけていた。

 彼女の目はその傷口を見ながら言った。


「ほんの僅かの間にも関わらず傷口が小さくなっている。つまり致命傷を与えなければこいつらはすぐに再生する可能性が高い」


 キュリエさんが剣の切っ先を変色した小型種たちへと突きつける。

 小型種たちは威嚇するように口を開き、オォォオオオオ、と吠えた。

 が、キュリエさんは小型種たちの威圧を意に介した風もなく一歩前に出ると、目にも留まらぬ速さで最前列にいた小型種の身体を何度か切り刻んだ。

 最前列の小型種の傷口から青白い光が漏れ出てくる。


「全身を一通り切ってみたが……腕、脚、頭部、腹あたりは硬度が高い。狙うなら首か胸だな」


 もう用事は済んだとでも言わんばかりに、キュリエさんが切り刻まれ硬直していた小型種の首を刎ねる。

 さらに、ずいっ、とキュリエさんが前に出る。


「まあ――分析はそんなところだ。あとは攻撃速度と状況を冷静に見極めれば、このメンバーなら問題ないはずだ」


 懐に入り込まれた小型種が噛みつこうとする。

 が、キュリエさんが下から押し込んだ剣身が先に心臓部を突き貫いた。

 小型種は糸が切れたように倒れた。

 さらに攻撃を軽やかに避けつつ数匹の小型種を斬り伏せた後、キュリエさんは言った。


「一人一匹分、残しておいた。前後入れ替わりながらやってみろ――と、クロヒコはもう倒したから、残りは五匹か」


 呆気に取られていたアイラさんが俺を見る。

 ちょうど俺はこっちに向かってきていた小型種の首を刎ねたところだった。

 俺が頷いてみせるとアイラさんとレイさんが入れ替わりで前に出る。

 二人は上手く急所を突いて倒した。

 次に入れ替わったセシリーさん、ジーク、ヒルギスさんも一人一匹ずつ相手をする。

 セシリーさん以外はあっさりというわけにもいかなかったが、手こずるほどではなかった。


「小型種は問題なさそうだが……数が一定以上まで増えるとやや厳しいか。アイラの読み通り、やはりある程度の人数を揃えてきたのは正解だったようだな」


 溶け消える小型種を見下ろしながらキュリエさんが言う。


「あとは親玉と思われる巨人の力次第、か。問題はこいつらの能力と比べてどれほど強いかだな。ふむ、次が来たら今度は術式が効果的かどうか試してみるべきか」


 …………。

 アイラさんを褒めてはいるが、何気にキュリエさんもすごい。

 なんだか実地でレクチャーを受けているみたいな気分である。

 簡単に小型種の分析を済ませただけでなく、さらに俺たちの戦力と照らし合わせて分析を進めている感じがする。

 うーむ。

 しかしついに新禁呪のお披露目かとも思ったが、この程度の相手ならなんとか禁呪なしでもいけてしまいそうだなぁ。

 新禁呪を使うのは例の親玉までお預けかもしれない。


「けど、どうしてこいつらが三階層に……」


 アイラさんが最後に溶けて消えた小型種のいた場所を納得いかなげな顔で見下ろす。

 口元に手を当てて考え込むアイラさん。


「まさか、とは思うけど――」


 何かアイラさんが言いかけたところで、通路の先にまた何かが姿を現したのが見えた。

 って、あれは――


「フィブルク!?」


 同じく気づいたアイラさんが声を上げた。

 そう。

 通路の奥から姿を現したのは剣を手にした疲れ切った様子の麻呂だった。

 麻呂は俺たちに気づくと、複雑そうな表情でこっちに近づいてきた。

 俺たちとの距離は二十メートルくらいあるだろうか。

 麻呂は足を引きずりながらこっちに歩いてくる。


「ど、どうしたのよ!?」


 尋ねるアイラさんに麻呂は後方を気にしながら答えた。


「あいつら……あの不気味な小型種ども、聖遺跡の上層階への階段を『のぼって』きやがったっ……!」


 レイさんが驚いた反応をする。


「え? 今、なんて?」


 さらにアイラさんが同じ反応を見せる。


「『のぼって』……きた? ええっと、待って? 確かに最近もっと下層にいるはずの異種の『出現』は確認されてきたけど……でも、それはありえない。聖遺跡の魔物が上階層への階段を『のぼって』きただなんて……」

「そうなんですか?」


 そのへんに詳しくない俺はアイラさんに聞いてみた。

 すると、神妙な面持ちで黙考をはじめた彼女に代わってレイさんが答えてくれた。


「うん。だから上階層への階段は攻略班にとっては一種の『避難場所』でもあるんだ。普通、魔物は追いかけてきても諦めて戻って行く。場合によっては魔物が湧く転送装置を使うよりも有効な時もある。上階層へ行けばいくほど、少なくともその階層の魔物よりは弱い魔物になっていくわけだからね」


 そうか。

 転送装置だとその階の魔物をたくさん相手にしなくちゃいけないもんな。

 しかし俺は異種やらその階層にいるはずのない魔物に出会うことが多かったので、魔物も階段をのぼって上に来ることもあるのかと思っていた。

 それに上の階層に下の魔物が出現するのなら、階段をのぼってくるくらいあってもおかしくはなさそうだけど……。

 が、どうやらそれは本来ありえないことらしい。


 アイラさんは深刻そうな顔をしている。

 あるいはさっき『まさかとは思うけど――』と言いかけたのはそのことだったのだろうか。


「アイラ」


 声をかけたのはキュリエさん。


「な、何?」

「あいつらつまり……どんどん上の階層に移動してきているってことか?」

「普通ならありえない。でも、九階層にいたはずのあいつらが現にこの三階層にいた……さらにフィブルクの話では階段を『のぼって』きた。それはつまり――」

「地上に出る可能性も、ありえなくはない?」


 聞いたのは俺だった。

 でも多分、それは誰もが頭に浮かんだ疑問なのではないか。


「わからない。でも、だとすれば大変なことだわ。いえ、どころかもしあの巨人までもが上の階層……地上を目指しているのだとしたら、本当に大変なことに――」

「おい、そんなことは後でいい!」


 麻呂が割り込んできた。


「さっさとおれを助けろ!」

「フィブ、ルク?」


 アイラさんが困惑の声を出す。


「転送装置でもなんでもいい! おれを……おれを助けろ! 金は出す! なんなら勝負を引き分けにしてやってもいい!」


 すると通路の向こうから青白い線を走らせた黒い人型の魔物――あの小型種たちが、ぞろぞろと姿を現した。

 ひっ、と麻呂が短く悲鳴を上げる。


「き、きやがった! おい! おまえら、なんとかしろ!」


 どれほどの恐怖を味わってきたのか麻呂は顔面蒼白になっている。

 俺たちと麻呂との距離はまだ十メートルほどある。


「わ、わかった!」


 アイラさんが剣を握りしめて一歩前に出た。

 が、そこでキュリエさんがアイラさんの肩を掴む。


「何をするのキュリエ!?」

「おまえまさか……あいつを助けるつもりか?」

「だって、このままじゃ――」

「あんなやつを助けてなんになる?」

「え?」

「おい、フィブルク」


 キュリエさんが麻呂に声をかけた。


「あ?」

「他の連中はどうした?」

「ああ、バシュカータは死んだよ! ちっ、普段は威張り散らしてるくせに土壇場でビビりやがってよ! なんの役にも立ちやしなかったぜ!」

「……他は?」

「あぁ? 知るかよ! ベオザと何人かは他の生徒を守りながらなんとか守護種部屋から出たみてぇだがな! まだどっかで戦ってるか転送装置で帰ったんじゃねぇか!?」

「つまり、おまえはベオザたちを置いて一人で逃げてきた?」

「に、逃げてきたんじゃねぇよ! 生き残るべき人間を優先したってだけだ!」

「フン……だ、そうだが?」


 キュリエさんがアイラさんに問いかけた。

 唇を噛むアイラさん。


「でも……あんなやつでも、同じ獅子組の生徒なんだよ?」

「前にも言ったがな、私は悪意を向けてくる人間には徹底して悪意で返す。慈悲の持ち合わせもない。私としては……あの男には長い眠りについてもらった方が何かといい気がするがな。どうせ聖遺跡で死んでも、本当に死ぬわけじゃないんだし」

「キュリエ、そんな……」

「ああ、それからアイラもクロヒコも、他のやつらも何も気に病むことはないぞ? フィブルクを見捨てたのは――私でいい」


 皆、答えに窮していた。

 俺は――


「や、やっぱり駄目だよそんなの!」


 と、俺が口を開く前にそう言って駆けだしたのはアイラさんだった。


「確かにあいつはひどいやつかもしれない! ううん、アタシだって嫌なやつだって思うよ!? でもアタシは、目の前で怪我をして『助けて』って言ってる人を見殺しになんてできないよ!」

「あ、アイラ……」


 麻呂が安堵したような表情を浮かべる。

 そしてアイラさんが一人、小型種に立ち向かっていく。

 俺はガシガシと頭を掻いた。


「すみませんキュリエさん」

「クロヒコ?」

「俺もキュリエさんに完全に同意します。実は麻呂――フィブルクを見捨てる算段がなかったわけじゃないんです。当然イラっとしましたし。でも、さすがにアイラさんを見捨てるわけにはいきませんので」


 言って、俺もアイラさんに続く。

 チッ、とキュリエさんが舌打ちした。


「お人好しどもが」

「ではわたしたちも行きますか。『クロヒコ』と『アイラ』を助けに」


 背後からセシリーさんの声がした。

 …………。

 うーん。

 はっきり麻呂を排除して俺とアイラさんと言い切るあたり、やっぱりいい性格してるよなぁ……。


 と、その時だった。

 俺の前方。

 横合いの通路から三匹の小サイクロプスが現れた。

 が、どこか様子がおかしい。

 まるで何かに怯えているような……。

 そして次の瞬間――


 背後から小サイクロプスに飛びかかった『何か』が、手にした剣で、一つ目の魔物の頭を脳天から串刺しにした。


 さらに残った二匹のうち一匹は首を尖った歯で食いちぎられ、もう一匹は一つ目を剣で貫かれた。

 剣を手にしているのは――小型種だった。

 それにあれは……聖剣?

 しかも聖剣が光っている?

 え?

 つまり小型種が聖剣の能力を、発動させているのか?

 いや。

 待て。

 それよりも。

 何が起きているんだ?


 なぜ――聖遺跡の魔物が、同じ聖遺跡の魔物を襲っているんだ?


 いやいや、待て待て。

 俺の頭の中に、ある一つの疑問が浮かんだ。

 そもそもこの突然聖遺跡に現れたっていうマグマ巨人とその小型版の魔物――


 本当に、聖遺跡の魔物なのか? 

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