第63話「紋章」
この学園で最強の術式使い。
小聖位第一位。
向こうの攻略班に鞍替えする生徒が多いのも頷ける。
報酬が高いだけならともかく、この学園で最も強い術式使いがいるとなればあちらの攻略班の方が魅力的に見えてしまっても仕方あるまい。
実際ベオザがいることに気づいた生徒が何人もこちらの様子を窺っている。
彼らから向けられる視線がベオザの知名度を物語っていた。
「こっちの小聖位は一番高くても十四位。悔しいけど一位との差は埋めがたい。しかもベオザの兄は聖樹八剣、さらにバシュカータはトロイア公爵の息子……加えて資金力まで負けてるとなれば、生徒の獲得合戦で勝てる道理なんてない」
悔しげにアイラさんが言う。
「最強、ですか」
若干不服げにベオザがアイラさんに顔を向けた。
「僕は生徒会長よりも自分が強いと思ったことはありませんがね」
そう口にするベオザを押しのけてバシュカータがアイラさんの前へ進み出る。
「んなことはどうでもいいさ。小聖位なんざ一位も六位も大して変わらん。小聖位には教養授業の成績も含まれてるからな。何より大事なのは――実際、どちらが強いかよ」
バシュカータがアイラさんを見下ろしながらニタニタ笑う。
「そうだな……今回の巨人討伐、ただの競争じゃ面白くねぇ。どうかね? 討伐達成が遅かった方の班に、何か罰を与えるってのは」
「そっちが勝手に競争意識を持ってるだけなのに、そんな提案に乗るわけないでしょ」
バシュカータの提案をアイラさんは拒否する。
「ふーん、そうかい。ま、そんなんだからホルン家はアークライト家に後塵を拝し続けてるんだろうなぁ」
「――っ!」
アイラさんの顔がさっと赤く染まる。
「家のことは……関係ないでしょ!?」
「家のことが関係ない? だったらなんでさっきおまえは相手がトロイア公爵家だから勝てませんみたいなことを言っとったんだ?」
「それはっ――」
露骨な挑発。
が、アイラさんなら簡単に乗らないだろう――そう思っていたのだが。
家のことを出されたせいかちょっと雲行きが怪しくなってきた。
仕方ない。
無闇に相手の挑発には乗らずやり過ごすべきかとも思っていたけど、さすがにああいう言い方をする男を放置してはおけない。
そう思って俺が口を挟もうとした時、
「なんだおまえら、競争がしたいのか?」
成り行きを静観していたキュリエさんが口を開いた。
「ん?」
「ならその巨人と言わず……到達階層で勝負というのはどうだ?」
バシュカータがキュリエさんの前に立つ。
「一応、聞かせてもらおうか」
「期間はそうだな……ひと月でどうだ? ひと月の間そっちのフィブルク班とこっちのアイラ班で最大到達階層を競う」
「おまえ……おれたちに勝てる気か?」
「さあな。やってみなくてはわからん」
さらりと言うキュリエさん。
バシュカータが表情を一変させる。
口元には余裕の笑み。
「ならば、こっちからも一つ提案させてもらうが?」
「言ってみろ」
「負けた方は無条件で相手の言うことを一つ聞く……どうだ?」
「私はかまわんが、対象者の数は制限を設けさせてもらう。当人の了承なしに話を進めるわけにはいかんからな。無論、私は対象者になる」
「あ? 負けたやつらは全員勝った方の言うことを聞くって方が面白いだろうが」
「ならこの話はなしだが?」
キュリエさんとバシュカータの鋭い視線が交差する。
と、キュリエさんが視線で俺に問いかけてきた。
彼女の顔から窺い知れるのは勝算。
この場で相手の力量を測って、勝てると踏んだのだろう。
「俺は対象者にしてもらってかまわないですよ」
と俺は言った。
「なら……アタシも」
続いてアイラさんが挙手した。
「巨人討伐作戦に二人を巻き込んだ張本人だからね。アタシが乗らないわけにはいかないでしょ」
バシュカータを睨みつけるアイラさん。
「正直アンタたちのやり方も気に入らないし。だからいい機会だわ。一度、白黒はっきりつけましょう」
「ほ〜、おまえも身を差し出すか? いいだろう。おかげでやりがいが出た。フィブルクもこれでいいな?」
「ああ、かまわねぇぜ」
フィブルクが満足げに頷く。
その様子を見て理解できた。
おそらく元よりこういう構図に持っていきたかったのだろう。
狙いは俺か、それともアイラさんか。
けれど彼らの誤算は、キュリエさんがその意図を看破した上であえて提案に乗ったというのを知らないことだ。
「ベオザもそれでいいな?」
「……正直、乗り気ではありません」
「トロイア公爵家の人間であるおれが頼んでもか?」
ベオザが無表情になって視線を伏せた。
「……わかりました。では、私も対象者に」
「よし、決まりだな。どうせ他の連中はおまけみてぇなもんだ。ここはリーダー格がきっちりケジメをつけるってことでよしとしてやろう。おれの寛大な心に感謝するんだな」
バシュカータが食堂内の掛け時計を見やる。
「おお、昼飯の時間がなくなってしまうではないか! では詳細は後日にな! ゆくぞ、フィブルク!」
「おう!」
すっかり腰巾着キャラに成り下がってしまった感のある麻呂は粘っこい笑みを残しつつ、バシュカータと連れ立って去って行った。
二階席に向かった二人は何やら途中でひと悶着あったようだが、結局二人は二階席へと消えて行った(おそらく小聖位100位以内にいない麻呂が入ろうとしたからだろう。が、バシュカータが無理を通したようだ)。
と、二人が二階席に消えたのを見届けたベオザがこちらに向き直った。
「先ほどは失礼いたしました、アイラ嬢」
「…………」
「あなたも家同士のことでは苦労しているようだが、見ての通り僕も家同士のことでは面倒な立場にいましてね。マロー侯爵家もそうですが、何より相手がトロイア公爵家の人間ともなると露骨に逆らうわけにもいきません。ま、あなたを不快にした言い訳にはなりませんが」
「いえ……あなたが悪いわけではありませんから」
「ふっ、大人ですねアイラ嬢は。しかしそれにしても――」
急にベオザがキュリエさんの方へと詰め寄った。
「キュリエ・ヴェルステイン、でしたね?」
「……そうだが」
「ああ、なんと美しい人だろう」
「は?」
「実は何度か学内でお見かけしてはいたのですが、あまりの美しさに声をかけることすら躊躇してしまう有様でして」
「な、何を言っているんだおまえは?」
「お許しください。僕は美しいものには目がないのです……しかしこの美しさ……内に秘めたるものを加味すればセシリー・アークライトにも迫る美……ああ、敵対していることが嘆かわしくて仕方がありませんっ! 神は残酷だっ!」
なぜか打ちひしがれるベオザ。
どう扱ったらよいのかわからないといった顔でキュリエさんが俺に無言の助けを求めてくる。
「ん? 君は……」
と、ベオザが今度は俺の方へやって来た。
「あ、どうも。俺は一年獅子組の――」
「サガラ・クロヒコでしょう?」
「え、ええ」
どうやら名前を知っているようだ。
「学園に突如として現れた禁呪使い。もちろん存じていますよ」
眼鏡のフレームを押し上げながらベオザが微笑み、右手を差し出してきた。
「僕はベオザ・ファロンテッサといいます。以後、お見知りおきを」
ん?
俺も握手を返す。
「……こちらこそ」
この人。
敵意がない。
「このような形での出会いとなってしまいましたが、僕としては君と敵対するつもりはありません。だがわかってください。家同士のしがらみがあるのです。それと……フィブルクもかわいそうな子なのですよ」
「麻――フィブルクがですか?」
「昔はもう少しまともな子だったのですがね……いつからかあんな風になってしまって。思い返せば、バシュカータとつるむようになってからああなってしまった気がします」
バシュカータとの力関係を考えるとベオザ……ベオザさんも強くは出られなかったのだろう。
だとすれば、バシュカータに影響され変わってゆく麻呂の姿を歯がゆく思いつつも、彼は麻呂を近くで見守っていたのかもしれない。
せめて近くにいて、決定的に足を踏み外しそうになった時には助けてやろうと。
「それと先ほどバシュカータと交わした約束の件ですが、仮に僕らが勝っても行き過ぎたことをさせるつもりはありません。いくらトロイア公爵家の息子といっても僕にだって譲れない一線はある。とはいえ……それは僕らが勝ったらの話ですがね」
「え?」
ベオザさんは握手を解くと二階席の方を見上げた。
「あの馬鹿め」
先ほどからの雰囲気から一転、その表情から感情が消え失せる。
そして侮蔑すら篭った冷たい声音で言い放った。
「サガラ・クロヒコやキュリエ・ヴェルステインの力量が半分でも理解できれば――勝負にならないことくらいわかるだろうに」
ベオザさんが身を翻す。
ローブがばさりと舞った。
「では、失礼」
こうしてベオザさんは一人、二階席に行くでもなく食堂から去って行った。
*
「とりあえずもう少しこっちもがんばってみるわねっ」
食堂を出た直後、アイラさんが苦笑気味に言った。
「あと……変なことになっちゃってごめんね?」
「それはこっちの台詞だ。もちろん勝算あっての提案だったが……勝手な真似をしてすまなかった」
キュリエさんが謝る。
「そ、そんな! 謝らないでよ! アタシこそ頭に血が上っちゃって……」
「悪いのはあっちですよ。アイラさんが謝ることないです」
「クロヒコの言う通りだ。ああいう馬鹿は大概、口だけは達者だからな。相手を憤らせることにだけは長けてるんだ」
アイラさんが照れくさそうに頭を掻く。
「あはは……なんか気を遣わせちゃって申し訳ない……」
アイラさんが睫毛を伏せ床に視線を落とす。
「でもね、勝負を受けることにしたのはクロヒコとキュリエがいたからだと思う。なんでかな? 二人がいれば勝てるって思っちゃったんだよね。こ、根拠もないのに変だよね?」
「いや。おまえは正しい、アイラ」
「へ?」
キュリエさんが口の端を微かに緩め、アイラさんに笑いかけた。
「安心しろ。この勝負に限っては、私に任せておけばいい」
アイラさんがどきっとした顔をした。
それから顔の赤みが増していく。
「な……なんかたまに女のアタシでもドキドキしちゃうくらいかっこいいよね、キュリエって」
「フン、今回だけは遠慮せず私に頼っておけ。私もあのバシュカータとかいうやつは気に入らんしな」
「う、うん……ありがと。く、クロヒコもありがとうねっ」
「キュリエさんほど役に立てるかわかんないですけど、俺もやれるだけのことはさせてもらいますよ」
その後、俺たちは魔術教室へ向かった。
で、術式授業が終わって放課後。
アイラさんは攻略班のメンバーと話し合いをするからと教室を出て行った。
「アイラさんってリーダー向きっていうか、委員長っぽいところあるよなぁ」
アイラさんの出て行ったドアを見ながら俺はぽつりと呟いた。
キュリエさんが不思議そうな顔をする。
「いいんちょう?」
「三つ編みに眼鏡じゃないですけどね」
「?」
は、ともかく。
「ひと月の到達階層で勝負ってのは上手い案でしたね」
「ん? ああ……どちらが先に倒すかだと、巨人の強さ次第では危ないからな」
どちらが先に倒すかの勝負だと相手が今日にでも潜って倒してしまう可能性がある。
何より俺とキュリエさんは九階層には未到達。
向こうが到達済みの生徒で固めてしまったら、聖遺跡の性質上勝ち目はない。
あるいはこういった勝負が起こることを見越して麻呂はここ最近聖遺跡に潜っていたのかもな。
「どうにかして条件つきの勝負に持ち込みたいって意図が透けて見えていたから、よほど無理な内容じゃなければ内容を変えても乗ってくると踏んだんだ。あっちはなんとしてもこっちから勝負を受けるって言葉を引き出したかったみたいだしな」
「ちょっとあからさま過ぎましたけどね」
だから俺もキュリエさんも口を出すべきかどうか迷っていた。
何か意図があって煽っているのがわかっていたから。
「それにあの上級生二人は今の私たちより確実に深く潜っているはず。例年の各学年の階層到達度を考えれば明らかに向こうに有利な状況だ。向こうからすればあの内容で受けない理由はない」
「なるほど、確かに」
「ただ……あのベオザって男の存在は、少し気になるがな」
「俺もです。あの人はバシュカータやフィブルクとは少し違う感じがします」
「ま、それでも私とおまえがいれば勝てるだろう。あの男が小聖位第一位ってことは、つまりあの男以上の生徒は出てこないってことだし。むしろ怖いのは聖遺跡が妙な動きをしないかどうかの方だ」
「ですね」
キュリエさんが口元に手を当てた。
「それとこれは関係ないかもしれんが……あのフィブルクという男」
「あいつがどうかしました?」
キュリエさんは、うん、と前置いてから言った。
「私の勘違いかもしれないんだが……あいつ、アイラのことが好きなんじゃないか?」
「……やっぱりそう思います?」
その可能性はなんとなく考えていた。
以前教室の入り口でのやり取りがあった時も、麻呂はアイラさんに邪魔だと言われて意外にもすぐに引き下がった。
さらに先ほど食堂で放った一言。
――おまえが悪いんだろうが!
あれは取りようによっては『おれはおまえのことが好きなのになんでよりにもよってクロヒコなんか誘ってんだよ!』とも取れる気がするのだ。
つまりやたらと目立ちたがるのもあいつなりの自分アピールである可能性が高い。
今回の生徒獲得競争の件も、ともすれば好きな子に意地悪したくなる心理だったりするのだろうか。
案外あの『一つ言うことを聞く』って条件も、アイラさんさえ乗ってくれれば成功だったのかもしれない。
うーむ。
とはいえわからん。
あくまで仮説だし、むしろ麻呂自身が自分の気持ちに気づいてないんじゃないかという説もある。
「ま、他人の色恋など考えても詮無いことか。私たちはまず例の巨人を倒すことを考えよう」
「ええ」
さて、
「俺、これから例の聖魔剣のことを聞くために図書館に行くつもりですけど、キュリエさんはこの後どうします?」
キュリエさんが教室の入口を見やった。
「ちょっと気になることがあってな……悪いが今日はつき合えない」
「わかりました。じゃあまた明日ですね」
「ああ、すまんな」
俺はがっかり聖魔剣を手にキュリエさんより先に教室を出ると、図書館へ向かった。
*
「どえぇぇええええええええ!?」
バラバラバラ、と腰がぶつかった衝撃で机の上の本が床に落ちて散乱した。
「せ、聖魔剣!? これ聖魔剣ですよね!? 盗んできたんですか!?」
「なわけないでしょう! 聖遺跡で手に入れたんですよ!」
部屋に入って聖魔剣を見せるなりクラリスさんはびっくり仰天して飛び上がった――というか飛びすさった。
取り落とした床の上の聖魔剣に、四つん這いになって近づくクラリスさん。
「ほ、ほぅ……聖遺跡で聖魔剣が見つかった例は過去にもないわけではありませんが……ふむふむ、確かにクリスタルが嵌っている上に術式が施されている……」
クラリスさんが顔を上げた。
「これはすごい発見ですよ、クロヒコさん!」
「そうなんですか?」
「いやだって聖魔剣ですよ!? うぉぉおおおお、気力がみなぎってきましたよぁぁああああああああ!」
テンションダダ上がりになったクラリスさんは聖魔剣を手に取り、つぶさに観察しはじめる。
そういやジークが国に三本しかないとか言ってたっけ。
あの時はみんなの反応が冷静だったからそんなすごいものだとは思っていなかったんだけど。
「んん? これは紋章ですかね? むむむ? あれぇ? この盾のような紋章、どこかで見たことがあるような……うむむむ、どこで見たんでしたかねぇ?」
疑問符を頭に浮かべながらウンウン唸るクラリスさん。
「あの、できれば地の獄界のことも聞きたいんですけど……」
むしろ今日はそれがメインで来たのだが。
「地の獄界? んなもんこの世には存在しません。むむむぅ、この紋章は……」
「この前終末郷の地下深くにあるかもとか話してませんでした!?」
「うーん、どこで見たんだったかなぁ……?」
「あの……伝説の話でもいいんですが。せ、せめて情報が載ってる本の場所を教えてくれるだけでも……」
「にしても綺麗ですねぇ……聖素が流し込まれたらどんな輝きを見せるんでしょうねぇ……ふぇっふぇっふぇっ」
き、聞こえてない。
はぁ。
仕方ない。
まずはこの聖魔剣のことを聞くとするか。
「実はその聖魔剣、これといった特別な力があるわけではないらしいんですよ」
「ほほぅ? 興味深いですね。それはどういった意味で?」
聖魔剣の話には反応するのか。
俺はキュリエさんから聞いた内容を説明した。
「鍵みたいにも見えるんで、実は武器じゃないのかも? なんて思ったりもしたんですが……ま、ないですよね」
「鍵? 鍵……鍵……あ!」
クラリスさんが剣の柄でぽんっと掌を叩いた。
「そうです! 思い出しました! 大時計塔の開かずの間! これ多分、あの扉に描かれてた紋章ですよ!」
「大時計塔?」
「ええ! 大時計塔の地下に祭壇のある部屋があるんですが、その祭壇の奥に開かずの扉があるんですよ! 一度だけ許可を得て調べたことがあるんですが、どんな方法でもその部屋には入れずじまいで……」
「その扉の鍵かもしれない?」
「ですよですよぉ! さ、では行きましょう!」
「行くって、どこへです?」
「大時計塔に決まってるでしょう!」
*
「で……私のところへ来たというわけ?」
「だってわたしもクロヒコさんも聖素を使えないんですよ? ならば誰がこの聖魔剣に聖素を流し込むというんですか!? そして誰が地下の祭壇に入る許可を取ってくれるっていうんですか!? 両方の条件を満たしていてかつわたしが交渉できるのは、あなたくらいしかいないんですよ、学園長! わかってるんですか!?」
学園長の椅子に座るマキナさんが組んだ手に額を当て、ため息をつく。
「私……忙しいんだけど?」
「そんなこと言わずに! どうかこの通りです! どうか、どうか、どうか、どうか、どうか……っ!」
学園長の机にがんがん額を打ちつけるクラリスさん。
「わ、わかったから、やめてちょうだい。この机けっこう硬いんだから……下手したらあなたの額の方が割れるわよ?」
「では、学園長!?」
ばっとクラリスさんが顔を上げる。
マキナさんが二度目のため息をついた。
「ええ、行くわよ……行けばいいんでしょう?」
「おぉ! ついでに図書館の予算も増やしてください!」
「何ついでに予算要求してるのよ! 駄目です!」
もうすっかりクラリスさんは舞い上がってしまっているご様子。
人はあんなにも幸せそうな表情を作れるものなのか。
にしても、と俺はマキナさんを見る。
なんやかや言いつつもマキナさんってかなり面倒見がいい方だよな……。
と、不承不承な顔をしたマキナさんが俺に視線を寄越した。
「……あなたも気になるのでしょう?」
「ええ、まあ」
ふぅ、とマキナさんは三度目のため息をつく。
「わかったわ。じゃあこれから準備するから、正門前で待っていなさい」




