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聖樹の国の禁呪使い  作者: 篠崎芳
聖樹の国の禁呪使い 第一部
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第4話「学園長マキナ」


 お縄である。

 人生初の。

 前の世界では非生産的な無職だったが、お縄になるようなことはしなかった。

 いや、今回だって何も悪いことはしてないんだが。


 俺は現在、両手両足を縄紐で拘束され、学園内の廊下を歩いていた。

 足は辛うじて歩ける程度。

 仮に逃走を試みても走ることはできないだろう。

 一定の間隔で壁にかかっているランプは一見すると火を灯している風には見えないけど……電気ってあるのかな?

 なんて疑問を浮かべつつ、これまた等間隔に並ぶ窓の外へと視線を向ける。

 目を覚ました医療室の窓には分厚いカーテンがかかっていたのでわからなかったが、外はもう暗くなりかけていた。

 けっこう長い時間、気を失っていたんだな……。

 なんとはなしに窓の外を眺めていると、背中を小突かれる。


「おい、さっさと歩け」

「……はい」


 背中を小突いたのは衛兵さんだ。

 衛兵さんとリーザさんは、俺を挟み込むようにして歩いている。

 ちなみにリーザさんは医療室を出る際、衛兵さんを親指で示し「この人に手荒な真似をされないよう私が横で監視しといてあげるよ」と言って、ついてきてくれた。

 うぅ、なんていい人なんだろう。


「…………」


 しかし学園ってわりには雰囲気が荘厳というか、なんというか。

 俺がいた世界の学校とはだいぶ感じが違う。

 今歩いている廊下にしても、RPGなんかでよく見る西洋ファンタジーのお城みたいだ。


 あー……駄目だ。

 お縄になっているのに、俺、ちょっとワクワクしてるかも。

 そりゃそうだ。

 誰もが一度は抱くであろう、ゲームの中の世界に入れたらいいのになっていう妄想が、現実になったみたいなもんだからな……。


 俺がそんなことを考えていると、リーザさんが俺を指差した。


「で、彼はこれからどうなるんだい?」


 衛兵さんがちらりと俺を見る。


「とりあえず今日は警備室で尋問してから、明日まで学園の懲罰房にぶち込んでおくことになるかと。処遇に関しては明日、学園長の判断を仰ぐつもりです」


 懲罰房。

 なんという穏やかならざる響きだろう。

 さっきちょっと感じたワクワクが一瞬にして吹き飛んでしまった。

 思わずため息が零れる。


「んー……尋問に懲罰房か。どうだろう? その役目、私が請け負うのは駄目かね?」


 リーザさんが人差し指を立てて、衛兵さんに尋ねた。


「駄目です」


 衛兵さんはにべもなく即却下。

 僅かに沈黙が流れる。


「もう一度聞く、駄目かね?」

「もう一度言います、駄目です」

「頑なだね」

「なんというかあなたは……彼を気に入っている節があるので」

「はははは、バレてたか。なかなか見てるとこは見てるんだね、キミも」

「……どうも」


 憮然とする衛兵さんに対し、からからと笑うリーザさん。

 むむ……リーザさん、俺のことを気に入ってくれているのか。

 こういう人に気に入られるのは、悪い気はしないな。

 一方の衛兵さんは『こんなやつのどこがいいんだか』という顔を俺に向けている。

 うーむ。

 ひょっとしてこの衛兵さん……リーザさんに気がある?


「いやね、私は彼がどうも悪人には見えなくてね? 少なくとも間諜って感じじゃないよ。これでも人を見る目はあるつもりなんだ」

「そう思わせるよう演技しているだけかもしれませんよ? 訓練された間諜なら、それくらい朝飯前でしょうし」


 リーザさんは「うん、まあ、かもしれんがね」と苦笑した。

 ……そこはもうちょっと食い下がってほしかった。


 そうこうしているうちに、少しひらけた場所に出た。

 踊り場のような空間だ。

 上下階に階段が伸びている。


「……ん?」


 足音?

 足音の方へと視線を向ける。

 上の階段から誰かがおりてくる。

 コツ、コツ。

 コツ。

 足音は、階段の途中で止まった。


「あら? 何かあったのかしら、リーザ」


 黒い髪をかき上げながら、足音の主――少女が言った。

 見た目からすると幼女といっても差し支えないくらいだが……。

 受ける印象からすると小学校高学年くらいだろうか。

 レースのフリルがついた黒いドレスを着ていて、頭にはヘッドドレスをつけている。

 漆黒の髪は腰のあたりまで伸びていた。

 目の色は深紅。

 カラーコンタクト……ってわけじゃないんだろうな。

 宝石みたいな瞳だ。

 見た目はお人形さんみたいだが、いささか横柄な印象も受ける。

 上から目線で物を言うのに慣れている感じ、というか。

 何者だろう?


「が、学園長」


 びしっ、と衛兵さんが居住まいを正す。

 え?

 学園長?


「やあ、学園長」


 あからさまに態度が変わった衛兵さんとは違い、リーザさんは特に姿勢を正すでもなく少女に挨拶した。


「私のことはマキナでいいと言っているのに……やはりつれないわね、リーザ」


 学園長と呼ばれた少女はマキナという名前らしい。

 しかし、学園長か。

 俺はマキナという少女を観察する。

 やっぱり……身長と体型のせいか、子供にしか見えない。

 とはいえ、学園長という肩書きと、落ち着き払った雰囲気、衛兵さんの態度の変わりっぷりから察するに、けっこうな立場の人物であることは間違いないようだ。


「で、そこの男は何をやらかしたのかしら?」


 学園長が、縛られた俺の手足を順番に見やる。


「あ、彼は聖樹士候補生に紛れ込んで学園に侵入した不届き者でして、私が捕まえました」


 衛兵さんが鼻息荒く、誇らしげに言った。

 あのぅ。

 なんか勝手にストーリーができあがってませんでしょうか?

 俺ってまだ一応、推定無罪的な立ち位置だった気がするんですが……。


「ふーん」


 学園長が俺に興味なさげな視線を向けてくる。


「で?」


 横柄な調子で学園長が腰に手を当てる。

 背格好のせいか、なんとなく可愛らしく感じてしまう。


 一拍の間があって、ようやく学園長の『で?』が『話を続けろ』という意味だと理解したのか、衛兵さんが慌てて口を開いた。


「あ、その……これから彼を警備室に連れて行き、尋問するつもりです。その後は、懲罰房に入れようかと」

「あら、警備室の地下には留置室があるでしょうに。どうしてわざわざ懲罰房に?」

「留置室は現在、工事中ですから」

「ああ、そうだったわね。忘れていたわ」


 留置室。

 懲罰房よりは響き的にまだ扱いがマシな感じがする。

 なんでこんな時に工事中なんだよ……。


「……?」


 えーっと。

 何?

 階段を下りて歩み寄ってきたかと思うと、学園長が、じー、っと俺を値踏みするように見据えた。


「で、あなたはどういう目的でここに?」


 発言してもいいものか、俺は衛兵さんに視線でおうかがいを立てる。

 彼は不服そうな目つきで暫し俺を睨みつけてから、ようやく仕方なさそうに頷いた。

 お、許可が下りた。

 ここで上手く説明できれば、なんとかなるかもしれない。

 この子は権力を持った人物っぽいし。


「目的というか……俺は行き倒れていたところを新入生と間違われて、この学園の医療室に運び込まれたってだけなんです。なんでも俺を医療室まで運んでくれたのは、ここの新入生だったとか」

「それが本当ならば、あなたには特に咎はないわね」


 お、なかなか話がわかる子かもしれない。


「え、ええ、そうなんですよ!」


 学園長が衛兵さんに視線を向ける。


「私は別に尋問の必要性を感じないけれど」


 む。

 手ごたえ、ありか?

 と――次に背後から聞こえたのは舌打ちだった。

 一歩、衛兵さんが前に出る。


「い、いけません学園長! こいつは……怪しい!」


 と、その時、肩をすくめたリーザさんが、助け舟でも出すかのように口を挟んだ。


「ま、誠実そうではあるけどね。顔も悪くないし」


 ぐっ、と衛兵さんが言葉に詰まる。


「そ、そうだ……きっと、わざと運び込まれたに決まってますよ!」


 剣呑な面持ちで俺に指を突きつけてくる衛兵さん。


「やはり帝国あたりの間諜……いや、よもやすると留置室から逃げた男の仲間かもしれない! しかも、お、女にもだらしがない男です!」


 衛兵さんが口角泡を飛ばして言った。

 うーむ。

 間諜や留置室から逃げた男云々はともかく、


「女にもだらしがないとは心外ですね……て、ていうか、あなたはこれまでの俺のつまらない人生を何も知らな――」

「うるさい! 黙れ!」


 次の瞬間、


 どんっ、


 と。

 俺の背中に、衝撃が走った。


「――えっ?」


 ぐらり、とバランスを崩す。


「うわっ!?」 

「え? ちょっ、ちょっと――」


 縄で両足を縛られているせいで踏みとどまることかなわず、俺は、そのまま学園長に覆いかぶさるようにして倒れ込んでしまった。


「…………」


 う、うん……?

 あれ?

 転んだけど……まるで痛くない?

 むしろ、何やら柔らかい感触が……。

 しかもなんだかいいにおいがする。

 甘くて妖しげな香り。

 しかも何やら顔のあたりには柔らかな感触が――

 薄く目を開く。


「……え?」


 ――嘘、だろ?


 俺の顔が……学園長の胸元にくっついている?

 ま、まずい!

 しかも位置的に手が学園長の太ももの間に入って……くそっ!

 手が縛られているせいで上手く位置を外せない!

 さらに足の自由が効かないせいか、学園長の身体の上でもぞもぞと身体を左右に振る形になってしまう。


「ひゃっ!? 一体、な、何をしているのあなたはっ!? ぶ、無礼な! ちょっ……と! 離れ、なさいっ! いいこと!? これ以上……う、動いたり、変なところを触ったりしたら……タダじゃおかな――こ、こら、今度はどこを触っているの!?」

「ち、違うんです! これは――」


 どうにか離れようとするが……だ、駄目だ!

 これでは学園長の身体に自分の身体を擦りつけているだけだ……!

 くそっ。

 変に俺が動くと、学園長が暴れるのと合わさって逆に妙な体勢で互いの身体が絡まってしまう……!

 …………。

 し、しかしこの甘ったるい香り……女の子って、こんないいにおいがするものなんだな……。

 香水だろうか?

 だとしても、いい匂いだ……。

 って、何考えてんだよ俺は!?

 今はそんなこと考えてる場合じゃないだろ!


「学園長から離れろ、貴様ぁ!」


 衛兵さんが何やら喚いている。

 首をひねって横を向く。

 あ。

 ちくしょう。

 あいつ、明らかに俺たちを助け起こそうとしてるリーザさんを邪魔してやがる!

 危ないですから下がって! とか言いながら衛兵さんはリーザさんが歩み寄るのを遮っていた。

 その衛兵さんの口元には薄っすらと笑みが……。

 あ、あいつが押したんだな!


「死刑……」

「え?」

「あなたは――死刑よ! きゃっ、だ、だから動かないでって言ってるでしょ!?」


 学園長が声を上げた。

 駄目だ。

 学園長が暴れるせいで、う、上手く身体が離せない……!

 一度、おとしなくしてもらわないと!


「お、おとなしくしてください!」

「なっ――」


 俺が決然と言い放つと、途端に学園長の顔が青ざめた。


「え、あの……?」


 おとなしくしてもらわないと、その、身体が上手く離せないんですが……。


「私をこの場で……どうにかするつもり? なんて大胆で、破廉恥な――」

「え、いや、違っ――」


 ピシッ、と学園長の表情に殺気が走った。


「いい度胸だ、下郎」


 学園長の背後にメラメラと燃え盛る、どす黒い炎が見える気がした。


「ち、違うんです! 俺はただ、身体を離すためにおとなしくしてもらおうと――」


 その時、


「あのぅ〜、学園長? 何かあったんですかぁ~? ていうか、どこにいるんですかぁ~?」


 と、階段の上から声がした。

 声の方を見る。

 場の空気にそぐわない間の抜けた声で学園長に話しかけたのは、大量の本やら巻物? を顔が隠れるほど両手いっぱいに抱えた人物だった。

 声からすると女の子のようだ。


「今、取り込み中よ!」


 もがきながら学園長が怒声を上げる。


「ひぇっ!?」


 怒声に驚いたのか、階段の女の子がびっくりした声を上げた。


「あ、あわ、あわわわわわ――」


 かっ、と音がした。

 そう。

 まるで階段を踏み外したかのような、そんな音が。


 一瞬、俺と学園長の動きがピタリと停止する。


 何かが、飛来してくる。

 こちらに向かって。

 階段の上から。

 …………。

 声の主が、落ちてくる?


「ちょっと、冗談でしょ!?」

「うわ、逃げないと――」


 俺はどうにかもがくが、学園長も暴れるせいで上手く離れられない。

 くそっ。

 せめて学園長だけでも下敷きにならないよう、どうにか――


「う、うわぁっ!?」


 どすんっ。

 視界が暗くなり、衝撃が身体に走った。


「う、うーん……」


 ゆっくりと、瞼を上げる。

 視線の先には、可愛いらしい少女の小さな顔。

 学園長……。

 一応、動きは止まっているようだが。


「あれ?」


 いつの間にか、位置関係が変わっている。

 学園長が俺のわき腹あたりを脚で挟み、馬乗り状態になっていた。

 というか。

 改めてこうして間近で見ると、本当に可愛い。

 ルビー色の目も、これが人間の目なのかってくらい綺麗だ――じゃなくて。


 顔を合わせる学園長が、垂れた髪をかき上げた。


「さて……この後が楽しみね?」


 唇の形こそ弧を描いてはいるが、その深紅の瞳を持つ目は冷え切っていた。

 目が笑っていない。


「べ、弁解のチャンスはありませんか?」

「ないわ」

「ないですか」

「ええ」


 終わった。

 ていうか、


「あの、俺の股間のあたりに、さっきから何か当たっているんですが――」


 俺たち二人の視線が、俺の股間へと向く。


 …………。


 柔らかそうな栗色の髪をした少女が、俺の股間に顔面をうずめていた。

 大量の本やら書類を抱えたまま躓いた子だった。

 反応がないことを見ると、どうやら気絶しているようだが……。


 きっ、と学園長が俺の顔を睨んだ。


「……狙ったの?」

「へ?」

「彼女が落ちてくる直前、何やら動きを見せていたようだけど」

「あれは、学園長が下敷きになるのを回避しようと――」

「ふ~ん、そうなの」

「はい!」

「でも死刑ね」

「今なんのために質問したんですかっ!?」


 学園長が不敵に微笑む。


「私ね、節操なしの色狂いにはちょっと厳しいの」


 なんかこの子、怖い。


「そこの警備兵、リーザ!」


 学園長の視線の先。

 唖然とした顔で事態の成り行きを傍観していた衛兵さんとリーザさんが、弾かれたように反応する。


「は、はい!」

「ん、な、なんだ?」

「手出しは許さないわ。そこで、黙って見ていなさい」

「いや、しかし今のはどう見ても不可抗――」

「残念ながら議論の余地はないわ。残ったのはこの男が私に身体を擦りつけたという、厳然たる事実だけよ」


 助け舟を出そうとしてくれたリーザさんだったが、学園長はそれを有無を言わさぬ調子ですっぱりと切って捨てた。

 聞く耳を持たないとはまさにこのこと。

 まあ、学園長の言葉の後半部分に反論はできない。

 事実は事実である。


 学園長は気絶しているらしい栗色の髪の少女を抱きかかえると、咄嗟に俺から距離を取った。


 ふと見ると、転んだ際に空中に巻き上げられた紙が宙を舞っていた。

 なんとなく競馬場で馬券が飛び交ってる光景を思い出してしまう。


 ……今はそれどころじゃない。

 さて、どうするか。


「そこの破廉恥男にはここで私が罰を与えます。少しだけ、痛い目を見てもらいましょう」


 宣言するやいなや、学園長が目の前の空間に指を滑らせはじめる。

 空中に……文字を書いてる?

 滑らかで流麗な動きだ。

 と、学園長の指がなぞった部分が青白く発光をはじめた。

 …………。

 なんか、やばい気がする。

 あれって魔術的なものを発動する前振りみたいなものじゃないのか?

 そんな予感がする。


「わ、わわっ」


 本能的に危険を察知した俺は立ち上がりかけたが、しかし、すぐにその場で躓いてしまった。


「ぐっ」


 だ、駄目だ。

 手足を縛られているせいでバランスが取れない。


「…………」


 ま、学園長は下敷きにならずピンピンしているみたいだし。

 彼女が無事だっただけでも、よしとするか。

 くそ。

 にしてもあの衛兵、なんてやつだ。

 リーザさんがやたらと俺の肩を持つことに嫉妬したんだろうけど……。

 まさか、あんなことをするとは。


 はぁ、とため息をつく。

 てか、やっぱり学園長が言っていたように俺は死刑になってしまうのだろうか?

 うーむ。

 まあ……不可抗力とはいえ、あんなことをしでかしてしまったわけだからなぁ。

 元の世界でもあんなことしたら立派な犯罪だ。

 周囲の状況を確認する。

 …………。

 弁解の余地もなさそう、か。

 再びため息が漏れ出る。

 ラッキースケベ的な展開が死因に繋がるとは、なんという人生の幕引きだろうか。

 うん。

 現実は甘くない。

 それにしても、と俺は学園長を見た。

 魔術があるってことは、本当に異世界なんだなぁ……。

 一体、どんな魔法が飛び出すんだろうか。


 はは、しかし……ま、やっぱ来世にご期待か。

 一瞬こっちで人生やり直せるかとも思ったけど……短くて、儚い夢だったなぁ。


 そう観念した俺の目の前に、ひらりっ、と一枚の丸まった紙が降ってきた。

 ん?

 なんだこれ?

 羊皮紙ってやつ?

 緩んでいたのか、巻物っぽい紙を結んでいた紐が、しゅるり、と目と鼻の先でほどける。


「ん?」


 何か文字が書いてある。

 ポエムかな?

 ふむ。

 そうだな。

 せっかくだし、この巻物に書いてある言葉を俺の辞世の句として、この生涯を終えるとするか。

 普通に読めるし。


「ええっと、何々?」


 俺は文字に視線を走らせた。


「『我、禁呪ヲ発ス、我ハ鎖ノ王ナリ、最果テノ獄ヨリイデシ万ノ鎖ヨ、我ガ命ニヨリ我ガ敵ヲ拘束セヨ――第九禁呪、解放』?」


 ぷっ。

 思わず吹き出してしまった。

 こんな状況なのに。

 けど仕方あるまい。

 辞世の句がまさかの、どこの誰が書いたのかもわからない、厨二病ポエムだったのだから。

 わはははは。

 いや、でもよかった。

 なんか最後の最後に、色々と吹っ切れた。

 うん。

 最後に笑いながら死ねるってのは、きっといいことだろう。


 さあ。

 どんとこい。


 俺は清々しい気持ちで、学園長の方を見た。

 と、いつの間に目を覚ましていたのだろうか、学園長の後ろにいた栗色の髪の少女が驚愕の表情を浮かべていた。

 しかし、目の前で繰り広げられている光景が意味不明で驚いているにしては、さすがに驚きすぎな気もするが……。

 え?

 まさか学園長が今まさに発動しようとしてる魔法って、そんなにやばいものなの?


「が、学園長」


 栗色の髪の少女が声をかける。


「術式展開中よ、話しかけないでちょうだい! 座標の調整をミスするわけには――」


 栗色の髪の震える指先が俺へと向けられた。


「い、いえ……い、今の……」


 瞬間。


 学園長を取り囲むように、四方の空間に穴があいた。

 なんていうか――ぽっかりと。

 まるで別次元からのゲートが開いたかのように、赤黒い穴が開いた。

 なんだあれ?

 まるで空間にできた、傷口のような――


「逃げてください、学園長!」


 栗色の髪の少女が、叫んだ。

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