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聖樹の国の禁呪使い  作者: 篠崎芳
聖樹の国の禁呪使い 第二部
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第42話「タソガレと、彼女が目覚めさせた者」


 苦笑いするキュリエさん。

 その笑みには、感心がまじっていた。


「やれやれ……日に日にシャナトリスのいなし方に磨きがかかってきているな、おまえは」

「クカカ! クロヒコはワシの周りの者と違う反応をするから新鮮でいいわい。で、キュリエはタソガレの話じゃったな?」

「ん? ああ……タソガレは、まだ姿を隠したままなのか?」


 以前、シャナさんが訪ねて行っても毎回家にいないと聞いた。

 どこかの山に引きこもっているのだったか。


「うむ。目撃証言は一応あるんじゃが、とんと会えん。最近は山小屋へも戻らず、王都をウロウロしとるようなのじゃが……」


 俺たちが向かっている間もタソガレの捜索に力を割いてくれていたらしい。


 渋面になって頭を抱えるシャナさん。


「おかげで、最近はラグナ――タソガレという女が本当に実在していたのかどうかすら、自信がなくなってきおったわ」


 確かこの国では《ラグナ》と名乗っていたのだったか。


「フン、あの人らしいと言えばあの人らしいがな。第6院で共に過ごしはしたが、普段あの人が何をしていたのか鮮明にはよく覚えていない。昔から、そんな人だった」


 フワフワした人だったのだろうか。


「にしても……ヤツがあの伝説の孤児院を創設した人物じゃったとはのぅ。タダ者でないとは、思っておったが」

「一度、タソガレの家へ連れて行ってもらえないか? 急ぎはしない。滞在中に予定を組んでくれれば、それでいい」

「かまわんが……留守じゃと思うぞ?」

「私に会う気があるなら戻っているさ。あの人が会うべきだと思えば会うだろうし、会う気がないなら、どんなに捜そうと姿を現さんだろう。その時は諦めるさ」


 シャナさんが舌を巻く。


「さすがあの第6院で育っただけあるのぅ。ワシよりあやつのことを、よぉく理解しておる感じじゃ」


 キュリエさんがカップの中身を一口すすった。

 艶やかな唇をカップから離し、彼女は微笑する。


「昔ほどタソガレへの執着心がないのもあるな。今は――」


 キュリエさんが俺へ視線を送った。


「あの頃とは、心持ちも違う」

「あれじゃな! オトコができて変わったというやつじゃな!?」

「…………」


 安定してひと言多い魔女であった。

 次は、義眼作成の話に移った。

 こちらも予定を組みつつ勧めてくれるそうだ。


「では、決められた日取りにワシの研究室まで来てくれ。その日に城を訪ねてきたら案内させるよう手配しておく。義眼の方は、まずは検査じゃな。そして、その時に――」


 邪悪な笑顔で小さな両手をワシワシするシャナさん。


「約束通りアレコレ禁呪使いを調べさせてもらうぞい。ウッヒッヒッヒッヒッ」

「……まあ一応、約束ですからね」


 事情を知らないミアさんがピンッと跳び上がった。


 俺の反応で、いつものシャナさんの冗談ではないと感じたようだ。


「ふぇぇ!? だ、大丈夫なのですか!?」

「うむ……調べる過程でもしクロヒコの子を授かったら、その時はマキナに一報を入れねばならんのう……」

「っ! っ!! っ!!! うーん、ぶくぶく……」


 青ざめたミアさんが泡をふいて倒れた。


「ミアさん!?」


 シャナさんが仰天する。


「うぉお!? す、すまんミア! まさかそんなに衝撃を受けるとは思っておらんかったのじゃ! 戻ってくるんじゃーっ!」



     *



「冗談を真に受けて……お見苦しいところを見せてしまい、大変申し訳ございませんでした……皆さま……」


 ミアさんが真っ赤になって畏まる。


「いやいや、ワシの方こそすまんかった。ミアはワシをよく知っておるからと思って、ついつい調子に乗りすぎてしまったわい……」

「い、いえ……あの……わたくしも、ク、クロヒコ様のこととなりますと、やや過剰に反の……あ、いえ……そ、の……」


 さらにアセアセして萎んでしまうミアさん。


「?」

「……ナ様にも……わけが、立ちませんし……防げなかっ……となると……いえ……たくしも、そればかりは……」


 言葉がコショコショとさらに小さくなっていく。

 最後はほぼ聞き取れないレベルの声量になっていた。

 何やら困っているみたいだけど……。

 ここは、話題を変えてあげた方がいいのかもしれない。


「ところでシャナさん、話題は変わるのですが」

「う、うむ」

「国境を越えて最初の都市に着いた時、本来は神罰隊の人たちが出迎えに来るはずだったとゼス隊長から聞いたんですが……何か急な用事でもあったんですか?」


 これはちょっと気になっていた。

 あの時、ゼス隊長は言い淀んでいた。


「まあ、少しばかりのっぴきならん事情があっての〜」


 苦笑するシャナさん。


「今のは、タソガレの捜索をしていたからって言い方じゃないですよね?」

「それもあったが、他に予定外の問題が起こっていたのじゃ」

「予定外の問題?」


「亜人王が勝手に城を抜け出してな」


 亜人王。


 戦獄塔で発見された棺に眠っていたという人物。


 亜人王を眠りから解き放ったのは、タソガレ。


 タソガレの居場所をキュリエさんに教えた時、ノイズがそんなことを言っていた。


「ワシや神罰隊はその亜人王の捜索で手一杯だったのじゃよ……」


 とほほ、みたいなため息を吐くシャナさん。

 心底参っている感じだ。


「タソガレがアダマット山地に引きこもってからというもの、日に日に身勝手になっていってのぅ。ワシも困っておるのじゃ……」

「危険な人物なんですか?」

「危険というよりは――無茶苦茶、強い」

「ええっと、話は通じるんですよね?」

「一応はな。しかし偏屈者でなかなか言うことを聞かんのじゃ。先日なんぞ、思いつきで終末郷へ行こうとするしのぅ……」

「ふむ……おまえたちは、なぜその亜人王にこだわる?」


 キュリエさんが質問した。


「聞いた感じ、シャナトリス側はかなり亜人王に配慮している印象があるが」

「このルーヴェルアルガンで最強と言われるローズ・クレイウォルに匹敵――あるいは、それを凌ぐと思われる人物だからじゃ」


 シャナさんが俺の左目を見る。


「今では証明しようもないが、ワシは亜人王をあの四凶災に勝る人材だと見ておる」

「そこまで、ですか」

「ワシの読みではな」


 納得めいて頷くキュリエさん。


「なるほど。そこまでの人物となると、自国の戦力として保持しておきたくなる気持ちはわかる」

「この大陸には《黒の聖樹士》ソギュート・シグムソス、《鎧戦鬼》ローズ・クレイウォル、《武神》ガルバロッサ・ギメンゼの三強、そこに帝国の《双子》が加わるのが定番じゃった」


 シャナさんが立ち上がる。

 と、俺の隣に座った。

 はい?


「じゃがさらに今では、ここにいる《聖樹の国の禁呪使い》サガラ・クロヒコを始めとした新たな強者が各国で頭角を現し始めておる。もちろん、キュリエ・ヴェルステインもじゃ。帝国ではヘル皇女の息のかかった一派が力を伸ばしていると聞く。どうも有能な誰かが、皇女の影で動いとるようなのじゃ」


 帝国か……。


 やはりあのヒビガミが一目置く《蛇》こと、ヴァラガ・ヲルムードの名が頭をよぎる。


「じゃからワシら軍神国も対抗できる人材が欲しい」

「そこで亜人王なわけですね?」

「そうじゃ。自国の戦力としてなんとか引き入れたいと考えておる……のじゃが、気風が自由人すぎてのぅ。規律とは程遠い男なのじゃ」


 自由に振る舞いまくってる風に映るシャナさんに、規律について言及させる自由人か。


 どんな人なのだろう?

 少し気になる。


「とまあ、ワシが出迎えに行けんかった理由はそんなところじゃ」


 このあと俺たちは義眼作成と禁呪調査の日程を軽く詰めた。


 義眼の件の方は、上手くいけば目が見えるようになるかもしれないとのことだ。


 どんな技術なのかは不明だが。


「私たちがここへ来た目的の確認は大体こんなところだな。さて、明日からどう動くかだが――」

「あ、それなんじゃがの?」


 シャナさんが言った。


「明日、おぬしらには候補生としてアルガン学院に登校してほしいのじゃ」





 シャナトリスはなんだかクロヒコと気楽に絡ませやすいですね。


 次話は6/1(金)19:00の更新予定ですが、もしかすると6/8(金)になるかもしれません。もし6/1に更新がなかった場合は、次話は6/8の更新ということでご了承いただけますと幸いでございます。


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