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聖樹の国の禁呪使い  作者: 篠崎芳
聖樹の国の禁呪使い 第二部
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第41話「ここへ来た目的」


「急ぎで淹れたもので申し訳ございません、シャナトリス様」


 お茶入りのカップを卓に置くミアさん。


「かまわんかまわん。にしてもマキナのやつがミアを同行させるとは意外じゃったのぅ」


 シャナさんは卓を挟んで正面の肘かけ椅子に座っている。

 ここは屋敷の客間にあたる場所だろうか?

 俺の隣に座っているのはキュリエさん。

 ニヤけ顔のシャナさんが下種な視線をミアさんへ飛ばす。


「ミアはアレかの? クロヒコの夜のお相手役として同行したのか?」

「ふふ、シャナトリス様ったら。毎度のことではございますが、ご冗談が過ぎますよ?」


 微笑んでサラッと受け流すミアさん。

 スルーに慣れが感じられる。

 ちょっとホッとした。

 といっても、


「ミアさんが温厚で優しいからって調子に乗らないでくださいよ、シャナさん。俺がいる時は、しっかり目を光らせておきますので」


 釘は差しておいた。


「ふむ? 要するに夜のお相手はワシがよいのじゃな?」

「言ってないですよね?」

「はぁぁ〜、つまらん男なのじゃ〜! クロヒコはつまらん村の、つまらん村長なのじゃ〜!」

「というかあんた……ギアス王子の近衛隊の人たちに随分と俺の風評被害をもたらしてくれたみたいですよね……?」

「ぬごぉっ!? ままま、待つのじゃクロヒコ! 言葉の綾なのじゃ! 怖いのじゃ〜! ちょっと懐かしい気もする、いつものやり取りなのじゃ〜!」

「はぁ……シャナさんは、もうちょっと冗談で済むイタズラで抑えてくださいよ」

「クカカ! クロヒコはいつも最後はこの程度の注意で済むからの~! うむ! なんと心が広い男よ! 礼として、ワシがおぬしの子種をもらってやるぞい!」

「……ふむ」

「ん? どしたのじゃ?」

「ええ、第七禁呪の禁呪腕で何かシャナさんを懲らしめる方法がないかと……」

「だ、第七禁呪じゃと!? 知らん数字の禁呪でワシに何をするつもりなのじゃ!?」


 庇うみたいに自らの身体を抱き締めるシャナさん。


「まあ……とりあえず今回の風説の流布については、あとで俺の頼みを一つ無条件で聞いてもらう権利に代えさせてもらうとして――」

「クロヒコに都合のイイ感じでサクッと処理されたのじゃ!?」

「今ほど、禁呪の話題が出ましたが」


 言うと、シャナさんの動きがピタッと止まった。


「む?」


 ニヨッと笑うシャナさん。

 細い脚を開いて彼女は頬杖をついた。

 睨め上げるような視線と、不敵な笑み。


「ふむ、その話題からくるか?」

「俺としてはまずその話が気になっていまして。ただ……えっと、キュリエさんはその話からでいいですか?」


 ルーヴェルアルガンへ来た主な目的は三つ。

 新たな禁呪の呪文書の件。

 義眼作成の件。

 タソガレという人物に会う件。

 三つ目はキュリエさんの主目的だ。

 俺の用事ばかり優先させては悪い気がする。

 だから一応、お伺いを立てておかないと……。


「ん? 私はかまわんぞ。急いでタソガレに会わなければならん理由もないしな」

「すみません。ではシャナさん、禁呪の件からお願いします」

「うむ、承知した」


 シャナさんが真面目モードに入る。

 …………。

 このモードの時はほんと是非とも頼りにしたい人なんだよな。


「戦獄塔の名は知っておるな?」

「ええ」


 ざっくり言えばルーヴェルアルガン版の聖遺跡といえる存在。

 俺はそう認識している。

 戦獄塔では貴重な鉱物が多く入手できるそうだ。

 ふと思い出す。


 ベシュガムが《スヴェグルイン》という身体の部位を硬化させる術式刻印を使った際、こう言っていた。


 ごくまれに戦獄塔からアディマンティウムという貴重な鉱物が産出する、と。


 ただ、聖遺跡で産出するクリスタルだけは戦獄塔だと入手できないのだとか。


「現在、戦獄塔の攻略はワシが副隊長を務める神罰隊が行っておる。じゃがあの塔だと、持続力と一部通路の狭さの問題でローズを長期運用できんのじゃ。つまり攻略が進むとローズ抜きでになってしまう。ゆえに最近は攻略がなかなか進んでおらんのじゃ……」


「協力を仰いだりはできないんですか? たとえば、ギアス王子の近衛隊とか」


「うーむ……王のにしても王子のにしても、神罰隊と近衛隊は喰い合わせが悪くてのぅ。そして戦獄塔も聖遺跡と同じく、攻略人数が増えるほど障害も増える性質を持つ。じゃから、単純な増員というわけにもいかん」


 戦闘能力で言えば神罰隊は王都の最高戦力。

 攻略の増員は不可能。

 となると、神罰隊が無理ならそこでストップとなる。


「それでもワシらは少しずつ攻略を進めて行った。その結果、とある階層へ辿り着いたのじゃ。で、その階層はこれまでと感じが違っていてな?」

「どんな感じに違ったんです?」

「シャレにならんほど強い謎の魔物が、居座っておった」

「謎の魔物?」

「あれは新種の魔物じゃな。過去の記録と照らし合わせても、一切情報がない」

「どんな魔物なんです?」

「まず、身体がでかい」

「ふむふむ」

「で、三つの頭に八本の腕を持っていて――」

「…………」


 ん?


「顔が髑髏のようで、腹がでっぷり膨らんでおって……しかもじゃぞ? 聞いて驚くなよ? なんと口から魔物を吐き出すのじゃ……それも、大量に!」

「……な、なるほど」

「さらに、攻撃を加えてもすぐに再生してしまう――どうじゃ!? 聞いただけで、びっくり仰天じゃろう!?」


 隣のキュリエさんに視線を飛ばす。

 彼女は一つ、うん、と頷いた。

 むむむ?と眉間にシワを寄せるシャナさん。


「ど、どうしたのじゃ? なんじゃ? そのうっすい反応は……ま、まあ――あのベシュガムという馬鹿げた強さの四凶災と比べれば、いささか衝撃度が薄いのかもしれんが……」

「シャナさん」

「う、うむ」

「完全に一致するかどうかは、まだ断言できませんが」

「む? 一体、なんの話じゃ?」

「同一と思われる魔物を、俺たちはすでに聖遺跡で撃破しています」

「ほへ?」



     *



「シャナトリス、少しいいか?」


 キュリエさんが口を挟んだ。


「む? なんじゃ?」

「話の筋は見えてきた。私たちを呼び寄せたのは、その魔物を倒す手伝いをさせる意図もあったわけだな?」

「む……な、なくもなかったが――しかしそれがなくとも、今回は普通におぬしらに会うのを楽しみにしておったぞ……?」


 シャナさんがちょっと困った顔をしていた。

 今のは本心っぽい。

 ここは俺たちに誤解してほしくない。

 そんな意思が伝わってきた。

 こういうところがあるから、憎めないんだよなぁ……。

 キュリエさんが促す。


「つまらんことで口を挟んですまなかった。続けてくれ」

「う、うむ」


 シャナさんが、ちょん、と座り直した。


「でな? その部屋の奥の扉にあった紋章が、これと似ておったのじゃ」

「紋章?」


 まさか。


「こんな感じじゃったと思う」


 シャナさんが折りたたんだ紙を懐から取り出した。

 卓上で紙を広げると、俺の方へ差し出す。


「見覚えはあるか?」


 口もとに手をやる。


「……あります」


 時計塔の地下祭壇。

 学園の聖遺跡の地下深く。

 そこにあった祭壇。


「クリストフィアの時計塔の地下祭壇については、前にマキナから話を聞いておった。紋章の形もこうして絵にしてもらっておる」


 さすがマキナさん。

 呪文書集めの方にも手抜かりがない。


「なるほど。だからその三つ頭のいる部屋の奥に、禁呪の呪文書があるかもしれないと踏んだわけですか」

「そういうことじゃ」

「しかし三つ頭を倒せる戦力がない、と」

「うむ。ローズの整備用のアレコレを持ち込んで戦獄塔の中を移動するのは、困難でな」


 俺は三つ頭の攻略法を話した。


「なぬっ!? 頭部の三点同時破壊で再生させずに倒せるじゃと!?」

「俺たちは一応それで倒せました」

「ぬぅぅ! なぜワシはそこに思い至らなかったのじゃ!? そうか! 三つ首竜の伝承か……むむむ……その伝承とは、繋がってこんかったわい」


 シャナさんがしょんぼりしていた。

 プルプルしながら、ほんのり涙目になっている。


「ふ、不覚じゃぁ……」


 俺は苦笑した。


「シャナさんって、けっこう自信家なんですね」

「夜伽にも自信はあるのじゃ」

「次の話、いきましょうか」



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