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聖樹の国の禁呪使い  作者: 篠崎芳
聖樹の国の禁呪使い 第二部
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第40話「王都シュベルポス」


 頑強そうな大門をくぐって馬車が王都に入る。

 さすがは王子の近衛隊の馬車。

 顔パス級な余裕の通過だった。

 見ると、他の馬車は兵士に一度止められていた。


「やっぱり王子の近衛隊って特別な存在なんですか?」


 ゼス隊長が俺の問いに答えた。


「特貸紋の力も強いでしょうね。特に王都近辺での効果は絶大ですから」


 中央に近い方が特貸紋の権威がより強い感じだろうか?

 馬車はスイスイと城下町を進んで行く。

 煙がたくさん上がっている地区が目に入った。


「あの辺りは何か特別な地区なんですか?」

「工房地区です。武具を始めとして様々なものを製造しています。ルーヴェルアルガンは鉱物が豊富ですので、鉱物の加工品も多いのですよ」


 街並みはレンガ造りの家が多い印象。

 道の舗装にはなんというか――威圧感があった。

 繊細なクリストフィアとは対照的に思える。


 クリストフィアを景観美しい観光都市とすると、シュベルポスは洗練された工業都市というイメージだ。


 いや、あくまで俺の直感的な第一印象だけど……。

 馬車が城に近い地区に入った。


「そういえばあのお城のところにある二つの塔が、噂に聞く戦獄塔ですか?」

「いえいえ、あれは違います」


 ふむ?

 他に塔らしき建造物は見当たらない。

 聖遺跡は王都の中にあった。

 だけど、戦獄塔は王都外にあるのかもしれない。


「着きましたよ」


 俺が戦獄塔についてさらに聞こうとしたところで、馬車が停止した。

 ゼス隊長がドアを開ける。

 開け放たれたドアの向こうに大きな屋敷が見える。


「あちらが皆さまの滞在中の住まいとなります」

「…………」

「禁呪使い殿? い、いかがされましたか? キュリエ殿も、侍女殿も……」


 俺はポカンと口を開けていた。

 キュリエさんもちょっと驚いている。

 ミアさんは「は、わぁ……」と吐息をこぼした。


「でかい屋敷、ですね……」


 俺が泊まったアークライト家の屋敷よりも大きい。

 門構えも立派だ。


「ほ、本当に滞在中はこんな立派な屋敷に住んでいいんですか?」

「もちろんです。ギアス王子から、ここをお貸しするよう仰せつかっておりますので」

「は、はぁ」


 なんなんだこのVIP待遇っぷりは。

 訳アリとはいえあくまで他国の交流生だぞ?

 こんな豪奢な屋敷を……まさか、たった三人で使うのか?

 ん?

 皆さま……?

 ゼス隊長は《皆さま》と言った。

 つまり滞在中、俺はキュリエさんやミアさんと――


「…………」


 同じ屋根の下で、生活するのか?



     *



「では私たちはこれで失礼いたします。今後、王都でのクロヒコ様たちの一切は基本的にシャナトリス様と神罰隊が受け持つことになるかと思います」


 ゼス隊長は屋敷内に関する説明をザッとしてくれた。

 その間、近衛隊の人たちはテキパキと屋敷へ荷物を運び入れてくれた。

 ミアさんは近衛隊の人たちに、


「じ、侍女のわたくしがいたしますのでっ」


 と申し出た。

 しかし彼らは、


「いえ、たとえ侍女と言えど王子の客人であることに変わりはありません。ここは、私たちが運び入れます」


 そう言って嫌な顔一つせず運んでくれた。

 なんなんだ、この性格もイケメンな集団は……。

 荷物の運び入れが終わると、ゼス隊長が部下に指示を出した。

 近衛隊が屋敷を離れる準備は素早く整った。

 俺は代表して礼を言った。


「色々とありがとうございました、ゼス隊長。近衛隊の皆さんも」


 握手を求められたので、俺はゼス隊長と握手をした。


「何かありましたら、私たちのところへご相談に来てくださってもけっこうですから」

「感謝します」


 手を離すと、ゼス隊長は頭を下げた。


「それでは、失礼いたします」


 俺たちは屋敷の門の前でゼス隊長たちを見送った。

 遠ざかる近衛隊の馬車を眺めながら、キュリエさんが口を開いた。


「最初は裏があるかもしれんと警戒したんだが、普通に気のイイ連中だったな……この国の中枢にはああいう連中もいるわけか」

「神罰隊も、ああいう気持ちのイイ人たちだといいですね」

「フン、どうだろうな。あの隊長の言いぶりでは、一筋縄ではいかん感じもするが」


 とはいえ、実際に会ってみないことにはわからない。

 俺たちの王都での今後のことは神罰隊が受け持つという。

 なら近いうちに顔を合わせるはずだ。

 神罰隊の人たちがどんな感じかはその時にわかるだろう。

 俺たちは屋敷に入った。

 早速、ミアさんがテキパキと動き始めた。

 屋敷のものは自由に動かしたり使ったりしていい。

 ゼス隊長からはそう説明を受けている。


「これは……れ、冷性術式機……? ルノウスレッドにもまだ十台も存在しないと言われていますのに……っ」


 ミアさんが何やら驚愕していた。

 気圧されている感じだ。


「こ、ここは王族待遇級のお屋敷なのでしょうか?」


 ちなみに冷性術式機とは、要するに冷蔵庫みたいなものらしい。

 

「しょ、食材も一等級のものが揃っています……これはむしろ、何を作ればよいのか迷ってしまいますね……」


 つぶさに冷性術式機の中身を確認していくミアさん。

 真剣に頭を悩ませている様子である。

 ただ、尻尾がピコピコと左右に揺れているのがなんだか可愛らしい。


 キュリエさんが腕を組む。


「ミアはしばらくあの調子のようだし、私たちは先に屋敷の中を見て回るとするか」



     *



「で、でかい……」


 浴場もでかかった。


「ふむ、この広さだと女子宿舎の浴場と変わらんな……」


 隣でキュリエさんがうむむと唸る。


「私たち三人で入っても使い切れん広さだぞ」

「え?」


 空咳をするキュリエさん。


「今のは喩え話だ……忘れてくれ」

「は、はい……」


 俺たちは浴場と脱衣所を出た。

 キュリエさんが階段の上を眺める。


「次は、二階だな」


 二人で上へ続く階段をのぼる。

 二階にあがると、長い廊下がのびていた。

 落ち着いた雰囲気の調度品が所々に配置されている。

 等間隔に並ぶ窓にはシックな色のカーテン。

 掃除は行き届いている感じだ。

 二階にも、いくつかドアが並んでいる。


「ふむ……ざっと見ても五部屋は確認できるな。しかし、ひと部屋がかなり広そうだが……」


 俺たちは部屋を一つ一つ見て回った。

 ベッドメイクも完璧に仕上がっていた。

 基本の造りは一緒だが、部屋ごとに微細な違いがある。

 統一感を出しつつ細かな違いを演出する……。


 前の世界にいた時にネットで見たリゾートホテルが、確かこんな感じだった記憶がある。


 キュリエさんが提案した。


「そこに三つ並んでいる部屋を使うのはどうだ? 離れていると、何かあった時に駆けつけるのが遅れるしな」

「じゃあ、そうしましょうか」


 遅れてパタパタと二階のチェックにやって来たミアさんも、それで了承してくれた。


 こうして、正面から見て俺が真ん中、キュリエさんが左、ミアさんが右の部屋を使用することになった。


 王都に到着した後も、今のところは順調といえる。

 問題らしい問題も起こっていない。

 意外と俺が構えすぎていただけなのかもしれない。

 ギアス王子は俺たちを歓迎してくれてるようだ。

 王子の近衛隊もイイ人たちばかりだった。

 うん……滑り出しは悪くない。

 と、玄関の扉が勢いよく開け放たれる音がした。


「たのもー!」

「…………」


 魔女の襲来であった。



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