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聖樹の国の禁呪使い  作者: 篠崎芳
聖樹の国の禁呪使い 第二部
276/284

第35話「会長のお見送り」


 しかし、いつの間に……?

 まさか《ペェルカンタル》で認識を外して近づいたのだろうか?

 手でシッシッとベオザさんを追い払うドリス会長。

 ひどい。

 しかしベオザさんは陽気に、


「ではクロヒコ! またいずれ美について語り合いましょうーっ!」


 と軽快な足取りで走り去って行った。

 俺は苦笑しつつ手を振る。


「ははは……」


 ドリス会長からのああいう扱いには慣れてるっぽい。

 腕組みをして俺に向き直る会長。


「いよいよ出発のようですわね、クロヒコ」

「ええ」


 聞けば、会長も先へ行った二人にはもう挨拶を済ませたそうだ。


「ところで、学園の方では生徒会選挙の時期が近づいていますのよね……」


 三年生も後期授業となれば卒業が近づく。

 生徒会長もその座を退く時期が近いというわけだ。


「わたくしとしてはできればクロヒコに生徒会に入ってもらって、選挙に出てほしかったのですけれど」


 困ったわぁみたいな仕草をする会長。


「でも俺は一年生ですし……普通に考えれば今の二年生が次期生徒会長になるべきなのでは?」

「別に一年生でも問題ありませんわよ? それを言ったら、去年クーデルカは一年生で風紀会長になっているわけですし」


 あ、言われてみればそうか。

 現在クー会長は二年生。

 つまり去年は一年生で選挙に出たのだ。

 で、見事に当選と。


「禁呪使いのクロヒコならきっと当選確実ですわっ」

「いや、他に適任ならいくらでもいるでしょうに……」

「いまいちクーデルカに対抗できそうな人材がいないんですわよねぇ。これまではわたくしが光の防波堤として闇の風紀会の影響を防いでいたのですが、このわたくしがいなくなったら、きっと大変なことに――」


「勝手に闇の風紀会にしないでください」


「あ、クー会長」

「こんにちは、サガラ殿」


 ドリス会長の背後に立っていたのは、風紀会のクー会長だった。


「ク、クーデルカ!? まったくっ……貴方はいつも間の悪い時に割り込んできますわね!」


 ついさっき割り込んできてベオザさんを追っ払ったあなたがそれ言いますか。


「私たち風紀会には有望な後任候補もいますし、来年も順風満帆といきそうです。どこぞの生徒会と違って」

「くっ! 風紀会には、レイ・シトノスがいますものね……彼女、本当はウチに欲しい人材でしたのに」

「いぇい」


 能面でピースサインをするクー会長。


「しかも、アイラ・ホルンまで風紀会入りするなんて噂もありますしっ……あぁ、優秀な人材がどんどん魔の手にかかっていきますわ! ですから、クロヒコ!」


 む!?

 あの光――


「む、ぐっ!?」


 ドリス会長に抱き着かれた。


 というか、胸もとに顔を引き込まれた。


 固有術式――《ペェルカンタル》!


「むぐ、ぐ……っ!?」


 ぬ、抜け出せない!

 抜け出そうとすると、先回りした動きで封じてくる!


「生徒会に入って、会長選挙に出ませんか? 入ってくださったら、い〜っぱいイイコトしてさしあげますわよ?」

「ぷはっ!」


 なんとか、抜け出せた。


「せ、せっかくの高度な固有術式をこんなしょうもないことに悪用しないでください!」


 一時的に認識を外す固有術式。

 非戦闘モードの俺では反応できなかった。

 だめだ。

 せめて俺への戦意がないと、反応できない。

 恐るべし《ペェルカンタル》。

 色っぽく、くねっとテヘペロポーズをするドリス会長。


「もぅ……大丈夫ですわよ? クロヒコにしか、悪用しませんもの」

「俺限定でも悪用しないでください!」


 ていうか、悪用の自覚はあるんですね……。


「では、悪用しない代わりに生徒会に入ってくださいます?」

「くっ!」


 ああ言えばこう言う……。

 よし。

 こうなったら、


「と、というか――もう俺、ドリス会長の胸にも飽きましたので!」

「あら?」


 ほっぺに両手を添えて目と口を大きく開くドリス会長。

 ショ、ショックを受けたのだろうか……?


「要するに――お胸以上をお望み、と?」

「へ?」


 はふぅ、と頬を上気させるドリス会長。


「クロヒコにも存外、オスの本能に忠実な一面があったのですわねぇ……」

「ぐぇ! 逆効果だった!」

「オ、オスの本能……」


 クー会長がポッと照れた。


「あ、いえっ……違います! 今のはその、ドリス会長の行動を抑えるために――」


 顔を赤くするクー会長が俺の前に立った。

 口もとをフルフルさせつつ、彼女が俺の両肩にポムッと手を置く。

 動揺が見てとれた。


「先ほどのサガラ殿の発言は、今回は見逃しましょう。ですが……以後、風紀を乱すような発言は慎んでいただけると助かります」

「す、すみませんでした……」

「あなたもですよ、ドリス?」


 クー会長がくるっとドリス会長に向き直る。


「サガラ殿の前ではもっと品行方正を心がけてください。目に余りますよ?」

「あら? 使えるものを使って何が悪いんですの?」

「そんな品のない色仕掛けしかあなたには武器がないのですか? でしたら、セシリー・アークライトの件も無理でしょうね」


 おや?

 なぜここでセシリーさんの名前が?


「――ふぅん?」


 薄目を開くドリス会長。


「相変わらず、耳ざとい娘ですわね……」

「あなたが《宝石》を生徒会に勧誘しようとしている噂は、私の耳にも入ってきています」


 ふむ?


 ドリス会長、セシリーさんを次期生徒会長にと画策しているのだろうか?


 俺がルーヴェルアルガンから帰ってきたら、セシリーさんが生徒会長になってたりして……。


 息をつくクー会長。


「ともかく今日はサガラ殿の見送りの日です。貴重な時間に学内の政治を持ち込まないでください」


 ドリス会長の薄目が閉じられていく。


「んー、まあそうですわね……そこは少し反省いたしますわ。横道に逸れてしまってごめんなさいね、クロヒコ?」


 こういうところは素直な生徒会長である。


「気にしないでくださいよ。変に湿っぽくなったりするよりは、こういう緩い感じの方が俺も楽ですし」


 まあ、なんだかんだでちゃんと一線はわきまえてる人だからな。

 そういう点では安心感のある人だ。


「ですが――」


 ん?


 ドリス会長が股間あたりのスカートを掴んでキュッと下げた。


「わたくし、股の方は緩くありませんわよ?」

「おい!」


 せっかく心の中で褒めたばっかりなのに!


「いい加減にしなさいドリス。風紀会長として、あなたをこの場から連行します」


 クー会長がドリス会長を確保。

 ズルズル引きずられていく生徒会長……。

 ただし、ドリス会長はニコニコ顔だった。


「それではクロヒコ、戻ってくるのを楽しみにしておりますわよ〜?」

「――わ、私も心待ちにしていますので。戻ってきたら是非、また私と一緒にお茶をしてください」

「あらあら!? 公共の場で異性をお茶に誘うだなんて! 風紀会長自ら、風紀を乱していますわ!」

「何を馬鹿な……健全な交流です」

「で、本音は?」

「まあサガラ殿と、少しでも仲良くなれたらと――、……はっ!?」

「かかりましたわ」

「ドリス!」


 仲良し(?)にやり合いながら、二人の会長は本棟の方へと去って行った。


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