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聖樹の国の禁呪使い  作者: 篠崎芳
聖樹の国の禁呪使い 第二部
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第23話「では、行きますか」


 倉庫の一切を引っ張り出した俺たちは、荷物をまとめ、潜った階層を示す腕輪を装着して会館を出た。


 セシリーさんとキュリエさんも探索服に着替えている。


「解禁二日目にして盛況ですねぇ」

「だな」


 会館前の広場にはそれなりの数の候補生が集まっていた。

 皆、攻略解禁を待ち望んでいたのだろう。

 昨日の時点で潜った班もあると聞く。


 俺は一度、その場で立ち止まった。


「すみません、二人ともちょっと先に行っててもらえますか? 担ぎやすいように少し荷物を詰め直したいので」


 急いで詰めてきたからやや背負いにくかったのだ。


「手伝いましょうか?」

「いえ、大丈夫です。そこまで大仕事にはならないと思いますから」


 俺がそう言うとキュリエさんとセシリーさんは先に聖遺跡の入口の方へ歩いて行った。


 攻略中、ひと月分の何やらのほとんどが詰まった巨大な背負い袋は俺が担当することになった。


 日頃の訓練のおかげか。

 はたまた禁呪の宿主の力か。


 大した重量は感じない。

 これなら大きく動きを阻害される心配はなさそうだ。

 ちなみに腰のベルトには、キュリエさんからもらった施晶剣と妖刀《狂い桜》を差している。

 まあ、こちらは荷物の影響でちょっと抜きずらいけど……。


 詰め直しを終えて背負い服をを担ぎかけた時、


「結局わたくしの誘いを断ってセシリー・アークライトと組むことにしましたのね? 薄情ですわ、クロヒコも」


 生徒会の面々を従えたドリス会長が、話しかけてきた。


「ドリス会長?」

「わたくしたちの攻略班に入ってくれていたら、よい思いをさせてあげられましたのに」

「す、すみません……」


 ツン、と顔をあさっての方向へやるドリス会長。


「わたくしたち、これで今後は競争相手になりますわね」

「セシリー・アークライトと組む話を耳にしたあと、こうして直接サガラ殿に嫌みを言いに赴く程度には悔しかったようですよ」


 クー会長が前触れなくひょっこり現れた。


「く、クーデルカっ!?」


 ドリス会長の《ペェルカンタル》ばりの突然の出現であった。

 レイ先輩の時といい、俺の気配察知はどうしてこういう時だと仕事をしないのだろう……。


「サガラ殿と攻略班を組めなかったのは私も残念ですが、まあドリスと組まれるよりは何十倍もマシというものです。サガラ殿、戻ってきたら私とまたお茶をしましょう」

「ぐっ……こ、後期になってますます嫌みに磨きをかけたようですわね? しかもなんの脈絡もなくお茶に誘うとは、また下品な――」

「下品だけが取り柄な胸をサガラ殿の勧誘の武器にする女にだけは、言われたくないところですが」


 ゴゴゴゴゴッ、と顔に影のおりたドリス会長が激しいオーラを放ち始める。


「勝負ですわ、クーデルカ」

「聖遺跡攻略の到達記録での勝負、ですか?」

「ええ」

「でしたら、望むところです」


 二人の間にメラメラと炎が立ちのぼっている……。


「では……お、俺はこれで……」


 俺はそう言い残し、背を曲げつつその場からコソコソ退散した。

 仲がいいのか悪いのか、あの二人はよくわからない。


 と、今度は俺の眼前に丸みのある胸もとが現れた。


 女子の制服?

 顔を上げる。


「ほんと二人の会長には好かれたものだねぇ、クロヒコも」

「レイ先輩」


 敬礼みたいにレイ先輩が額に手をあてる。


「や、見送りにきたよー」


 レイ先輩の背後から、アイラさんも飛び出してきた。


「やっほー、クロヒコっ」


 レイ先輩が視線で背後の方を示す。


「そっちでさっきキュリエとセシリーには挨拶してきたよ。今回の攻略、けっこう長くなりそうなんだって?」

「行けそうなら、最深部まで行く予定です」

「お、言うねぇ!」


 囃し立てるようにペシペシ背負い袋を叩くレイ先輩。


「そういえば、攻略班の方はセシリー加入でおさまったみたいだね」

「す、すみません。せっかく誘ってくれたのに」

「あーあ、ボクとしては心の底から気落ちしちゃうなー? ひどいなー! あーあ! あーあ!」


 わざとらしすぎる悪態をついて俺をチラッと睨むレイ先輩。

 するとフォローするみたいに、アイラさんがサラッと割り入ってきた。


「で、でもクロヒコはセシリーと組むのが合ってると思うよ? その方が自然な感じがするっていうか……だから、これでよかったんじゃないかな?」


 とほほ、と肩を落とすレイ先輩。


「アイラはこれだもんなぁ……ボクがいくらがんばっても、肝心のアイラの諦めがよすぎるよ……」

「?」


 首を傾げるアイラさん。


「ん……でもアタシもいつか、クロヒコと聖遺跡攻略ができたらなって思ってるからね!」

「そうですね。俺もいずれはアイラさんとも聖遺跡に潜る機会を作れたらと思っています」


 特級聖遺跡を攻略する時に、誘うかもしれないし。


「うん! それまでアタシも役に立てるよう、訓練がんばるよ!」

「アイラさんとは聖武祭で相棒だったくらいですから、そういう点でも安心して組めますしね」

「その時はレイも一緒に、だよね?」


 レイ先輩は複雑そうな面持ちだった。


「策を弄するよりは、クロヒコには直球的な方が効果的なのかもなぁ……」


 そんなアイラさんとレイ先輩に送り出された俺は、ようやくキュリエさんとセシリーさんのところへと辿り着いた。


「す、すみません……お待たせしました」

「レイたちに捕まってたな?」

「実は、会長たちにも……」

「やれやれ。ま、この注目度では仕方がないのかもしれんがな……そりゃあ、会長たちの耳にも入るだろう」

「え?」


 言われて、改めて周りを見渡す。


 キュリエさんとセシリーさんが待機していた聖遺跡の入り口付近に集まっていた候補生たちの視線が、ほとんどこっちへ集まっている。


「四凶災を倒した二人がいよいよ聖遺跡攻略を開始するらしいと、どうも学園の方で話題になっていたみたいですよ?」


 セシリーさんがそう言った。


「今年、ついに聖遺跡攻略の最高到達記録が更新されるんじゃないかって――およっ?」


 ぽんっ、とキュリエさんがセシリーさんの頭に手を置く。


「ま……もう一人欠かせないやつがいてこそ、初めて達成できそうな記録だがな」


 俺は深呼吸をした。

 注目を集めるのは慣れていない。

 だが、ビビッている場合でもない。


 パシッ!


 両手で自分の頬を叩き、気を引き締める。


「では、行きますか」


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