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聖樹の国の禁呪使い  作者: 篠崎芳
聖樹の国の禁呪使い 第二部
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第22話「攻略準備と宝石の能力」


 結論から言って、セシリーさんの加入は大正解だった。


「まずは聖遺跡会館へ行きましょう」


 俺たちはまず聖遺跡会館へ足を運んだ。


「ほら! 私の提案は間違っていなかっただろ!?」


 キュリエさんが嬉しそうにドヤ顔をする。

 素直に感想を述べるなら、可愛かった。


「やっぱりセシリーさんも館員の人に助言をもらいに行く方針ですか?」

「いえ、預けていたものを一旦確認しようかと思いまして」


 会館に到着。

 セシリーさんが館員の人と話をする。

 そのあと一階の奥の部屋へ向かった。

 俺たちもついていく。


「自分で用意した攻略用の道具などは、会館に預けているんですよ」


 倉庫内には名札のついた箱が並んでいた。

 セシリーさんの名前が書かれた箱。

 箱の錠を開ける。

 ふーむふむ、と小動物のように唸るセシリーさん。


「基本的には、ジークとヒルギス用のものを男女それぞれクロヒコとキュリエに割り振る形でよさそうですね。あと、保存食はあとで買い足しておきましょう」

「私はどのくらい出せばいい?」


 話し合いの結果、攻略費用は三人で出し合うと決まった。

 ちなみにディアレスさんはアークライト家からの資金提供も最低限だったそうだ。


「では、お次は費用と期間の指針を建てましょうか。まずはこの倉庫を出て、二階の会議室を一つ借りましょう」


 テキパキと会議室使用の手続きを終えるセシリーさん。

 三人で借りてくれた会議室へ向かう。

 入室し、卓を囲む。

 セシリーさんがその上に大きな羊皮紙を広げた。


「聖遺跡の最終階層を……そうですね、ひとまず多めに見積もって100階層と仮定しましょうか」


 序盤はこのメンバーなら一日十階層分はいけるかもしれない。

 しかし後半は難度が上がって攻略速度も落ちるだろう。

 セシリーさんはそう予測した。


「ですのでかなり余裕をもたせて……うーん、まずは攻略期間をひと月に設定しますか。二人はそれでいいですか?」


 俺とキュリエさんはこくこく頷く。


「ひと月に今ある資金を割り振って、予算に合わせて期間分の道具を揃えていきましょう。道中ではクリスタルがそれなりに手に入ると思うので、次があれば、それらを売って得た資金を探索費用へ回します。えっと、二人はそれで問題ないですか?」


 またも頷くだけの俺とキュリエさん。

 セシリーさんが質問。


「そういえば攻略は、いつ頃から開始するつもりですか?」

「できるだけ早く開始したいとは思っていますが」

「でしたら足りない分の道具やら食料は早速、明日の朝にでも街へ買い出しに行きましょう」

「朝からですか? あれ? でも授業はどうするんです?」


 ビミョーな笑みになるセシリーさん。

 彼女が汗を滲ませながらちょっと頬を赤くして床――つまり、下の階を指差す。


「じ、授業免除申請……」

「あ」


 そうだった。

 すっかり忘れていた……。

 基礎すぎる基礎が、意識から抜けていた。


 長期探索になりそうな場合は、この会館で事前に授業の免除申請を提出するのだった。


 そっか。

 特級聖遺跡の方は知識が深まったけど、騎士団の人たちは授業免除申請なんてないしな……。

 うーむ。

 こんな初歩すら意識から抜けていたとは。

 恥ずかしい限りだ。


「会館を出る前に三人分の免除申請を出しておきましょうか。じゃあ他に必要そうなものは、一端ここに書いておきますかねー……っと」


 すらすら筆を走らせていくセシリーさん。


「…………」


 なんだろう。

 驚くほどスムーズに計画が建てられていくぞ?

 まずは情報を集めましょう!とか息巻いていた俺たちは、一体なんだったのだろうか……。

 ん?

 耳を真っ赤にしたキュリエさんが、両手で顔を覆っていた。


「なんだか、も、ものすごく恥ずかしくなってきたんだが……」


 さっきの、


『ほら! 私の提案は間違っていなかっただろ!?』


 の頃のドヤ感が見る影もなくなっている。

 俺は自分にも言い聞かせる心持ちで、しみじみと慰めの言葉を口にする。


「戦闘面で貢献できるよう、がんばりましょう」


 その日は時間の許す限り、聖遺跡で気をつけること等の確認をし合った。

 といっても主に女教師セシリー・アークライトの聖遺跡講座といった様相ではあったが。


 現在踏破された各階層の特徴。

 遺跡内で一夜を過ごす時の注意点。

 などなど。


 本当にわかりやすかった。


 前から思ってたけどセシリーさんは人にものを教えるのが上手だ。

 教官になったら候補生から慕われそうだ。

 まあ、容姿の時点で別方面から慕われまくるだろうけど……。


 解散したあと自宅へ戻った俺は、しばらく聖遺跡攻略で家を空ける旨をミアさんに伝えた。

 ミアさんは無事を祈ってくれた。


 それからミアさんの厚意で少し攻略前の準備を手伝ってもらい、その夜は早めに就寝。


 翌朝、女子宿舎前でキュリエさんと合流。


 二人でそのまま正門まで行き、アークライト家の馬車で迎えに来てくれていたセシリーさんと落ち合った。


「基本的な装備や道具は揃っているので、ひと月で考えて足りなくなりそうな消耗品を中心に買い込んでいきましょうか」


 俺たちは馬車で街へ出た。


 街で買い込みを始めてからはキュリエさんも得意分野で活躍した。


「む? この薬草は……あの薬草と調合して使えば、薬を買うよりも安く済みそうだな」


 放浪旅で得た知識が活きていた。


 一方の俺は、荷物持ち。

 今の俺にできるのはこれくらいっぽい。


「んー、これと、これと……あとは、これも買い足しておいた方がよさそうですかねぇ……」


 値段を見比べながら手際よく品物を購入用のカゴに放り込んでいくセシリーさん。

 なんか、デキる主婦みたいだ。


「わ!? このランタンすごくかわいいっ! ね!? キュリエもそう思いません!?」


 凝った装飾の小型のランタンをちょこんと掌にのせ、華やいだ空気を振り撒きながらはしゃぐセシリーさん。

 にへら〜と鼻の下を伸ばしていた男店主が、なんとその小型ランタンをタダでくれた。


「小型のランタンは棒に引っかけて小さな穴の奥を照らすのにも使えるんです。罠を発見したり、魔物の隠した魔道具が見つかることもあるんですよ? 思いがけずタダでもらえたのは、幸運でした」


 セシリー・アークライトじゃないとその幸運、なかなか降ってこないと思いますが。


 お次は、着替えなどの衣類を買いに服飾店へ向かった。


 衣類ばかりはさすがにそのままジークやヒルギスさんのものを借りるというわけにはいかない。


「こういうのはどうです、クロヒコ?」

「え? 俺の服ですか?」


 今の俺の探索服は卒業生が聖遺跡会館に置いていったものを借りている。

 巨人討伐作戦時に手に入ったクリスタルを売った資金があるので、お金がないわけではないのだが……。

 性格もあるのだろうか。

 なんとなく、溜め込んでしまっている。

 まあ、無駄遣いはよくないしな。


「俺は今のやつでいいですよ。他は替えの下着だけあれば」

「お金はわたしが出しますからっ」

「え? えぇ……?」

「男の人の服を選ぶのって、けっこう憧れだったんですよねー」


 いやいや。

 あなただったら、選んでほしい志望者は後を絶たないでしょうに。


 セシリーさんが着替え中のキュリエさんの試着室へトテトテ歩いて行く。


 あ、隙間から首を突っ込んだ……。


「うわっ!? な、なんだセシリー!? というか、覗くな!」

「下着の試着中に失礼します、キュリエ」

「……何をしにきた?」

「せっかくですし――」

「おまえのその笑みは、嫌な予感しかしないんだが……」

「今回はキュリエの下着、クロヒコに選んでもらいません?」

「もらうわけないだろ!」



     *



 買い込みをひと通り終えた俺たちは一度、学園へ戻った。


 その足で聖遺跡会館へ行くと、貸し倉庫に買い込んだ道具を保管した。

 次に貸し食材庫へ行き食料を預ける。


 そうして会館のロビーの長椅子でひと息つく頃には、時刻も午後を回っていた。


「ひとまず準備は整いましたけど、これからどうします?」

「私は今日からでもかまわんが……おまえたちの都合もあるからな。聖遺跡攻略を開始する日は、二人に合わせる」


 キュリエさんが俺を見る。


「クロヒコはどうだ?」

「俺も、今日からでもいいですけど……聖遺跡攻略でしばらく留守にする話もミアさんに伝えてありますし」


 開始が早いに越したことはない。


 授業免除申請は受理されている。

 コンディションも悪くない。

 朝から買い物で多少は体力を使ったが、聖遺跡内に入ってからも休息はとるわけだし……。


 聞いた話通りもし一日で降りられる階数の制限があるのなら、一日でも早く潜りたい気がする。

 善は急げとも言うしな。


「ええっと、セシリーさんはどうです?」


 にっこり微笑むセシリーさん。


「倉庫にさっき道具を預けたばかりですけど……もう、このまま攻略開始しちゃいますか?」


 全員そうなってもいいように備えてきていたようだ。

 急げば得する理由もあります、とセシリーさんが切り出した。


「噂の禁呪使いがいる時点で今の学園にそんな命知らずはいないと思いますが、他の攻略班に妨害行為を働く者たちもいます。過去には食料を奪われたりした前例もありますし」


 学園にはフィブルクやバシュカータのような人間も在学している。

 そういう輩がいたとしてもおかしくはない、か。


 聖遺跡攻略の闇の部分と言えるだろう。

 たとえば弱っている邪魔な攻略班をハメて死へ追いやることができれば、ライバルを減らすことができる。

 遺跡内で死亡すると長い眠りにこそつくが、本当の意味での《殺人》にはならない。

 まあそれなりの精神力は必要そうだが……。

 うーむ。

 場合によっては、聖遺跡攻略もなかなか闇が深くもなりうるんだなぁ。


 キュリエさんが理解を示す。


「解禁直後は、早く潜っておけばおくほど他の攻略班に煩わされる可能性を低くできるわけだな」

「ええ。過去の記録を見ると、別の攻略班が悪意なく魔物の群れを引っ張ってきたりもするみたいですしね……」


 他にも、その階層にいる人数が多いだけで魔物の出現数が増えたりもする。

 現実のダンジョン攻略というのは他人の行動までをも考える必要があるわけだ。


 俺たちは椅子から腰を浮かせる。

 最初に口を開いたのは、キュリエさん。


「そうと決まればさっそく準備を整えて、攻略開始といくか」


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