エピローグ「サガラ・クロヒコ」
マキナさんと別れたあと、俺は学園に戻った。
「クロヒコーっ」
家へ戻る途中、家の方から歩いてきたセシリーさんが俺に呼びかけてきた。
その隣にはキュリエさんもいた。
「二人ともどうしたんです?」
「……どうしたも何も、クロヒコを訪ねて行ったんですが」
「え? 俺を?」
おや?
キュリエさんが苦い顔をしている。
「あれだよな……おまえってなぜか、相手の選択肢から自分に関することだけが抜けてるみたいな反応をすることがけっこうあるよな……」
うむむ。
言われてみれば、この女子宿舎を通り過ぎた地点で俺の家の方からこの二人が歩いて来たら、俺に何か用事で来たと感じるのが自然か。
こういうところも、鈍感だって言われるゆえんなんだろうなぁ……。
――下手をするト、痴呆レベルだナ。
あれ!?
こんなところで、まさかの禁呪王。
しかも、そんなひどく的外れなツッコミを入れるために?
――的外れと思ってる時点で、ヤバいナ……。
微妙に現代語をマスターしつつある禁呪王であった。
…………。
というか、こんなところで貴重な力を浪費していいのだろうか?
「どうしたんです、クロヒコ?」
「うわっ!?」
目の前に、セシリーさんの顔が出現した。
……びっくりした。
うーむ。
こんな近くで見ても、やはり驚くべき造形美……。
「今クロヒコ、誰かと話してました?」
俺は自分の胸に手をあてた。
「実は、己の内に潜む声と対話していたんです」
「調子は大丈夫なのか、クロヒコ」
「いや! 本当にそのままの意味なんですって! キュリエさん、マジ顔で普通に心配するのやめてください!」
「そんなわけで、明日あたりに三人で聖樹の根元にある広場へ行こうと思うのですが……どうでしょうか?」
セシリーさんはどうやらその提案をしに俺のところへ来たらしい。
「ええ、いいですよ。別にこれといって外せない用事もないですし」
「なら、決まりですね」
嬉しそうに、ポンッと手を合わせるセシリーさん。
「では明日はわたしが腕によりをかけて昼食を作ってきます! あ、キュリエも……手伝ってくれますよね?」
…………。
セシリーさん、ああいう相手が断りづらくなる頼み方はほんと上手い。
表情とかニュアンスとか、完璧すぎる。
男女関係なく、あんなのイチコロだろ……。
だってあのキュリエさんが、普通に照れてるくらいだ。
「あ、味は保証しないぞ? 私の料理は、栄養とか……その、身体作りの方に特化してるからな」
「ならクロヒコの身体を、キュリエの料理で作ってあげてください」
トンッ、とキュリエさんの背中を押すセシリーさん。
肩を竦め、フン、と鼻を鳴らすキュリエさん。
「まあ、聖武祭の最中みたいに思い詰めたり、無理に取り繕っているよりはいいか」
「…………」
この三人でいると、いつもこんな感じである。
そしてこの感じが、とても落ち着く。
この大切な関係を守るためには――あの男に、勝たなければならない。
だから、もっと強く。
あのスコルバンガーを超えることができれば、あの男へさらに近づけるはず。
先日の聖武祭もとてもいい刺激になった。
だから、もっと強くなりたい。
遠くにそびえる聖樹を眺める。
さて、
そろそろ禁呪の呪文書探しにも、本腰を入れるとしようか。
「…………」
サガラ・クロヒコは、最強を超えるために、最強にならなければならない。
この世界で今まで自分に優しくしてくれた人たちの顔を思い浮かべながら、微笑ましくじゃれ合っているキュリエさんとセシリーさんを眺める。
そう、
俺は、最強になる。
大切な人たちを、守るために。
必ず。
途中からほとんど本編と化した『聖樹の国の禁呪使い えくすとらっ!』でしたが、まずは完結までおつき合いくださりありがとうございました。これにて、完結となります。
アフターストーリー的な流れで始まった『えくすとらっ!』ですが、思いのほか長くなってしまったなという印象です(汗
特に後半は書籍版とほぼ別ものとして書いたため、かなり難産になってしまった感がありました。
思い返せば『えくすとらっ!』は、そもそも第二部を書くかどうかを決めかねている中でのスタートだったり、このままこの作品を書き続けることに迷いが出始めていたりと、悩みながら書いてきたという印象です。書くこと自体を何度かやめようかと思ったこともありしましたが、読者の皆さまの存在に助けられて、どうにか完結まで辿り着くことができたように思います。
これもひとえに、皆さまの応援のおかげでございます。
ご感想をくださった方、ブックマークや評価をしてくださった方、レビューを書いてくださった方、書籍版も買ってくださった方、ここまでお読みくださった方、この作品を応援してくださった皆さまに、改めて深く感謝申し上げます。
第二部については今のところ書く方向で気持ちが定まっている感じです。8月下旬くらいにはスタートできたらと考えておりますので、開始した際には、またお読みいただけましたら幸いでございます。
新キャラクターも何人か登場した『えくすとらっ!』、楽しんでいただけましたでしょうか? 少しでも楽しんでいただけたなら、嬉しく思います。
とにもかくにも『聖樹の国の禁呪使い えくすとらっ!』、最後までお読みくださりありがとうございました。
また第二部でお会いできることを祈っております。




