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聖樹の国の禁呪使い  作者: 篠崎芳
聖樹の国の禁呪使い えくすとらっ!
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41.「第三戦の対戦表」


 しばらく俺に抱き着く形になっていたアイラさんは、ハッとなると慌てて抱擁を解いた。


「あ――あわわわわわっ、ごめんクロヒコ! アタシってば、ついっ!」

「はは……き、気にしないでください。アイラさんの気持ちは、しっかり伝わってきましたし……」


 かぁぁぁ、と赤くなるアイラさん。

 …………。

 果たして今のは、フォローになっていたんだろうか?

 よし、話題を変えよう。

 置き時計を見る。


「明日の対戦表って、そろそろ貼り出される頃ですよね?」

「う、うん」

「じゃあ、一緒に見に行きましょうか」


 アイラさんが了承したので、俺は彼女の手を借りて車椅子に乗った。

 昨日の時点で調子がよさそうなら家に戻ってもいいと言われているから、許可を得ずにここを出ても問題はない。


 アイラさんに車椅子を押してもらいながら大聖場の外へ向かう途中、俺たちは医療室を目指していたセシリーさんとレイ先輩に出会った。


「ええっと……レイとは、すぐそこでばったりと会いまして。今からちょうどクロヒコの医療室へ行こうとしていたところだったんですよ」


 ややぎこちない印象があるけど……どうしたんだろう?

 まあとにかく、まずセシリーさんに言うことがある。


「セシリーさん、第三戦出場おめでとうございます」

「ふふ、ありがとうございます。クロヒコも、思ったより元気そうで安心しました。それと――」


 ジークとヒルギスさんは、あまり見舞いに来る人間が多いと俺も大変だろうと気を遣い、訪問は控えたそうだ。

 そういう気の遣い方は実にあの二人らしい。

 ちなみにキュリエさんは、今日は一日宿舎で休むことにしたそうだ

 これは仕方ない。

 彼女は昨日あの戦いのあとすぐ会議に出て、さらにセシリーさんやアイラさんへ俺の状況も伝えてくれた。

 自分だって負荷の大きな第二魔装を連続使用して疲れていただろうに、ほとんど疲労の色を見せず、昨日は俺の心配ばかりしてくれていた。

 一方の俺はというと、スコルバンガーと戦ったあとは他の人に何かと任せきりで……。

 だからキュリエさんの精神的なタフさは、見習うべきだと思った――といった話をすると、セシリーさんが、


「みたいなことをクロヒコなら言い出しそうだから、もしそんな話をし始めたら『おまえがやったことは多分、この国にいた他の誰にもできなかったことだ。だから昨日の事後処理の一切を他の者に任せても、誰も文句はいわんさ』と、伝えてくれと」


 と言い、くすりと微笑みかけてきた。


「あなたの考えは、お見通しみたいですね?」

「…………」


 キュリエさん、恐るべしである。


 二人も俺の様子を確認したあとは対戦表を見に行く予定だったそうなので、このまま四人で対戦表を見に行くことになった。





 第三戦の対戦表が貼り出されるのは、大聖場の西門前広場。

 なので、大した距離ではない。

 西門は俺が昨日終ノ八葬刃と戦った場所だが、現在の西門前広場は血なまぐさい戦闘などなかったかのように綺麗になっていた。

 ただしよく目を凝らすと、地面には戦いの傷跡が残っている。


 掲示板の前には黒山の人だかりができていた。

 しかし第三戦の出場者であるアイラさんとセシリーさんが登場したせいか、掲示版までの道は自然と開かれた。

 掲示版前へ向かう途中、レイ先輩がカラカラ笑いながら言った。


「この人たちの反応には、再び怪物から王都を守った禁呪使いへの敬意もまじってると思うけどねぇ」


 うーん、スコルバンガーは時間さえ経てば消えたようだから、王都を守った、は大げさな気もするけど……。

 それに囁き声で交わされる会話からもわかるように、やはり注目は第三戦へ駒を進めた二人に集まっているようだ。


「おいあれ、セシリー・アークライトだぜ。前評判通りの天性の才を見せて勝ち上がってきたけど、さすが、兄のディアレス・アークライトを凌ぐ才と言われるだけはあるな……」

「美しいだけのお人形じゃない。剣も術式も一級品……本物だよ、あの子は」「そして一緒にいるのが、今回の大会で一気に名をあげたホルン家の娘か」

「聖樹八剣の一人である兄のノード・ホルンはそこそこ有名なわりに、妹の話題はまったく聞かなかったが……まさか、あれほどの実力者だったとはな」

「第三戦まで勝ち上がってきたわけだから、まぐれじゃないぜ」


 すごい注目度である。

 セシリーさんはともかく、アイラさんはちょっと照れくさそうにしていた。


「さて、対戦表は――」


 俺は掲示板を見上げた。


 アイラさんの、準決勝の相手――



「ドリストス・キールシーニャ」



 ドリストス会長が、アイラさんの次の対戦相手。

 ということは、つまり――


「なるほど。わたしの次の相手は、クーデルカ・フェラリスですか」


 緩く腕を組むセシリーさんが、挑戦的な微笑を浮かべる。


「おや? わたくしの次のお相手は、アイラ・ホルンのようですわね」


 振り向くと、そこに立っていたのはドリストス会長。


「ようやく因縁のクーデルカと決着をつけられるかと思っていましたが……どうやらその決着は、決勝戦まで持ち越しになりそうですわ」


 さらなる主役の登場にざわめきが増す。


「おい、あれはキールシーニャの……」

「場所を考えれば不思議じゃないが、次の対戦相手と鉢合わせか」

「前評判を裏切らず、彼女もここまで順当に勝ち上がってきたからな……」

「しかも、まだ例の最強の固有術式を使用していないって話じゃないか」

「固有術式に頼らずとも、戦いの腕は一流ってわけだな」

「因縁の相手と呼ばれるフェラリス家の娘と決勝戦になったら……こいつは見ものだな」「しかし……なんてでかい胸だ」

「おい」

「俺は、事実を述べたまでだ」


 テッテッテッテッ、と、主張の激しい胸を揺らしながら、ドリストス会長が俺の方へ小走りに駆けてくる。

 ん?

 なんだろう?

 ご機嫌な笑顔で見おろしてくる会長を、俺は見上げた。


「ところで……聞きましたわよ、クロヒコ? わたくしが第二戦を戦っている間、聖王様の命を狙ってきた不逞の輩相手に、大活躍したそうではないですか……素晴らしい、ですわっ」

「――むぐっ!?」


 ふにゅぅぅ。


 急に視界が、閉ざされた。


「ななな、何をしているんです生徒会長!?」


 アイラさんの、飛び上がらんばかりの叫び声。

 こ、この二方向から来るっ……ボリューム感のある独特の軟性は……っ!

 また胸もとに、抱き寄せられたのか。

 …………。

 まるで察知できなかった。

 俺はどうも、敵意や殺意のない不意打ちに対しては徹底して弱いらしい。

 これなら、まだあのスコルバンガーの超低速攻撃の方が対処のしようがあると思えるほどだ。


「あら? これはわたくしなりの、英雄に対する感謝の念を込めた熱い抱擁ですわ? わたくしたちの聖武祭を、守ってくれたんですもの」

「でも、クロヒコが苦しそうですよ!?」

「そうかしら? かの四凶災をも倒した禁呪使いなら……払いのけようと思えば、容易に払えるのではなくて? ん? どうなのです、クロヒコ?」

「…………」


 うーむ。

 なんだか冷静に分析してしまうが、こうしておふざけをしつつ……会長、何気に包帯を巻いている左腕には触れないよう慎重に配慮してくれてるんだよな。


 これも計算ずくってことなのだろうか?


 それに今の会長からは不思議と好意が放たれている。

 なので、俺もむげに振り払うのを躊躇してしまうのだが……。


 意外と俺にとってヒビガミの次に恐ろしい敵とは、強く好意を向けてくる相手なのかもしれない。


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