表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖樹の国の禁呪使い  作者: 篠崎芳
聖樹の国の禁呪使い 第一部
21/284

第21話「二日目の、終わり」

「ここが、俺の家……」


 陰気な影を落とす、二階建ての木造家屋。


「そうよ。ここが、あなたの家よ」


 頭の中に、学園の敷地内の大雑把な地図を思い浮かべる。


 北に裏門(ちなみに俺が最初に倒れていたのが、その先の林道)。

 南に正門(この先の坂を下ると聖ルノウスレッド大通りがある)。

 西に男子宿舎。

 東に女子宿舎。


 そして中心に学園本棟と、諸々の学内施設があるというわけだ。


 で、俺が住むことになるミニチュア幽霊屋敷は敷地内の東側――つまり、女子宿舎の近くに建っていた。


「元々ここは、学園を建設する際に大工たちが寝泊まりしていた場所だったらしいわ」

「そうなんですか」

「そして学園の完成後も、改築やら修理やらの時にまた使うだろうからと、取り壊されることはなかったの。でも、さすがに女子宿舎の近くはまずいということになって、結局、男子宿舎のある方に新しい大工たちの寝泊りする場所を作ることになった」


 ん?

 この学園って、完成してからけっこう経ってそうだよな?

 でも、学園が建築された頃ってことは――


「それって、けっこう前の話ですよね? だったら、ここはもう取り壊されててもおかしくない気が……」

「その頃にね、一部の裕福な家の女子生徒たちが、ここを改築してサロンみたいなものを作りたいって申し出たことがあったのよ。それで、取り壊しは中止になって、改築されたというわけ」

「ああ、なるほど」


 多分、集まって駄弁るための秘密基地っぽい場所が欲しかったんだろう。

 学生の時は特にそういうのに憧れるんだよな。

 異世界の女子諸君も、どうやら性質は前の世界の女子と似ているようだ。

 ……俺にとっては、あまりよい情報ではないかもしれないが。


「けれどその女子生徒たちが卒業してからは、誰もここを使わなくなった。だからまあ、それからはずっと放置されていたの」

「で、この有様ってわけですか」

「そう。だからそのうち、取り壊すことにはなっていたのよ。でも、なかなか手をつけないでいるうちに、なんだか伸び伸びになってしまって」

「なるほど」


 あるある。

 タイミングを逸して、そのまま残っちゃうパターン。


「でも、誰も入れないようにドアや窓には板を打ちつけてあったから、中は荒らされてないわよ。といっても、中には何もないのだけれどね」


 むしろ寝床が確保できただけでも、これはよしとすべきだろう。

 ていうか、ボロっちいけど、ついに俺も自分の家を手に入れたことになるわけだし。

 借家だけどね。

 しかし、


「あのー」

「何かしら?」

「あそこにあるのが、女子宿舎なんですよね?」


 俺の指の先に、ほのかに明かりが灯る小奇麗な三階建ての宿舎がある。


「俺、大丈夫なんですか?」

「何? 忍び込むつもりなの? それとも、浴場を覗くのかしら?」

「それだと違うゲームの話になっちゃいますよ!」

「げーむ?」

「あ、いえ、なんでもないです……えーっと、つまりですね、その、少し離れているとはいえ、男が女の子のヒミツの花園の近くに住んでいるというのは、なんというか、まずくないですかね……?」

「大丈夫よ。女子生徒たちには、しっかり通達を出しておきます」

「そうですか」

「明日にでも、立て札を設置させるわ」

「……立て札?」

「『ここには性的に危険な人物が住んでいます』って」

「マキナさん、実は色々と根に持ってますよね!?」


 してやったり顔になった後、マキナさんは手櫛で自分の髪を梳いた。


「ま……あなたは、そんなことしないでしょ」

「へ?」

「私の信頼、裏切らないでね?」

「…………」


 うーむ。

 ずるいな……。

 そういう風に言われてしまっては、もう何も言えなくなってしまう。

 いや、悪さをするつもりなんて、はなからないけどさ。


「とりあえず布団と毛布だけ、夕方頃、私が運んでおいたから。他には何もないけど」


 ちっこいマキナさんが一生懸命に布団をえっちらおっちら運んでいる姿を想像する。

 ……ヤバい。

 すげぇ萌えてしまった。

 マキナさんが俺のためにと思うと、ついニヨニヨしてしまう。


 ……はっ!

 マキナさんが、冷たい視線でこちらを見ている!?


「やっぱり、別の場所にすべきだったかしら」

「ち、違いますって!」

「違う? 一体、何が違うのかしら?」

「俺、学園長で萌えてたんです! 女子宿舎のことなんて考えてませんって!」

「もえ? どうして私が燃えなくちゃならないのよ」

「違います! 学園長『で』『萌え』てたんです!」

「意味がわからない言葉でごまかそうとするなんて、男として程度が知れるわね。さようなら」


 つん、と学園長は顔を背けると、スタスタと歩き去ってしまった。


「が、学園長ぉぉおおおおおおおお!」


 女に捨てられた哀れな男のように、俺は去りゆく幼女へと手を伸ばした。


「…………」


 いや、今は祈ろう。

 祈るしか、あるまい。


 学園長が――ツンデレ属性であることを。


 こうして俺はしょぼくれたまま、我が家のドアを開けた。


          *


 家の中は、けっこー広かったです。

 まる。

 おやすみなさい。


 ……だと、さすがに簡単すぎるか。 


 家の間取りは、こんな感じだった。


 一階に二部屋。

 入ってすぐの部屋は、簡単な調理場、テーブル、椅子のある部屋。

 その奥に、ドアなしの空き部屋。


 風呂あり(小さい。ぎりぎり二人いけるくらい? 蛇口はなし。沸かしたお湯を張れってことだろう)。

 トイレあり(これだけ新しい。洋式トイレでよかった!)。


 二階にも二部屋。

 一つは、俺の寝室(ベッドの上に布団と毛布が置いてありました)。

 で、もう一つが空き部屋。


 あとは地下室(ひんやりしてたので、食料とかの貯蓄庫として使えそう?)


 以上が、俺の城の概要。

 多分、床や壁の跡を見るに、空き部屋や地下室には昔、二段ベッドが並べてあったんじゃないかな。

 ちなみに布団の上には、学園の制服一式と、絹の上着とズボンが一着ずつ、置いてありました。


 俺は前の世界で着ていた服の入った麻袋を部屋の隅に置き(実はちゃんと持ってきてたんですよ!)、着ている服を脱いだ。

 絹の服に着替えて(これを寝間着にしよう)、ベッドに入る。


 ギシッ。


「あん」


 …………。

 アホか。

 一人で何やってんだ、俺は。


「…………」


 明日からいよいよ、学園生活スタートか……。


「……くぁっ、ふぁ〜あ……」


 あー、駄目だ。

 眠い。

 寝る前に色々と考えようと思ったけど、今日はイベント盛りだくさんだったせいか、凄まじいほどの眠気が襲ってきた。


 ……寝るか。


 意識が落ちる直前に一つ、ある疑問が浮かんだ。


 あれ?

 そういや俺、明日……何時に起きればいいんだ?


 が、睡魔の猛攻に耐えられず、俺は――


 そのまま、深い眠りに落ちた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ