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聖樹の国の禁呪使い  作者: 篠崎芳
聖樹の国の禁呪使い えくすとらっ!
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8.「ペェルカンタル」


 ドリストス会長の片眉が、ぴくっ、と動いた。

 表情は崩れていないが、少し癇に障ったのかもしれない。

 だけど、クーデルカ会長と戦ったからドリストス会長とも戦わなくてはならない決まりなど、ないはずである。

 ドリストス会長は、ふぅ、と小さく息を吐くと、瑞々しい唇に手を添えた。


「そうですわね。確かに貴方からすれば、わたくしと戦わねばならない理由などありませんわね。ですが――」


 会長の糸目が、薄っすらと開いた。


「このままわたくしとの戦い――模擬試合を拒否するのなら、あの四凶災を倒したサガラ・クロヒコはドリストス・キールシーニャから尻尾を巻いて逃げた、と理解いたしますが? もちろんこのことをわたくしが生徒会の者にぽろっと話した結果、学内の者たちにまでその噂が広がってしまうことがあるかもしれません。それでも……よろしくて?」

「いいですよ」

「ええ、そうですわよね。ですから明日わたくしと第十五修練場で――え? 貴方今なんと――ぐっぅ――こほっ、けほっ!」


 驚いて噎せてしまったらしい。

 俺が反発した態度を取ると思っていたようだ。

 息を整え、会長が睨みつけてくる。


「貴方が逃げたと言いふらされても、かまわないと?」

「かまいません」


 俺が逃げたと学内の人に思われたところで、正直なところ、痛くもかゆくもない。もし俺が学園の生徒から馬鹿にされる立場になったとしても、キュリエさんやセシリーさんなら事情を話せば、噂が出た経緯を理解してくれるだろうし……。


 会長は眉間に皺を寄せ、口元を厳しく引き結ぶ。


「聞けば、貴方は女子宿舎の近くにある家屋に住んでいるそうですね?」

「?」

「あの場所に男子生徒が住んでいるというのは、視点を変えれば問題とも考えられると……そうわたくしは思うのですが」

「別に、女子宿舎に忍び込もうとか思いませんよ?」


 にぃ、と会長の口が弧を描く。


「その発想が出てきている時点で、わたくしは問題ありと考えますわ?」


 この人がどう話を持っていきたいのか大体わかってきた。


「ですが、俺は悪さをするつもりはありませんし、あの家に住むことは学園長からも認められています」

「よろしいですか? 宮廷魔術師を排出しているルノウスフィア公爵家といえど、結局は五大公爵家の一つでしかありません。この学園長であろうとも、です。もし同じ五大公爵家である我がキールシーニャ家が先頭に立ってこの件を大々的に問題提起したとしたら、宿舎に通う女子生徒の親たち――一部の有力貴族たちは……さて、どう動くかしら? そもそもあの学園長は、少々禁呪使いである貴方に個人的な肩入れが過ぎるようにも思えますが」


 俺はずっと、会長の顔をじっと観察していた。


「家の名を脅し文句に取り入れるとは、まるでどこかの五大公爵家のようなことをするのですね」


 ロキアあたりが出てきたら、ここで話が終わるんだろうなぁ。


「そうですわ」


 ドリストス会長が返したのは肯定の頷き。

 会長が一歩こちらへと近づく。


「…………」


 生地の下からでも激しい主張している胸があたりそうになったので、さりげなくすり足で距離を取る。

 一方の会長は、距離の近さを気にした様子もない。

 彼女の糸目――その片方が、ゆっくりと開く。


「あのトロイア公爵家を思わせる小物じみたやり方をしてでも、わたくしはどうにかしてあなたを試合の場に引きずり込みたいのです」

「…………」


 露骨に発されてはいないが、鬼気迫る何かがあった。

 多分その源は――対抗心。


「一ついいですか?」

「……何かしら?」

「ドリストス会長と戦わないと不平等ではないかという質問に対して、俺は思わないと答えました。しかし、戦う気が自体まったくないとは言っていませんよ?」


 すぅ、と会長の目が糸目に戻る。


「では、なぜ遠回しにはなから拒否するような素振りを?」

「会長の人となりを見ていた、といったところでしょうか」


 そう。

 俺はこの人が《敵》なのかどうかを、まず見極めたかった。


「ではサガラ・クロヒコ……改めて、言い直しましょう」


 さらに会長が詰め寄ってくる。

 会長は自らを誇示するように胸に手を添え、目を開いた。


「わたくしと明日、第十五修練場で模擬試合をしていただけませんか?」


 狡猾そうな笑みを浮かべ、会長が続ける。


「今までの会話で、わたくしがただでは引かない女だとわかっていただけたでしょう?」


 俺が受けたのは、どちらかというとそういう印象ではないのだけど。

 でもまあ、


「わかりました。俺もちょっとした目的のために、色んな実力者と呼ばれている人の剣に触れたいと思っているので……その話、受けますよ」


 俺は聖武祭に出場できない。

 ここで学園《最強》とやり合えるなら、むしろありがたい。

 会長が、フフフ、と微笑みながら近寄って来る。


「あの四凶災を倒した禁呪使いに勝てるとは思ってはいませんわ。何せ、あのクーデルカ・フェラリスですら引き分けたという話ですからね。ただ……もしわたくしが勝ったら、とんだ大事ですわよね?」


 ふに。


「……会長、近すぎて……その、む、胸があたっているんですが」

「フフフ、これは試合を受けてくださったお礼ですわ」

「…………」


 身体をいやに近づけてきてたのは、わざとだったのか。


「どうやら王都の英雄である禁呪使い殿もこちらの方面には、滅法弱いご様子で……ですがご安心を。明日の試合までに絡め手の色仕掛けでどうこうするなんてつもりは、毛頭ございませんから。では――」


 会長が踵を返し、俺とは反対の方向へと歩き出す。


「ごきげんよう」


 強い自負心を感じさせる歩調で、長い紫銀の髪を揺らしながら、ドリストス会長は去って行った。





 翌朝。

 獅子組の教室。


「楽しみだな、クロヒコ!」「あのドリストス会長と模擬試合やるんだろ!?」「みんな注目してるぞ!」「今日の放課後は、絶対予定を開けておくからな!」


 すでに俺とドリストス会長が戦う話は、獅子組を飛び越えて学内に広がっているようだった。

 ドリストス会長が意図的に広めたのだろう。

 ひっそりと実力だけを試したかったクーデルカ会長とは、対照的だ。


「聖武祭の前に、決勝戦と同格の試合が組まれてしまいましたね」


 眉を八の字にして苦笑するのは、セシリーさん。


「す、すみません……なんか、大事になっちゃって」

「ふふ、クロヒコが謝ることじゃないですってば」

「ま、クロヒコがドリストス会長と戦うことで何か聖武祭前に掴めることがあるかもしれないしな。私とセシリーとしてはありがたい話さ」


 頬杖を突きながら、キュリエさんが言った。

 ドリストス会長との試合に至った経緯は一応、昨日二人に説明した。

 セシリーさんが隣の席に腰を降ろし、肩を軽くぶつけてきた。


「もしかして愛しの恋人候補のために、試合を受けてくれたんですか?」

「いえ……自分のためです」


 そう、ヒビガミと戦うために。

 するとセシリーさんが、こつん、と俺の肩に額を打った。


「そこは嘘でも、わたしのためだって言いましょうよ……?」

「うっ」


 しまった。

 うむ。

 ここは言い逃れをしよう。

 セシリーさんの肩に手を置き、頑張って作ったイケメンフェイスで俺は言った。


「大切なセシリーさんにだけは、俺、嘘をつきたくないから」

「嘘つき」


 ごまかしは即バレした。

 ぷい~ん、とそっぽを向くセシリーさん。


「そもそもなんですか、そのいけすかない表情は! まるで夜会でたまに出没する、そのあとの夜の情事に持っていくことしか考えていない貴族みたいですよ?」


 俺の会心のイケメンフェイスが、ただの色ボケ貴族フェイスに失墜した瞬間であった。


「とほほ…………ん?」


 教室の生徒たちの様子がおかしい。

 なんだ?


「おい……さっき、恋人候補とか言ってなかったか?」「ああ、確かに聞いたぞ」「前々から距離が近くなったのは気づいていたが」「ならキュリエはどうなるんだ?」「俺たちにも機会があるのか?」「いや、ないだろ」「いずれにせよ、許せん……」


 突き刺さる視線。


「負けろ、クロヒコ……」「負けてしまえ」「格好良く生徒会長に勝つ姿をセシリー・アークライトに見せつけるなんて、許されないぞ……」

「ふふ、これは困りましたねぇ~」


 にっこり顔で言うセシリーさん。


「セシリーさんのせいですからね!?」


 俺が窮地に立たされてるのに、その嬉しそうな顔はなんですか。

 その時、


「でもあたし、どっちかと言えばクロヒコに勝ってほしいかも……」


 一人の女子生徒が、ぽつりと言った。


「ええ? ほんとに? なんで?」


 他の女子生徒が意外そうに尋ねる。


「だってさ、あたし……正直、生徒会長は苦手な感じなんだもん」


 すると、他の生徒もドリストス会長の話題へ移っていく。


「それは俺もわかるかも」「なんか生徒会長って腹に一物抱えてそうっていうか、気を許せない感じなんだよな」「クーデルカ会長は家のことを鼻にかける感じがないけど、ドリストス会長はなぁ……なんか好きになれないんだよな」「私も実を言うとドリストス会長はあんまり好きじゃないかも。偉そうだし、なんとなく冷たい感じもするし」「裏で手を回してそうな感じだよな」「それ、わかる」「腹黒って印象よね」


 腹黒、か。

 俺はセシリーさんの耳元に顔を近づけた。


「ですってよ、セシリー殿?」

「うぐっ」


 心当たりがあると、人はばつの悪そうな反応をする。

 しかしドリストス会長って意外と評判がよろしくないんだな……。

 あんまり本人がいないところで悪く言うのも、どうかとは思うけど。


「ところで、クロヒコ」


 じろっ、とキュリエさんが視線を寄越してきた。


「勝算の方はあるんだろうな? 仮にも相手は固有術式を使う。だが、ドリストス会長の人となりを聞く限り、禁呪の使用を認めるとは思えん。となると、術式の使えないおまえは剣だけでの勝負となる。その点、大丈夫なのか?」


 ドリストス会長の《消える》固有術式。

 その固有術式が、彼女に最強の称号を与えたのだろうか。だが、


「元から俺はこの試合で禁呪を使うつもりはありません。しばらくは、剣の方を鍛えたいと思っていましたから。それに俺、勝ち負けにはこだわってませんし。いずれにせよ――」


 結果はどうあれ将来の糧にはなる。


「俺は、真っ向から受けて立つだけです」


 しばらくすると、登時報告が始まる直前にアイラさんが駆け込んできた。

 アイラさんが駆け込んできたその数分後にイザベラ教官がやって来て、登時報告が始まった。




 そして、放課後。

 俺は運動服に着替え、第十五修練場に足を踏み入れた。


「って、すごいな……」


 円形の修練場。

 第十五修練場はすり鉢状の形になっており、ぐるりと囲む段差は観客席のようになっている。

 上を仰ぎ見る。

 しっかり天井がついており、夜間でも明るい場所で修練ができるよう、術式機の照明も備えている。

 俺とキュリエさんが使っている修練場とは大違いだ。

 加え、


「この観客の入り方は……ドリストス会長の意図か」


 修練場の段差席は、実に八割ほどが生徒で埋まっていた。


「勝てるとは思っていないみたいなことを、言ってたけど――」


 おそらくは、勝つ気なのだろう。


 ドリストス会長と生徒会のメンバーらしき面々はすでに修練場へ入り、準備も終えているようだった。

 俺の方はキュリエさんとセシリーさんがついてきてくれた。

 ジークとヒルギスさんは観客席にいる。

 観客席には、アイラさんとレイ先輩の姿もあった。

 風紀会のメンバーの姿もある。

 クーデルカ会長は……いないみたいだ。

 ベオザさんの姿も見えない。


「ここまでの大事になるとはな。さすがはあの四凶災を倒した禁呪使いと、学園最強の称号を持つ生徒会長の試合、か」


 観客席の埋まり具合を見ながら、キュリエさんが言った。


「聖武祭では実現しない対戦ですからね。嫌でも注目度は高まりますよ」

「…………」


 なんとなくだが。

 男子生徒の注目が、今日試合をする俺よりも後ろで控えている二人に集まっているような気がするんですが……。

 ちなみに、今日の戦闘授業でソギュート団長に何かアドバイスの一つでも貰えたらと思っていたのだが、今日の特別教官は休みだったようだ。

 聖樹騎士団の特別教官は毎日来てくれるわけではないらしい。

 冷静に考えてみれば、聖樹騎士団には特別教官とは別に本来の仕事もあるのだ。

 特にそれが団長や副団長となれば、特別教官のための時間を毎日作るのは難しいだろう。


 用意された訓練用の剣の中から長剣を選んだ運動服姿のドリストス会長が、修練場の中央へ向かって歩き始めた。

 皆の注目が会長に集まり、修練場の喧騒が小さくなる。

 クーデルカ会長とやった時と同じく、俺は刀型の剣を手に取った。

 そして会長と中央で向かい合う。


「まずわたくしの申し出を快く引き受けてくださったことを感謝いたしますわ、サガラ・クロヒコ」

「いえ、俺もドリストス会長と戦えるのは良い経験になります」

「では、よろしく」

「こちらこそ」


 握手を交わす。

 しっとりとした、滑らかな手。


「この試合の勝敗は、聖武祭で予定されている試合の方式を採用します」


 ドリストス会長が説明を始める。


 試合は相手が降参するか、意識を失うなどして続行不能と判断されるか、有効打を五回取られるか、のいずれかによって決する。

 降参以外の判定は、判定員――いわゆる審判が行う。

 今回この判定員は生徒会のメンバーが務めるとのこと。


「この聖武祭の判定規則を理解している者がまだ多くないため、批判覚悟で、判定員は生徒会の者から選ばせていただきました。ですが、ご安心を」


 会長が判定員に視線を送る。


「もちろんわたくしが生徒会長だからといって露骨に有利な判定をしないよう、よーく言い含めてありますから」


 ふむ。

 あえて《露骨に》という言葉を入れたことから、ある程度は会長有利と考えた方がいいだろう。

 前の世界でも、スポーツの世界ではいわゆる地元判定というものがあった。

 まあ、これはある程度呑み込まねばならないか。


「それと、禁呪ですが……使用してくださってもかまいませんわよ? ただ――」


 観客席を軽く見渡した会長が、俺に微笑みかける。


「皆、あの四凶災を倒すほどの力を持つ伝説の禁呪を、まさか貴方が学園で行われる模擬試合程度で使用するとは夢にも思っていないでしょうけれど」


 もし禁呪を使ったらサガラ・クロヒコは、試合に勝っても、勝負には負ける……遠回しに、そう言っているわけか。


「安心してください、と俺からも言わせてもらいますよ。禁呪は使いませんから」

「もし使いたくなったら、いつでも使ってくれてよろしいのですよ?」

「人が悪いですね、ドリストス会長」


 フフフ、とドリストス会長は不敵に微笑む。


「少しくらい人が悪くなければ、この学園の生徒会長など務まりませんわ」


 そして俺たちは互いに、剣を構える。


 懐中時計を手にした判定員が、一歩下がった。


「試合時間は十五分とします。では――」


 俺はドリストス会長の全身をじっと見据える。

 会長の目もしっかりと、俺を捉えている。

 判定員が振り上げた手を振り下ろす。


「始め!」


 開始の合図と共に――ドリストス会長の右の瞳が光った。


 いきなりの、固有術式か。


 名前だけは試合前に聞いていた。

 固有術式の名は《ペェルカンタル》。


 姿が消える術式。


 その言葉が意味するものは――


 バシンッ。


 左のわき腹に、衝撃。


「有効打!」


 判定員が手を挙げた。


 ドリストス会長の放った打撃が、俺の左のわき腹にヒットした。

 修練場の観客席から歓声が上がる。


「消えた!? 今ドリストス会長が一瞬、消えたように見えたぞ!?」「速すぎて目で追えなかったのか!?」「突然消えた生徒会長が、いきなりクロヒコの前に現れたように見えたぜ!?」「……出たぞ、生徒会長のアレが」「しかし相変わらず反則級だよな、あの固有術式は……」「さすがはキールシーニャの一族、か」


 今の観客席からの言葉からすると、知っている生徒もいれば、初見の生徒もいるらしい。

 そして……観客の言葉も踏まえた上で、大体わかった。


 ドリストス・キールシーニャの、固有術式の正体が。


 おそらくあの固有術式は発動中《認識されなくなる》術式だ。

 会長の右目が光ったその直後、気づいた時には、わき腹に衝撃が走っていた。

 認識できた瞬間を思い返してみると、どうやらある程度まで接近すれば、認識できるようになるらしい。

 しかし、認識できる距離は――


 もはや剣のリーチの、射程圏内。


 後退しつつ繰り出してきたドリストス会長の攻撃を捌きながら、もう一つ理解する。

 この《ペェルカンタル》を破れる最も有効な手段を上げるとしたら、クーデルカ会長の《極空》なのかもしれない。

 未来視レベルの先読みができる《極空》ならば、ドリストス会長の右目が光った直後の、数瞬の初動、および攻撃の直前の一瞬で《予知》ができる。



 固有術式ペェルカンタル

 ……恐ろしい術式だ。

 攻撃が当たるほぼ直前まで、認識そのものを奪う術式。

 姿が消える、という生半可なものではない。

 発動中、認識そのものが《できない》のだ。

 認識が外れている間、足音を聞くことすら許されない。


 これが――学園、最強。


「これほどの、固有術式だったとはな」


 キュリエさんの声。


「もしかしてキュリエ、あれって――」

「セシリーも気づいたか。ああ、私の認識が甘かった。あれは、ただ姿が透明になるなんて生易しいものじゃない。あの固有術式が発動している間、クロヒコも私たちも観客も、おそらく生徒会長を《認識できていなかった》」

「あれが、ドリストス会長の……」

「あんな馬鹿げた固有術式相手では、もし禁呪を使えたとしても――」


 ドリストス会長の右目が再び光る。


 ――来る。


 次の瞬間――わき腹に、先ほどよりも重い衝撃。


「有効打!」


 判定員が、歓喜の交った声を上げる。


「あと三つだ! すげぇ、会長!」


 生徒会のメンバーが盛り上がっている。


「…………」


 固有術式だけじゃない。

 攻撃も鋭いし、特に、一撃を与えた後の戻りが速い。

 しかも今の二撃目に至っては、距離を取るのにも固有術式を使用していた。


 三度、会長の右目が光る。


 固有術式は大量の聖素を必要とする。

 負荷も大きい。

 それを、連続で使用している。

 つまり、会長は固有術式を使いこなすだけの身体を作り上げている。

 最大限に固有術式を活かすために、努力してきたのだろう。

 また俺から見て左側からの攻撃に徹していることから、しっかりと視界の狭い死角を狙っている。


 強い。


 この人は、強い。


 会長の姿が《消える》前の初動。

 それを先読みに組み込めるだけの力は、俺にはない。

 当然、クーデルカ会長の《極空》を使えるわけでもない。

 だから――



 俺の認識が《外れ》る。




 そして――




 肉を打つ音は、しなかった。




「……なん、だと」


 それは、キュリエさんの声だった。


「まさか――」


 クーデルカ会長の糸目が、片方だけ開いた。


「見えて、いますの?」



 俺の剣の刃が――右のわき腹を狙っていたドリストス会長の刃を、受けとめた。



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